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57話:魔王、飛竜に新しい力を授ける

メカ的な説明回×リゼル回+おまけです。



「外観はシルエットが多少変化したが、そう違和感はないな。多少サイズが大きくなっているか?」


「はいですよぅ!

 今の状態でも全長で30m、全幅が20m増えているけど、展開型の装備が増えているから戦闘時とかはもっと大きく見えると思います」


 辺境部への遠征から帰ってきてすぐにドックへ入り、リゼルとおやっさんがさくっと改装の仕上げをしてくれたワイバーンのブリッジでリゼルに説明を受けていた。

 今は改装後の試験航行で『ヴァルナ』ステーションを離れ、近くの『獣道』へとやってきている。


「目玉は『オベリスク』触媒の6連装共鳴型リアクター。

 前の試作実験炉に比べてずっと小型化してるのに出力が2桁増えて、総合出力はそこらの新型戦艦に負けないのですよぅ!」

 きらっきらに瞳を輝かせて解説するリゼルが輝いているな。

 新型リアクターの起動実験に立ち会ったが、コゥーン、コゥーンと石の板を叩くような不思議な共鳴音を出していたんだよな。

 リアクターの稼動音にしてはおかしくないか?と聞いたが、リゼルもおやっさんも「遺失技術使ってるんだしこんなもの」と言っていた。

 ……あれが許容できて魔法は非常識ファンタジーと言うのはおかしいと思うんだ。


「推進器も出力が上がった分エネルギー消費も増えていますが、これなら全力で噴かしてもリアクター出力の10%も使わないのであります」

 ワイバーンの操縦桿を握っているアルテも随分機嫌が良い。

 本人は気がついていないようだが、操縦桿を握ったままたまに鼻歌も出ているしな。

 星間航路から外れて速度を出せているのも良いようだ。


「リゼル、新設のワープドライブはどうだ?」


「小型化した分消費エネルギーは格段に上がっているけど、新型リアクターの出力があれば余裕で連続稼動させられるのですよぅ」

 リゼルが嬉しそうにチェックプログラムを走らせると、ワープドライブ周辺は全て正常稼動可能とグリーンランプが点灯していく。


 ワープドライブはジャンプドライブと違い、純然たる科学技術で作られた代物だ。

 人工的に作る事もできるが作製に多大なコストと手間がかかる稀少鉱石をコアとして動く。

 ワープ航行は空間と空間を接合したりする方式ではなく、ワープフィールドで包んだ船を光速以上の速度で動かす事ができるという。

 使えればいいので詳しい理論は聞いていない。


 難点はジャンプドライブ程ではないが高エネルギー源が必要で、ワープドライブの動作中は継続的にエネルギー消費をする上、ワープドライブは大型艦を動かそうとするとエネルギー消費が大きくなって使い辛くなるが、一定のラインから小型化するほど今度は作動効率が低下してやっぱりエネルギー消費が大きくなるという難儀な代物だ。

 とはいえ、ジャンプゲートやジャンプドライブという便利な魔法技術の遺産がなければ、今のSF世界はワープドライブが主流になっていただろうな。


 ワープドライブ自体が小型化すると作動効率が下がる影響で、普通のワープドライブ搭載艦は全長が大体250mから500m、サイズ的には駆逐艦から巡洋艦位の大きさだが、船体の40%前後をワープドライブが占めているというのだから、どれだけかさばるか分かって貰えるだろうか。

 ワイバーンに搭載されたのはコアと関連施設を含めても一辺が10mの立方体程度。

 好きなだけ小型化していいと言ったら、何かツボに入ったらしいリゼルが全力で改造した結果非常にコンパクトに仕上がった。

 コンパクトに仕上がった結果、稼動に必要なエネルギー量が非常識なレベルで増大しているので、リアクターを魔改造している魔王軍の主力艦以外ではまともに動かない代物になっている。


 魔王軍の主な仕事場はジャンプゲート間を結ぶ星間航路なので、そう出番は多くないと思うが、科学技術のワープ的な機能を搭載するのは胸が熱くなるよな。



「新型のシールドジェネレーターの稼働状況を教えてくれ」


「第一シールド出力99.8%で安定稼働中。

 実体弾が飛んできてないから、第二シールドは傷も入っていないのですよぅ」

 展開されたワイバーンのシールド表面でエネルギー系の砲撃がバチバチと弾けては消えていっている。

 海賊ギルド未加入の駆逐艦3隻とフリゲート艦2隻からなる海賊艦隊に出合ったので、実戦試験ついでに交戦しているんだが、人型戦闘機のシールドからヒントを得たおやっさんが作った多層展開シールドジェネレーター、複数の防御シールドを同じ場所に同時展開させる科学と魔法の混合技術的な代物は防御力が圧倒的すぎて、この程度の相手ではテストにもならないようだ。

 おやっさんはシールド任せに戦艦に体当たりしてそのまま壊せると豪語していたしな。

 ワイバーンに搭載された試作多層展開シールドジェネレータは、1層目が対エネルギー兵器用、2層目が対実体弾用、3層目が艦体と装甲の強化と、3層構造のシールドを発生させている。

 シールドジェネレーターの出力的には戦艦以上、主力戦艦以下という所だろうか。

 ワイバーンでの戦闘はやたら海賊に体当たりされたり、体当たりしたりする事が多いからシールド出力が高い方が楽なので嬉しい改良点だな。

 これも例によって消費エネルギーがとんでもなく大きいという欠点を持っている。


 ……リゼルとおやっさんが作るものの8割位は「ただし消費エネルギーが大きすぎる」か「耐久性という概念はない」のどちらか、または両方の欠点がついている気がするな。


 つい先日生産が始まったアドラム帝国の新型強襲揚陸艦はフリゲート艦や対空火器の集中攻撃を短時間防げるシールドが目玉な辺り、ワイバーンがどれだけ規格外なのか良く分かる。



「武装関係はどうだ?」


「主砲は前と同じ衝撃砲です。

 型落ちのカシワギ軍事同盟の巡洋艦についていた……と書類上はなっているジャンク品を改造したものに換装して収束率や総出力も上がっているけど、砲門数も同じでそう大差はないのですよぅ」

 リゼルが火器管制パネルをポンと叩くと、艦体上部の衝撃砲が発射され、海賊駆逐艦の一隻が穴開きチーズのようにあちこちへ風穴をあけて爆沈していく。


「ヤツらは鬼畜外道な海賊団だったけどよ、流石にこの光景は同情したくなンなぁ………」

 リアクターを誘爆させてエネルギーの奔流へと沈んでいく駆逐艦を見てリョウがぽつりと何か零していた。


「副砲も高エネルギー粒子砲のまま、こっちは単装のままだけど連射型にしたのですよぅ」

 リゼルが投影ウィンドウを開くと左舷副砲の映像が映し出される。

 2機の海賊戦闘機が高速で回避行動を取っているが、赤い航跡を曳いた高エネルギー粒子砲の弾体が幾重にも撃ち出されて、回避しきれなくなった戦闘機がエネルギー弾に貫かれて爆散していった。

 流れ弾でフリゲート艦が大破していた気がするが、軽巡洋艦主砲クラスの副砲だし仕方ないよな。


「連射型にした分小型目標にも強くなったか」


「近接レーザー砲は前に強化したのと種類は一緒です。これ以上強化すると、サイズまで大型化してかさばるのですよぅ。

 代わりに数を増やしてみました、近接戦闘・迎撃能力も随分上がっているのです」

 ワイバーンの周囲へ青白く細い光が瞬いた直後にあちこちで小さな火球が咲き乱れる。

 焦った海賊達が赤字覚悟でミサイルを使い、それが迎撃されたようだ。


「これだけなら今までのマイナーチェンジだ。

 ずっと秘密にしていた目玉を見せてくれるんだろう?」

 マイナーチェンジにしては激しい内容だけどな。


「勿論ですよぅ!

 ワイバーン、大天使の翼起動です!」


『はいな。アークエンジェル・ウィングセットアップ…リゼルはん、もーちっと地味な名前探して貰えません?

 若い子ならいいけど、ちぃーとワイには恥かしいですわ』


「考えておきます。早く動かすのですよぅ!」


『はいはい、セットアップ、展開率85%ですわ』

 ワイバーンに増設された翼のような部品が折りたたんだ翼を広げるように展開して、展開した直線的な翼―――生物ではなく、航空機の翼に近いものの装甲がずれるようにさらに展開し、装甲の隙間なら桜色に輝く光が漏れ出す。


「この桜色、セリカの天使の翼と同じアダマンタイトセルか?」


「そうです。高速電子巡洋艦セリカの天使の翼は被弾に弱くて運用に神経を使うから、多少性能は低下するけど装甲化して前線での運用をできるようにしてみました。

 名づけて『大天使の翼』ですよぅ!」

 どうやらリゼルのネーミングセンスはおやっさんゆずりらしいな。


『出力上昇、エンジェル・ハイロウ発生確認ですわ。

 発生強度は予定の98.2%。1.8%ほど損失でてます。

 破壊した敵艦やミサイルの残骸の干渉でっしゃろか』


「このまま電子戦か?シーナ以下情報処理系の機鋼少女も数人いるからやってやれない事はないと思うが」


「ふふ、うふふふ、ふふふふー!これからが、本っ番なのですよぅ!」

 くるくると回ってびしっと天井を指差すリゼル。

 マッドメカニックの本領発揮なんだろう。リゼルが花咲いたような素敵な笑顔を浮かべているな。

 見た目だけなら可憐な少女の笑顔なのに、リゼルがやると色々残念な要素が重なりすぎていて勿体無い。

 いっそマッドメカニック方向にキャラ付けするのに、今度白衣でも着せた方が良いだろうか?


「……こいつぁひでぇ。なぁイグサ、良くこンなの女にしようとか思ったな」

 ドン引きしながら酷い事を小声で言うリョウ。

 言わないでくれ、当時はここまで酷くなかったんだ。

 これはこれで可愛げがあるじゃないか。

 悪の首領にはノリの良いマッドサイエンティストが付き物だしな。


「ワイバーン、エンジェル・ハイロウを誘導収束モードに切り替えですよぅ!」


『ほいな、展開ベクトル操作開始、フォーリン・ハイロウへ変更ですわ』

 ワイバーンが何か制御をすると、ワイバーンの船体を囲むように発生していた桜色の粒子の輪が、宇宙の黒とは違った何か、黒い光と例えるしかないような色へと染まるように切り替わって行った。


「そして後部主砲、連装大口径誘導レーザー砲2基を全力斉射です!」

 ワイバーンの後部に設置された後部主砲がレーザーを黒色の輪へと掃射していく。

 リアクターが無駄な位余剰出力ができた為に増やせた武装だが、スペースの関係上後部に設置されている。

 誘導レーザー砲という名の通り、ある程度の距離までなら射撃後に射線を曲げる事ができる戦艦主砲クラスの兵器だ。

 通常の大口径レーザー砲に比べて収束率が落ちて、エネルギーの変換効率も更に低下するが、後部に設置しても「後ろに撃った後に曲げて」前方へ射撃する事ができる便利な代物だ。

 衝撃砲を外して普通の大口径レーザー砲を搭載するプランもあったんだが、スペースの関係で砲門数が減り、遭遇率の高い小型機や小型艦相手が苦手になるから、そっちの案は没になったんだ。


 ワイバーンの後部から射出された緑色の誘導レーザーは黒い輪に吸い込まれるように消え続けていた。


「解放及び収束座標セット、安全確認もおっけー。

 ワイバーン『天使の槍』射出ですよぅ!」


『収束点設置、閉鎖誘導空間解放。『天使の槍』射出しますわ』

 黒く輝く粒子の輪が一瞬で桜色に染まり、輪の一点から細く鋭い桜色の光が射出される。

 進路上にいた海賊駆逐艦2隻は一瞬で蒸発し、進路上にあった小惑星を融解・貫通して虚空へと消えて行った。


「大体計算通りなのですよぅ!」


「「「………」」」

 大喜びしているリゼルをよそに、ブリッジ要員は沈黙していた。

 呆然という所だろう。今の一撃は細く収束されていたので派手さこそ少ないが、戦艦の主砲クラスを超えた破壊力を持っていたからな。

 アルビオンの艦首砲までとは言わないが、主力戦艦の主砲レベルのエネルギー量がありそうだ。


「内向きに閉じた天使の輪の電磁場誘導空間に光エネルギーを蓄積した上で、それを収束して解放。

 蓄積した分に見合った大出力攻撃をする…という所か?」


「その通りですイグサ様っ!

 『天使の輪』が電磁波に干渉するのに使えるのだから、レーザー砲の光エネルギーの収束と蓄積に使えると思ったら、ばっちり使えたのですよぅ!」

 一言でいえば溜め撃ち、チャージショット的なものだな。


 やっほぅ!とテンション高くなったまま抱きついて来るリゼルの頭を優しく撫でて―――


「ところでリゼル、強襲揚陸艦は何をする船だか覚えているか?」

 一通り撫でてやった後、がしっと頭を掴む。


「勿論ですよぅ、相手の船に突入ポッドを打ち込………あ」

 気がついてくれたか。


「確かに相手の船に突入ポッドを打ち込むには相手の隙をつくか、相手よりも圧倒的な戦力がないと厳しい。

 だが、圧倒的な戦力のまま全て吹き飛ばしてどうする。せめて1、2隻は残さないと意味がないだろう?」


「え、ええー…っと、痛っ、痛い痛い痛い、ごめんなさいごめんなさい、ちょっと調子に乗っていました、ごめんなさいですよぅ!」

 とぼけようとしたリゼルのこめかみに両手を添えてぐりぐりと優しく力を入れるとすぐに謝ってきた。


 呆然としていたブリッジの空気はいつのまにか、リゼルに向けられる生ぬるい視線へとなっていた。




 実戦テストが終わった後の話だが『ストーンヘンジ』を解体して取り出した『オベリスク』も残っているし、ワイバーンと同じ船をもう一隻作れるか?と聞いてみたんだが。


「イグサ様が出した不思議な金属とか素材とかを、何となくと適当で組み合わせて作った部品も多いから、もし作っても全然別物になると思うのですよぅ」

 リゼルは量産性を投げ捨てるにも程がある台詞を笑いながら言ってくれたのだった。

 怪しげなファンタジーの錬金術師だって、もう少し量産性を考えてくれると思うのは俺だけだろうか?



 改装によってワイバーンはそのサイズと強襲揚陸艦というカテゴリーから逸脱した、戦艦と対抗できる能力を手に入れた。

 だが、あくまで対抗できるだけで、普通に運用するだけでは主砲の数やミサイル搭載量、装甲板の数に厚みなど総合能力で力負けする位の性能に納まっている。

 科学技術だけで相手を圧倒するなら、アルビオンのように巨大戦艦にするしかないのは非常に俺好みだ。

 何も考えずどんな相手でも正面から相手を打ち破れる戦力も浪漫ではあるが、完璧すぎない方が楽しいだろ?



―――




 人間は思考する獣だという言葉がある。

 思考により身体能力に頼らない力を手に入れたが、感情という余分なものに振り回される運命を背負ってしまった哀しい生き物だ。


 本能に従う獣なら勝てない敵に逆らう事も無ければ、恨みから益のない報復をする事もない。

 復讐は力ずくでもさせないのが大切だと前に言ったが、時には俺にすらそれを止められない時だってあるんだ。




 俺は『ヴァルナ』ステーションの中をリゼルの実家に向って走っていた。

 ワイバーンの実戦テストが終わり、ステーションの外部ドックに入港した時にアイルから緊急コールが届き、その内容を聞いてすぐに走り出していた。


 油断していた。

 ワイバーンの実戦テストに行くのに、たまたま用事が重なっていたミーゼには留守番をしていて貰ったんだが、それがこんな結果になるとは予想すらしていなかった。


 ステーションの中を文字通り飛ぶようなスピードで走りぬけ、リゼルの実家―――カルミラス家に着いた時には全てが終わっていた。

 その終わった光景を見せられるという残酷な運命が待ち受けていたのだった。




「ねぇねぇ、ミーゼお母さん続きはどうなったの?」


「その時におにーさんが言ったのです。

 お前が悪い事をするというなら、俺だけは味方になってやる。

 そんなお前の全てが欲しい―――って」


「「「「「きゃぁーー!!」」」」」

 『ヴァルナ』ステーションの中にあるカルミラス邸、リゼルの実家の庭に子供達の黄色い悲鳴が響いていた。

 リゼル母が開催したお茶会でミーゼが暴走気味だと、アルテの息子アイルに連絡を受けて行ってみれば、ミーゼが勢揃いしている子供達に囲まれていた。


 黒目に長い黒髪に猫耳猫尻尾と、おしとやかな印象のリゼルの娘リリーナ(リリィナ)。

 短い茶髪に茶色の瞳に狐耳狐尻尾の天真爛漫なミゼルの娘ミリー(ミリュエラ)。

 金髪に黒い瞳、どこかのんびりとした印象の牛耳牛尻尾を持つユニアの娘アイナ(ユリアイナ)。

 金髪に黒い瞳、数少ないテラ系の子供でちょっと大人びた優等生風の、ルーニアの娘ルミネ(ルミネリア)。

 黒髪黒瞳に日本風の風貌をしている純地球人ピュア・テランで知性とお転婆さが同居している印象のライムの娘ユナ(ユウナ)。


 ミーゼが子供達でも女の子を集めて、俺との出会いを盛りに盛って語っていた。

 ちゃっかり自分に不都合な所を削って話している辺り、実にミーゼらしい。


 どうやらこの所ミーゼを弄って遊んでいた事に対する報復のようだが、見事な自爆攻撃だ。

 ミーゼ自身も話しながら顔が赤くなっているし、椅子に座っている足ががくがくと震えている。

 そこまで恥ずかしいなら、やらなければ良いと思うんだ。

 復讐は何も生まないだろう!?



「おとうさん、僕は分かってますから」

 ミーゼもダメージが大きいが俺にとってもかなりキツイ。

 思わず膝から地面に崩れていた所を、アイルが肩を叩いて慰めてくれた。


 アイルの隣ではルミネの双子の弟で、同じ金髪に黒い瞳をしているのんびり屋のルイがアイルに手をひかれて立っているが、状況が飲み込めてないようで、不思議そうにしている。


 魔王といえどもあの手の話題で盛り上がった女の子達を止める手段はない。

 特にそれが自分の娘達であるなら尚更だ。


「ほら、おにーさんが来たのです。もっと詳しい話を聞けるのですよ」

 そこで俺に振ってくるかミーゼ。

 良いだろう、なら受けて立とうじゃないか……!


「父さん、ミーゼ母さんが言った事はほんとーなの?」

 くりっとした瞳で見上げ、俺の服を掴んで聞いてくるユナ。


 にまにまとした笑みを向けてくるミーゼに対して、ふっと爽やかな笑みを浮かべて返す。

 怪訝そうな顔をしていたミーゼだが、気がついたのか顔を真っ赤にして毛を逆立てていた。

 ―――気がついたかミーゼ。だが、もう遅い。


「ああ、本当だ。

 その時のミーゼは酷く寂しそうな瞳をしていたから言葉が自然と出たんだ。

 そんな孤独を一人で背負う事はない、ミーゼが住む世界には少なくとも俺が居るってな。

 言葉を聞いたミーゼは涙を流して俺を見上げていたぞ」


「ち、ちょっと待つのですおにーさ―――!」


「「「「「きゃぁーー!!」」」」」

 ミーゼの静止の声を塗りつぶす子供達の黄色い悲鳴。


 さあミーゼ―――戦争をしようじゃないか、どちらの心が折れるまでの情け容赦のない総力戦を。

 報復をするなら、報復に対して更に報復される覚悟が必要だよなぁ!




 結局。興奮して疲れたのか、眠そうになった子供達がメイドに連れられて家の中へ入って行く頃には、俺は芝生の上に膝と手をついて崩れ落ちる寸前になっていた。


 だが、ミーゼは余りの恥ずかしさに芝生に倒れこんで動かなくなっている。

 ついさっきまで、恥ずかしさのあまり芝生の上を転がっていたが、とうとう動かなくなった。

 俺も脚に力が入らず、気を抜いたら芝生の上に沈んでしまいそうだ。

 ……勝負には勝ったがダメージが大きい。お互いに自爆攻撃をし合うような戦いだったからな。


 そして得るものもない虚しい勝利。

 報復は何も生み出さない不毛な行為だと改めて実感した、そんな日の出来事だった。


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