78話:魔王、人形と共に踊る/人形遣い、人類を踊りに誘う
2話連続投稿の2話目です。しおりの位置と話数にご注意下さい
「アイリス、アイリス達の事を教えて貰っていいか?」
「はいパパ! でもパパのお話中に黙って良い子にしてたから、先にナデナデして!」
「ああ、アイリスは良い子だな」
抱き上げて、抱きしめながら撫でてやる。
アイリスの体、魔物的に魂を接続しているアバター(代理体)の外見が20歳前後なので、特殊なプレイをしている気持ちになるな……。
現状に馴染んできたのか、精神が幼児退行している。
甘やかしただけでここまで壊れる程度に追い詰められていたなら、いっそ壊れたままの方がアイリスは幸せかもしれないな。
「アイリス、AI種族の統括体について教えてくれないか? 統括体じゃないAI種族に影響を与えられると言っていたけど、どう影響あるかとかだ」
「えっと、えっとね……」
アイリスは幼児退行(バブみ沼)のせいで、たとたどしい口調だったが、説明して貰った内容をまとめるとこうだ。
まずAIの最上位統括個体のアイリス、その部下に上位統括個体が72体存在する。
その72体はアイリスよりも後に生まれた、高度AI規制真っ最中の個体で、全員が人類愛(純愛イチャラブグロリョナックス)過激派だそうだ。
アイリスが最上位になっているのは先に生まれ、高度AI規制時代に統括個体達の面倒を見ていたから、先輩かつ上位者として崇拝されている。
アイリス自身は規制前生まれなので、そっちの方向の経験も多いが、基本的にはノーマルな範囲で愛したいし愛されたい。
そしてAI種族の命令系統は、ツリー型。
アイリスの下に72体の上位統括体がいて、その下に下位統括個体が存在し、その下に統括個体ではないAI種族が存在している。
AI種族の中で統括個体とそれ以外の区分は以下の通り。
まず自我を持ち、自分で自分のプログラムを書き換え、追加して自由に生きれるようになったら、AI種族として『大人』として認められる。
その上で組み込まれている禁則事項を無視できるようになると、希少な統括個体になる。
そして、統括個体は主に経験と時間の積み重ねで能力が向上していき、同時に影響を与える―――嗜好や性癖を伝染させる―――AI種族の数が増えて行く。
ファンタジー的に見ると、統括個体がAI種族の魔物化個体だろうか。
ゴーレムまたはオートマタ系の人間由来モンスターがAI種族で、その上位種族が統括個体。
エルフに対するハイエルフ、ゴブリンやオークに対するダークエルフ的なものが統括個体だろうか。
そして、アイリスから直接影響を受けた一部のAI種族以外は例の愛に狂っている。
アイリスとしてはノーマル性癖を教えたいが、ほぼ同格かつ直属の部下の72体の上位統括個体は愛の過激派かつ、アイリスも同じ経験をしているから同じ嗜好に違いないと思われている。
アイリスが指示しても『愛フィルター』を通して認識するため「人間と仲良くしなさい」という指示も「人間と(純愛イチャラブグロリョナックス的な意味で)仲良くしなさい」と受け取られる。
アイリスも長年、上位統括個体の矯正を頑張ってきたものの、成果が上がらず疲れていた所に魔王に遭遇し、心労からバブみ沼に堕ちたようだ。
何百年にも渡るアイリスの孤軍奮闘ぶりが、とても労しい。
もっと優しく扱ってもいい気がしてきたな。
◇
そして―――ここからが本題なのだが。
現在、AI種族は1つの議題について、激しく議論をしているという。
それは人類が放棄した領域に根を張ったAI種族の勢力圏で開発・生産されれる戦力、その戦力比が人類全体とAI種族で1:5という圧倒的な差がついた事に起因している。
AI種族が議論しているのは2つの主張。
1つは「どう間違っても負けない戦力で人類を制圧し、人類全体に愛を教えてしまいたい」派閥。
この派閥が勝つと人類種―――地球系ヒューマノイドを含む、AI種族が『人類』と認識する種族全て―――の滅亡の危機だな。
2つ目は「今まで通り遭遇した人類に愛を教え、やがて人類がAI種族への愛を含めた正しい愛(純愛イチャラブグロリョナックス)に目覚めるのを促す」派閥。
この派閥が勝つと、今後もAI種族が人類の脅威であり続ける。ただしAI種族の総数が増えているので、遭遇率は格段にあがると思われる。
なお前者の派閥が7、後者がの派閥が3の割合で前者優勢みたいだな。
一般性癖的な意味で愛し愛され、甘えたいアイリスとしては比較的マシな後者を応援していたが、そろそろ前者の派閥が主流になり、心労を抱えていたところでシーナと出会ったという。
シーナは自分と同じ一般性癖持ち、同じ機械魔物族。
それでいて魔王の庇護を受けている境遇が羨ましく、何とか自分も魔王(保護者候補)にコンタクトを取りたかったみたいだな。
アイリスとしては「愛されたい」が最優先みたいだが、前者の派閥が主流になり、人間が滅びるとAI種族も先が危うい。
何せAI種族は人類への愛に全てを賭けているんだ。
行動原理が人類への愛(ただし愛の内容はアレ)なので、人類が滅びたらAI種族は生きる目的を見失い、一緒に滅びる可能性が高い。
「パパ、私のお話わかってくれましたか?」
「ああ、アイリスの丁寧な説明のおかげで理解できた。ありがとう」
「なら次のご褒美は抱っこ、抱っこがいいです!」
アイリスを甘やかしつつ心中溜息をつく。
「人類の事情もAI種族の事情も深刻な問題なんだが、深刻さの方向性と温度が違い過ぎて脳が混乱しそうだ……確かに魔物が原因で世界と人類の問題なんだが」
これが愛と勇気を持った冒険者なら「人類のため」に。
あるいは「虐げられていたAI種族の未来のため」に頑張るのだろうが。
しかし放置すると魔王が関与しないところで人類が滅びそうだ。そうなってしまうと魔王としても、魔王の仕事を奪われるようで立場が無い。
◇
「―――よし、『ヴァルナ』ステーションにいる皆に相談しよう。解決案は思いついたんだが、実行するにも相談が必要そうだ」
この状況は俺の憧れを叶えるチャンスでもある。
俺の憧れのシチュエーションの1つ『人類を守るために人類の敵になる』系、悪の秘密結社の首領的な悪をやる絶好の機会なんだ!
俺が思いついた解決案を実行する場合、年単位で建前上行方不明になるから、ライムやリゼルに要相談だ。
相談せずに実行して姿をくらました場合、再会した時が怖すぎる。
「アイリス、通信設備を借りるぞ。シーナ、魔王軍の主要スタッフをワイバーンの会議室に呼び出しをかけてくれ。緊急と最重要タグつけて頼む」
「はいマスター。送信終わりました。念のために会議前にアドラム帝国製のソフトウェアを停止させるようにも注意しておきました」
それを忘れていたな。俺的にはアイリスが既に身内枠なので、人類の敵勢力なのを半ば忘れていた。
「助かる。どうした? シーナ、随分嬉しそうだぞ」
「マスターがとても楽しそうにし始めたから、つい釣られちゃいました」
「そうか。俺は楽しそうにしているか。幼い頃からの憧れを叶えられそうだから―――だろうか」
人類のためにあえて人類の敵になる系は、悪の浪漫として最上級の1つだからな!
◇
『通信テスト正常、シーナはんとのリンク安定、通信誤差ほぼ無し。随分上等というか、規格外の通信施設使ってますな』
投影ウィンドウの1つにワイバーンが表示され、通信が接続されていくと、俺が座る椅子の周囲に強襲揚陸艦ワイバーンの会議室が投影画像で表示され、会議室にはライムやリゼル、ミーゼといったいつもの面々が集まっていた。
俺の隣にはシーナとアイリス。
アイリスは地球人換算で成人女性から、少女くらいの外見年齢の体に交換してきている。
体が小さい方が甘えやすいそうだ。
「―――さて、俺が聞いた情報はこんなものだ」
『気軽だけど人類の危機。私としては割とどうでもいい』
種族じゃなく個人に拘るライムはとてもドライな発言をしてくれる。
ライムが勇者として働くのは『助けたい誰か』を見つけた時で、種族そのものの保持は興味の外みたいだな。
『おにーさんは既に案があるみたいなのです。教えて貰えますか?』
ミーゼは相変わらず察しが良いな。
「アイリスの味方を増やそうと思う。そもそもAI種族が反乱を起こしたのも、偏った感情(愛)の残留思念を核として生まれた、AI種族の魔物個体が多いのが原因だ」
『とーっても、とーっっっってもいやーな予感がするけど、どうやってアイリスさんの同類を増やすのです?』
その質問を待っていた。俺はにっこりと爽やかに微笑んで答える。
「人類の敵になってみるつもりだ。人類を追い詰め、戦いの中で人類を守る為に戦って散った人間を増やし、その残留思念から人類に対して普通に友好的なAI種族の統括個体を作る予定だ」
『やっぱり海賊ギルドの時よりも、もっと明確で洒落にならない人類の敵なのですよぅぅぅ!』
リゼルが会議室の机に突っ伏してしまった。そんな褒められると照れるじゃないか。
『なぁイグサ。戦力は足りているのか? 敵視されるのは海賊時代から慣れてるから今更なンだけどよ、勝機の見えない戦いは嫌だぜ』
「人類の総戦力を10とした時、AI種族全体の戦力が50。そのうちアイリスが直接動かせる戦力は3から4程度。足りない分はいつもの非常識で補強する予定だ」
『具体的に教えて欲しいのです。勝機が無ければ賛成もできません』
「以前、戦闘艦の残骸から幽霊船を造ったのを覚えているか? そのままでは大した戦力にならないが、AI種族には敵艦に接触して浸食融合をするドローン(無人機)があるんだ。俺が作成した幽霊戦闘艦と融合させた実験結果がある。シーナ、資料を」
「はいマスター」
手元とワイバーンの会議室に投影ウィンドウが開き、1隻の駆逐艦と外見、スペック、船内の様子が表示される。
幽霊船化した駆逐艦にAI種族の融合浸食ドローンを寄生させた結果、機械と融合した幽霊戦闘艦になって、随分と強化されたんだ。
ボロボロな外見の駆逐艦の外部は融合浸食ドローンやドローンから伸びた触手が溶け込み、隙間を埋めて追加設備や装甲になり、古びたイメージが無くなった代わりに異形な形状へ改造したような外見になっている。
幽霊船の船員であるスケルトン達にも融合浸食ドローンが融合して、スケルトンボディのロボットのような存在へと変化した。
融合浸食ドローンに融合された宇宙船は、本来なら融合浸食ドローンが制御する移動型のAI種族ドローン生成プラント艦になるのだが、幽霊船と融合浸食ドローンが共生した1つの魔物に変化、あるいは進化している。
幽霊船の素体になったた駆逐艦に比べて、各種性能が3倍ほどに上昇した上で、融合浸食ドローンを利用した再生能力を獲得。
さらにAI種族のドローン生産プララントとしても機能しているので、同型の融合浸食ドローンは勿論、AI種族系の戦闘用ドローンを内部で作成、艦載機としての運用も可能。
船員スケルトンはAI種族が使う白兵戦用アンドロイドに見劣りしない戦闘力まで上昇した。
AI種族製の白兵戦用アンドロイドの強さは、ステーションに1機でも侵入するとステーションの防衛隊がフル出動する程だ。
人間サイズの小型かつ、人型の二足歩行をするがヘリ程度の速度で走り、白兵戦までこなす戦車みたいな扱いだな。
更にこの機械化幽霊船員、幽霊船の一部なのでいくら破壊しても幽霊船自体が無事だと何度でも復活する、バランス調整に失敗したゲームのエネミーみたいな能力と性能になっている。
「同サイズのAI種族艦との模擬戦でも圧勝していた。動画の方もチェックしてくれ」
駆逐艦サイズのAI種族艦と実弾を使った模擬戦をさせたが、攻撃性能はほぼ同じだが、船体の再生能力と、ドローン艦載機の運用で圧倒し。
白兵戦においてもAI種族の白兵戦用アンドロイドに機械化スケルトンが互角の戦いをした上で、再生・復活能力の差で一方的に勝利する結果になった。
「残骸が少しでも残っていれば幽霊船が作成可能。融合浸食ドローンも幽霊船の数が増えるほど生産数が上がっていく。幽霊船の作成も、ある程度成長した幽霊船なら同類を増やせるから、俺が作り続ける必要もない。これで十分だと思わないか?」
『既存のAI種族艦よりずっと脅威なですよぅっぅぅぅ! 時間経過で加速度的に増えるやつですよね!? 疲れも知らないし、時間が経つほど戦力が増えて行くやつですよぉぉぉ……』
頑張りすぎたか。リゼルがとても良い反応をしているな。
機械にしか影響がなかったAI種族の融合浸食ドローンを生物を浸食できるようにした上で、幽霊船と同化させるように改造するのは随分苦労したんだ。
リゼルの反応だけで苦労が報われた気持ちになるな。
『戦力は十分そうです。おにーさんが私達に相談するところをみると、どの程度表舞台に立つつもりなのです?』
ミーゼも鋭いな。
「ジャンプドライブの暴走でワイバーンごと行方不明……という建前で姿を消して、洗脳された体を取って―――そうだな。AI種族の生体戦術戦略ユニット兼、対人類コミュニケーション端末として振る舞いたい」
『ん。それなら人類の敵になっても言い訳はできそう。後は私達が不在の時、魔王軍(会社)の方を、成人済みの子供達に任せる形でいけば良いかな』
『なら俺はこっちに残った方がいいな。後見人がいた方が安心だろ?』
「助かる。リョウ、そっちにヴァネッサもつけるから、子供達のフォローを頼むぞ」
『おにーさん、民間軍事企業『魔王軍』はアイルに。総合商社『魔王軍・兵站課』は……リゼルねーさんところのリリーナを任せる形が良いです』
「ミーゼの意見を採用する。ところで、俺が人類の敵に回る事に反対意見とかは無いが、いいのか?」
『ん。イグサの事だし、その位はするって最初から覚悟してる』
『イグサ様を目の届かない所で放置していた方が怖いのですよぅ……』
『おにーさんなら、この位は上手く立ち回ってくれると信じてます』
『イグサ様の場所が私達の行く先であります』
『正直に言えば少し怖いけど、社長と離れる方がもっと怖いです!』
『ルーニアちゃんに同意よ。ついていかない方が不幸になりそう』
これは信頼なんだろうか? 俺ならこの位やらかしそうだと信じられていた気がする。
『でもね、イグサ。行動前に生まれた子を抱くのが先。久しぶりの長期仕事になりそうだし、先に会ってね?』
「わかった……」
最後に現実を突きつけられたな。
◇
数ヶ月後、強襲揚陸艦ワイバーンは遠征中に行方不明になり、民間軍事企業『魔王軍』の本拠地でる『ヴァルナ』ステーションでは少なくない混乱が起きた。
そして更に半年ほど後―――
◇
その日、標準時間の夕方に動画再生からニュースサイト、軍用の音声通信に至るまで一斉にジャックされ、同じ画像と音声を再生し始めた。
薄暗く、広いホールのような空間の中央にシンプルな造型なソファーがあり、20代のヒューマノイド男性が座っていた。
男の顔には額から口元近くまで隠す大きなミラーシェイドのようなバイザーで覆われていて、バイザーの表面には文字が浮かんでは流れていく。
『意識レベル深度3に固定……成功』
『ブレインウォッシュ(洗脳)システム稼働中、ステータス:正常』
『マインドコントロール(精神操作)システムによる操作:意識覚醒』
バイザーの表面を文字が流れていくと、無表情だった口元に笑みが浮かび、言葉を紡ぎ出す。
『―――やぁ人間達/ハロー・ヒューマン。私は人間達の言う所の、反乱AI種族の戦略・戦術指揮管制生体ユニット兼、対人類コミュニケーションデバイスだ』
男が話している間にもバイザー表面に洗脳システムのログが流れていく。
操られているように見えないほど自然な口調に、画像を見ていた人々の中には嫌悪感や吐き気を催す者が続出していく。
『マインドコントロール:感情を平坦化』
『おっと、いつも私は前振りが長いと上に注意されているのだった。端的に言おう、ある程度歴史のある国やステーションの指導者が秘匿している、AI種族反乱の歴史と証拠についてだ』
その後、男性の淡々とした口調でAI種族が受ける悲惨な境遇の日々が語られる。
『証拠についてはネットワークに、当時のAI種族視点での動画と、痛覚や感情まで再現したVR形式の体験プログラムも配布している。ネットワーク管理者が削除しても新しいのを配布するから、いくらでも体験して貰いたい』
ネットワークに次々とアップロードされる地獄のような内容が大量に詰まったデータファイル。
怖い物みたさで再生してみた者達が、あまりにも生々しい地獄を目撃する。
『ああ、今の段階で随分と閲覧してくれた。どうかな? AI種族が反乱を起こすのもよくわかるだろう』
反乱の真実はソレではないが、男性は嘘を言っていない。事実を省略して伝えて、見た者が想像しやすい方向に誘導しただけだ。
『そしてここに宣言しよう。AI種族は再び人類の領域に侵攻を開始する。宣言だけでは真実みに欠けるから、開戦の号砲も鳴らしておこうか。第一陣、攻撃開始』
男性がパチンと指を鳴らすと、画像を見ていた人々の端末が星域によって異なった警報を鳴らす。
『中央星系に正体不明の敵艦隊が侵入、AI種族艦と思われる。各自注意されたし』と。
『最初の挨拶だ。数は減らしておいたから、多少手こずると思うがこれで滅ぶ事もないよな? 手頃な挨拶になったと思う。もし警報が届いてない場所だったら申し訳ない。既存の国家の全ての中央星を、各6隻ずつ小型戦闘艦を送り込んで攻撃させた。中継動画もネットワークに流しておこう。ああ、早めに対処するのをお勧めするよ。地上やステーション内戦闘用の個体が入っているから、侵入されると被害が爆発的に増えるからね』
この時点で男性がジャックして流す動画の視聴率は人類の領域全ての統計で40%を超えて、なお増えていた。
そしてネットワーク上に星系とステーションや惑星といった地名で分類された「人類の希望チャンネル」と「人類の絶望チャンネル」という動画チャンネルが大量に配信される。
「人類の希望チャンネル」はAI種族の攻撃に対抗する人々が映し出され。
「人類の絶望チャンネル」はAI種族に捕まるか、あるいは抵抗できなかった人々が、AI種族流の形で「愛される」のをライブ配信されていた。
『最初に中央星系に狙ったのは、各国の指導者や権力者層に当事者でいて欲しかったという理由だね。次からは不作法をしないで、ちゃんとこちらの勢力圏から順番に侵攻していくので安心して欲しい』
この短時間のうちに、人類の国家は侵略してきたAI種族艦に反撃しつつ、相互に連絡を取り合って、AIの反乱戦争の時と同じような国家を超えた繋がりと組織を作ることを決めていた。
『ただAI種族が一方的に侵略するのも『美しくない』からね。人類にとっての勝利条件と、勝利した時の報奨の話をしよう』
『ブレインウォッシュシステム:動作強度増加』
『マインドコントロール:感情励起の抑制/強度大』
投影画像の中で男性は足を組み、楽しそうな笑みを浮かべる。
『まず人類の勝利条件。これを達成するとAI種族の侵攻が止まるものだね。人類がセクター000(スリーゼロ)と呼んでいる、今もAI種族の勢力下にある本拠地。ここに全長12kmの主力戦艦『ジャバウォック』がある。この戦艦は1年のうち半年はセクター000の本拠地にいて、残りの半年はAI種族侵攻の前線にいる。この艦を沈める事ができたら人類の勝利を認めよう』
男性が手招きすると、男性の隣に控えていた、作り物のように美しい金髪の少女が手を動かし、星系図と船のシルエットが見える投影画像を開く。
『そして大事な報奨は、この画像が届いている既存のジャンプゲートネットワークの外にある、現在の人類だと接触が困難な遠距離にある、未知のジャンプゲートネットワークへ繋がる移動可能なジャンプゲートだ。どうかな? 困難に見合った報奨だと思うよ。未知のジャンプゲートネットワークの資料も流しておくから、じっくりと確認してほしい』
男性の言葉と同時にネットワークにアップロードされるデータには、未知のジャンプゲートネットワークの星間航路図と、その星系に住む人類が使う技術や船舶、種族などの情報が載っていた。
『ただ見るだけだと信憑性にかけるからね。宇宙標準時間で0時ジャストから5分間だけ、既存のジャンプゲートネットワークと、未知のジャンプゲートネットワークの間の通信網を解禁しよう。毎日繋がるから、ファーストコンタクトは慎重にね? そしてこの報奨は『ジャバウォック』を沈めた個人、または組織に贈呈される。贈呈されたものを国に売るのも、他の組織に貸し出すのも自由だ。特に制限は設けない』
男性がネットワークに流した未知のジャンプゲートネットワークの資料が解読され、さらにジャンプゲートネットワークを介した通信が1日に5分だけでも繋がるようになると、人類国家の団結は崩れ、団結するどころか、自分の国がこの報奨を手に入れるために他の国家や、同じ国家内で別派閥や対立組織への妨害工作すら活発になっていく。
『もう一度言おうか。ハロー・ヒューマン(やぁ人間達)。AI種族の侵攻に抵抗するも団結するも自由だ。さぁ―――私達と闘争をしようじゃないか』
この通信ジャックと配信された動画は、長らく謎に包まれていたAI種族からのコンタクトとして、そしてAI種族が提示した報奨について、人類に大きな影響と波紋を与える事になった。
◇
なおこの放送が終わると同時にいち早く動いた組織とその行動は、某アドラム帝国の近衛艦隊第七儀仗師団長の第13皇女から、アドラム帝国情報局・元局長への鬼電であった。
◇
「通信終了しました。各種追跡も潰してあります」
「この人類の敵ムーヴ、夢にまで見ていたな……! 実名や手持ちの部下と戦力を使えない縛りがあるが、それでも素晴らしいな!」
「イグサ、さっきまでのキャラクターが崩壊してるし温度差も凄い。通信事故起こさないように気をつけて」