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51話:魔王、喜劇の中で愚者と踊る

3話同時投稿です。話数にご注意下さい。



 リゼル母に詳しく説明して欲しいと頼むと、通信だと傍受が怖いからと20分でアドラム帝国製クラス2戦闘機に乗って、情報局のカインズ課長を伴ってワイバーンまでやってきた。



「発端は半日位前、丁度『ヴァルナ』ステーションに来襲した侵略艦隊が撃退された頃ね」

 リゼル母はワイバーンのブリッジに投影画像を広げて説明を始めた。


「アドラム帝国、フィールヘイト宗教国、コランダム通商連合の企業集合体。イグサさん達が「PFカルテル」と呼んでる集団ね。

 その艦隊、航空母艦3隻、戦艦5隻、巡洋艦22隻、駆逐艦約180が中央星系の第3、4、7惑星の軌道上を制圧したの」


「中央星系がそんな簡単に制圧できて良いのか?」


「油断よね。集団行動する前は色々な企業名義を使って正規の手段で入ってきていたし、惑星上の制圧ができる揚陸艦が無かったから注意されてなかったのでしょうね」

 頬に手を当てて、困ったものだわと溜息をつくリゼル母。


「中央星系の3、4、7惑星は聞き覚えがあるな。

 それぞれ経済、政治、文化の中心ではなかったか?」


「ですです。第3惑星が帝国経済の中心地、色々な企業がオフィスを構えている星で、第4惑星が政治色の濃い所、帝国の各局の本拠があるし、皇帝陛下のお城があります。

 一際大きな第7惑星は中央惑星の中でも高級住宅地が広がる所で、アドラム帝国内の文化の中心地でもあるのですよぅ」


「で、すぐに犯行声明があったの。

 『アドラム帝国に本拠を置く企業・魔王軍を帝国軍の力を使って排除せよ。要求が受け入れられない場合、我々の制圧下にある惑星に増殖型汚染結晶弾を撃ち込む準備がある』って」


「汚染結晶弾?」


「イグサ様と出会った星一面に広がっていたアレですよぅ。

 他の物質に干渉して、自分と同じ結晶体を作り出す物質だけど、その結晶は微量でも炭素系生物全般にとって致命的な影響を与えるんです。

 最終兵器の中でも星をまるごと駄目にする、最悪なものの一つです」

 ああ、耐性スキルや適応魔法がなければ魔王や勇者でも倒せそうだったアレか。

 随分と危険な代物だったようだ。


「除去技術は確立されているけど、時間もコストもかかるし、少なくとも撃ちこまれた周辺では特殊シェルターでもなければ、住人が全滅してもおかしくないのです」

 流石SF世界、えげつない兵器には事欠かないな。


「……なぁ、聞く限り大規模テロや宣戦布告並に物騒な行為じゃないか?」


「そうよね。私もこの情報を最初に聞いた時は悪い冗談だと思ったわ。

 で、すぐに戦闘が始まったのよ」


「中央星系の防衛艦隊とか?」


「いいえ「PFカルテル」の艦隊内部でよ。

 流石にこんな事をやっちゃったら、アドラム帝国国内だけじゃなくて、他の文明圏でも生きていけないもの」

 だよな。仮にテロリストとしておくが、アドラム帝国の敵国であるフィールヘイト宗教国だって、こんな事をやらかしたテロリストを匿ったら宣戦布告の建前にされるし、下手をしたら友好国からだって見放されるどころか敵対されかねない。

 その上テロリストは国内で似たような事をするかもしれない不安を抱えると、良い事は一つもないものな。


「汚染結晶弾を保持しているのを過激派という名称にするけど、過激派に対してこんな事をしたら生き残れないと反発した反過激派、過激派と反過激派の情報を手土産に帝国へ寝返ろうとしたのが露見して、両方の派閥に敵対認定された離脱派。

 この3つの派閥に分かれて絶賛戦闘中なのよ」


「場末の三文芝居だってもう少しまともな物語ストーリーがありそうなものだな。

 いっそ笑ってやった方がいいのか?」


「ここだけならまだ笑っていられたのだけどね。

 過激派が帝国最高議会や帝城のある第4惑星の軌道上を制圧しているから、政治家の一部と儀典局―――皇帝や皇室に関わるものを取り仕切る所と、帝国近衛艦隊が「一企業の為に皇帝陛下と帝国の中央を危険に晒す訳にはいかない」ってイグサさん達を生贄にする方針を打ち出したの」


「その言い分を素直に聞く気はないが、強制力のあるものなのか?」


「まさか。だって国が守るから税金を取っているのに、衆人環視の前で国や政治家の為に個人や組織を生贄にしてごらんなさい。

 あっという間に反乱や内戦がおきて、宇宙図からアドラム帝国の名前が消えてしまうわ」

 SF世界の政治や国政は腐敗していても、実利と損得勘定がしっかりできる組織で助かったな。


 税金というのはただ無闇に搾取されるものではなく、国の保護という権利を受けるための代償。

 保護しなければいけない者を生贄にする―――代償を受け取っているにも関わらず、権利を無視したら、納税している国民が国に対して反抗するのは当然だろう。


「だから、守るべき臣民を生贄にするとは何事だって、税務局が後ろ盾になった帝国軍の第1艦隊が近衛艦隊と戦闘を開始してしまったの」

 税務局?確かキャッチフレーズは「納税するなら誰でも臣民」だったな。

 守るべき臣民と書いて納税者とルビがついてそうだ。


 3つ巴の内部抗争から、5つの勢力による乱戦か。

 観戦するにも混沌しすぎているな。


「この騒乱自体が、アドラム帝国の恥を歴史に残しそうなのです」

 あまりの状況にミーゼも呆れ顔を隠せていない。


「情報を流すだけが目的ではないだろう?」

 膝の上に乗っているミーゼの髪を梳いて手触りを楽しみながらも、リゼル母に視線で俺達に何をさせたいんだ?と問いかける。

 母親の前で悪の総帥と愛玩動物スタイルはどうかと思ったが、今更だろうか。



 俺の目標は魔王の家族に手出ししたら悲惨な末路になると思い知って貰う事だ。

 この状況は既に目標を達成していると言ってもいい。

 状況が落ち着けば、ちょっとした情報通なら誰でも、あれだけ順風満帆だった「PFカルテル」の凋落ちょうらくと暴走の原因が魔王軍にあると調べがつくだろう。



「私の話はここまで、ちょっと情報通のお義母さんとして「待て、それは認めていない」お話しただけよ。

 後は現役のカインズ課長にお任せするわ」


「アドラム帝国情報局・実働3課、課長のカインズです、いつもお世話になっています」


「……久しぶりだなカインズ課長」

 いつも通り気弱そうかつ、やや太り気味の恵比寿顔をしている中年男性という風体のカインズ課長だが、非常時に際して気配が鋭く、瞳に覚悟の色が見える。


「我々情報局は税務局及び第一艦隊に味方して動く予定です。はい。

 政府や軍に守られるべき臣民である魔王軍の皆様に何かを強要するつもりはありませんし、要求もしません」

 うちの従業員を誘拐しようとした過去があるじゃないかとツッコミを入れるのは無粋だろうな。


「ですが、魔王軍の皆様やイグサ社長が情報局―――ひいてはアドラム帝国の利益となる行動をするのでしたら、バックアップや援助は惜しみません。はい」

 そうか、そう来たか。思わず笑顔が浮んでしまうな。


 カインズ課長はそこそこ長い付き合いだ。

 どれ程、魔王軍うちが無茶な集団か身に染みてわかっているだろう。

 俺の趣味ではないが、それこそ機嫌を損ねれば即座に命の危険に見舞われるような相手だと。


 そんな(カインズ課長の主観的に)危険な相手に対して、自分達を卑下して媚びる事もなく。

 権力を盾に強要する事もなく、ただ対等な存在として交渉を持ちかけるのは、なかなか出来る事ではない。


 それに俺が断る事も計算に入れている。

 いや、断られて自分たちだけで事態を収拾する事を視野に入れているな。

 元から断られるのは覚悟の上、その上で受けて貰えるなら楽になると俺に交渉を仕掛けている。


 媚びず、虚勢を張らず、孤立せず、依存せず。

 言葉に出すのは簡単だが、実践するのは難しい事をやってのけている。

 交渉相手とするなら実に好ましい。

 流石だな、伊達に情報局で課長をしていないらしい。



「なるほど、良い判断だ。

 だが、カインズ課長。それでは魔王軍うちにとって余り益がない。

 あなたに貸しを作れるというのはなかなかに魅力的ではあるが、民間軍事企業としてはもっと楽で稼ぎやすい仕事が多いからな?」

 笑ってしまいそうな衝動に耐えながらカインズ課長へ問う。


「ええ、はい。魔王軍はもう見ているだけでPFカルテルが再起不能になる所まで追い込んでいます。

 ですが、勿体無くはありませんか。

 ここまでお膳立てして、傍目には面白おかしい喜劇になったというのに、主役が舞台に居ないというのは。

 PFカルテルが辛うじて分解せずに保っている心の支え、汚染結晶弾とそれを搭載している第4惑星軌道上にいるコランダム通商連合製の戦艦。

 これをイグサ社長が第1艦隊や近衛艦隊に先がけて処理してしまうのは爽快だと思いますです、はい」



「―――はっ。ははは!そうか、爽快か。その手で来るとは思っていなかったな」

 不意打ちに笑ってしまった、論理と損得ばかりかと思っていたが、感情面で攻めてくるとは予想外だった。

 これは嬉しい不意打ちだ。



 ああそうだ、このまま趨勢すうせいを遠くから見守るのは魔王おれの流儀ではないな。

 中央星系の話を聞いてから胸の中に支えていたものが取れた気分だ。



「そうだな、このまま終わらせてしまうのは楽だが、最後に決めた方が確かに爽快だ。

 その思惑に乗ってやろうじゃないか。

 だが、乗せられるばかりではしゃくだな。代わりに2つ助力を頼もうか」


「あ、はい。何でしょうか?」


「対象をやるまで邪魔する勢力を排除していく。

 1つ目の助力はそのフォローをしてくれ。後から難癖つけられるのは面白くない」


「分かりました。事後処理に調整は情報局で引き受けます。お任せ下さい、はい」


「もう一つは第4惑星近くに一時インスタンスゲートを2つ作って貰いたい。

 情報局なら中央星系内にゲートリアクターの1つ2つ仕込んでいるだろう?」


「……う。痛いですが何とかします。

 情報局で設置してある、商用通信衛星に偽装した、ゲートリアクターサテライトを提供させて頂きます。

 それでも近いほうのサテライトから、第4惑星の軌道上まで普通の船なら通常航行で2時間はかかりますです、はい」


「通常のジャンプゲートよりは余程近いだろう?」


「はぁ、確かに。虎の子を使い捨てる事になりますが、この際必要経費と割り切ります」


「代わりに解決した名声だの栄誉だのは情報局が持って行って良い。

 俺達が雇用されていた事にしてくれたって構わないぞ?」


「いやどうも、助かります。実績があると予算が随分とりやすくなりまして」


「どうせ最初からイグサさんがトドメを刺したって結果以外はいらないのでしょう」

 俺とカインズ課長のやり取りを見ていたリゼル母が、あらあらと上品に笑いながら口を挟んでくる。


「ま、英雄だの何だのってのはガラじゃないからな。

 ―――ああ、後な。民間のネットワークに割り込みかけられる出力の通信衛星を一つ貸して貰えるか?」


「はぁ、その位ならお安い御用です」


「交渉成立だな。

 ユニア、アルビオンにいるリョウを呼び出してくれ、久々の大仕事だ」


「はい社長、アルビオンに通信開きます―――」



―――


>アドラム帝国第1艦隊・第2高速打撃分遣隊旗艦・巡洋艦『ネーザリウスⅦ』



「8番艦、駆逐艦『オルテガⅣ』より入電、推進器及び主砲大破により戦闘能力消失!」


「くそっ、近衛の連中さえ邪魔しなければ、こんな乱戦すぐに収めてやるってのに!」

 巡洋艦『ネーザリウスⅦ』に搭乗する、第2高速打撃分遣隊を預かる新進気鋭の若きアドラム人のアレクシス司令は、指揮管制用コンソールを叩いて苛立ちをあらわにした。


 アドラム帝国・中央星系は混沌とした戦闘状態になってから1日が経過しようとしていた。

 中央星系の惑星軌道上を制圧した敵は複数の派閥に分かれてお互い戦い続け、戦闘に介入したアドラム帝国第一艦隊とアドラム帝国近衛艦隊もお互い敵対し、泥沼の消耗戦になっていた。


 アレクシス司令が預かる第2打撃分遣隊も、巡洋艦2隻、軽巡洋艦8隻、駆逐艦10隻からなる高速性と即応性に定評がある精鋭艦隊だったが、幸いにして轟沈した艦はまだ無いものの連戦につぐ連戦で数は半数まで減っている。

 無傷な艦は一隻もなく、艦載機もわずかな連絡機を残して喪失している、まさに満身創痍まんしんそういの状況だった


「司令、近隣にゲート生成反応。何かがジャンプアウトしてきます!」


「こんな状況でジャンプドライブ搭載艦を投入だと!?

 全艦姿勢傾斜、生きている砲を全部向けろ!」


「複数艦のジャンプアウトを確認、主力戦艦1、大型巡洋艦2、巡洋艦7!」

 レーダー担当の悲鳴じみた声がブリッジに響き渡る。


「所属を調査、最優先だ!」


「所属は民間軍事企業、追加情報タグは情報局―――増援です!」


「あんな艦隊の戦闘に巻き込まれたら、巡洋艦以下ばかりのうちの艦隊じゃひとたまりもない。道を開けて退避しろ!」



―――



>民間軍事企業「魔王軍」特別編成艦隊旗艦・アルビオンメインブリッジ



「前方のアドラム帝国第一艦隊所属艦、退避行動に入りました。進路クリアですぜ」

 髭面のオペレーターが耳通りの良い中低音バリトンで報告をする。


「お利口さンだな、通信送ってくれ。

 『当方、民間軍事企業魔王軍、特別編成艦隊司令リョーカン・シジューヅカ。貴艦隊の健闘を祈る』ってよ」


「了解ですぜ、リョウ親分しれい


「高速電子巡洋艦セリカからデーターリンク、戦闘宙域の敵味方識別情報がきやした!」


「全艦に通達、進路第4惑星へ向けて戦闘出力で移動開始、全力戦闘準備。

 標的は敵識別艦全部、これだけ敵だらけなンだ、目に付いた連中から撃って撃って撃ちまくれ!」


「アイアイサー!アルビオン主砲起動、ターゲットは各砲手に任せる。敵種別マーカーを片っ端から消し飛ばせ!」

 リョウの一声で、アルビオンに高速巡洋艦3人娘、そして魔王軍第2艦隊の巡洋艦達が一斉に砲門を開いて膨大かつ破壊的なエネルギーを撒き散らし始めた。



―――


>強襲揚陸艦・ワイバーンブリッジ



「高速電子巡洋艦セリカより長距離通信、特別編成艦隊が戦闘開始した模様です」

 ブリッジに大きく表示された、アルビオンを旗艦とした艦隊の状態が戦闘中に切り替わっていく。

 被害状況や撃破した敵艦の名前位しか表示されないのは、指揮するのに他の艦の映像があっても邪魔になるとはいえ、本当に味気ない。

 後でジャンに戦闘映像を編集して貰おう。


「電源船の各リアクター出力80%で安定稼働中、いつでも臨界まで持っていけます。

 接続ケーブルも異常なしです」


「ルーニア、第一種警戒配置から第一種戦闘態勢へ移行」


「はーい社長。第一種戦闘配置が発令されました、各員は所定の位置へ移動をお願いします。

 ミーゼちゃん、ドローンゴーストを起動。戦闘態勢へお願いします」


「はいなのです、ドローンゴーストを全機戦闘モードで起動、戦闘態勢へ移行です」


「情報局から第2偽装サテライトの一時ゲート座標を受け取りました、暗号解凍、座標入力開始します」

 アルビオンとアリア、ベルタ、セリカと第2艦隊の全艦を囮にして、ワイバーンは第4惑星を挟んだ逆方向の一時ゲートから突入、単独で目標の敵戦艦を狙う手はずになっている。



 いやいや、今回の仕事は今までにないレベルで大雑把かつ無謀で非常識だ。

 だがまぁ、たまには無謀無策に非常識ファンタジーの流儀で行くのも悪くない。



「ユニア、全艦放送準備」

 コンソールを操作し、取り出した投影画像の仮想マイクを手に持って、ユニアの合図で声を張り上げる。


「魔王軍代表のイグサだ、これから久々に愉快な無茶をやらかすぞ。

 危険手当はたっぷり弾む、働きの良いヤツには臨時ボーナスだって出してやる。

 しっかり働いて俺の財布が薄くなるまで稼いでこい、装甲板に齧りついてでも生き延びてボーナス片手に凱旋してみせろ!」

 艦内から地響きのような歓声が響いてくる。

 ワイバーンには能力の高い人間を集めているのだが、危険に比例する給料の高さに釣られた『ヴァルナ』ステーション出身の船員が数多い。

 こんな演説で士気が上がるのだから楽で良いな。



「電源船のリアクターを臨界作動、ジャンプドライブ作動開始だ」


「電源船リアクター出力上昇、臨界へ。ジャンプドライブへエネルギー伝達、ジャンプドライブの起動を確認しました」


「接続ケーブルの強制排除ボルトに点火、切り離し(パージ)実行します」


「アルテ、推進器作動開始、巡航速度へ」


「あいさー、推進器作動、巡航速度へ加速開始。

 ジャンプフィールドの生成を確認、艦首より突入であります」


「ジャンプフィールド通過中、30秒以内にジャンプアウトするのです」


「リゼル、リアクター出力を戦闘レベルへ上昇、主砲展開急げ」


「いえすまいますたー、装甲板展開、主砲、副砲準備開始。

 リアクターを戦闘レベルまで上昇ですよぅ」




「ジャンプアウトしました……っ!後方から直撃弾、シールド78%に低下します!」

 ジャンプアウトした直後に直撃を受けて振動が艦内を襲う。


「攻撃の種別特定急げ!」


「センサーのログ解析開始、重金属主体の荷電粒子砲です!」

 荷電粒子砲だと…基本は物理、副次で熱か?


『概念魔法発動:物理属性耐性Ⅷ』

『概念魔法発動:炎属性耐性Ⅵ』

『祈祷魔法発動:護りの盾Ⅷ』


「2射、3射目も直撃。損害軽微」

 上手く防げたようだ、シールドの表面で弾けている。


「シールドジェネレーター出力上昇、シールド85%まで回復ですよぅ」


「敵味方識別情報のデーターリンクを受け取りました、宙域図に重複表示します」


「周囲は敵対マーカーで埋まってます、帝国近衛艦隊のど真ん中ですよぅ!?」


「おにーさん宛ての通信らぶこーるが沢山届いているのです。

 即時停船と降伏しろってうるさいけど、どうします?」

 副長席で忙しくコンソールを操作しているミーゼが小さく肩をすくめながら聞いてくる。


 SF的にはここで馬鹿と返してやるのがお約束なんだが、残念ながら俺は魔王で悪役だから、言うより言われる方の立場なんだよな。


「通信を開け、一方的に送信するだけで良い。対象は周囲の艦艇全てだ」


「ライム、例のやつをやるぞ。打ち合わせ通りに頼む」


「イグサ、本当にやるの?」


「勿論だ!」

 迷い顔のライムに良い笑顔で答えると、渋々という感じで準備してくれた。


 ライムが着ている服―――勇者の鎧を変化させたものを、更に小さく水着のような形態に変化させて、ほつれた薄いシーツのようなものを羽織り、チョーカーの上からゴツい皮の首輪的なものをつけて、足を組んだ俺の膝の上に乗ってくる。


 悪の総帥と囚われの哀れな幼子的な絵面ができた。

 いつもの膝の上に乗っただけよりも倒錯的で良いとは思わないか?


「社長、通信開きます」


「民間軍事企業『魔王軍』代表、イグサ・サナダだ。

 敵対する全ての艦に告げる、命が惜しければ道を開けろ。

 雑魚に構ってる暇はないからな。

 テロリストの脅しに屈して民間人を引き渡そうとしてるお前達だ、プライドを捨てるのは得意なものだろう?」

 膝の上で被害者役になってるライムを抱き寄せながら高圧的に言い放つ。

 ライムは格好の恥かしさでうつむいているが、傍目には嫌がっているようにしか見えないだろう。

 ここまでやるとあとが怖いが、浪漫の為なら多少の被害は止む得ない。


「通信停止します」



―――



>アドラム帝国近衛艦隊・軽巡洋艦『イグレード・アドバンス』ブリッジ



「………副長、攻撃停止。速度も艦列を崩さない程度に落とせ」

 40過ぎの地球テラ系アドラム人の艦長が、制帽を目深に被り直しながら溜息と共に命令を下した。


「艦長、良いのですか?後で査問委員会にかけられたら…!」

 艦長の半分も年齢を重ねてないように見える獣系アドラム人の副長が、慌てて声をかける。

 帝国近衛艦隊はエリート故に、命令違反の類はとりわけ問題視されるからだ。


「良い、良いんだ副長。君も今の通信を見ただろう?」


「艦長、しかし…!」


「言うな、私は栄光と誇りある帝国近衛艦隊の一員だ。

 例え命令違反のそしりを受けようとも、あのようにまだ幼い少女を奴隷のように侍らしている外道に「お前達の行動は人としてどうかと思う」などと言われて、答えに詰まるような行動をしては皇帝陛下へ顔向けできん!」


「………っ」

 制帽の奥へ瞳を隠し、搾り出すような声を上げる艦長へ対し、副長はかける言葉を持ち合わせて居なかった。


「承知しました……戦術長、攻撃停止。機関長、速度を巡航速度2分の1へ、艦列を維持せよ」

 他のブリッジクルー達も副長と同じく一様に目を伏せ敬礼し、艦長の命令を遂行するのだった。



 彼らの知るところではないが、帝国近衛艦隊のあちこちで同じ様なやり取りが発生しているのだった。



―――


>強襲揚陸艦ワイバーン・ブリッジ



「社長、周囲の帝国近衛艦隊のうち3割が活動停止しました」

 おや、あの挑発で味方を巻き込んで攻撃したり、無理に攻撃位置につこうとして衝突するとか起きると思っていたんだが、3割も止まるとは何故だろうか?

 ……まあ、攻撃を止めてくれるなら良いか。


「停止した艦体から敵対マーカーを除去、中立マーカーに変更しておけ。

 攻撃を続ける艦をターゲット、砲撃戦開始」


『祈祷魔法発動:英雄の剣Ⅷ』

『概念魔法発動:武器風属性強化Ⅷ』

『概念魔法発動:武器魔力付与Ⅸ』



 ワイバーンの主砲と副砲に威力強化・風属性強化・魔法属性付与と3重に強化魔法をかけると、主砲や副砲の砲身を囲む形で魔法陣が展開していく。

 シールドはファンタジー的に言うと物理・光・熱に耐性のある障壁なので、衝撃砲が持つ風属性を強化すると貫通させやすいんだ。

 ほら、RPGでやたら物理防御が硬いゴーレムには魔法が良く効くというのはお約束だろう?

 SF兵器はファンタジー的に見ると複合属性がついているのが多いから、無効化し辛いが強化もしやすくて助かるな。


「いえすまいますたー、主砲連装モードで各個にターゲット、出力全開で攻撃開始ですよぅ!」


 ワイバーンの主砲、巡洋艦クラスの衝撃砲が撃ち出されるたびに、標的になった戦闘艦がシールドと装甲を貫通され、爆炎を上げていく。


「ターゲット13、巡洋艦後部砲塔大破、炎上するも健在」


「ターゲット9、駆逐艦後方貫通、速度急速低下、推進器大破と思われます」


 流石に近衛艦隊は性能の良い船が多い上に、ターゲットが多すぎて攻撃が分散してしまうので被害は出ても撃沈まではなかなか行かないな。

 帝国近衛艦隊と本気で喧嘩したいわけじゃないので好都合なんだが、リゼルではないがワイバーンの砲撃能力を強化したくなる。



「ドローンゴースト射出開始、攻撃よりも撹乱を優先。

 ワイバーンに置いていかれるなと注意も頼む」


「ドローンゴースト順次射出、撹乱戦術B-3なのです。

 ワイバーンは高速移動中、稼働時間と相対位置に注意してください」


『『『・―――・・・―――(了解)』』』



「アルテ、速度リミッターを解除、障害物を回避できる範囲で出来るだけ速度を上げろ」


「あいさー、巡航リミッターリリース、戦闘速度内出力三分の二であります」

 アルテがコンソールを操作すると高速移動していたワイバーンが更に加速、艦列を組んでいるせいで速度が出せない、周囲の艦艇が止まって見える速度になる。



「左舷被弾、種別は大型多相レーザー砲!修復3班は急行して下さい」

 流石に大型艦が多くて攻撃の出力が大きい上に、武装の種類も多彩だ。

 敵艦隊突破も被害無しはとはいかないな。


『概念魔法:光属性耐性Ⅸ』


「第2射、第3射続けて左舷に直撃、損害軽微!」

 様々な種類の攻撃が飛んでくるので、各種耐性魔法を発動させるのに忙しい。

 指を鳴らして魔法を発動していたんだが、指が疲れてきた。

 たまに指を鳴らすのを失敗し、ぺちっと間抜けな音を出してしまう。



『対艦ミサイル各種接近中、近接レーザー砲等全力稼動開始、リゼル嬢ちゃんに射撃管制を半分任せます、ちぃと数が多くてわいだけだとキツいです』


「任されました、迎撃開始なのですよぅ!」


「対艦ミサイルの至近爆発、シールド出力48%にダウンしました」


「推進器出力増加、戦闘出力一杯であります」


「帝国近衛艦隊の先端部通過まで残りおよそ30秒」


「ミサイルランチャーに対光学・電磁撹乱弾頭の『フラグK16』を6本装填。

 艦隊離脱と共に後方へ発射準備するのです」


「艦体側面ミサイルランチャーに『フラグK16』ミサイル装填、弾道指定、炸裂座標入力、準備完了です」


「左右から近衛艦隊先端部の駆逐艦が接近中、このままでは進路を塞がれます!」


「主砲副砲とも左右駆逐艦へ集中、動きを止めろ!」


「いえすまいますたー、主砲1番3番を左舷へ、2番と副砲を右舷へ集中。斉射ですよぅ!」


「駆逐艦α命中多数、速度急速低下。

 駆逐艦βに貫通弾あり、リアクター誘爆反応を確認、爆沈します」


「ドローンゴーストに帰還命令、ワイバーンの前方まで呼び戻せ」


「ドローンゴースト各機へ帰還命令発令、現状の戦闘を停止して帰還して下さい」


「帝国近衛艦隊の先端部を通過、艦隊内部より離脱確認しました」


「撹乱弾頭ミサイルを発射なのです」


「ミサイルランチャー作動、撹乱弾頭ミサイルを後方へ放出します」

 帝国近衛艦隊の内部から高速で離脱するワイバーンの後方で、撹乱弾頭ミサイルが作動・爆発する青白い光が連鎖して大きな光芒を放ち、一時的にセンサー類の性能が低下した近衛艦隊からの追撃が止んだ。



―――



「静かになったな……前座にしてはなかなかボリュームがあった」


「帝国近衛艦隊から逃げられただけでも、普通なら奇跡の範疇なのです」


「帝国近衛艦隊から更に距離離れます、第4惑星軌道上まで約15分」

 周囲を帝国近衛艦隊に囲まれていた状況から離脱して、遠くに戦闘の光が見えるものの、僅かな平和な時間が訪れる。


「ミーゼ、ユニア、ルーニア、被害報告を」


「シールドジェネレーターはおおよそ中破状態です。

 出力最大でも48%までしか上がりません」

 シールドジェネレーターは攻撃を受けるたびに負荷がかかる部品だ。

 酷使していたら破損していくのは仕方ないな。


「推進器は被害なし、スラスターは12%が機能停止、小回りがあまり効かなくなってるよ」


「リアクターは被害なし、燃料もまだまだ持つのです」


「主砲は1、2、3番砲塔は被害なし、冷却すれば部品交換の必要はありません。

 第4砲塔が基部ごと消失、艦体の応急処置は終わっていますが、この場での復元修理は無理です」


「副砲は1番と3番が機能停止、交換修理が必要。近接レーザー砲塔は2割が動作停止してるよ」


「ドローンゴーストの損失は3割。

 残存機も艦内に収容して補給作業中なのです」


「ルーニア、ジャンとシーナに連絡。

 星系内ローカルニュースネットの一部乗っ取りと海賊放送を予定通り始めてくれ」


「はい社長。長距離通信開きます」


「リョウ達の方はどうなっている?」


「元気に戦闘続行中。どの艦もワイバーンに比べれば損害軽微なのです」


「帝国近衛艦隊のど真ん中に出た以外は大体予想通りだな。

 計画通りに行く。ミーゼ、指揮を任せるが無茶はしないでくれよ」


「危険を冒す位ならおにーさんに無茶させる方が良いのは承知してるのです」

 小声で「ふぉーりん・でばいん・ぷろてくしょん」と呟いて、服装はそのままに魔法の杖だけ手に取るミーゼ。

 魔法少女として順調に成長しているようで何よりだ。


「それで良い。近くに居れない時にミーゼを命の危険に晒す位なら、俺が無茶した方が気が楽だからな」


「だから、そういう事を平然と言うおにーさんはずるいのです!」


「悪いな、故意だ」


「ふー!」

 威嚇されてしまった。戦闘中に不謹慎かもしれないが、余裕が無いよりずっと良いよな?



―――



>強襲揚陸艦ワイバーン・格納庫



 ワイバーンの格納庫に搭載されている、人型戦闘機[DLC-HT-02RSローゼンガルデン]のライム専用機「スマラクトグリューン(翠緑)」通称、グリューンにライムと2人で乗り込んでいた。

 普通ならライムの小さな体がすっぽりと入る程度のコックピットだが、リゼルに改造して貰って、多少広くなったシートに俺が座り、その上にライムを乗せればぎりぎり2人乗りできる程度の広さになっている。




 作戦の最終段階が近づいていた。

 数分前にワイバーンは中央星系第4惑星の軌道上へ到達、「PFカルテル過激派」の迎撃艦隊と戦闘状態に入っている。


 戦闘による消耗やリョウ達の陽動で数が減っているとはいえ、惑星軌道上に布陣した「PFカルテル過激派」は戦艦を中心とした40隻以上の艦隊に対して、こちらは強襲揚陸艦のワイバーンが一隻。

 魔王軍おれたちが圧倒的に不利なだけに、汚染結晶弾が使われる予兆は今の所ない。


 PFカルテル過激派の旗艦である、コランダム通商連合製ナルヴァ級戦艦に対処するのに一番苦悩したのは撃破の方法だ。

 ただ勝つだけなら、俺とリョウがアルビオンに乗って魔法障壁に付与魔法を多重展開しながら正面から力押しをすれば良い。

 だが、PFカルテルの過激派は自分たちが不利になれば即座に汚染結晶弾の使用に踏み切るだろう。


 俺は清廉潔白な勇者ではないので、人質を取られたからと無抵抗になる程お人好しではないものの、目の前で被害を出されて気分の良いものじゃない。

 どうせ大量の被害者と共に惑星上に阿鼻叫喚の地獄が生まれるなら、俺の趣味に沿う悪事の果てにこの手で起こしたい。

 PFカルテルなんて小物にそんな美味しい役を渡したくない…!というのが魔王としての素直な本音だ。

 被害を可能な限り出したくないという方向性こそ、アドラム帝国各局に軍の皆さんと同じものの、趣旨が随分違うのは黙っていた方が良い所だろう。


 そこでいかに汚染結晶弾を撃たせないか―――旗艦の戦艦を短時間で制圧または撃破するか検討した。


 突入ポッドを撃ちこんでの白兵戦で追い詰めれば、破れかぶれに汚染結晶弾を発射される可能性が高いので没。

 艦隊を並べて突入しても、不利だと思われたら使われそうなので没。

 いつか海賊の特殊空母を撃破した時のように、俺がワイバーンの主砲を「装備」して「まおうのこうげき」で吹き飛ばすのは有望だったものの、惑星軌道上という環境のため、敵艦を貫通した砲撃がうっかり惑星に逸れたら惑星に大穴を開けかねないので没。

 最終的に目標を限定して攻撃できる、ライムの聖剣技と大人げなく魔法技術を投入したライム専用の人型戦闘機に白羽の矢が立ったのだった。


 戦力の殆どを陽動に回してワイバーン単艦での突入する作戦は、発見されにくさと敵の意表をつく趣旨もあるが、ライムが搭乗する人型戦闘機「グリューン」を可能な限り高速で戦艦の近くまで運ぶ為のものでもあった。



『推進器出力低下、補助ブースター点火であります』


『光輝はわが力、わが友、故に我は光に害される事なし―――概念魔法発動:光属性耐性Ⅴなのです』


『艦隊上部に被弾、シールド出力34%、シールドジェネレーターが一基稼動停止したのですよぅ!』


 コックピットのスピーカーからは、ブリッジにいるミーゼ、リゼル、アルテやクルー達の緊迫した声が聞こえ、ワイバーンが被弾した衝撃が格納庫を揺らす。


 今は待つことしかでないライムの手が俺の手を痛い位に握り締めている。


『おにーさん、ライムさん。そろそろワイバーンは限界なのです、想定時間はやや過ぎてる位、予定地点まではちょっと距離あるけど頑張って下さい』


「任せろ」


「ん、任せて」


『格納庫解放、グリューン射出!

 進路そのまま、ジャンプドライブ緊急作動なのです!』

 ワイバーン格納庫の装甲板が開き、コックピットの外に青い惑星が下一杯に広がる軌道上の画像が映し出される。

 モニター式のコックピットが過去の遺物になり、現在は脳へ直接画像を流し込むのをメインに、目の水晶体へ画像を直接投影するのがサブになっている―――などという無粋な情報が脳裏を過ぎるが、見える景色が美しい事には変わりない。

 ぐぐん!とワイバーン船内では滅多に感じない重力加速感と共に、磁力加速カタパルトによって機体が高速で射出される。


「イグサ、操作お願い」


「分かってるさ」

 後方でワイバーンが緊急ジャンプするのを横目に見ながら機体を操作、対艦用のビームやレーザーを回避しながら目標のナルヴァ級戦艦に向う。


『概念魔法発動:光属性耐性Ⅹ』

『法理魔法発動:熱遮断Ⅷ』

『祈祷魔法発動:守護の盾Ⅷ』


 ワイバーンが緊急ジャンプして戸惑ったものの、すぐにレーザーやビームによる対空砲火の嵐になったのを機動性で大半を回避、避けきれないものをシールドと魔法で無効化してナルヴァ級戦艦へと接近していく。



「ライム、やってくれ」


「ん、頑張る」

 コックピットの中で聖剣をライムが構え、コックピットの床下に流れる生体神経回路へと聖剣の先端を突き刺す。



「聖剣解放―――人々の祈りよ、剣へと集って」



 ライムは言っていた、以前汚染惑星を脱出する時に使った技、1日に3回も使える程度の聖剣技では全長1キロを超える戦艦を一撃で沈めるのは難しいと。

 発動条件が厳しく、1日に1回使えば疲労で使用者が消耗してしまい、2回目を準備する事すら難しい聖剣技『希望の星光』なら行けるかもしれないと。


 確かに発動条件は厳しかった。

 聖剣が周囲の人々が胸に抱く希望や愛と言った正の感情を増幅して力にする、まさに聖剣に相応しい技だ。

 普通のファンタジー世界で各地を周り人を助け、勇者という名の希望を人々の胸に植えて回った勇者が、魔王との最終決戦の際に使いそうなものだ。


 だが、ライムには勇者としての知名度は無いに等しい。

 人々に知られていない勇者でも正の感情は集められるが、勇者の体を蝕む負の感情も集めてしまうという。


「発動中の聖剣に触るのは、流石の俺も気がとがめるな」

 聖剣とか魔王の天敵すぎて、正直怖くもある。


「イグサなら大丈夫、聖剣は大切な人を傷つけないから」

 薄く微笑むライム。

 まったく、そんな顔をされては怖がる事すら出来ない。

 聖剣など比べ物にならない位、魔王おれにとって何よりも勇者ライムこそが天敵だなと再確認しながら、ライムが握る聖剣の柄に手を重ねる。


「魔王イグサの名の下に、人々の嘆きよ我が力となれ。魔王魔法、発動―――」

『魔王魔法発動:怨嗟転換Ⅹ/精度上昇Ⅸ』

 負の感情は勇者の体を蝕むが、俺なら魔王の嗜みとして負の感情を純粋なエネルギーへと変換できる。

 だが、ファンタジー世界とは段違いの、SF世界的な人口の負の感情を変換するのは少々体に堪えるな…!。


 そして―――慎ましく生きる魔王らしい、小癪な悪巧みの仕上げが発動する。

 中央星系での紛争という前代未聞の事態に、片っ端のニュースサイトや映像サイトが、すぐ近くの宙域で行っている映像や情報を実況する中、シーナがハッキングをかけて有名ニュースサイトの一つを乗っ取り(ジャック)。

 マイナーなローカル番組で放送予定だったジャンの番組「キャプテン・ナイトグローリー」の最新話が海賊放送され、今頃クライマックスが放送されている時間だ。

 ライムに似た子役の俳優がふんする新キャラ「善の感情を光の刃にして正義の為に振るう少女剣士」が主役のキャプテン・ナイトグローリーのピンチを救い共に戦うシーン。

 キャプテンを助ける為にもっと希望をと叫ぶ、万人向けの英雄譚。


 どのサイトに繋いでもニュースしかやってない状況で、唯一流される娯楽の視聴率は最後に確認した時に40%以上、SF世界ではあり得ない高視聴率を記録していた。


 聖剣を通してライムには莫大な正の感情が集結し、そこに混ざる負の感情ふじゅんぶつは俺が奪って純化し、ライムへと還元する。


 人型戦闘機グリューンと生体神経回路を駆け巡る膨大なエネルギーが、追加装甲翼の推進器を破壊して清浄なイメージを人々に与える青白い光の粒子を放出し、違う翼からは人々の怨嗟を連想させる赤黒い粒子を放出する姿は、8枚の純白と漆黒の翼を持つ堕天使のようで。


 グリューンが装備している、勇者と相性の良い光属性のレーザーブレードはその刃を数百メートルの規模まで伸ばしている。

 青色発光のはずのレーザーブレードは青白い粒子と赤黒い粒子が交じり合い、薄紅を思わせる桜色に輝いて、非現実的ファンタジーな光の粒子を刀身から桜の花弁のように散らしている。



「聖剣技―――『希望の星光』」



 人型戦闘機「グリューン」はライムの意思を受けて、巨大な光の剣を上段に構え、振り下ろす。

 膨大な桜色の光の濁流が過ぎ去った跡には、巨大なナルヴァ級戦艦は残骸一つ残さず消え去っていた。




 その光景を目の当たりにした、PFカルテル過激派は先を争うように降伏信号を発信、連鎖するように幾つもの派閥に分かれていたPFカルテルの各艦も次々に降伏信号を発信して停船していった。


 こうして、アドラム帝国中央星系をまるごと巻き込んだ喜劇は御伽噺ファンタジーの見せシーンを持って幕を閉じたのだった。



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