59話:魔王、古都の休日を過ごす(前編)
2話同時投稿です。話数にご注意下さい。
魔王軍日常編かつ、番外編になります。
第一印象は大切だ。最初に出会った時のイメージはその人を見る時に長くついてまわる。
勇者と敵対しなかったのも、お互い最初に友好的に接していた所も大きいだろう。
これが最初からどちらかの命を奪おうとする敵対関係だったら、きっと今の関係には至らなかったんじゃないだろうか。
もちろん、第一印象が全てとは言わない。
長く付き合えば最初は評価が低いものが高くなる事もあれば、最初は良いイメージが段々と悪化していく事だってある。
そして第一印象にインパクトがあると印象が強く残るものだ。
リゼルのように空から墜落してくるとか強烈な印象を残す事もあるが、今日のは銃撃戦だったようだ。
……トラブルに愛されるのも魔王の素質のうちなのだろうか?
―――
俺達とワイバーンの乗組員達は観光・商業ステーション『アクア・ロンド15』での滞在を続けていた。
社員旅行というと、日本人なら2泊3日位のイメージが強いかもしれないが、今回の予定では三ヶ月ばかり逗留する予定だ。
長い外出になるので、リゼル父が孫達を連れて一ヶ月位合流する予定だと言っていた。
ああうん、親バカだったリゼル父は完全に孫馬鹿と化している。一緒に住んでいるリゼルやミーゼ以外の子供達も可愛くて仕方ないようで、活発で人懐っこいライムの娘ユナには特に甘すぎてリゼル母やメイド達から注意を受ける程だという。
長期間の滞在になるのでツアー旅行のようなお仕着せのスケジュールもない。観光旅行をしたい連中はガイドを雇って数人で動いているようだ。
余裕のあるスケジュールの中、俺も久しぶりに何の予定もなく1人で優雅な時間を過ごしていた。
古代地球のヴェネチアをモチーフにした石作りの街の中、ステーション内を移動するクラシックな列車が走る駅前近くの広場にあるカフェ、水路に近い席でコーヒー風の飲み物が入ったカップ片手にまだ静かな朝の街を堪能していた。
昼間になれば活気が出るだろう大通り沿いの露天は閉まっているか準備中で、何故かホットドッグやハンバーガーを出している移動店舗があるあたり、時代考証が微妙に間違っているのだろうが、観光を楽しむ未来人や宇宙人にとっては些細な問題なんだろう。
観光・商業ステーションらしく、合成食ではなく天然素材のパンとベーコン的な朝食を食べていたら携帯汎用端末に着信があった。
音声通信のコールで、通話先の表示は海賊ギルドの頭領…おっと、ギルドマスターでリョウの従妹のカナからだった。
「海賊ギルドみたいな法律外のステーション内は昼夜時間関係ないかもしれないが、もう少し気を使ってくれたら嬉しいんだけどな」
慌てて通話モードに切り替える。無粋な着信音を鳴り響かせては、優雅な朝を楽しんでいる他の客に迷惑をかけてしまうな。
海賊ギルドマスター、カナからの連絡は事務的なものだった。
海賊ギルドが提供している、ギルド規格の海賊船―――実態は中古艦やジャンク艦をリゼルが再設計し『ヴァルナ』ステーションの造船所で改造したものが品薄になっているから追加して欲しいというものだ。
表向きは無関係だが、実質魔王軍の一部署になっている海賊ギルドの売上はかなりのものだ。
海賊相手に「海賊業界では良心的な値段」で船や弾薬・食料を販売すれば、普通に売るより高く売れる上に、海賊達からは「安くて良心的だ」と感謝される。
海賊相手の商売人は命の危険から法律上の危険までついて回るが、どれだけ暴利をつけていたのだろうな。
海賊ギルドの表向きの組織名『ハーミット海難保障』が行っている身代金と人質の交換代行や、ギルド所属の海賊船に奪われた荷物の買い戻し代行も海賊だけではなく、海賊被害を受ける企業からも評判になっている。
請け負うのは海賊ギルドに加盟した海賊から受けた被害限定だが、人質が手荒な真似をされる事もなく返ってくる、荷物の捜索も早く確実だと順調に評価を伸ばしている。
『ハーミット海難保障』の売上や人気を見て、真似をしようとする企業もいくつか出てきたが、海賊ギルドのような海賊業界への太いパイプ(コネ)がなくて、随分と難航しているようだ。
まあ、1つ2つの海賊団へのコネなら持ってる企業もそこそこあるだろうが、参加数が4桁を突破、海賊ギルド登録所属艦が5千を超えるような大所帯とのコネをそう簡単に真似はなかなかできないだろう。
「長角が特に品薄?評判が上がって売れたのか。
在庫は―――45隻はあるから次の跳躍便に優先して載せるように『魔王軍』の担当者に連絡してくれ。許可は出しておく」
カナとの交渉が終わると、最後に2D動画データーが送られて来た。
汎用形態端末で動画を再生してみると、利発そうな顔をした赤と黒のメッシュの髪の毛をしている幼い女の子が遊んでいる所を撮影したものだった。
カナの娘で、海賊ギルドの次代ギルドマスターと目されている子だな。
うん、この子が生まれる際―――カナの妊娠が発覚した時は大変だった。
従妹を溺愛しているリョウがライムから聖剣を借りて、賢者の秘奥の一つ、勇者の身体能力と聖剣を一時的に借りる魔法まで使って鬼神の形相で襲ってきたからな。
『ヴァルナ』ステーションのドックで魔法と剣を交えた戦闘をする事になり、決着をつける際に賢者の擬似聖剣技と魔王魔法が激突した余波で、ステーションの外壁が広範囲に渡って吹き飛んで、たまたま近くを通過していた中型輸送艦が大破したんだ。
不幸な「事故」をもみ消すのは大変だった。
魔王と賢者のかなり真剣な戦闘の理由が、シスコン対女癖の悪さいうのは格好がつかないと思わないか?
動画データーの最後に、今度土産片手に一度顔を見せに来いと文章が添付されてあった。
無視したら、またリョウがキレそうなので前向きに考えておこう……
―――
汎用形態端末をしまい、再びカップに手を伸ばしながらふと思う。
悪役のボス(まおう)として、海賊ギルドや魔王軍の非合法部署が”仕事”をしている裏で、平和な場所で優雅な朝を過ごすというのも悪のロマンがないだろうか。
薄暗い部屋の中、膝の上に幼い少女や小動物を載せてワイングラス片手に企むのも良いものだが、平和な日常に溶け込んでいる裏で悪巧みというのも趣がある。
そう思うとなかなかに感慨深い。
「悪くないな。こういうのも良……」
感慨に浸っていると、ギュゥン!と音がして、飛来したエネルギー弾が持っていたカップと中身を吹き飛ばし、持ち手だけにしてくれた。
「悪の浪漫と優雅な朝が……」
悪の浪漫に浸っているというのに何をしてくれるんだ。
他のステーションよりも犯罪率が低い平和な観光ステーションだが、エネルギー弾頭が空気を切り裂き奏でる音に、周囲にいた客達は一斉に地面に伏せたりテーブルの下に隠れたりしていった。
エネルギー弾が飛んできた方を見ると、裏通りからカフェのある広場へ走りだして来たのは、朝方の街には不似合いな優雅なドレスに身を包んだ、燃えるような長い赤髪のテラ(地球人)系の少女。
外見年齢はリゼルより若干年下位だろうか?SF世界は予算さえあれば成長調整が気軽にできるので油断ならないが。
少女は俺が座っていた隣のテーブルを倒し、隠れてテーブルを盾にして銃撃を防いでいた。
少女を銃撃している―――カップを吹き飛ばしてくれたのは、揃いのサングラス風の簡易情報端末をつけた没個性な黒服達。
カフェを取り囲むように広がりながら、手にした小型火器から少女が盾にしているテーブルへと銃撃を続けている。
護身用だろうか?少女も手に持った衝撃銃で反撃しているが、多勢に無勢という状況だ。
男達が撃っているのは非殺傷威力の衝撃弾か気絶レベルのエネルギー弾、多分捕獲目的のものだが、当たれば痛いし怪我位はするので、隠れたりしゃがんでいる観光客達の行動は正しい。
銃声が聞こえてすぐに逃げ隠れしている当り、危機意識がしっかりしていると関心する所だな。
むしろ銃弾が飛び交う中、何のリアクションもしていない俺が不用心だと責められても良い位だ。
「ねぇ、そこの人。銃持ってたら貸して!
というか早く隠れなさい、危ないでしょう!」
エネルギー切れになった衝撃銃を黒服の方へ放り投げた、赤毛の少女が俺の方へ声をかけてくる。
内心「ほぅ」と関心させられた。
ぱっと見て20人は軽くいる黒服達に追われ銃撃されている中、出てきた言葉が「助けて」ではなく「武器を貸してくれ」と自分で対処しようとしている上に、無防備な他人の心配までしている。
「良いぞ、弾数は少ないから大事に使ってくれよ」
少女の意気込みに気を良くして、灰色のジャケットスーツ風に変化させている「魔王の衣」から銃とマガジンを取り出して隣のテーブルの影に投げてやる。
「なにこれ、クラシックな火薬銃!?本当に使えるのこれ」
受け取った赤毛の少女が銃を構えながら驚いている。
民間軍事企業の人間なら、携帯火器の一つも持ってないと不自然だと社員に言われたから、リゼルに作って貰った20世紀の名作と言われた45口径自動拳銃だ。
SF世界の技術レベルを考えると……21世紀感覚で例えるなら、黒色火薬を使った先込め式のフリントロックピストルでも渡されたようなものか。確かに不安になるな。
「実用品だ。見た目より威力があるから慎重に使ってくれよ」
「そうなの?えいっ」
掛け声は軽いが、堂に入った構えをしてテーブルから顔と腕を覗かせて撃ち返す少女。
パン、と火薬拳銃独特の乾いた発砲音の直後にゴガン!と大きな破砕音が広場に響く。
こちらに撃ってきてる黒服達が遮蔽物にしているものの一つ、小さな家位のサイズがある石碑が砕けて飛び散り、周囲にいた黒服達もゴムボールのように吹き飛ばされて地面に転がっている。
「えー………ええー!?」
予想の斜め上らしい破壊力にお互いの射撃が止まり、静かになった広場に少女の声が大きく響いたのだった。
「ちょっと、何これ、何これ!見た目より威力があるっていってもありすぎでしょ!馬鹿なの、戦車でも壊すつもりなの!?」
思わぬ反撃にムキになったのか、先ほどよりも割増になった黒服達からの射撃が豪雨のように飛来する中、テーブルの影に隠れた少女に責められていた。
「対人用の非殺傷携帯火器だ。対物破壊力は大きいが、多分死人は出ていないはずだぞ?」
弾丸の一つ一つに法理魔法の「衝撃弾」と概念魔法の「非殺」を付与してあるから、銃撃で直接的な死者は出ないはずだ。
……多分。実は使ったのは初めてなんだよ。
普段はライムやアルテといった心強い護衛がいるから出番がなかったんだ。
転がった黒服は軽く痙攣しているから、死ぬほど痛そうだが一応死んではいないようだな。
「非殺傷用?あれで!?それに今壊れたの文化財よ、確か観光名所の一つだもの!」
この少女も吹き飛んだ黒服ではなく壊れた石碑を心配するあたり、イイ性格している。
「………やったのは俺ではないしな」
そんな場所で銃撃戦をやる方が悪いだろう。
「私のせい!?というか、何であなた隠れもしないで大丈夫なの、流れ弾……って、ああっ、携帯型の個人用シールド発生器!?ずるい!」
慧眼だな。正確には今使っているのは防御魔法なんだが、個人用シールド発生器を使っているのと大差ない。
たまに流れ弾が飛んでくるが、防御魔法に阻まれて消えていっている。
カップが壊れる前に使っておけば良かったと、微妙に後悔しているのは秘密だ。
「えいっ!……ふー、一安心」
少女がそろそろ砕けそうになってきたテーブルの影から飛び出して抱きついてきた。
「人を盾にしないで貰いたいな。優雅な朝がすっかり騒がしくなってしまったじゃないか」
少女が背中から抱きついているせいで、防御魔法の表面で衝撃弾やエネルギー弾が大量に弾けては消えている。
抱きつかれてる感触が幸せなのでこれ以上の文句は出ないけどな!
「ねぇ、あなた。人の事言えないけど随分落ち着いているね。普通もっと取り乱すものじゃない?」
不満そうな口調の少女。防御魔法で弾いているとはいえ、銃撃の嵐が続いてる中随分大物だよな。
「怖いお兄さん達に囲まれるのも、銃弾が飛び交うのも慣れたものだからな」
魔王でも無防備に受ければ瞬間蒸発できる戦闘艦の凶悪なエネルギー砲弾が飛び交う宇宙戦闘に比べればどうという事はない。
「当たっても多少痛いだけだろう?」
直撃しても生命力が削れるかどうかといった非殺傷レベルの衝撃弾やエネルギー弾なんてまだ優しいよな。
「ふーん、面白いの。あなた、すっごい変」
失礼な。少しファンタジーなだけじゃないか。
「変なのはお互い様だろう。
ところであの黒服達は拉致目的だと思うが、誘拐犯か何かか?」
飛び交う銃弾は物騒だが、今ひとつ殺意を感じないんだよな。
「私を捕まえようとしているのは合ってるけど、一応ウチの人達。おばさんの私兵なんだ」
極道的な家の娘なんだろうか?
一個人が私兵を持っているなんて……ああ、リゼル母も似たようなものか。リゼル母の私兵は極道よりタチ悪いが。
「………捕まえ方が随分過激だが、何をしたんだ?」
「お見合いから逃げてきたの。おばさんったらまだヤダって言うのにお見合いばっかり。しかも腹黒そうなおじさんばかり紹介してくるから、つい」
「……つい?」
「朝からいやーらしい目で私を見てくる、エロオヤジだったから股間を蹴りあげて、動かなくなるまで踏みつけてから逃げて来ちゃった」
てへり、と凶悪な攻撃を悪戯したかのように言う少女。
「っ、はは、あははははは!そうか、それは怒るだろうな。だが見てみたかった」
愉快だ、いやなかなか痛快じゃないか。笑わされるとは不覚だったな。
「でしょー?ねぇ、これだけ落ち着いているんだから、まだ奥の手隠しているんでしょ?私つれて逃げてくれないかな。
折角堅苦しい所から観光ステーションに来れたんだし、色々見て回りたいの。
そうだ、連れて逃げてくれたらデートしてあげるよ!」
「なかなかロマンチックな提案だが、観光するには予算が足りないという所か」
「もう、察しが良すぎるのは良くないよ!
このヒラヒラのドレスにお財布入れる場所なかったんだから仕方ないじゃない」
したたかで神経が太いお嬢様か、嫌いじゃないな。
「まあ良いか、丁度暇していたしな」
平和なカフェで悪の浪漫に浸ってはいたが、長く続けるともっと色々悪さしたくなるから困る。浪漫を満足させるには色々と予算がかかるんだ。
「さて……」
どうやって逃げようかと周囲を見渡す。水路が良さそうだ。
後ろから抱きついていた少女の手を外し、立ち上がって少女を横抱き―――所謂お姫様抱っこの体勢で持ち上げる
「きゃっ、ちょ、ちょっと何?どうするの」
抱き上げられて驚いているが暴れない。本当に度胸のあるお嬢様だな。
「歯を食いしばっていた方がいいぞ。口を開けていると多分舌を噛むんじゃないか?」
少女を抱き上げたまま水路の方に走り、空へ飛び上がるように大きく跳躍。
50メートル位先にあった、広い幅を持つ水路を走っていた船の屋根に着地。そして船を踏み台にして再度跳躍、水路に面した建物の壁を蹴って建物や道路を飛び越えて隣の水路へ。
あちこちに停泊してある船から船へと飛び移りながら、非常識なジャンプ移動を繰り返し、水路の上を飛ぶように進んでいく。
ステーションや惑星上では乗り物使ったり、ワイバーンにいる時は自室とブリッジの間を徒歩で歩く位なので忘れそうになるが、魔王的に人間離れした身体能力持っていたんだよな。
いやうん、正直な所俺も半分忘れていた。
「えっ、飛んでる。あはっ、気持ちいいけどやっぱり凄い変、あなた何者?」
風に流される鮮やかな赤い髪を手で抑えながら、好奇心に満ちた瞳で見つめてくる少女。
「俺はイグサ、小さな会社の社長をやっている。そんなに変か?」
「私は…えっと、エミリ!そしてとっても変!でも楽しいから許してあげる!」
そう答える少女の笑顔はとても可愛らしかった。
―――
「似合った服装を二着、ここで着替える分と予備を下着から靴までセットで頼む。今着ているのは予備と一緒に袋に詰めてくれ」
総合服飾店の店員へ、黒に青いラインが入ったプリペイドカード的なICカードを手渡す。
「畏まりました」
カードを受け取り頭を下げて離れていく熟年の女性店員。流石に高級店だ、予算はいくらだとか細かい事は聞いてこない。
水路を飛んで、路地の壁を走ったりして追っ手を撒いた俺達は目についた大きく古風なショッピングモールに入り、エミリの服を調達する事にしたんだ。
そのまま舞踏会に出れそうなドレス姿は目立つ上に動き辛いからな。
物珍しそうに周囲を見渡していたエミリは、店員に連れられて歓声を上げながら服を選んでいる。
「ワイバーン、ゲームか何かでお楽しみなのはわかるが少し頼まれてくれないか?」
微笑ましい光景を見ながら携帯端末でワイバーンを呼び出していた。
『はいな魔王様。なんでっしゃろ?』
平然と答えるワイバーンだが、背後からエロゲーの音声が漏れているので格好がつかない事この上ないな。
「今このステーションのネットワークの中で、非正規のかつ戦闘か部隊運用に使えるレベルのものを探してくれないか?手間がかかりそうならシーナにも声をかけてくれ」
『はいな、うち一人だとちょっと大変だからシーナ嬢ちゃんにも声かけてみます』
エミリを追いかけていた黒服達はエミリの叔母の私兵と言っていたが、民間人がいる所で平然と発砲をしているから、記録が残る表のネットワークを使わないはずだ。
先ほどの広場の銃撃戦だってステーション内のニュースネットで大騒ぎされそうなレベルのものだが、ステーション内ネットニュースがどこも静かな所を見ると上手くもみ消しているみたいだしな。
『検索完了ですわ。非正規の太いネットワークを13検出、うち2つは情報局のものだと裏付けがとれました。
後、シーナ嬢ちゃんから「お休み中に入ったお仕事だから、お土産期待してますね。マスター」と伝言です』
「……微妙に高くついたな。シーナには分かったと伝言しておいてくれ。
情報局のネットは放置でいい、残り11のネットワークと接続端末に対して、過負荷破壊かけてくれ」
『了解です。電子戦装備を限定展開、非正規大規模ネットワークへ強制接続、端末及び中継ポイントを検出、個別にオーバーロード実施準備、シーナ嬢ちゃん後はよろしくお願いします……ほい、終了しました』
気軽にさくさくと大規模ネットワークに侵入した上で、それを構成している機器や端末を破壊してくれたが、普通は電子戦装備の戦闘艦1つとAIにオペレーター1人で出来る仕事じゃない。
とはいえ、ご褒美の電子機器をあげるたびに能力が上昇し続けている機鋼少女のシーナならジェラートを食べながらでも出来る仕事だな。
……いや本当に実に美味しそうにジェラートを食べている。シーナは音声通信だと思ってるようだが、画像付きだぞ?どんなに高性能になっても、このような人間らしい失敗をするのは好感が持てるよな。
「助かった。多分ネットワーク復旧させようとするだろうから、適当に邪魔しておいてくれ」
『了解ですわ。……魔王様、このステーションの裏ネットで良い動画データーが売ってまして』
「わかってる、許可しよう。複製を俺の端末にも入れておいてくれよ」
『流石魔王様、話が早いお人です。早速仕入れてきますわ』
エロい原動力があれば休暇中に仕事だろうと喜んでやるワイバーンこそ流石だと思う。
「イグサお待たせ!…お話中?」
白と青を基調にした夏服風のジャケットにワンピースのスカート風の服装に着替えたエミリが服の入った袋を片手に出てきた。
「ワイバーン、後は頼んだぞ。……ああ、仕事の話を片付けていた」
携帯型汎用端末をしまい、エミリを上から下までよく見る。
「似合っているじゃないか、大人しくしていればお嬢様みたいだ」
「失礼なっ、どこからどーみても完全無欠のお嬢様だよ!」
口調こそ怒っているものの、笑顔で俺のからかいを流してしてるのは手強そうだ。
「ほらイグサ、早くしないと夜になっちゃう。遊びに行くよー!」
古都を強調してる観光ステーションらしく、ステーションが公式に発行している紙媒体の観光ガイドを片手に持ち、逆の手で俺の手を引いてくる。
「分かったから少し落ち着け」
店員からICカードと領収書を受け取ってジャケットにしまうと、エミリに引かれるまま外へ出て行く。
多少騒がしいが、こんな休暇も悪くないな。
<後編へ続く>