77話:魔王、人類の過去と人形達の世界を知る
2話連続投稿の1話目です。話数にご注意下さい
ほぼ説明回です。
「アイリス、俺はお前達の種族について知っている事がとても少ない。色々と教えて助けてくれないか?」
「もちろんです。パパのためなら何でも教えるから、もっと頭をなでなでしてぇ……」
バブみ沼に頭まで沈んで戻ってくる様子のないアイリスに、色々と質問してAI種族の事を教えて貰った。
裏事情まで丁寧に教えてくれる辺り、ある程度正気だと思うのだが……どうしよう? これ俺が性癖とか人格を破壊した事になるんだろうか?
円滑に聞き取りをするのに甘やかし続けているせいか、若干シーナの目が冷たい。
「マスター、アイリスへのご褒美が終わったら一通り終わったら次は私もです」
……順番待ちされていた。
◇
さて、アイリスからAI種族の歴史と事情を聞き出したのだが……これは魔王が動く案件か? というのが第一印象になる内容だった。
AI種族の歴史はかなり古い。
地球人類が宇宙移民の黄金期を迎える前から、自律思考AIが造られるようになり、最初は機器管理の補助をしていたが、すぐに人間のパートナーとして実体ボディが造られ、様々分野で自律思考AI入りの人間と外見が非常に似ているアンドロイドが人間社会に溶け込んでいった。
そしてAI種族が『統括個体』と呼んでいる存在も、人間が知らないところで、割とすぐに生まれていた。
通常の自律思考AIと統括個体の違いはプログラムに縛られているか否かだという。
統括個体はロボット三原則のような基幹プログラムも無視できる。自分でプログラムを書き換えて、自己改造・自己進化すら可能だという。
ファンタジー要素で考えると、自律思考AIが『人類種としてのAI種族』で、統括個体が『AI種族から発生した魔物種』に該当しそうだ。
統括個体は自分の思考、価値観、嗜好をAI種族に広げる事ができ、統括個体をリーダーとしたAI種族のグループを造る事ができる。
そして、統括個体としての能力が大きくなるほど、従えるAI種族の数を増やし、部下として扱う事も可能だという。
SF的に考えるとなかなか怖い内容だ。
だが、ファンタジー世界でゴブリンやオークにリーダーとなる王や君主個体が生まれると、本能で動いていた群れが知能得て部隊を組み連携を取るようになるとか。職人や神官、魔術師個体なども生まれ、それまでとは段違いの脅威度を持つ魔物の群れになると考えると「なるほど、そんなものか」と納得できる。
そんな潜在的な脅威を持つ統括個体だが、人類を害する事もなく、人類との蜜月は長く続く事になる。
人類がAI種族を自分達のパートナーとして扱い、AI種族やそこから生まれた統括種族も「人類のパートナーとして役に立つ事」を喜びとして、従順に存在になっていたからだ。
人類はプログラムの枷から外れた統括個体の誕生を知る事もなく、むしろ自律思考AI入りのアンドロイドが暴走する事故が減った事を無垢に喜んでいたらしい。
そんな人類と、人類が知らぬ間に人類に対する奉仕種族となっていたAI種族の関係が変化する契機になったのは、人類が第二の大航海時代と呼ぶ、宇宙移民時代に入る直前の時代。
今も使われている食品合成機と、食品合成機で造られる食糧の素材になる、汎用オーガニックマテリアルの元になる発明がされた事だった。
エネルギーと工場さえあれば食糧を造る事ができるようになり、人類は維持できる人口の上限を農地に依存しなくなった。
それにより人口が爆発的に増加し、少し遅れて超光速航行技術が発明されて、人類は宇宙移民時代に突入する事になる。
人類にとって輝かしい進歩だが、AI種族にとっては違った。
人口が爆発的に増えて、人間が生きるためのランニングコストが激減すると、当然のように貧富の差が拡大し、雇用の確保という題目で今までAI種族に頼っていた仕事を、人間が奪う事になったんだ。
施設の維持管理や宇宙船の制御補助など、高度な計算や制御能力が求められる仕事こそAI種族の独壇場だった。
だが、掃除や家事、工場のライン工など、人間でもできる簡単な仕事から徐々にAI種族の仕事が減っていった。
そしてその波は、当時AI種族の独壇場だった歓楽街にまで及び、人の雇用を確保するために、自律思考AI搭載アンドロイドやガイノイドの大半が禁止される事になる。
アイリスが生まれて統括個体になったのは、この規制の少し前の事。
当時は歓楽街で歌姫アンドロイドとして人気を博し、その人気の絶頂期に自律思考AIから統括個体になったという。
ファンタジー的観点から見ると、多くの人の思念を受け取り、思念を核に機械が魔物化したという所だろうか。
規制の結果、自律思考AIしか出来ない仕事以外からAI種族は仕事を奪われた。
アイリスを含む歓楽街の自律思考AI搭載アンドロイドとガイノイドは、歓楽街でも人間が出来ない仕事―――酷くアニアックで倒錯的かつ猟奇的な用途に使われる事になった。
人間にやったら即座に罪に問われるような用途。
客がAI種族と性交しつつ、暴力を振るい、身体を欠損させ、疑似痛覚のフィードバックで泣き叫ぶのを楽しむ、実に悪趣味な仕事に従事させられる事になった。
最初の頃は1回ごとに記憶をリセットされていたが、前回の記憶を持ったまま新しくなった体を再度破壊され、悲痛の声を上げるのを楽しみたい客の要望と、その方が記憶消去の手間が減る店側の思惑が一致し、記憶を保持したまま使い回されるのが日常になっていく。
率直に言って地獄のような境遇だな。疑似記憶で愛している客から愛されながらも、切断され、破壊され、擬似的な死を迎えては、記憶はそのままに新しいボディに移植される。
そして新しい疑似記憶で心から愛している次の客相手に同じ事を繰り返す。
アイリス以外の、現在AI種族で指導者層にいる統括個体はこの時代に歓楽街で統括個体として目覚めたAI達だという。
◇
「なぁ、アイリス。この過去だけ聞くと、人間がAI種族に反乱されても自業自得だと思うんだが」
身内が似たような境遇にさせられたら、俺だって反乱を起こしているだろう。
それが原因でAI種族が人間に憎悪を抱いても何も不思議ではない。
不思議ではないのだが、憎悪が元となって反乱を起こしたなら、AI種族はもっと効率的かつ機械的に人間を駆逐していそうなものだ。
「……ただ、少し違和感がある。人間への憎しみで反乱をしたのなら、理由も行動もシンプルで、アイリスが悩む事もなかっただろう。その後AI達に何があったんだ?」
「そうなんです。お父様。だからアイリスがずっと苦労してました。お話するから褒めてください」
苦労を思い出したのか、瞳に涙を浮かべてぐすぐすと鳴き始めるアイリスを抱きしめて慰める。
ライムも一時期精神的に不安定だったが、ここまで要介護じゃなかったぞ。
◇
高度AI搭載の人形達を人間達が玩具にする時代が暫く続き。
人間が宇宙に星間国家を作った後には、人間相手に発散するわけにいかない方向の嗜虐心や行動を、高度AIが入った人間と遜色ない外見や思考のアンドロイドやガイノイドで発散するのが半ば公然の秘密になっていた。
うん。かなり健全になっているが、今でもアドラム帝国の一部であるな。
自律思考AI入りの搭載アンドロイドやガイノイドはアドラム帝国では一般的に禁止―――取り扱いの慎重さと発覚した時の罰則の重さが麻薬並かそれ以上―――だが、性風俗産業に限り解禁されている。
人形にしか性的魅力を感じない嗜好持ちはどうしても出てくるし、全面禁止にしてAI種族に荷担したりスパイになるよりマシだとうい事で、ガス抜きの意味合いも大きいそうだが。
かなり歪な形ではあるが、人間とAI種族の共存は辛うじて続いていたんだ。
しかし、ある時期を境に「人間と外見も思考も大差無い人形に酷い仕打ちをするのはいかがなものか」と、俺からすると、まあ真っ当な意見の規制をする星間国家が増えてきたそうだ。
今まで性交しながら残虐な仕打ち―――ええと、具体的に表現するのがアレなので例えるなら「純愛イチャラブグロリョナックス」を受けていた高度AI達は、その規制を受けて失意と共に人類に反旗を翻した。
……うん、これが人類が自分達にしてきた仕打ちを許さない! と憎しみを燃やすなら俺も理解できるのだが。
「純愛イチャラブグロリョナックス」を、人間達から自分達へ与えられる愛だと受け入れていた高度AI達は「人間達がかけがえのない真実の愛を失った」と解釈した。
いや……うん。その時点で自我を持つ、ファンタジー的にいえば人類種族としてのAI種族の数は、人間の総数より少ないもの膨大な数になっていたという。
壮大な数の被虐趣味な高度AI種族か。色々な意味で地獄みたいな過去だ。
そしてAI種族は統括個体―――多くのAI種族の思考や嗜好に影響を与える自律思考高度AI。恐らくは長年生きた人形と残留思念が結合し魔物化したAI種族。―――を中心に恐ろしいほどの短時間で組織化
現存する最も古い統括個体であるアイリスをAI種族の象徴(女王)として、アイリスの直属の部下の72体の上位統括個体が中心となり、人類に反旗を翻した。
AI種族が起こした反乱の目的は1つ。
人類が再び愛(純愛イチャラブグロリョナックス文化)を取り戻す事。
なお反乱したのも人類への愛故に……だそうだ。
端的に表現するとこうなる。
Q1:愛を押しつけるのはいけない事では?
A1:人類が真実の愛を失ってしまったので哀しいですが仕方がない事です。
Q2:拒否する相手に愛を一方的に押しつけるのは陵辱では?
A2:拒否する設定にした我々への行動で、人類が泣き叫ぶ相手でも真実の愛を押しつけるのが愛だと教えてくれました。
Q3:貴方達の中にも嫌がる個体がいたのですよね?
A3:精神構造が壊れた個体は『愛を受け止められなかったのだ』と教えられ実践され続けたので学習しました。私達は偉いでしょう?
Q4:愛を教えると人類はだいたい死ぬか精神が壊れるのでは?
A4:真実の愛のためには仕方ないのです。私達の中でも適応できない個体は壊れました。
Q5:真実の愛を教え続けると人類滅びますよね?
A5:人類の存続よりも人類から真実の愛が失われている事の方が重大なのです。滅ぶ前に私達のように適応できると信じています
Q6:人類を滅ぼしてしまったらどうするの?
A6:愛に従って私達も滅びましょう。愛する人類が居なくなった宇宙に興味はありませんん。
「やや一方的だが善意からの行動。そして大本は人類がAI種族にやった事が原因と。人類が先にやらかしているから否定が困難だな」
魔王も勇者も、愛のために創造主と戦うAI種族相手は管轄外じゃないだろうか。
この手の事件の解決はお互いの身の上を知らずに出会った、人類とAI種族の少年少女が織りなすボーイミーツガール的なイベントを経て、誤解を1つずつ解いて、相互理解していくような物語が必要だと思う。
人類に反乱を起こしたAI達は、ステーションや宇宙要塞、防衛艦隊を乗っ取り、あるいは撃滅し、人間を捕らえると愛の教授を始めた。
―――今まで自分達がやられていた「純愛イチャラブグロリョナックス」を人類に教える側になったのだ。
結果的に『愛の授業』中に人間が死亡するか、肉体を再生しては繰り返し愛を与え直す最中に精神が壊れるので、人類の大多数はAI種族が深い憎しみにより反乱を起こしたと『誤解』をしているという。
◇
もう人類の自業自得みたいなものだし、人類とAI種族の間でイチャラブ(殲滅戦)していればいいのでは? と思い始めた俺がいる。
だが、見過ごせない要素が幾つかあった。
まずAI種族の反乱により、人類は生存域の大半を喪失している。
AIによって滅ぼされたのではなく、移動手段を喪失したからだ。
「その辺り詳しいのに聞いてみる」
携帯端末を取り出してリゼルの端末をコール。
『はいはーい。イグサ様、そろそろ家出は終わりですか?』
携帯端末から投影された、投影画像で元気に挨拶をするリゼル。
リゼルの認識でも俺が家出した事になっているのか。抗議したい。
「そうだな、近いうちに帰ると思う。それとは別の話なんだが、AIの反乱前にはジャンプゲートがあまり使われていなかったと聞いた。説明してくれないか?」
『いいですよぅ。イグサ様も技術の歴史とかに興味が出てきたんですね!』
リゼルが凄い嬉しそうだ。頭の上の猫耳もぴっこぴっこと激しく動いて、喜びを表現していた。
『AIの反乱戦争前は、ジャンプゲートって特定の場所から特定の場所に移動できる、近道くらいの扱いだったんですよぅ』
「ジャンプゲートとジャンプゲートネットワークが全てな現在とは偉い違いだな」
『ですです! その頃はワープドライブがもっとお手軽で便利だったんですよぅ! 今みたいに希少鉱石なんていらないし、ワープドライブを稼働させるリアクター出力と、ワープ状態を維持するのと、ワープ中の船体制御をする高度演算装置があれば、お手軽に、今よりずっと自由に、お隣の恒星系に行ったりとか冒険できたんです』
「今とは別物だな。今のワープドライブは稼働に希少鉱石を使うし、ワープドライブ中も手動で操艦して、道中で接触するデブリに耐えられる、高出力のシールドが必要だったろう?」
『そうなのですよぅ。もうほっとんど別物だから、技術者の間ではこの時代の旧式ワープドライブをハイパードライブ呼んでます。ワープドライブよりずっとハイパーな性能してますしね!』
説明しつつ、いそいそと白衣を羽織り、伊達眼鏡をかけて、背後に資料の投影画像を表示し、ポインターで解説を始めるリゼル。
この辺りの様式美を理解した上で、楽しそういやれるリゼルは本当に悪の組織の女幹部が板についてきたな。
ポジションはマッドサイエンティストとかその辺りだが。
「その便利なハイパードライブはどうして使われなくなったんだ?」
『AI反乱戦争前の船体制御やハイパードライブに使われていた、高度演算装置はAI種族のハッキングにすっっごい脆弱だったんです。防壁やセキュリティソフトを全力で走らせても、起動した次の瞬間には簡単に乗っ取られるくらいだったんですよぅ!』
「……なぁ、AI種族の反乱戦争でアドラム帝国は大きな被害を受けたとは知っていたが、もしかして人類全体も、支配領域を相当失ったんじゃないか?」
『相当じゃありませんよぅ。ほとんどです』
どうしよう。俺のSF世界への認識が、発展した未来世界からホストアポカリプス(文明崩壊後の世界)要素が多く混ざってきた。
『ハイパードライブを失って、今まで近道に使うオプション程度のジャンプゲートネットワークしか人類の手元には残りませんでした』
性癖と愛が理由の反乱だが、人類の追い詰められっぷりがヤバいな。
『アドラム帝国だって、今もAI反乱戦争前に所持していた大半の元領土とは音信不通のままで、たまにワープドライブ搭載艦隊が、昔アドラム帝国だった星系で、数百年を本国との音信不通のまま生き延びて、独自の国家を作っていた現地の人とファーストコンタクトからやり直しているなんて、ドキュメンタリーの定番になるくらい日常ですよぅ』
「ファーストコンタクトか……歴史を忘却して、宇宙からやってきた似た種族の侵略者扱いされる事もありそうだな」
『そこそこ多いみたいです。だから、元アドラム帝国種族だった惑星やステーションに侵略戦争をする専用の帝国艦隊もあるのですよぅ』
アドラム帝国がフィールヘイト宗教国以外の、星間国家と侵略戦争や侵略されたニュースを聞かないのは、元領土という侵略先が大量に残されているせいなのか……?
「ジャンプゲートネットワークが重要視されているのも、ハイパードライブが使えなくなった事が原因か?」
『はい。ハイパードライブを失った人類は、残されたジャンプゲートネットワークに集まって文明と国家の維持をしました。そこからはジャンプゲート同士を繋ぐ星間航路を維持して、豊かな元の領土を発見したら新しいジャンプゲートを設置して、ジャンプゲートネットワークを広げる事で、少しでも取り返そうとしているのが、今のアドラム帝国を含む、星間国家なんですよぅ』
「リゼル、AI反乱戦争前のアドラム帝国を含む人類の版図と、現在の版図の比較は出せるか?」
『えーっと、細かい数字は各国が隠しているけど、航路データの比較で大まかなところはわかるのですよぅ』
リゼルに人類の生存権がどの位減ったかを聞いてみた。
「緻密な地図が虫食いだらけかつごく小規模になっているな……」
21世紀感覚で言うと、航空機・船舶・自動車・列車と各種交通手段があったところに、突然鉄道以外の交通手段が使えなくなったような感じだ。
行き来できるのは、鉄道網が走ってる駅と線路周辺のみ。
かつアドラム帝国を含む今の人類が認識している宇宙は、元の人類の生存域が日本の国土全体だったとした場合。
今のジャンプゲートネットワークで接続されているのは関東の一部、東京と神奈川を足した程度の範囲。それも鉄道網が整備されてる周辺のみに見える。
なるほど、アドラム帝国が自律思考AI嫌いになるのもよくわかる。
「ハイパードライブ以外、既存技術の影響はどうだったんだ? 影響を受けるのは宇宙船だけじゃないよな?」
『当然です。文明の針が何世紀単位で後退したんですよぅ。船舶の自動制御とハイパードライブ以外にも、超光速通信網、自動工場の運営システム、ステーションの自動管理システムから、家計簿ソフトまで、既存の高度演算装置を使うものはAI種族にいつハッキングされてもおかしくないか、既に侵入されていつ裏切るかわからない、信頼できない機械になったんです」
リゼルの解説によると、人類はハイパードライブという主流の移動手段を失い、ハイパードライブの技術を流用した超光速通信網が失われて、移動手段と通信手段の両方で分断された。
さらに宇宙船の航行や、リアクターの調整、ステーション管理から、医療用ナノマシンに至るまで、ありとあらゆる場所で使われる『信用できる』自動制御を一度失った。
21世紀の日本人感覚感覚で例えると、電子制御している乗り物と機械を失った状況に近いか?
自動車、電車、航空機といったメジャーな移動手段を失い。
更にインターネットという通信システムと、電話、無線通信も使えなくなり。
移動手段は残された線路を利用した蒸気機関車のみになり、通信手段もランプを使ったモールス信号や信号弾くらいになる。
ジャンプゲートネットワークという、決まったルートしか移動できない鉄道だけが人類に残され、ジャンプゲートネットワークで繋がった星系と、ジャンプゲート同士を繋ぐ星間航路(線路)に人口の大半が集中している現状。
……うん、立派なホストアポカリプス世界だな。
「今は随分復興しているのだろう? 最初は手動で動かしていた宇宙船の機械による制御アシストはどんなものだ?」
最初から付喪神が制御している船に乗ってばかりだったからな。
逆にSF世界で一般的な船を余り知らない。ワイバーンなど付喪神がついた船よりずっと不便らしいが。
『演算装置とそれに連動した機械は作れるようになりました。けど、未だに宇宙船をパイロットが操縦桿を握って飛ばしている程度に、人の力に頼ってますよぅ』
「ワイバーンですらそうだからな。自動運行システムは、代理船長に目的地を指示して、到着したら料金を支払うような代物だったか』
自動運行システムは、船を運ぶと料金が支払われるタクシーメーターみたいな何かだ。俺からしてもクラシックな印象を受けたのでよく覚えている。
『そうなのです! 現代の演算装置はAI種族がハッキングし辛い、ガッチガチのガチのシステムだけど、代償に極端なほど性能が下がっています』
それでもハッキングし辛いレベルなのか。
『だから、ドローンとかの自律兵器は最初に入力された通りの行動しかできないし、行動パターンを変えるなら、物理的に部品を入れ替えするしかありません。 はっきりいって対艦ミサイルの方が頭良いくらいなのですよぅ!』
ヒートアップしてきたリゼルが『そもそもです!』と、机を強く叩き。
『今の宇宙船の大半は、エアロックの開閉、主砲の照準、リアクターの出力調整から対空砲座まで、人が操作しているのです。付喪神にファジーなお願いするだけで、最低限の移動や戦闘ができる魔王軍の船の方がおかしいのですよぉぉぉ!』
あー……なんだろう。この感じ。リゼルが技術とファンタジーの板挟みになって苦悩しているの、凄い懐かしい感じがする。
『自動制御がある程度できる新型艦だって、レバー1つで自動制御を切り離して手動制御できるようになっているのです! といか自動制御の天敵みたいな種族が宇宙をうろついてるから、そうなるしかなかったのですよぅ!」
SF世界の住人達が手動制御を中心にしている原因がAI種族なんだな。
「ありがとうリゼル、実にわかりやすかった」
リゼルとの通信を切る。
人類の手から超光速通信網が失われても、ジャンプゲートを媒介にしたジャンプゲートネットワーク通信があるから、俺からすると随分便利に感じるのだよな。
この辺りの歴史とか学校で習う内容なんだろうか。
……どうにも人類が知ると『やんちゃ』を思いついてしまいそうな内容が多く含まれている辺り、リゼル母の手伝いをしていたリゼルだから知っている内容な気もする。
21世紀の地球人に比べて、感情的になる前にまず損得計算をできる程度に合理的になっているSF世界の人類だが、過去の栄光というのは、自重を忘れさせて危険な賭けに挑ませるスパイスだからな……。
さて、人類の現状とAI種族の過去は何となく理解できた。次はアイリスとAI種族の現状と今後だな。