<< 前へ次へ >>  更新
8/78

8話:魔王、臣民を労わる

ワイバーン修理中のショートストーリー的なものです。

少年コミック位のエロ表現が含まれています(当社比)


 ライムが回復量最優先の、最大効率(即時回復ではなく、時間経過回復)で治療魔法を使い続けても、半日もしないうちに魔力が尽きてしまい、ワイバーンが安全に大気圏離脱出来るまでおおよそ一週間かかる事が判り。

 修理中は特に俺もやる事がなく、1日目でブリッジとクリーンルームまでの通路、クリーンルーム自体の整備と汚染物質の除去も出来た為、時間に余裕も出来た。


 時間に余裕が出来た為に考える事、悩み事と言ってもいいか。

 それが出来た。出来てしまった。




 それは、とてもとても大切な事だ。



 リゼルはもう大人と言っても良いだろう。

 聞いたところによると、アドラム帝国では成人は資格式になっていて、リゼルは13の時に成人資格を取ってるし、一般的に大人とみなされる15歳も過ぎているという。


 ではライム、勇者様はどうだろうか。

 結構スタイルの良いリゼルとは比べてはいけない、というかジャンルの違う体型。

 膨らみこそないものの、体と手足のバランスが子供のそれとは違い。

 小さい癖にすらりと長くシャープなイメージを受ける。

 愛想の無い無表情な事が多いが、顔の造形は文字通り一見しただけで目が覚めそうな美しさだ。

 日本人離れした、透明感のある長い銀髪にみどり色の瞳。

 白い肌に銀髪の組み合わせの中で、翠色の瞳が際立って目立つ。

 そしてその瞳に宿った意志は恐ろしく強い。

 可愛らしさと美しさが8:2位の絶妙な配分で混ざり合って、きっとゴスロリとかファンシーな魔法少女服とかが良く似合う事だろう。

 容姿に関する全てを一言で表すなら”優美に幼い”。

 その存在全てが悩みの種とも言える。


 え?何を悩んでいるか判り辛い?仕方ない、一行で言おう。


 それはライム(勇者様)に手を出したらロリコンか否かという事だ。




 まて、そこ、引くな。

 俺の勘だが、ライムはそこそこ年齢が行っている。

 エロい事に関してはまず外れない勘だ、信頼してくれて構わない。

 念のために、今度『鑑定Ⅹ』の魔法でしっかり確認するつもりだ。

 正直あの魔法はプライバシーを激しく侵害していると思う。

 悪用を止める気はさらさらないが。


 話がずれたな。

 俺はライム位の外見年齢の子にだけエロい事をしたくなる訳じゃない。

 勿論リゼルだって守備範囲内だし、もっと年上のお姉さんでも行ける。

 つまり守備範囲がかなり広い俺なら、ライムに手を出しても普通ではないか?



 ああ、勿論ロリコンを害悪だという訳ではない。

 俺はそっちにも理解がある。

 愛に年齢は関係ないし、欲望を持ちながらも犯罪に走らない紳士達は偉大だと思う。

 俺自身、ロリコンと呼ばれるのを恐れてなどいない。

 悪評を褒め言葉だと笑い飛ばすのが魔王というものだ。



 つまりだ、ロリコンというレッテルを張られ、お姉さんにエロい考えを持たないように思われるのは頂けない。

 いや、魔王のプライドが許さない……!



 魔王になる前は大学の女子や妹にまで、リアルBL疑惑をかけられていた。

 それを払拭できなかった俺が言うのも説得力が無いかもしれない。

 普通にセクハラしても「またまた、BL隠す為のポーズでしょ?」とか笑って本気にされないのは辛いものだ。

 いや、BLが悪い訳ではない。魔王として欲望は肯定するものだ。

 ただ告白しても「偽装彼女は嫌なんです」とか泣かれるのはガチで辛い。

 むしろあの時は家に帰って自室の鍵を閉めてから俺が泣いた。




 さて、俺の悩みを理解して貰えただろうか。

 ロリだけだと言わないで貰いたい。

 鬼畜外道で漫画のスポーツ選手並みに守備範囲が広いエロだと言ってくれ。

 魔王として俺は認めよう。






「イグサ様が凄い真剣な顔で本を見てますよぅ……」


「騙されないで、目が文字を追ってない。あれは絶対変な事を考えてる」



―――




 この頃気になっている事がある。

 色々やる事あって後回しにしていたが、あの多くの人々の命が消えた時に聞こえた声、多分俺とライムをこの世界に召喚した、システム的な何かが言った事だ。


<<勇者の生存を確認。魔王の勝利により、勇者は魔王に隷属します>>


 本来は、魔王が人類を滅ぼすまで何もせず、逆に命欲しさに逃げ回っていた勇者へのペナルティ的なものなんだろう。

 この星の歴史を聞くと、魔王や勇者がいた頃の文化レベルなら、普通に奴隷とかもいそうだしな。


 その隷属というシステムが気にかかっていた。


 隷属、いい言葉だよな?

 今頷いた紳士たちは心の友だと思う。



 さて、あれ以来ライムの首には、金属製の首輪とそこから伸びる鎖がついている。

 本人も何もないように振舞っているが、こっそり外そうと何度も試しているのは知っている。

 俺の手にも金属製の腕輪と鎖がついて、途中鎖は途切れているように見えるが、どうもライムの首輪に繋がっているようだ。

 前にリゼルと契約した時、一時的にライムの言葉を封じたように、ある程度俺の意思を汲んでくれるらしい。


 たが、面倒な事もある。

 魔王としてのスキルは、スキルを取得した時点で何が出来るか把握できる。

 俺が初見の魔法を、まるで熟知したように使える所以ゆえんだ。


 しかし、この隷属システムは違う仕組みで動いているようで、今ひとつ条件が不透明だ。

 限界を見極める為に、過激な実験しても良いのだが、その結果ライムが死んでしまっては勿体な……余りにも不憫だろう。


 慎重に、あの鋭すぎるライムに気が付かれないように慎重に調べたところ。

 どうも使い魔に対する<命令>とは随分違うシステムになっていた。


 使い魔に行う<命令>は~しなければいけないという条件の設定だ。

 良く使うのは俺が「喋れ」と言った時「真実を話さないといけない」

 暇つぶしに「ボールを投げた」時「頑張って走って口でキャッチしなければいけない」

 このボール取り遊びを一通り楽しんだ後、リゼルは半日トイレに篭城した。何故だ。


 ライムの首輪で出来るのは条件の設定ではなく抑止が主であるようだ。

 ~してはいけないという、抑止。これは格段に命令より扱い辛い。

 リゼルとの時は「契約が終わるまで声を発してはいけない」という抑止。

 やろうと思えば「エロい事に抵抗してはいけない」とかも出来るだろう。

 美しくないのでやらないが。

 多少の条件付けは出来るものの、やはり抑止しかできないのはハードルが高くなる。




 だが、折角手に入れた隷属権だ。使わなければ勿体無いとは思わないか?





「イグサ様、イグサ様、見て下さいよぅ」

 深遠なる思考の海に沈みながらも、ブリッジのコンソールに触って、この時代の機械操作に慣れようと、ワイバーンに助言をして貰いながら操作していたんだが、リゼルの楽しげな声に呼ばれた。


「どうしたリゼル?楽しそうだが」


「ライムさんを見て下さい…ほら、後ろに隠れてないで!」

 何故かリゼルの後ろにぴったりと隠れていたライムだったが、押し出されて前に出てきた。


「……………ほぅ」

 なるほど、言葉にするのが無粋な時は感嘆の溜息しか出ないものだな。


『こりゃたまげた。雪の妖精かと思いましたわ』

 ワイバーンも手放しで褒めている。

 付喪神に妖精と例えられるのもどうかと思うが。


 今までは勇者の装備だろう、白銀に金の縁取りをされた鎧姿だったが、今はどこかのお嬢様風の服装になっていた。

 同じ色合いとデザインなので一見ワンピースに見えるが、ブラウスとスカートに分かれている。

 ブラウス部分はブレザーのように大きな襟が首周りから出ていて、正面は…ボタンで止めてあるが、肌が見えないように二重になっているな。

 スカートも複雑に折り返してあって、何枚もの布でふわりと中身を包んでいるように見せている。

 腰の後ろに大きいリボンがついているのもポイントが高い。

 そして手袋にニーソックス。どれも白い生地に金糸………?


「もしかして、鎧や手甲を変化させたのか?」


「ほわ、もうバレましたよぅ。ライムさんが鎧を普通の服にできるって言うから、前にステーションで買ってお蔵入りしてた、秘蔵のデザイン集を見せたのですよぅ!」

 ……何故リゼルは犬でもないのに、尻尾がぱたぱたと揺れているんだ。猫だよな?


「これは驚く程可愛いな。元から素材は良かったが」

 正直色々いけない遊びを教え込みたくなる。口には出さないが。


「…………!」

 またライムがリゼルの背中に隠れてしまった。まさか照れているのか?

 意外だな。褒められるのは苦手だったのか。


『ワイに肉体があれば飴ちゃんを渡すのになぁ』

 ワイバーン、お前の容姿でそれは犯罪臭いから止めておけ。


「ライム、一つ質問がある。その髪の色との組み合わせ的に、他の色の生地が欲しかったんじゃないか?」


「…………どうして判ったの?」

 意外そうな顔をしてくれるな。

 これでも妹の買い物に延々と付き合わされたり、妹の買い物に延々と付き合わされたりして慣れ……何故だ、どういう訳か哀しくなってきた。


「……まあ、彩りの問題だな。何とかできるかもしれない。こっちに来てみろ」

 ワイバーンのブリッジの照明が結構明るい事もあって、服の純白に銀色の髪だと色がハレーション起こして物理的に眩しい。


「…判った。服に変化しても防御力は健在だから」

 そろそろと近づいてくる。警戒されているな…心当たりしかないが。

 指先でライムの生地に触れて魔法を発動する。


『呪印魔法:呪詛魔印Ⅹ』


 魔法発動の一瞬後に、眩しい位の純白だった生地が、闇色に染まった。

 勇者の装備でも呪いに堕ちれば黒くなると思ったが、どうやら成功したようだ。

 少しアレンジして所々白を残してあるが、良い仕事をしたと思う。

 何よりライムの銀髪と生地の黒、金糸の組み合わせが良い。


「おおっ、色が変わりました。イグサ様良い趣味してますよぅ」

 リゼルが手を叩いて喜んでいた。

 驚かない所を見ると、未来素材には色が変化する布もあるのかもしれないな。


「嬉しいけど……今の継続性のある呪いだよね?」


「気にするな、色を変えるのが目的の呪いに大した内容は組み込んでない。

 近寄った害虫や毒虫が即死するだけだ」

 殺虫用だな、少なくとも生命の一欠片ひとかけらすらない、この汚染された星では意味が無いだろうが。


「ん、ありがとう。私もこっちの色の方が好き」

 色の変わった服を確かめるように、ふわりふわりと回るライム。

 その顔には僅かに笑みが浮んでいた―――





 ―――なんて美談だけで終わらせるような魔王とでも思ったか?





 後になって言われたら、こう言おう。

 引き金を引いたのはライムとリゼルの2人だと。

 責任を押し付けるように聞こえるかもしれない。

 だがな、地雷原でタップダンスを踊るような真似はいけない。



「これはサービスだ」

 ライムの首輪に触って干渉する。

 首輪の俺が使っている魔法と若干システムが違うが、興味を引かれていた事もあって多少解析もしていた。

 基本が魔法なら、多少のアレンジは出来るものだ。

 やや無骨な金属の輪でしかなかった首輪が、魔力による干渉を受けて、紐を首の前でクロスさせた、細いチェーンの装飾がついたチョーカー型になった。


「ありがとう……」


「なに、魔法の実験ついでだ。明日もワイバーンへの回復魔法を頼むぞ」

 呆然としていたライムだったが、リゼルと連れ立ってクリーンルームの方へ戻っていった。


 俺が良い人にでも見えたか?

 だとしたら間違いだ。ただの魔王だ。


 何故ライムのチョーカーに干渉をしたか?

 勿論理由がある。

 首輪の機能たる従属を使う際に、鎖が引っ張られるような動作をする。

 だが、あそこまで細い装飾用の鎖のようにしてしまえば、見落とす程度の小さな動きしかしないだろう。

 重量も相当軽くなっているしな。



 先に言っておこう。

 俺を外道と呼べば良い。非道と言えばいい。何ならエロ魔王と罵れば良い。

 だが俺は笑顔で言おう。褒め言葉ご苦労!と。





 さて、早速首輪の機能を使おうじゃないか。


『魔王様、えらい悪い顔してまっせ。気持ちは判りますけどなぁ』

 そうなのだ。こいつは付喪神の癖にやたらエロい事に理解がある。

 というか中身も見た目通りのエロオヤジだ。

 クリーンルームの個人データーの中にあった、紳士達の映像や立体映像ソフト集の中から、まず調教とか監禁とかマイナーなジャンルのブツを集めて整理していた。

 まあ、つまりそういうヤツだ。

 なかなかやるなと、紳士として共感したものだ。


「なに、魔王が悪い顔をするのは当然だろう?」

 早速腕輪に魔力を集中して<従属>命令を書き込む。


1、[現惑星上でトイレ内において尿意を感じてはならない]

2、[下着をつけている間、開放感を感じてはならない]

3、[開放感がない時に緊張感を途切れさせてはならない]

4、[以上の行動をする際、他の感情より危機感を強く感じてはならない]


 ふう…書き込み時に魔力が多いと鎖が派手に動くからな。とても気を使う作業だ。

 ライムが飛び込んでこないところを見ると、リゼルがはしゃいでいて従属の実行に気がつかなかったんだろう。


『魔王様、良い趣味してますなぁ。悪い人ですわぁ』

 褒めるなワイバーン。褒めても何も出ない。


 ただ抑止するよりも。

 ~の時~してはいけないという、半条件付けの抑止は激しく魔力を消費する。

 ただでさえ、魔法抵抗力が異次元レベルに高いライムにやろうと思うと大仕事だ。

 現に、魔力の使いすぎで激しい動悸に息切れを起こしている。


 だが、悔いはない。変態と呼びたければ呼ぶがいい!




 その後、ライムは何故か必死に冷静さを取り繕い、妙に苦しい言い訳をしながらも、外に行く用事を作って環境適応の魔法を使って欲しいと言ってくるようになった。


「い、イグサ。気になる所があったから、近くを見て回りたい…っ。

 環境適応の魔法をかけて。は、早く…お願い」


 やはり鎧姿は苦しいのだろう、あの普通の服装タイプに鎧を変化させたままなのだが、妙にスカートの裾を気にするようになった。

 前と同じように無表情にしようと頑張っているが、たまに隠しきれず顔が紅潮する姿を見かけるようになった。


「………(もぞもぞ)」


「どうした?剣の構えにしては妙だな。

 訓練時間はあまり取れないんだ、こっちから行くぞ」


「……っ!…………!!!!」


「何故座り込むんだ?」


「…な、なんでもない」



 当然、俺は何も知らないし、気がつかないふりを続ける。



 美しい悪とはこういうものだ。

 理解できるやつは同士だ。部下にしてやるから俺の所へ来い。



―――



 時間は真夜中に近い。

 当直なんてものはいらないが、部屋に戻って寝るのも勿体無いのでブリッジで電子書籍を読んでいた。

 ワイバーンをたたき起こす時に入手した汎用端末、その中に持ち主の趣味だろうか?大量のテキストデーターが入っていたのだ。

 元々地球では読書家だった。

 本の中は自由だ、現実とは違い美しい悪が栄える物語も沢山ある。


 さて、その大量のテキストデーターだが、流石未来の汎用端末だけある。

 端末に入っている文章量だけでも国会図書館並にあるんじゃないだろうか。

 その中に気になるタイトルを見つけたので読んでいた。

 そのタイトルは「反抗的な部下の躾け方。管理職のあなたに贈る一冊」

 どうにも使い魔にしては、従順さが足りない気がするリゼルが、悩みの種になりつつある俺にとってはありがたいタイトルだった。

 だが、ありがたさも長続きしなかった。


「………ただの官能小説かよ!」


 反抗的な部下を性的に躾けて行くという内容の官能小説だった。

 しかも内容が最低だった、こいつは絶対人間の心を知らない。

 悪というものを理解していない。

 何が弱みを握って脅せば後はいいなりになるだ。

 一度関係持ってしまえば後は何とでもなるだ。


 そんなのは悪じゃない。

 こんな美しくないのは躾でもなんでもない。


 あまりの最低な内容っぷりに思わず、就寝中だったワイバーンを叩き起こしてテキストデーターを送って内容を見せた。

 付喪神も寝るんだな。


『魔王様、ワイ、こんなモン見せられる為に夜中に叩き起こされたんですか……』

 良いエロの為なら、機体性能の限界を超えられるコイツですらぐったりとしていた。


「俺の怒りも判ってくれ。これは、酷いだろう?」


『二束三文にもなりませんわ。第一美学がありしません。容量の無駄使いです』


「という訳だ、叩き起こした侘びついでに、口直しをしようと思う。

 ワイバーン、録画容量をとっておけ。編集は任せたぞ」


『魔王様、何する気です?』


「躾だ。とりあえず、金に汚い部下が少しは素直になるような、な」





 ワイバーンのブリッジ近くにあるクリーンルーム。

 元々艦長クラスの高級士官向けの部屋だったらしく、上等なイナーシャルキャンセラーや、床方向へ1G重力を発生させる擬似重力発生装置グラビター、単純循環にしても悪臭がしない空調など上等すぎる部屋だった。

 元々広めの1部屋だったのを、今は補修用の装甲材で壁を作り、三等分して個室が3つになっている。

 1部屋あたりの広さは大体8畳程度。シングル用シティホテルの一室程度の広さだ。

 これでも共用の大部屋じゃなかったりするだけ、戦闘艦としては破格の広さらしい。

 アクトレイなんてコックピットから動けないしな。



 時間は更に遅くなって、地球で言う所の丑三つ時。

 リゼルの個室のドアを開けた。

 勿論しっかりロックはかかっていたが、ワイバーンの最上位権限が俺になっているのだから、マスターキーは使い放題だ。

 勿論、これからリゼルに夜這いをかけるなんて、そんなぬるい事はしない。

 もし夜這いする気なら、リゼルが起きている時にやりにいく。


 さて、目的を達成するのに布団を―――未来的な睡眠ポッドもあったが、俺の趣味で各部屋はベッドに布団を設置した―――手で抱くようにして眠る、妙に少女趣味な柄のパジャマを着たリゼルが、くぅー…すぴー。と色気のない寝息を立てている。

 やってきた目的は使い魔への<命令>の実行だ。

 ライムの<抑制>とは違い遠隔で発動も出来ないし、命令による条件を本人に直接聞かせないといけない。

 だが、ちょっとした裏技があった。

 本人に聞こえれば命令は発動するのだから、その際に意識が無くても構わない。

 つまり、寝ているリゼルに<命令>を仕込めば、気が付かれないのだ。



 セコイとか思ったか?

 悪は目的の為なら手段を選ばないものだ。



「リゼルリット、命令オーダー

 1、夕食後2時間を目安として短時間の発情期に陥る。

 2、発情期中の欲求抑制は至難となる。

 3、自身における欲求の解消行動で満足する事はできない。

 4、主に近づくほど2,3の条件は緩和される。

 5、主に近づくほど、満足感が増幅される」


 よし、仕込みはこんなもので良いか。

 多少マスターに依存するエロ娘になって貰おう。

 正直このまま放置すると、どんどん自由すぎる行動をしていくだろうしな…。


 魔法まで使って音も気配もなく、リゼルの部屋から撤退した。


 ブリッジまで戻ってくると、一部始終を見ていたのだろう。

 空中投影型ウィンドウの向こうに見えるワイバーンが思案顔をしていた。

 ワイバーンがセキュリティ上仕方なく全部屋を監視できるというのは、ライムとリゼルには言わない方が良いだろうな。


「どうした、ワイバーン。何を悩んでいる?」


『いやね。魔王様の行動は、もっと直接的にエロい事をさせるもんかと思っていたんですわ。

 なのにあの迂遠な命令、どうにもワイには今ひとつ理解しきれなくて困ってましてなぁ』

 そうか、まあ…今までワイバーン内でやっていた連中は、もっと短絡的なエロばかり求めていただろうしな。


「良いか、ワイバーン。ただ命令の通り腰振るならこんな科学が進んでいるんだ。

 人と見分けが付かない、大人の為の等身大人形位あるだろう?」


『えぇ、まぁ。その手のはドえらく高いですが、ありますわ』


「だが、リゼルは人形ではない。

 人形程度で出来る事で代わりにするのは勿体無いと思わないか?」


『それも判るんですが、どうにもさっきの命令でどうするか、魔王様の意図がさっぱりですわ』


「まあ、見ていろ…そうだな、2,3日後に変化があると思うぞ?」







 ワイバーンの修理が順調に進み、艦内の機能が随分回復してきた夜の事だ。

 夕食後、俺はいつものようにブリッジで一番快適な艦長席に寄りかかり、携帯端末に入っているテキストを読んでいた。ジャンルが豊富なので良い拾い物だったと思う。

 ライムが切り刻んだドアもようやく修復が終わり、閉まるようになったドアを開けてリゼルが入ってきた。


「どうした、リゼル?忘れ物か」

 読んでいたのは帝国貴族(という名の名誉称号持ち)の旅行記だった。

 明らかに大した事をしてないのに、無理やり盛り上げる為に話しの盛り方が愉快で、地球で深夜に放映していたC級映画的な意味で楽しんでいた。


「イグサ様ぁ、最近あんまり良く眠れないのですよぅ」

 確かに眠そうだ。そのままふらふらと艦長席へやって来て。


「………はふー」

 横から抱きついてきて、猫がマーキングするように頭をぐりぐりと首筋にこすり付けてきた。

 猫的な本能だろうか。


「どうしたリゼル?」

 端末に視線を送ったまま質問する。


「イグサ様は飼ってる使い魔とのスキンシップが足りないのですよぅ…」

 そのまま頭を擦り付けてくるので、仕方なく片手で頭を撫でてやると大人しくなる。

 確かに2,3日で効果は出たが、効果は予想以上だったな。

 「使い魔」という存在を認めた上で「飼ってる」とまで自分から言っていた。

 そう口にしたリゼルは、半分眠っているような、理性が溶け掛けた瞳をしていた。


 リゼルはそのまま、ひたすら甘え続けた挙句、膝を枕に眠ってしまったので部屋まで運んでおいた。

 明日の朝、頭が冷えて冷静になったら、色々思い出して悶絶して良い悲鳴を聞かせてくれる事だろう。



『驚きましたわ……脱帽です、魔王様』

 ワイバーンは驚きと戦慄を半分ずつ混ぜたような表情をしていた。


「俺が何をやったか判るか?ワイバーン」


『はいな、シュミレートと分析を繰り返しました。

 魔王様は命令で行動を引き出したんでなく、命令で行動や思考を誘導なさったんですな』


「当たりだ、ワイバーン。

 リゼルはここ数日、欲求不満という体調不良に悩まされていただろう。

 それこそ寝不足になる程な。

 だが、この狭い生活空間で暮らしていれば、リゼルでも気がつくだろう。

 何故か俺の近くにいる時は、その体調不良が軽くなる…ってな」

 リゼルでも気が付くとか酷い言い草かもしれないが、まあ真実だから仕方ない。

 ライムが鋭すぎるのかもしれないが、リゼルも天然に過ぎる。


『その結果があれですな。

 睡眠不足と欲求不満がピークになって、思考能力が落ちてきたら楽な方へ。

 魔王様に密着するという、解決手段を自発的に求めるっちゅうカラクリとは』


「当然、催眠状態でもないので記憶はしっかりと残っている。

 しかも<命令>されたからやった、という精神的な逃げ道もない

 明日の朝、リゼルの反応が実に楽しみだな?」


『はいな、しっかりと録画しときます。

 いや、本当にいいものを見せて貰いましたわ』


「なに、少々勝手な行動が過ぎる部下の躾ついでだ」


 さて、リゼルは今後今日のような行動が増えるだろう。

 その後どうやっていくか、実に楽しみだ。



―――



 ワイバーンの修理も随分片付いて来た。

 この所は修復されたセンサー類で、周囲や軌道上のデーター収集を始めている。


 ライムは魔力が尽きた後の時間を使って、近くに灰しか残らなかった人間の墓を作っていたが、ようやく作り終わりそうだ。

 リゼルはワイバーンのブリッジ周りの改良に余念がない。元々6人位で運用するのを3人で一通り操作できるようにカスタマイズしている。


 この星からの出発が近い、そんな事を感じさせる日の夜の事だ。

 今日はブリッジではなく自室に居た。

 特に手荷物も無いので、小物や家具類のない無味乾燥とした室内だ。


 船内通信用のモニターの前に、俺と空中投影スクリーンを展開して顔を出したワイバーンがいた。

 今も船体についたパッシブセンサーが稼動しているが、ワイバーンが付きっ切りで処理するような必要は無い。

 今は船内に残されたデーターのサルベージをしている……という名目で男2人で集まっていた。

 もうお分かりだろうか、艦内に残されていた紳士達の情報データーを閲覧しようと、本能に素直すぎる男が2人、期待を胸に膨らませているのだった。


『魔王様、そろそろ良いですかい?』


「ああ、やってくれ。この日の為に苦労をしてきたんだ」

 ライムは気にもしないが、リゼルは恥ずかしがって、俺が既に入手したのまでは干渉しないが、未発見のものがあると闇に葬ろうとするからな。

 ワイバーンと2人で必死に収集した日々が懐かしい。


 さあ、未来人よ。お前たちは一体どんな欲望を胸に秘めていたのか。

 この魔王に見せるがいい………!



 ―――1本目、その道のプロの作品だった。ただし熟しすぎて枯れ落ちそうなご高齢であった。

「……………………うぇっ」

 口元を押さえてトイレに駆け込んだ俺を軟弱だと罵ってくれて構わない。


『こ、こいつはエグイわなぁ……え、これ持ってたの19歳の若造かいな。

 どんな業深いやつだったんでっしゃろ……』



 ―――2本目。美しい映像作品であった。だが、原始的な工作ロボット同士が殴り合ってる映像の効果音に喘ぎ声が混ざってるのは、色々間違っていると思う。

「………なぁ、ワイバーン。俺にはただのロボバトルにしか見えないんだが」

 ただのロボバトルとして見れば、まあそこそこ見れる作品ではある。

 その際には効果音として入ってる喘ぎ声が邪魔になるが。


『上級者向けですなぁ……付喪神なワイならギリギリ何とかいけますわ』

 いけるのか、ワイバーン。不覚ながら尊敬しかけたぞ。


 ―――3本目。粘菌っぽいスライム同士が延々と浸食しあうものだった。

「…宇宙は広いな。ちょっと種族が違いすぎて理解が追いつかない」


『まぁ、種族が違えば大興奮モノなんでしょうなぁ』


 ―――4本目。ただのノイズだった。

「データーが壊れていたのか?」


『これで合ってるみたいですわ。タイトルは「ノイズ×ノイズ、どろどろザラザラノイズ大天国」ですな』


「そうか、俺の時代だと人類には早すぎるって言われるレベルだが。

 そういや、ここは未来だったな………人類、追いついたのか」



 結論。未来人共の業深さは予想を遥か斜め上に行っていた。

 その、なんというかな。魔王としても理解できない欲望は数多かった。

<< 前へ次へ >>目次  更新