75話:5章プロローグ とある地方ステーションの防衛戦
5章プロローグ部分です。
アドラム帝国の辺境にある星系、そこのステーションの付近に、軍やステーションの護衛艦隊、流れの傭兵や賞金稼ぎ、輸送船の護衛など。
数多な所属の戦闘艦が集まり、砲口からエネルギーの奔流を垂れ流していた。
所属と一緒で統一感のない外見をした彼らの船は、サイズや速度・火力ごとにカテゴリー分けされ、狙って撃つというよりも、指示された方向に主砲を連射し、長距離対艦魚雷を改造したミサイルランチャーから射出する。
『こちら重雷装駆逐艦ファイアバードAZ12、魚雷がそろそろ品切れだ! 補給ポイントを教えてくれ!』
『対空フリゲート・ヴァイスEXE28、対空用レーザーの発信器がへたって来た。ミサイルの迎撃率が下がるぞ!』
彼らが相対するのは異形の艦隊。
かつて人の手で作られただろう、戦闘艦や輸送船などの残骸。
致命傷になっただろう被弾痕が残っているもの、推進器を失って放置されただろう大型輸送船などが、欠けた場所を埋めるようにモザイク画のように様々な色彩の装甲板らしいものが何重にも重なりあって、元の外見とは違う代物に成り果てている。
推進器を失って破棄された輸送艦は、推進器のあった場所に、輸送船部分とはかけ離れたデザインの、遊具のブロックを適当につなぎ合わせたような推進器のようなものが増えていた。
戦闘で半身を失い、前半分だけになっていた戦闘艦は、残った半身からブロック状のモジュールが生えて、戦闘艦の前半分が前についた奇怪はオブジェクトになり、後ろ半分のオブジェクトから元の戦闘艦よりも明らかに多いエネルギー砲の砲身が乱雑に生えていた。
異形の艦隊は、元になった船の性能を無視するような威力のビーム砲を放ち、輸送船の船倉や戦闘艦の居住モジュールだった場所が展開すると、対艦ミサイルや予備のビーム砲台が顔を出し、統一感のない色彩の、そして破滅的な火力の火線を形成する。
そして何よりもおぞましい事に―――
『主砲が大型輸送艦γ3タイプに直撃! ……ちっ、修復が早い、早く集中砲火を!』
エネルギー砲が命中した大型輸送艦、砲撃で開けられた傷口の近辺から生えた金属の触手のようなものが傷口を這い回り。
死体にたかる小バエのようにも見える、オレンジ色の燐光を放つ小さなドローンが船体から大量に飛び出し、砲撃でできた傷口へと飛び込んでいく。
金属の触手は傷口を埋めたドローンを貫きながら細かい枝葉を伸ばして融合。そして他の触手と結合し、船の傷口を修復していった。
その過程は生物的というにも冒涜的すぎる、見る者に忌避感を感じさせるもの。
そして砲撃で開いた穴は複数の大きさが異なる、様々な色の四角形や長方形のタイルを使ったモザイク画のような装甲板へと修復され、また少し元の船の面影を失った。
『完全に修復される前に早く、射線を集中させろ!』
修復直後に多数の艦艇から殺到したエネルギー砲は、モザイク状の装甲表面に多数展開した、きめ細かい鱗にも見える、六角形の小型シールドの群れに弾かれて、装甲表面を焦げ跡や融解跡を残すに留まった。
『ちくしょう、修復された! 遊撃艦隊の到着はまだか! このままではステーションに取りつかれるぞ!』
雑多な、文字通り寄せ集めの戦闘艦や武装輸送艦で構成されたステーションの防衛艦隊。その数は約80隻。
数こそ20隻程度の侵略者に立ち向かって、今までの戦闘で撃沈した味方が30隻。対して沈めた―――機能停止に追い込んだ敵艦は3隻。
数こそ勝っているが、絶望的な戦力差。
しかも正規軍人でも、雇われた傭兵でもない彼らは、誰1人逃げる事無く戦い続けている。
彼らの背後にあるのは、取り立てて重要施設でもない商業・居住ステーション。
彼らが戦っているのはステーションに価値がある訳でもなく、何か貴重な物品があるからでもなく、ただ住人の大半がそこに残っているからだった。
そう、この敵艦隊の目的はステーションの占領がではない。
脱出できていないステーションの住人自体が目的で、敵艦がステーションに到達すれば、住民はおぞましい手段で虐殺され、地獄のような光景になる。
だからこそ彼らは、圧倒的不利な戦況でも逃げていない。
じりじりと自分達の戦力をすり減らしながら、敵艦隊の侵攻を停滞させていた。
◇
『素晴らしい、素晴らしい。これだから追い詰められた人が放つ、魂の輝きは何度見ても飽きない』
大きなホールに散りばめられた投影ウィンドウに、ステーション防衛艦隊と、侵攻艦隊の戦いの様子、そして各艦のブリッジで抗ってる人間達の姿が写っている。
それを見て、黒一色の軍服のような服装をした人物は、電子合成したような声を昂ぶらせると、パチパチと音を立てて手を打ち鳴らし、拍手をした。
黒ずくめの人物はミラーシェイドのような、大きなバイザーで顔の大半を隠していて、ミラーシェイドの表面には『精神制御:安定中』『戦略指揮管制生体ユニット:正常稼働中』などの文字が浮かんでいた。
黒ずくめの人物が座っているシートの横には、同じようなミラーシェイドをした長い金髪の少女が無言で立ち、投影画像の方へ視線を向け。
黒ずくめの人物の膝の上では、上質な黒い布のような材質の拘束着で、目、耳、口、両手を覆われた銀髪の幼い少女が、等身大の人形のような扱いで、身じろぎ1つせず抱かれている。
『そろそろ介入しよう。空間アンカー解除、出航』
『空間アンカー解除、特型航空戦艦ジャバウォック、出撃します』
黒ずくめの男性が命令すると、横の金髪の少女が具体的な指示を口する。
すると、女性の声の反応するかのように、大きなホールのあちこちにある機器が作動し始め、無人のコンソールに次々と火が点り、誰かが操作してるかのように稼働していく。
◇
「よし……この調子なら何とかなるな」
ステーション防衛艦隊に所属する、壮年の地球系ヒューマノイドな駆逐艦の艦長は、連絡を受けた遊撃艦隊からの連絡を聞いて、深い溜息と共に安堵の声を漏らした。
「乗員に告ぐ! このままのペースで抵抗を続ければ、我々の全滅まで3分の余裕を持って遊撃艦隊が到着してくれる。このまま護りきるぞ!」
壮年の艦長の説明は、自分達は恐らく生き残れないだろう内容を含んでいたが、ブリッジクルー達は野獣じみた歓喜の咆吼をあげる。
「ざまぁみやがれ機械共!」
「俺が死んでも俺達の勝ちだ!」
「このババァの死に場所としちゃ、ちょっと上等すぎるくらいだよ!」
「空間振動を感知、極めて大……いや、極大! 続いて人工的な重力波を感知!」
歓声が上がる中、ブリッジクルーのセンサー担当が悲鳴のような声を唐突に上げた。
「巨大な空間振動と重力波? まさか!? 各員戦闘態勢! 都市伝説が出てくるぞ!」
壮年の艦長がシートに座り直し、大声を上げる。
艦長が睨む投影画像の1つに大きな変化があった。
―――空間が裂ける。
この世界で一般的なジャンプゲートのような、跳躍空間を作るような丁寧なものではない。
宇宙の空間を物質化して、強引に引き裂いたような力業じみた何か。
空間の傷跡が開いて、その中央からツヤのある夜色、宇宙の色とはまた違う、青と黒が混じった塗装の巨大な艦影が、空間の裂け目から薄い壁のようなものを艦首で突き破りながら、本来水に浮くはずの浮き輪を沈めてから手を離した時のように、空間から勢いよく出現する。
「推定全長12キロ! データベースに該当……1件! 敵勢力の主力戦艦カテゴリ、コードネーム・ジャバウォック! ……実在したのか」
「重力波を検知。凄い出力だよ! こいつはアクティブレーダーや攻撃じゃない、歌だ。都市伝説通りさね!」
敵艦から放たれた重力波が駆逐艦の装甲を叩き、あるいは内部構造物と反響や共鳴して音が発生。
防衛艦隊の船内全体に歌が広がる。
「古典のメタル……か? 無機物ながらいい趣味してやがる!」
響く歌はシンフォニックメタルに分類される、SF世界では古典音楽に分類されるもの。
雑な電子合成したような、それでいて可憐で可愛らしい女性ボーカルの歌声を聞き、古典音楽趣味の船員が舌打ちする。
「牽制砲撃が来るぞ。各艦回避!」
ジャバウォックと呼ばれた巨大戦艦から、付近の宙域を明るく染めるほどのエネルギーがスコールの雨粒のような数が放たれ、防衛艦隊が回避を強いられる。
「……やはり来たか、小型機を出してくるぞ。ミサイルより戦闘機を警戒しろ!」
スコールのように放たれ続けるエネルギー砲を牽制に、戦艦の各部から無人戦闘機が次々と発艦し、エネルギー砲のスコールの中に無人戦闘機の推進器から出るオレンジ色の燐光が次々に混ざっていく。
無人戦闘機は有人機ならパイロットが圧死するような、鋭角ターンを多用した機動で対空砲の火線を避けて接近すると、次々に防衛艦隊を毒牙にかけていく。
『駆逐艦シャンデラXXI轟沈!』
『フリゲート・エイタッキル76大破。推進器喪失。リアクターは緊急停止させた。俺達はもう無理そうだ。後の事は任せたぞ!』
「後少し、後少し少しで援軍が来る。何とか耐えるんだ!」
次々と沈んでいく友軍を見て、壮年の艦長は歯を食いしばって部下達を鼓舞する。
「艦長、通信を傍受しました―――援軍の遊撃艦隊からです!」
「すぐに再生しろ。今は一秒でも惜しい!」
明るい声を出したオペレーターが操作すると、重力波で強制的に気化されてる歌の中、ノイズ混じりの声がスピーカーから漏れ出してくる。
「あれ、通信の傍受方向がおかしい。来るはずの後ろではなく前から……?」
『……こちら、第112高速遊撃隊旗艦・高速巡洋艦アマトラVII。敵の大型戦艦群と遭遇。艦隊の大半を喪失。本艦も大破し、ブリッジは喪失し提督及び艦長の生存は絶望的。救助を求む。こちら―――』
聞こえて来た通信内容は、救援に来るはずだった遊撃艦隊からの救援信号だった。
「艦長、前の裂け目の先を見て下さい―――」
顔色を悪くした艦長が見た先、ジャバウォックが出てきた空間の裂け目から見える先では、ジャバウォックを小型化したような、それでも人類基準からすれば大型の艦が多数見え、応援に来るはずだった遊撃艦隊の残存戦力を掃討している光景だった。
「皆、貧乏くじを引かせたな……すまん。通信オペレーター、ステーションに通信を。防衛艦隊は壊滅、応援も敵艦隊との交戦で全滅した模様。白兵戦に備えて、避難できなかった市民に武器の配布をするようにと」
「了解。もうそろそろ、艦長との腐れ縁は終わりですな」
「君との腐れ縁が最後まで続いた事が嬉しいよ。海賊とのドンパチで運悪く散るより、ステーションと市民を最後まで守れるんだ。傭兵崩れの儂達には、なんとも上等な最後じゃないか。副長、奥の手のスイッチをこっちに」
壮年の艦長は穏やかな口調で副長に応えると、決意と敵意の混ざった視線をブリッジのスクリーンへと向ける。
駆逐艦の艦長達が話している間にも無人戦闘機が、嬲るように艦のタレット(砲塔)や推進器を削り、戦闘力や移動力を乗員の命共々削りっていく。
無人戦闘機の一機がブリッジの前で止まり、機首から伸びるエネルギー砲の砲身に光を灯したまま停止。
ひび割れた電子合成のような声が艦内へと伝わる。
『降伏せよ人間。降伏の意思を示さねば、艦ごと沈む事になる』
無機質かつ、傲慢とも言える要請に、壮年の駆逐艦艦長はくくっと忍び笑いを漏らす。
「通信オペレーター、相手に通信を繋げてくれ」
「はい、艦長」
「この機械共が、人間を舐めるな―――!」
『リアクター:安全装置全解除/自沈コマンド実行します』
艦長が手に持った物理スイッチを押し込み、甲高い警告音が流れた次の瞬間、リアクターを故意に誘爆させた駆逐艦は、リアクター用のエネルギーを周囲へ無差別に放出。
駆逐艦は周囲の無人戦闘機を巻き込んで大爆発を起こし、この宇宙から消滅した。
◇
駆逐艦の艦長達の奮闘と最後は、ジャンプゲートネットワークを通じて全国に提供されている海賊放送「人類の希望チャンネル」を通じて配信され。
ステーションの住民達の末路は、同じく海賊放送の「人類の絶望チャンネル」で配信された。
数百年の戦線停滞を破って活動を再開したAI種族の活動により、各国や各ステーションは先の見えない抵抗活動を強いられ。
そして各国首脳部はAI種族が提示した「報酬」をいかにして手に収めるか、頭を悩ませ、国内の他派閥や他国に奸計の手を伸ばしていた。
5章1話はテキストの最終チェック中のため、本日21時頃に投稿します。
なおプロローグは大変シリアスですが、本編はいつものノリなので温度差にご注意下さい。
5章は可能なら年内完結を目差します。
※書籍化のお知らせ
TOブックス様より本タイトル「魔王と勇者が時代遅れになりました」が書籍化します。
本日が情報公開日で、発売日はTOブックス様のオンラインストアから確認できます。
特定の電子書籍サイト様では、1/14から先行配信がされるとの事です。
また、書籍化に際してなろうでのweb掲載分については今まで通りで、時に変化はありません。
詳しくは2022/11/10の活動報告をご参照下さい。
※魔王と勇者が時代遅れになりました 1巻書影