第二十一話 〈ベアシールド〉
「ちぇあっ!」
ルーチェの攻撃で、ツギハギベアがバラバラになった。
【経験値を43取得しました。】
無事に経験値が入ってきた。
俺が〈影踏み〉で動けなくして攻撃を捌き、その隙にルーチェが〈鉄石通し〉のナイフで確実にダメージを与えていく。
この手順にも慣れてきた。
「やりましたっ! エルマさん、【Lv:16】から【Lv:19】です!」
順調にルーチェのレベルも上がっていく。
彼女が【Lv:21】になれば、今回の本題である『成金ラーナ狩り』が行える。
「よし、後一体、適当な魔物を……」
「ああっ見てください! これっ! これっ!」
ルーチェが嬉しそうにツギハギベアの残骸を漁り、その中から熊の顔がついた可愛らしい盾を掲げる。
「出ました! 出ましたよぉっ! アイテムドロップです!」
ルーチェが熊の盾を掲げ、きゃっきゃと燥ぐ。
「あ、ああ……そうか」
「ねっ? ねっ? アタシ連れててよかったですよね? ねっ?」
ルーチェが目を輝かせながら俺へと言う。
別にレベル上げが目的であって、本題はそっちじゃないんだがな……。
それなりの値がつくので、全くの無駄だとは言わないのだが。
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〈ベアシールド〉《推奨装備Lv:10》
【防御力:+12】
【市場価値:二十万ゴルド】
可愛らしい熊の円盾。
性能に対して推奨装備レベルが低い。
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低レベル向け武器であるため、ドロップ率が低いにも拘わらず、市場価値がかなり低めになっている。
確かに現状の二十万ゴルドは美味しい。
美味しいが、こんなところでドロップ運を発揮するより、後で発揮して欲しいというのが本音である。
「使いますか、エルマさん?」
「……い、いや、気持ちは嬉しいが、今の盾の方が性能では上だからな」
「ちっちゃい盾なので差別化できるかもしれませんよ! その盾、ごつくて推奨レベルが高いから少し使い辛いって言ってたじゃないですか? どうですか? そのっ、持っておくだけでも……!」
滅茶苦茶ごり押ししてくる……。
ま、まあ、言ってることは正しい。
小回りが利くため、もしかしたら差別化できるかもしれない。
ただ一番問題なのは、絶対人前で出したくないということである。
俺の通り名が熊騎士になってしまいかねない。
ドロップ率が低いという意味では、稀少なアイテムであることは間違いない。
……まあ、代わりにツギハギベアの出現率が高いため、欲しければずっとツギハギベア相手に粘っていればいいだけなのだが。
「……ありがとう。使うかは怪しいかもしれないが、もらっておくことにしよう」
「ええ! ええ! その方がいいですよ! えへへ……アタシ、役に立っちゃいました!」
これでやる気が上がってくれているのならばありがたいことだ。
〈マジックワールド〉ではあまり美味しくないアイテムドロップをすると欲しいものが手に入らなくなるというジンクスが浸透していたが、そんなことをここで言い出しても彼女のやる気を削ぐだけだろう。
その後も探索を続け、俺達は三体目のツギハギベアを狩った。
【経験値を43取得しました。】
【レベルが23から24へと上がりました。】
【スキルポイントを1取得しました。】
丁度俺のレベルも一つ上がった。
そしてこれでルーチェも目標であった【Lv:21】に到達したはずだ。
「す、凄い……今まで何をしても全然レベルが上がらなかったのに、こんなにあっさりと……」
ルーチェは自分の〈ステータス〉を確認し、あんぐりと口を開けていた。
「よし、下準備はこれで完了した。ここで早速、今回の本題に……」
「あーーーっ!!」
ルーチェが大声を上げ、ツギハギベアの亡骸を漁る。
何事かと彼女を見守っていると、熊の円盾を宙へと掲げた。
「ドロップしましたよ! 二枚目の〈ベアシールド〉!」
俺は思わず、無言で盾に描かれたデフォルメされた熊を見つめていた。
おかしい。
どう考えても、二連続で簡単に引くようなドロップ率のアイテムではないのだが……。
「あれ、ドロップ率間違えて覚えてるのか? いや、でも……」
こうなるとジンクス的に不利だとか言っている次元ではない。
恐らく、ルーチェの初期幸運力が純粋に高かったのだ。
元々、道化師は他のステータスが低い代わりに、幸運力が高めに出やすいクラスではある。
その中でも上の値を引いていたとすれば、〈招きニャロン〉での幸運力五百%アップの影響もそれだけ大きくなるため、このような偏りを引くこともあり得なくはない。
ただ、それでもおかしい。
だったらどうしてクライン達はルーチェのドロップ強化を実感できなかったのか。
確かにドロップ強化で美味しくなる〈
だが、それでも目に見えてドロップ率が変わっていたはずだ。
「……ああ、初期パーティーだったから、違いやありがたみに気付けなかったのか」
特に情報が少なければ、他の成功者達のいいところばかり見えてくるものである。
自分より効率よく成長していくパーティーを見つけて、足手纏いがいるからだ、とでも思ってしまったのかもしれない。
〈マジックワールド〉でもさほど珍しいことではなかった。
〈豪運〉のスキルツリーは、初期の【5】のスキルポイントで〈四葉の幸せ草〉という特性スキルを得ることができる。
〈豪運〉が【15】になったとき、この〈四葉の幸せ草〉が〈招きニャロン〉に変化するのだ。
〈四葉の幸せ草〉は持ち主の幸運力を二百%上昇させる力がある。
つまり、クライン達は、最初からアイテムドロップ率が高い状況に慣れていたのだ。
特にこのレベル帯は、前知識がなければ手探りで色々試している時期だ。
アイテムドロップ率が変化しても気が付けないかもしれない。
そもそも何の魔物からどの程度の割合で何がドロップするのかもわかっていないのだから。
「ね、ね、エルマさん! この〈ベアシールド〉、売らずに予備にしませんか? ね?」
「……ルーチェ、本当に俺と組んでくれてありがとうな」
「そんなに欲しかったんですか、この〈ベアシールド〉。この勢いで、今日中に十枚集めちゃいますか!」
……別に〈ベアシールド〉が欲しかったわけではないのだが。
それにルーチェのレベルがツギハギベアに追いついてきた。
ここから一気にレベル上げ効率も落ちてくる。
ツギハギベアを狩る旨味はもうあまりない。
「ここからが本番だぞ、ルーチェ。もう少し〈天使の玩具箱〉の奥に進んで……今回の目標である、成金ラーナを狩る」