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60話:魔王、古都の休日を過ごす(後編)

2話同時投稿です。話数にご注意下さい。


魔王軍日常編かつ、番外編になります。



 エミリはお嬢様だと言っていたが、どの位お嬢様なんだろうか。


「ねぇねぇ、イグサあれ何?」


「串焼きの屋台だな。流石観光ステーションだ、合成じゃなく本物の肉を使っているんだな」


「…………!」


「わかった、わかったからそんな捨て猫みたいな目で見るな。

 屋台の兄さん、串焼き2つ頼む」


「あいよ、2人前で4800DLだ」

 高いな、本物の肉を使ってるから高いのは仕方ないが、観光地値段も上乗せされてる。

 IC通貨の手持ちはあっただろう……か……


『端末支払い、ICカード支払い可能です』

 一応屋台として配慮してあるんだろう、紙に手書きで張り紙がついていた。


「………これで頼む」

 ICカードを取り出して屋台の兄ちゃんに手渡す。

 IC通貨じゃなくて携帯汎用端末やカード支払いが出来る屋台とか……こう、情緒がない。観光ステーションだから仕方ないし便利なんだが、何か違う気がしないか?


「まいどあり!」


「………おおー…」

 エミリは屋台の兄ちゃんが串に刺した肉を焼いているのを珍しそうに見ていた。

 屋台すら珍しそうだな、本当に箱入りのお嬢様みたいだ。

 そういえば前の騒動で中央星系まで行ったが惑星に降りてなかったな。屋台一つ無い整然とした所なんだろうか?

 ……それはそれで息が詰まりそうだな。


「あつ、あつっ、熱いけど美味しい!」

 屋台の兄ちゃんから串焼きを受け取ったエミリは早速串焼きにかぶりついていたが、どうにも慣れてないようで苦戦している。


「先の方から冷ましながら順番に食べるんだ。ほら、口元にタレがべったりついてしまっているぞ」

 口元についたタレをハンカチで拭いてやっていると、俺達の後ろに並んでいた50過ぎの老夫婦に微笑ましそうに見られてしまった。

 恋人同士のデートというより、兄妹でのお出かけみたいな空気だな。

 ま、たまには良いか。


 しかし串焼きの食べ方も知らないとかどこまでお嬢様なんだ。

 叔母と言っていたが身内が私兵を持ってるお嬢様かー……火遊びになりそうな予感がするがアリだな!



―――



「水の都がテーマならこれもアリだと思うが……どれだけの維持費を払っているんだろうな」

 魔王軍うちでも『隠者の叡智』から接収した発電ステーションやドック施設を持ってるから思わず維持費が気になってしまう。


「…………」

 エミリはぽかんと天井を見上げて見入っていた。


 港に面した場所の地下、海底から上を見上げる水族館的な場所に来ていた。

 上を見上げると青い水を通して停泊している船の底が見え、あちこちに熱帯魚的な色鮮やかな魚達が群れを作って泳いでいる。


『法理魔法発動・熱量感知Ⅱ』


「…水温に近いが体温もある、遺伝子は弄られていそうだが本物の魚だな」

 周囲を見渡すとまばらに人が床に座ってくつろいでいた

 水族館と言っても狭い通路が迷路みたいになっているのではなく、大きなホールの天井が一面透明になっていて、床には芝生に近い植物が生えた床になっている。

 混んでいないのは人気がないというより、快適に過ごせるように入り口で入場者数を調整しているんだろうな。


「ほらエミリ、立ってないで座った方が良いぞ」


「………」

 まだ天井を見入っていたので、足の間に座らせて後ろから抱きしめるような形にしてみた。

 無垢な反応すぎていたいけな少女に悪戯をしている気持ちになる。そんな気持ちになるが俺にとっては背徳感とかご馳走でしかないのでこの感触を楽しもう。

 気がついたらどんな反応をするか楽しみだ。



「……すごい、こんな場所があったんだ……って、えっ、ええっ、何これちょっとどうなってるの!こら、イグサー!」

 20分位してようやく状況に気がついたエミリは、王道ベタな反応をしてくれたので大変満足だ。



―――



「まったく、昼食も落ち着いて食べられないのか」

 大きな広場に面した店で昼食を頼んだら、エミリを指さして集まってきたゴツい特殊部隊風の連中に追いかけられたので、再びエミリを抱き上げて走っていた。


「エミリ、あれも叔母の私兵連中とやらか?なにやら殺意が高い気がするんだが」

 露店の天井に乗って、広場に面した建物の壁を駆け上がって行くが、普通に人間の胴体を貫通しそうな威力の実体弾やエネルギービームが飛んできては防御魔法に弾かれている。

 静音性の高い良い銃を使ってるらしく、広場で平和な昼を過ごしている観光客の大多数は気がついてないようだ。


「んー……あれは誘拐かな?暗殺狙いの人達かも?むぐ、おいしい」

 海鮮串焼きを食べながら答えるエミリ。ああこの程度は日常ですか、少しは取り乱してくれると嬉しいんだけどな!


「敵対しているのは分かった。ついでにこんなのが日常なのも!」

 俺も昼食を丼ものじゃなくて串焼きにしておけばよかった、そうすれば持ってこれたかもしれない。


「そうでもないよ、いつも大変だけど今日はイグサがいるからとても安心してる」

 嬉しそうに微笑まれると弱いな!携帯型シールド発生器持ちを頼っているのだろうけど、可愛いから許してしまう!


「っと!」

 建物の屋上から跳躍しながら指をパチリと鳴らして魔法を発動。


『呪印魔法発動:呪詛返しⅥ/対象数増加Ⅲ×Ⅷ』


 飛来していた実弾が空中で反転、複雑な軌道を描いてそれぞれ持ち主の急所を貫いて行く。


「昼食時に悪いな、運が悪かったと諦めてくれ」

 広場の方から大きな悲鳴の合唱が聞こえる中、建物の屋上を走りながら遠ざかる。広場にいた観光客にはすまない事をしたな、少々惨劇風味の広場になってしまった。


「イグサ、何をやったの?」


「やられてばかりでは悔しいから少々お返しをな」


「ふーん、飲みもの持ってくる余裕なかったから新しいの良い?」

 どこまで神経がぶっといんだろうか、このお嬢様。


「……ああ。俺も昼飯新しくしないとな」


「良かった。イグサ、早く行こう!」

 襲撃された広場から離れた路地でエミリを下ろすと、大通りの方へと手を引っ張られて連れていかれた。



―――



 昼食の後に博物館、映画館など定番すぎるデートスポットに立ち寄ったが、エミリは初めて見るような好奇心に溢れた表情で楽しんでいた。

 散発的に襲撃が来るが、ワイバーンがネットワーク妨害をしっかりやってくれているようで、襲撃側に組織だった動きがなくて逃げるのは簡単なものだった。



 夕方、擬似の夕日に照らされる港へやってきて、エミリと二人でゆっくりと歩いていた。

 観光ステーションは昼夜問わず遊べるスポットがあるが、今歩いている港は物資搬入用なのか人気が少なく、人工の海が奏でる波の音が静かに響いている。


「あー……!楽しかった、自由に遊べるって凄いね」

 エミリは両手を伸ばして港の風を受けている。人工の風だとか細かい事を気にするのは無粋だよな。


「ああ、結構楽しかったな。ほら」

 持っていたソフトクリームをエミリに差し出す。

 2人分買ったんだが、エミリの分は腕の良いスナイパーに吹き飛ばされてしまったからな。

 逃げる最中に落とさないようにするのは結構苦労したものだ。


「ありがと……おいしい」

 ぺろり、と溶けかかったソフトクリームを味わうようにエミリが舐めていた。


「―――ねぇ、イグサは何も聞かないんだね?」

 くるりと後ろを振り向いて、顔を見せないように言葉を紡ぐ。

 エミリの口調は今日見ていた天真爛漫なものよりも随分と大人びていた。


「エミリは言いたくないんだろう?」

 今日だけでエミリを殺害しようとする勢力だけで10セットは襲撃があったが、エミリはいつも通りといった雰囲気だったしな。


「うん、言ったら魔法が解けちゃいそうだから」


「そうか、なら魔法使いとしては聞かない方が良さそうだな。せっかくの魔法が解けたら困ってしまう」

 魔法使いというよりは魔王だが、今はこう言うシーンだよな。


「なにそれ―――」

 ぷっ、と吹き出して笑うエミリ。


「魔法使いさん、あなたは良い魔法使い、それとも悪い魔法使い?」

 笑ったまま振り向いて良い笑顔を見せてくれるエミリ。口調は冗談じみていたが、笑い涙を浮かべる瞳には一滴、真摯な色が混じっていた。


「もちろん悪い魔法使いだ。

 夢見がちなお嬢様に楽しい夢を見せて、夢から覚めたくないと思わせ永遠の眠りにつかせる、な?」

 芝居がかった動作付きで答えてやる。魔王が良い魔法使いと名乗るのも恥ずかしい。


「そっか―――ねぇ、悪い魔法使いさん。この楽しい夢をもう少しだけ見させてください。夢から覚めても忘れられない位、楽しいこの夢を」

 エミリがそっと抱きついて背中に手を回して上目使いに見上げてくる。

 パワフルなお嬢様だが、体は随分と小さいものだな。


「喜んで。悪い魔法使いの名にかけて、もう目覚めたくなくなる程の儚い夢を見せて差し上げましょう」

 見上げるエミリの顎に手を添えて唇を重ねる。お嬢様の唇はソフトクリームの風味だった。



―――



 朝日・・が差し込む街の中、ステーションの中央に近い行政府区画へエミリを送ってやってきた。

 とりわけ大きな屋敷の一つ、その入口に止まった随分と高級そうな大きなトランスポーターにエミリが乗り込み、分厚い装甲がついたドアが閉まると声も聞こえなくなる。

 透明な装甲板越しにエミリが俺へ小さく手を振ると、大型トランスポーターは屋敷の中へと入って行き見えなくなった。


「さてと……軽く運動と行くか」

 トランスポーターが消えると同時にあちこちから出てきた、黒服のお兄さん達を振り切るのに、俺は走り出したのだった。







―――


>二ヶ月後・電子戦艦『グレイマウスⅢ』ブリッジ



 事情を聞くと大抵の関係が驚くのが、悪名高い帝国情報局はあちこちに支局はあるが本局がない。

 本局は幹部と情報が集まる場所に有機的に発生しては消えて行く、情報局員からしても実態の良く分からない体制を取っていた。


 現在は観光ステーション『アクア・ロンド15』から僅かに離れた小惑星帯、そこに隠蔽装置を展開して停泊する新型電子戦艦『グレイマウスⅢ』を中心として接続された電子戦艦・電子巡洋艦とその護衛の隠蔽艦隊が情報局の本局と化して活動をしている。


 普段は『ヴァルナ』ステーション近辺に停泊している『グレイマウスⅢ』もジャンプドライブで『アクア・ロンド15』近郊へ移動していた。


「『PMC(民間軍事企業)・魔王軍』所属、高速巡洋艦セリカの入港を確認、以後の護衛は特務陸戦隊に引き継ぎます」


「同所属・高速巡洋艦アリア、ベルタの停泊座標変わらず。異常ありません」


「はーいお疲れ様。後は警戒レベルを3まで落として後は陸戦隊の人に任せようねー。ボクは”いもうと”と”おとーと”達に会ってくるからヨロシク!」

 ブリッジで指揮をしていたピンク色の癖毛が特徴的な狐耳の少女、元上司の孫達に「リリスおねーちゃん」と呼ばれて親しまれているアドラム帝国情報局・局長が緩いアニメ声でブリッジ要員達に声をかけていた。


 情報局が特に力を入れて守っている、元上司の孫達を載せてきた戦闘艦をさらに護衛していたのだった。

 護衛対象がジャンプドライブ搭載艦なので護衛する時間は短いものの、発見されないようにするには難易度が非常に高く、困難な仕事が終わったとブリッジ要員達もほっと胸を撫で下ろしていた


 緊張した空気がふっと緩んだ瞬間、アラームが鳴り響き、ブリッジに投影画像の警告が一斉に表示されていく。


「コード302!侵入経路不明『本局』データーベースに侵入者です!」


「警戒レベル1発令、防壁を全力稼動、侵入者の特定を急いで、早くネ!」

 相変わらず可愛らしい声なものの、局長の口調は警報一つで凛々しいものへと変化していた。


「防壁処理間に合いません、浸食が早い……!」


「侵入経路特定―――近衛艦隊第七儀仗師団所属・電子戦艦『コーリング・ベル』です!」

 オペレーターから悲鳴じみた声が上がる。


「やってくれるネ―――データーベースを凍結、解除キーを分離!」


「分離実行……間に合いません、解除キー管理ブロックの分離制御を奪われました!」


「落ち着いて、苦しい時ほど優雅にって言ったでしょう」

 ブリッジの中に涼やかな声が流れ、優雅な動作でたおやかな手がリリス局長の頭の上に乗せられた。


「オネーさま!?」

 頭の上に手を乗せられたリリス局長の毛が逆立った。そこには大人の色香が漂う猫耳の女性、リゼルの母の姿があった。


「データーベースから『ブロック_666(アンダー・スリーシックス)』だけ緊急隔離、物理閉鎖を最優先ね」


「は、はい!」

 ゆったりとした、しかし毅然とした厳しさを内包した声にオペレーターが反射的に操作をする。


「『ブロック_666』隔離完了、物理閉鎖しました!」

「防壁突破されました、解除キーを1本喪失。え、データーベースを狙い撃ち!?」

 2つの報告がコンマ数秒のずれでほぼ同時に届く。


「奪取された解除キーは……最重要機密区画『ブロック_666』、ダミーデーターを持っていかれました!」


「困ったものねぇ、一点突破の力押しとはいえ『本局』のデーターベースから情報を持っていかれるなんて」

 頬に手を当てて小さく溜息をつくリゼル母、その手が頭を撫でているリリス局長は血の気が引いた顔でぷるぷると小さく震えていた。



「外部から通信を受信、発信者は近衛艦隊第七儀仗師団・師団長リリアーヌ殿下。宛先は……ベアトリス元局長です」


「やっぱりリリアーヌね……繋いで頂戴」


「はいっ!」


『お久しぶりベアトリス。元気そうでなによりね?』

 グレイマウスⅢのメインウィンドウに映し出されたのは、妖艶さすら漂う美しい中年女性の姿。ブリッジの中に低いどよめきが走る。


「あれが第七儀仗師団長―――第47位皇位継承権を持つ、第13皇女殿下」

 オペレーターの女性が恐れを多分に含んだ口調でぽつりと漏らす。


 アドラム帝国は帝国と名がついているが、皇室と政治が分離して国の象徴的なものになってもう長い。

 しかし、1000年を超える歴史を持つ皇室の権威はアドラム帝国内に留まらず、多くの場所に色濃い影響力を持っていた。

 だが、それも第13皇女となればその手のマニアでなければ顔も知られないようなポジションだ。しかし一部組織にとって第13皇女の名前は数々の伝説と畏怖と共に広まっている。

 伝統的に純地球人ピュア・テランだけで構成される皇室、多くの伝統行事を行う儀仗師団の中でも「冠婚葬祭」に携わるのは第1から第9までの1桁ナンバーの儀仗兵団のみ。

 そして第7儀仗師団は「婚」を司り、その組織能力は何もない場所に30分で国家行事規模の披露宴会場を設置・運営できる行動力と組織力を持つに留まらず、皇室の婚姻に関係する情報収集、特殊工作、外交まで行う権限すら持っていた。

 第7儀仗師団長、帝国皇位継承権47位、第13皇女は数々の実績とその裏に生んだ被害と共に二つ名と共に恐れられていた。

 すなわち―――「帝国最強のやり手婆」と。


「お久しぶりですリリアーヌ殿下」

 深々と頭を下げるリゼル母。


『やぁね、私達は元々学友じゃない。公式の場でもないんだし、いつも通りリリアーヌって呼んで頂戴』

 投影画像の皇女は上品に笑っていた。


「はい。リリアーヌ、元気そうでなによりよ。ところで私に何の用事かしら?」


『それがねぇ、困った事があってベアトリスの力を借りたいのよ』


「何でも言って頂戴、私ができる事なら力になるわ」


『ありがと、実は結婚をせっついていた姪っ子がイイヒトを見つけたらしいのよ。小さな頃から知ってる子だから幸せになって貰いたくて、良かったんだけど―――』


「…………」

 にこにこと穏やかな笑みで話を聞いてるリゼル母。

 しかしその手の下でリリス局長が涙目でがたがたと震えながら近くの局員に助けを求めていた。助けの手を差し伸べる局員は居なかったが。


『それがね、姪っ子のイイヒトの情報が儀典局のデーターベースになかったの。

 まぁ、外見情報と僅かな情報しかなかったから、難しいかもって思っていたんだけどね。あ、これね』

 リリアーヌは指先で玩んでいた銀色のキューブを押し出すような仕草で操作する。


「データー受信しました…」


「開けて頂戴」

 恐る恐る振り返るオペレーターに静かに命令するリゼル母。

 展開されたデーターにはリゼル母が娘婿にすると「決めた」青年に非常に良く似た顔と体格のデーターが映し出されていた。


『ねぇベアトリス、情報局のデーターベースで調べて分からない?』

 リゼル母は頬に手を当ててゆっくりと微笑む。

 緊急隔離したデーターベース『ブロック_666』―――娘婿にする予定の不思議な青年と、青年がどこからともなく連れて来る、色々な能力に秀でた未知の遺伝子構造を持つ魔王軍関係者のデーターベースを調べるまでもない


「困ったわね。リリアーヌ。私の手にも余るみたいだわ」


『そう、本当に困ったわね。ベアトリス、何かわかったらいつでも教えて頂戴。だって私達―――『親友』ですもね』


「ええリリアーヌ、私達は『親友』ですもの」

 上品に笑う元情報局長と皇女の姿を、ブリッジに居合わせた情報局員達は恐怖の表情で見つめていた。



 通信が切れた『グレイマウスⅢ』のブリッジには静寂が満ちていた。歴戦の情報局員ですら迂闊に言葉を口にできない何かがそこにはあった。


「リリス局長、いいかしら?」


「ハイ、オネーサマ!」

 優しいリゼル母の声に、涙目でがたがたと震えるリリス局長は最敬礼して答えた。


「データー『_666』関係の取り扱いレベルを常時2段階(戦時レベル)上昇、特に中心人物に関する機密レベルは今までの『_1(アンダー・ワン)』から『_4(アンダーフォー)』に格上げね?」

 通常、情報局ので取り扱う情報の機密レベルは厳重な管理体制が敷かれるレベル0から、申請があれば外部への公開が許されるレベル5まである。

 だが、情報局の中でも存在を知る者が限られる0以上の機密レベル『_1(アンダー・ワン』以上、情報漏洩をした場合宇宙の果てまで情報局の暗殺部隊が命と情報を回収しに来る機密にすると気軽に口にした。


「まったくリリアーヌったら。そんなに私と戦争がしたいのかしらね?」

 くすくすと笑いを浮かべるリゼル母に声をかけられる蛮勇の持ち主は『グレマウスⅢ』のブリッジに存在しなかった。



 ―――魔王を巡る争いは、その魔王が知らない場所でも苛烈な火花を散らしている。



―――



「イグサ、子供達が寝たけど……大丈夫?」

 『アクアロンド15』のホテルの一室、高速巡洋艦セリカに乗ってやってきた、数ヶ月ぶりに会う子供達の洗礼を受けてベッドに倒れ伏していた。

 子供達に会うと体力的には何とかなるが、毎回精神力が削られるんだ。少しでも気を抜いたら親馬鹿になったまま戻って来れない所まで行ってしまうからな。


「余り大丈夫じゃない。今日はゆっくり寝かせてくれ」

 様子を見に来てくれたライムに小さく手を振ってベッドに横になった。


 ポケットの中から携帯型汎用端末を取り出すと、ニュースサイトに接続する。

 ゴシップ系のニュースサイト―――21世紀日本で言うワイドショー的な番組には、アドラム皇室のニュースがトップに飾られ『第一皇太孫懐妊・婚約発表会見!婚約相手は国家秘密指定、婚約者の謎に迫る!』と低俗感に溢れる見出しになっている。

 投影画像をタップすると記者会見場の動画データが展開され、ウェディングドレスを連想させる白いドレスに身を包んだ、燃えるような赤毛が特徴的な少女の姿が映し出された。


『エミリヴァイト様。懐妊され婚約という事は、当然その方と結婚を予定されているのですよね?』

 記者の一人が不躾な質問をするが、皇太孫の少女は花が咲いたような笑みを浮かべて口を開いた。


『勿論です。絶対に逃がすつもりはありません』

 そう言い切る少女はカメラ視線で小さく口を動かした。

 色々取っているスキルの一つ『読唇術』が僅かな唇の動きを言葉に変換してくれる。


『―――覚悟してよね、イグサ?』



 さて、どうやって逃げようか……今度の逃走は難易度が高そうだ。




次話は魔王様過去編の予定です。

日常編はもう少し続く予定であります。

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