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56話:魔王、遺産の守護者と対決する

3話同時投降です。話数にご注意下さい。



『ストーンヘンジの砲撃予兆確認、射線予測図転送します!』


「各自回避!」

 苦し紛れのストーンヘンジからの砲撃を回避する事5回目、既に大気圏へ突入しながら速度調整をかけていた。

 砲撃予測の端に引っかかっていたイェーガー・マギウス隊が手馴れた回避行動を取ると、直後に極太のエネルギー粒子が衝撃波を伴って宇宙へと立ち上って行く。

 ストーンヘンジ周辺の天候は雲がかかった雨だったはずなのに、ストーンヘンジが放つ砲撃の衝撃波で周囲数百キロ単位で雲ひとつない晴天になっていな。


『イグサ、ストーンヘンジ防衛部隊からの対空砲撃が来た』

 地上から威力は低いが、無視できない数のエネルギー砲が上がってくる。


『迎撃戦闘機、アドラム帝国製大気圏内戦闘機と思われるのが30機接近中』

 勢い良く接近してくるが、この状況だと同士討ちしないか?

 いや、それだけ相手も焦っているのか。


「イェーガー・マギウス隊は地上防衛部隊への攻撃に専念、ライムと俺は戦闘機を片付けるぞ!」


『了解、イグサ』


「はいマスター。位相エネルギーライフル斉射」

 『グリューン』と『シュバルツ』のレーザー砲とエネルギーライフルの弾幕が接近中の迎撃戦闘機を沈めていく。

 迎撃しにきた迎撃戦闘機隊はクラス3、4混合の迎撃戦闘機としては主力クラスだったが、『シュバルツ』はレベル200以上の魔物の融合体だし、『グリューン』に至っては更に勇者様が直接操っているんだ。

 戦闘機程度のシールドで防げる訳もなく、一撃でシールドごと機体を貫通されて墜ちるか爆発していく。

 蒸発しているのが居ない辺り、ライムの手加減も結構上手くなってきたな。



―――


「着地。イェーガー・マギス隊は防御部隊の迎撃、ライムと俺で制御施設を破壊しに行くぞ」

 光の洪水じみた対空砲火を潰しながら降下しやっとの思いで着地するが、感慨にふける間もなく地上を滑るように移動し制御施設へと向う。

 着地の少し前から地下の隠蔽格納庫からエレベーターで上昇してきた戦車部隊があちこちに出現して、今度は壮絶な地上戦になっているんだ。


 推進器の出力に任せた地表滑走で移動して、制御施設まであと少し…という所でそれは来た。


「ライム!」


『イグサ!』

 ほぼ同時にお互いに声をかけて、併走していた所を弾かれるように回避。

 近くにあった湖から飛んで来た大出力粒子ビームがほんの少し前までいた空間を撫でるように薙ぎ払っていく。

 回避して崩れた体勢を建て直して、ビームが飛んで来た方を見ると水中から40m級の人型戦闘機が陸上へと上がって来る所だった。

 移動式の4つ目にずんぐりとした丸っこいシルエットの手足に胴体、右腕には大型の射撃武器がついている。


「水陸両用の人型―――コランダム通商連合製の大型人型戦闘服か」

 全長は『シュバルツ』よりも大きく、ずんぐりとした体格もあいまって、二回りは大きく見える。


「ライム、こっちの相手はしておく。制御施設を頼む」


『ん。分かった』

 ライム機が再び移動を開始する中『シュバルツ』を大型人型装甲服へと向ける。

 大型人型装甲服は右手についていた大型射撃武器を水面に落とし、両腕に仕込まれていた白兵戦用のクローを伸ばし、くいくいと人間くさい動きで挑発するように手招きしていた。


「―――酔狂なやつだな。だが、嫌いじゃない」

 両腕に持っていた位相エネルギーライフルを折りたたみ、アーマードウィングスラスターの中に収納。

 『シュバルツ』の両腕を伸ばして、腕の中に仕込んである白兵用の大型ナイフ、持ち手の付け根にリボルバー状の弾倉がついた代物を両手に装備して構えを取る。


「マスター、一般周波数で通信が来ています。

 発進元は大型人型装甲服。どうしますか?」


「繋いでくれ」


『―――……こちらはコランダム傭兵企業『マンイーターシャーク』第4国外実働隊、ストーンヘンジ防衛隊隊長、ヴァネッサ・スルゲイ。

 酔狂に付き合ってくれるノリの良い馬鹿の名前を尋ねたい』

 投影画像にはリザードマンとでも言えばいいのだろうか、『ヴァルナ』ステーションではまず見かけない、トカゲと人が混ざったような異星人の顔が映っていた。

 口調こそ丁寧だが隠し切れない愉悦が言葉の端から見て取れる。


「俺は多国籍・民間軍事企業『魔王軍』社長兼第一艦隊司令官、イグサ。

 防衛部隊は半ば壊滅している。投降しろ……と言っても戦いたいんだろう?」


『クハハハ!分かってるな社長さん。つーか俺みたいな下っ端よりアンタの名乗りが本物だったら、それこそ俺より酔狂じゃねぇか。

 なぁ、賭けをしないか。

 俺がアンタに勝ったらうちの部隊の救助と撤退させて貰いたい。

 負けたら無条件降伏でもなんでもするぜ』


「酔狂なのは否定できないな。

 良いだろう―――賭けに乗ろうじゃないか。

 一つだけ条件をつけさせて貰おう。俺が勝ったら降伏ついでに、お前はうちの会社にこい」


『はぁ?どういう事だ』


「これだけ手堅い布陣に運用をできてるって事は、お前はかなり優秀で補佐も相当なんだろうが―――堅実すぎてつまらないんじゃないか?

 魔王軍うちにくれば酔狂な戦いを色々とやらせてやるぞ」


『クハハハハ!言うねぇ、石頭な副官どもよりよっぽど話が分かるじゃないか。

 口説く文句だとしたら完璧だ。いいぜ、受けてやる。

 けどな―――』

 ヴァネッサ機が水面を吹き上げて急加速して接近。クローを横薙ぎに振りかぶり―――


「従わせたかったら実力を示せか。古風な奴だな」

 クローは『シュバルツ』が左手で構えたナイフに受け止められ、ギリギリと金属の軋む音を立てながら火花を散らしている。


『その通りだ、やるねぇ!』

 逆側から飛んでくるクローを右手のナイフで受け止める。


「ディータ、相手はこっちでやる。ダメージコントロールと通信だけやってくれ」


「はいマスター」


『二人乗り?全力で相手しないでいいのかい?』


「こんな愉快な戦い、1対1でやらないと勿体無いだろう?」

 ギリギリと『シュバルツ』の出力に任せてクローを押し返し、腕を掴もうとするが素早く距離を取られてしまった。


『同感―――だぜ!』

 再び素早く接近、クローをまっすぐ伸ばして来るが、フェイントだな。


「分かってくれて何よりだ!」

 クローが引っ込み、そのまま質量に任せたパンチになったものを、ナイフを握りこんだままの手でそのまま殴り返し、ゴガン!と激突音と共に行き場がなくなったエネルギーが衝撃波になり周囲へ突風が吹き荒れる。


「クローでの白兵戦仕様と見せて、素手戦闘による殴り合いがメインか。

 重量のある大型機での白兵戦をするなら正解だな。その機体なら下手に武器持つよりも殴った方が強い」

 今度はこちらが殴りに行くが、ヴァネッサ機に受け止められ、そのまま両手を組み合わせた力比べになった。


『そいつはどうも!だからって同じように殴り合いに来るとか惚れそうになるだろうが!

 ……ちっ、こいつで力負けしてるだと!?』

 力比べは『シュバルツ』優勢のまま相手を押し込んで行くが、押しつぶす前に後方へ下がられた。


『化け物だな。だけど楽しいじゃないかよ!』

 ずとんずとんと大きな足音を響かせ、勢いをつけて左手で殴りかかってくるのを右手で殴り返す。

 正面から激突した拳と拳だが、ヴァネッサ機の拳が砕けて『シュバルツ』の右手がヴァネッサ機の左腕を破壊しながら中に食い込んでいく。


「同感だ。どうせならもっとゆっくりと、同じ条件で戦ってみたい」

 ヴァネッサ機の左腕の根元の内部が爆発、左腕を切り離し(パージ)して衝撃を流すと、右手をまっすぐ伸ばし、手刀にして『シュバルツ』の胸へと素早い突き出しをしてきた。


 突き出してきたた手刀を『シュバルツ』の左手で受け止め、そのままグシャリと握りつぶす。

 そしてヴァネッサ機の左腕の部品を砕いて出てきた右手にナイフ構えてヴァネッサ機の首元へ突きつける!


「降伏しろ、お前にはもっと沢山の愉快な戦場を見せてやりたい」


『……あーあー、負けた。これでも自信あったんだけどよ。

 その言葉、信じたぜ”親分”』

 ヴァネッサ機から放たれた降伏信号で防御部隊は次々に戦闘停止し降伏した。


 防御部隊への降伏信号とほぼ同時に『グリューン』が高出力シールドを突破し、マテリアルブレードを制御施設へ突き刺して機能停止させ『ストーンヘンジ』を巡る攻防戦は終結を迎えたのだった。



―――



 その後はスムーズだった。

 透明化を解除したワイバーンが降下して『ストーンヘンジ』施設の中央へ着地。

 ライムが基部ごと切り取った『オベリスク』を人型戦闘機で積み込むだけだ。


 残念だったのは、まだ稼働中の『オベリスク』を調べてみたが俺では複製ができそうになかった。

 『オベリスク』には確かに魔法技術も使われていたが、高度な科学技術が併用された『魔法科学』的な技術で作製された代物だったんだ。

 判明した時にスキル辞書(膨大すぎてもうリストと言いたくない)に追加された魔法科学系のスキルを取れば作れるようになるかもしれないが、今は見送る事にした。

 遺失技術の中でも再生産できるジャンプドライブですら、作れるのがバレるととんでもなく面倒な事になりかねないんだ。

 遺物アーティファクトや魔法科学に興味は尽きないが、日常生活に深刻な影響があるレベルの面倒事は遠慮したい。


 ま、諦めるつもりもないけどな。

 急ぐ必要もないだろう?


 意外だったのはその場で辞表を事務官に投げてワイバーンへ乗り込もうとしたヴァネッサだったが、ヴァネッサの直属の部下約50人が同じ様に辞表を書いて一緒について来る事になった。

 ヴァネッサの部下は「こんな愉快な馬鹿じょうかんと戦える職場ならどこでも天国です」とか言っていたな。

 ただの戦闘マニアかと思ったら人望もあったようだ。いい買い物だったな。



―――




「浮遊装置作動、姿勢制御開始、着陸脚収納であります」


「姿勢制御開始、上昇角度へ」


「補助推進器出力上昇、上昇開始であります」


 『ストーンヘンジ』を構成していた『オベリスク』と人型戦闘機を収納し、ワイバーンは再び宇宙へと上昇しようとしている。

 心地よい緊張感に包まれるブリッジの中、俺は船長席に座っているんだが、高位透明化魔法の維持でぐったりとしたミーゼと、ミーゼばかりずるいと騒いでいたライムが揃って俺に体を預けるようにすやすやと寝息を立てていた。


「規定高度まで上昇、主推進器起動します」


「上空、衛星軌道へ駆逐艦5隻の集結を確認。

 エネルギー量から戦闘状態だと推測されます」


「その程度ならワイバーン単体で十分だな。

 リョウ、指揮を任せる。適当にあしらっておいてくれ」


「分かった。つーか優雅だな、イグサよぉ!」


「俺はもう一働きしただろう?

 一眠りさせて貰うぞ」

 ミーゼもライムも体温が高いから、張り付かれると暖かくなって眠くなるんだよな。


「ちくしょう、帰ったらぜってー歓楽街でなンか奢らせてやる!」


 自棄になったような声で指示を飛ばし始めるリョウの声を聞きながら、胸元で寝ている2人を抱きかかえるようにして眠りにつく事にした。



 かくして古代の遺物アーティファクトを巡る攻防は終わりを告げる。

 『ストーンヘンジ』という防御の要を失った反乱軍は『アクエリア190-A』から撤退し、数ヶ月後にやってきた帝国軍は被害を出す事なく惑星を奪還したのだった。

 帝国艦隊の指揮官は反乱軍が撤退している事と『ストーンヘンジ』が失われている事、そして跡地に激しい戦闘の痕跡がある事に首を捻ったという。



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 以下はSF色の強いおまけです。

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>戦闘機・クラス3

・DLA-HT-01MG シュヴェルトイェーガー・マギウス (25m×12m)

 アドラム帝国の民間軍事企業『魔王軍』が独自開発した汎用人型戦闘機。

 一般販売モデルに改良を加えた『魔王軍』仕様の機体。

 生体神経回路が加えられた以外は一般販売モデルと差が無いように見えるが、白兵戦型が遠距離攻撃をしてきた、戦闘機搭載砲が連続直撃したのに無傷だったなどと異常な性能を発揮した目撃情報が上がっている。

 バリエーションが多く、装備を誤認しやすい為に生まれた都市伝説の類だと思われる。



>クラス2・戦闘機


・DLC-HT-02RS ローゼンガルデン (35m×20m)

 アドラム帝国の民間軍事企業『魔王軍』が独自開発した汎用人型戦闘機。

 [DLC-HT-02 ローゼンリッター]のバリエーションであるが、元々ハイエンド品である機体をさらに高コスト・高性能化させている。

 機体の現存数が少なく情報が限られているが、部品品質を上げたものだと推測されている。

 単独で巡洋艦を圧倒したとか、高度AIが搭載されていて無人でも自立戦闘ができるなどという荒唐無稽な噂まであるが、常識的にありえない。

 戦闘試験で巡洋艦サイズの標的艦を沈めた程度だと思われる。


・CMHAS-24566-G シー・プリースト (40m×25m)

 コランダム通称連合国で生産されている大型人型戦闘服。

 戦闘服だが分類上は戦闘機であり、最近は人型戦闘機に名称統一する動きがある。

 水中/水上/陸上適応の戦闘服の中でも大型であり、リアクターの出力やサイズから、クラス2戦闘機に分類される。

 装甲と防御力を重視した作りの割に機動性が良く、名作と現場での評価も良い。

 双発リアクター式になっており、出力の高さから高出力の大型射撃装備も搭載できる。

 生産コストが高い機体であるが、評価が非常に高く量産数は多い。


久しぶりの更新です。

諸事情により更新に間が出来てしましました。


夏という事なので劇場版風で送らせて頂きました。

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