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35話:魔王、海賊ギルドを設立する



「でよ、俺達はどうなるンだ?

 幹部連中も覚悟は出来てるけどよ、責任取るヤツは出来るだけ減らしたいンだよな」


 海賊団『隠者の英知』が降伏した後の処理を話し合う為に、高速電子巡洋艦セリカの会議室に集まっていた。

 ワイバーンの会議室はコタツのせいでやたら和んでしまう為、真面目な会議にはあまり向かないんだ。

 船体が大きい分、こっちの方が広いしな。

 とは言えセリカの兵装やら電子戦能力とかは改装したが、内装を後回しにしていたので気取った飾り一つ無い、非常に殺風景な室内だ。

 今度内装用にも予算を取らないとな…


 集まっているのは『魔王軍』側が俺、ライム、リゼル、ミーゼ、アルテ、ワイバーン、それに護衛のメイド隊が後ろに控えている。

 『隠者の英知』側は首領のリョウと髭面の中年の副官、その他には中年から老人の歴戦の戦士や海賊風の男女が10人。

 そのうち半分はリョウと同じエルフ風の外見。もう半分が地球人風だ。


 海賊団とはいえ『隠者の英知』は長く続いている組織だ。

 各部門の責任者に年寄りが多くなるのは組織として自然な事だろう。


 リョウをはじめとして『隠者の英知』側は、誰も彼もが覚悟を決めた凛々しさと晴れやかさを持ち合わせた良い表情をしている。

 誰も保身に走るような言動をしない辺り、非常に好感が持てる。

 悪党は負けた後は潔い方が格好良いよな?



 とは言え困った。

 正直な所、ジャンプドライブの入手と主力戦艦対策ばかりで、海賊達の扱いを考えていなかった。


 ファンタジー的な山賊と大差ないような、普通の海賊なら何も考えずに賞金にしてしまうんだが『隠者の英知』の連中は能力的にも人間的にも非常に惜しい。



「そうだな―――」

 帝国の威信だの企業としての風評だのが頭を過ぎるが、そんなどうでも良いものは頭の片隅に投げ捨てる。


 こいつらは立派な悪党で、俺は魔王だ。

 そんなシンプルな構図で良いじゃないか。



 なら、やる事は一つだよな?



「リョウ。まず海賊団『隠者の英知』には解散して貰う」


「ま、仕方ねぇ。負けた海賊が看板下ろすのは普通の事だ」

 リョウの後ろの老海賊達もやれやれと溜息をついてやや寂しそうだ。

 長年の愛着もあるんだろう。


「配下の海賊達は民間軍事企業『魔王軍』に入ってもらう。

 真っ当な星系や企業の中でやっていけないヤツはリストアップしておいてくれ」

 海賊だけに白兵戦闘力だけは高いが、人殺しが大好きな人材とかもいそうだしな。

 俺の偏見だろうか?


「助かる。部下の連中の首が繋がるのなら土下座してもイイ位だ」


「幹部達には元海賊の連中を取りまとめをする管理職になって貰う。

 その方が元海賊連中もやりやすいだろう」


「……イイのか?幹部連中は基本俺の親戚連中だからよ。

 こんな世界で言うのも恥ずかしいが、賢者の血脈ってヤツだぜ?」

 戸惑い顔のリョウ。

 そうか、普通に魔王なら賢者の血脈とか根絶やしにするものだったな。


「本当にこんな宇宙戦闘艦の中で言うには恥ずかしい会話だな。

 場違い感が凄い」


「うるせぇ!つーか、魔王に言われたくねぇよ!

 魔王とか今時の子供すら騙せねえっての!」

 顔を赤くして怒鳴るリョウ。正論すぎて耳に痛い。


「ライム、自己紹介を。今度はしっかり頼む」


「ん」


「「「………?」」」

 不思議そうな顔をする『隠者の英知』一同。


「普通に挨拶するのは初めて。民間軍事企業『魔王軍』副代表の”勇者”ライムです」

 ぺこりと、行儀はいいのだが、見た目的に可愛らしさが目立つお辞儀をするライム。


「「「はぁ!?」」」

 『隠者の英知』皆が愉快な表情になっているな。

 非常識ファンタジーの世界でも、魔王軍の副代表に勇者が就いているのは、飛び切りの非常識だもんな。

 SF世界の住人達はまず勇者や魔王とか考えもしないから、今まで誰も疑問に思っていなかったけどさ。


「待て、待て待て待て!イグサてめぇ、勇者を捕らえているとか言ってたじゃねぇか!」

 あまりの驚きにリョウから神妙さが消し飛んだ。

 気安いが、リョウにはこの位の気安さが似合っているな。


「ああ、出会って初日に捕らえることになった。

 ここが中世ファンタジーの世界なら、捕らえた勇者を牢に閉じ込めてエロい事して過ごすけどさ。

 こんなSF世界だ。まともにやっているのも馬鹿らしいから、普通に働いて貰っているぞ?

 有能な働き手は多い方がありがたいからな」

 多分世界一有名だろうゲームに出てきたあの魔王も、世界の半分を差し出してまで勇者を部下に欲しがった位だしな。

 それにライムを牢に閉じ込めてエロエロな日々を過ごしていたとしたら、大っぴらに出来ない事が原因で魔王が討伐されていた可能性が冗談でなく割と高い。

 傾国の美女というにはライムの容姿では幼すぎるが、素養は高そうだ。


「詳しく教えろ、いや教えて下さい!つーか魔王の来襲と勇者の誕生に備えて800年以上待ってた俺達の立場がやべぇ!」

 800年以上?予想よりかなり長いな。



 詳しく説明するのも酷な気がするが、俺とライムが召喚された頃から出会い、勝手に宇宙戦争が始まってさくっと勇者に敗北印がついた事を『隠者の英知』の幹部達へ説明し始めたのだった。



―――



「「「……………」」」

 『隠者の英知』側の落ち込みっぷりがやばい。下手な葬式より空気が重いぞ。

 顔を覆っていたり、机に突っ伏していたり、リョウに至っては崩れ落ちて床に手をつけて沈んでいる。


 色々気まずい。文句は勇者や魔王を召喚したり敗北判定をするシステムに言ってくれ。

 あれもどういう仕組みで動いているかすら謎なんだよな……

 召喚とかもしてるし、魔法的な何かなんだろうか?


「なぁ、リョウ。”賢者”について教えてくれないか?

 魔王と勇者以外の召喚されたヤツに遭遇したのは初めてなんだ」

 魔物や悪魔は何度も召喚しているが、あれはこの世界で自然発生したり、魔法で生み出されたりした種族みたいだしな。


「ああ…うん。そうか、説明しねぇとな」


 声音が平坦になっているリョウが説明してくれた所によると。

 初代賢者も俺やライムが召喚された汚染惑星で、やはり異世界から召喚された人間だったらしい。

 伝承によると21世紀初頭の地球人で、その当時はファンタジーな中世世界だった汚染惑星でも飛びぬけて強い魔力と、豊富な魔法の知識を持っていたという。


 賢者の使命はシンプルに一つ。

 「いずれ召喚される勇者を助け、魔王と対抗する事」

 分かり易くていいな。少々面白みには欠けるが。


 初代賢者は魔法の訓練を繰り返しては実力を伸ばし、ファンタジー世界の知己を増やして、冒険者として高名になってと、異世界召喚された人間らしい成功譚を作り上げて行った。

 18歳で召喚されて、24歳で大陸を代表する冒険者になった。

 当事は魔物もいたし世界も荒れていたが、魔王も勇者もまだ居なかった。

 28歳で小国の革命に関わり、ファンタジー世界の住人に大賢者と呼ばれるようになったものの、まだ勇者は生まれなかった。

 32歳で長年パートナーとして一緒に冒険していたエルフと人間の女性の2人と結婚し、子供が生まれた時にようやく、自分の代で魔王と勇者が生まれないかもしれないと覚悟をしたそうだ。


 召喚されてから14年。

 話を聞く限り、なかなかファンタジー世界を満喫していたようにも思えるが、与えられた使命からの放置っぷりは涙を誘う。

 それ以来、賢者の一族は「やがてこの世に生まれる勇者と魔王を待つ」為にファンタジー世界でひっそりと暮らし、アドラム帝国が接触してきて汚染惑星が終焉を迎えそうになると宇宙に飛び出し、紆余曲折の果てに海賊団『隠者の英知』として賢者の血脈を保持しながらも勇者を待ち続けていたという。


 リョウは初代賢者から数えて7代目。

 初代が生まれてから800年以上経過しているのに、まだ7代目というのは代々の賢者襲名は寿命の長い長命種なエルフがして来た影響だという。

 何でも平時の賢者の襲名と魔法知識の継続はエルフ種が行い、勇者が生まれた際には人間種族の賢者の末裔から新しい賢者を襲名させ、使命を全うするという取り決めがあったという。


 そうして800年以上待ち続けてようやく遭遇した魔王と勇者だが、勇者は既に魔王に敗れていたし、魔王もSF世界すぎて普通に企業経営とかをしていた。

 ああうん……沈みたくもなるよな。


 ちなみに汚染惑星に召喚された俺とライムがノーマークだったが『勇者の召喚と魔王の降臨は汚染惑星または惑星出身の末裔がいる近く』と制約があるらしい。

 勇者の誕生を監視するのは、600年前に召喚されてやっぱり勇者の誕生を待っていた僧侶の後継者がしていたという話だが、遭遇してない所を見るとチェックから漏れたようだ。


「……え、僧侶もいるの?」

 驚くライムだが、ツッコミ所は賢者と僧侶の召喚に200年位ブランクがあった所じゃないか?


「いるぜ。っつーかこの世界で会社経営してるなら知ってるだろ?

 フィールヘイト宗教国、あれ作ったの僧侶の一族だぜ。

 あそこの宗教、色々言い回し難しいけどよ『いつか現れる勇者が世界を救うから、それをみんなで助けましょう』って内容の勇者教だしよ」


「……えー」

 凄く微妙な声になるライム。

 人口が兆単位の宗教国家に崇められているとか、嬉しいよりも気持ち悪いだろうな…


「ま、作ったのは僧侶の一族なンだけどよ。

 権力闘争や内部革命で、殆ど血脈尽きてンんだよな。

 180年位前に司祭が僧侶の末裔として連絡してきたのが最後だけどよ、そいつも数年で毒殺されたっつー話だしな」

 権力闘争って怖い。


「習慣つーか、伝統として勇者探しの仕事はしてくれてるみたいだけどよ。

 ……正直期待してないンだよな」

 理想像やら伝承は歪んで伝わるものだしな。


「リョウ、もしかしてあの汚染惑星がアドラム帝国とフィールヘイト宗教国の前線になってる理由って、そいつか?」


「ご明察、あの惑星は元々アドラム帝国のもンだが、勇者探しの伝統に拘るフィールヘイト宗教国が『聖地』扱いしてよ、長年奪ったり奪われたりしてンだよ」


「………ええー」

 段々肩が落ちていくライム。

 ライムが「魔王に負けた勇者判定」を受ける事になった宇宙戦争はライム探しの為のものだったとか、本末転倒すぎて笑えない。


「なぁ、フィールヘイトには勇者を探す手段とかあるのか?」

 幾ら数百年待っていたとしても、ライムを救世主いけにえとして差し出す気は欠片もない。

 狙っているのなら対抗手段を考えないといけないが―――


「ンな便利なものがあったら、俺らだってこんな辺境で暮らしてねぇよ。

 今じゃフィールヘイトにとって『国として都合が良い』ヤツを勇者扱いするンじゃねぇか?」

 現実の世知辛さの方が、ファンタジー的な要素を塗りつぶしているな。

 いや、楽で良いんだけどな?

 何かこう、釈然しゃくぜんとしないものがある。


「賢者の一族に関しても数こそ多いが、昔からそう変わってねぇ。

 魔法技術は衰退させないのがギリギリでよ。

 個人の才能の差が大きすぎるし、科学技術の方が大体お手軽に便利なンだよな」

 本当にそうなんだ。

 例えば惑星から惑星へ移動できる長距離移動魔法を使うには、才能に溢れた人間がその資質を全て『移動魔法系列』一点に集約した上で、長い研鑽の果てに習得できるかどうかとハードルが非常に高い。

 俺達みたいなファンタジー系のヤツはスキルポイントの操作で多少優遇されるが、魔王や勇者のような例外でない限りは、ステータス的にもスキルポイント的にも相当な苦労を伴う。

 なのに科学技術で代用するとICカネこそかかるものの、小型の戦闘機や輸送艦でお手軽に同じ結果を得られる。

 魔法技術を維持し続けられているだけでも十分凄い事だろう。


「俺らに関してはこンなもんだ。

 他になンかあるかい?」


「なぁリョウ。この星系にあるステーションや惑星は『隠者の英知』の所有物なのか?」


「惑星は基本ウチのもんだが、ステーションは『隠者の英知』を援助や応援こそしてるが独立してるぜ。

 うちは無法もできる代わりに無法もされる海賊だ。

 いつ何処の国にやられるか分からねぇし、いつでも『無法な海賊の支配から解放されて、国家に所属する』準備をしてやがるぜ」

 支配していた海賊団を倒したら丸ごと全部入手できるなんて、都合の良い話にはならないか。

 ファンタジー的に例えるなら、街を支配している領主と騎士団を倒しても街の店や住人を入手できる訳じゃないという所だな。


「リスク管理がしっかりしているな。

 このご時勢に好き好んで海賊団と一緒に討ち死にする酔狂者も少ないか」


「あー………っつーかよ。ここの会議室に集まった人数見れば分かると思うけどな、ウチは歴史が長い分血族やら親戚やらがやたら多いンだ。

 しかもその半分は俺みたいな長命種でさ、100年200年前の親戚が普通に生きていてよ。

 オヤジから俺に当主交代する時に、兄貴達や叔父叔母連中がステーションや事業の権利持って海賊から足洗っちまってさ……」

 世知辛い上に生々しい話だ。


「……なぁ、賢者として戦わないといけないのは魔王じゃなくて、もっと別の何かじゃないのか?」

 魔法や剣より法律家とかが武器になりそうな戦いだが。


「言うなよ。

 てーか、そういう世界が好きじゃねぇから海賊やってたンだしよ。

 ってな訳で『隠者の英知』としての所有物は惑星と2つあるパワープラントの両方、後はアルビオンをはじめとする戦闘艦や戦闘機。

 後は補給艦に輸送艦の類が少々って所だ」

 

「人件費とか維持費はどうやって賄っていたの?」

 そこに注目してくれるようになったライムの成長が嬉しい。


「国と大差ねぇよ。『隠者の英知うち』が星系の防衛とかの軍事力を一手にになう代わりに、税金みたいに各ステーションから星系維持費を払って貰っていたンだ。

 それでもキツい時は『獣道』にちょいと出稼ぎしてたけどよ」


「……帳簿見るのが怖い」

 同感だ。さぞや真っ赤な数字がおどっているんだろうな。


「ああ、後な。13個ある居住可能惑星のうち9個は『独自の未開文明』が育ってるから、手出し出来ねーぜ?」

 かつての汚染惑星のような例外はあるが、惑星に独自の未開文明がある場合、自力で宇宙へ出てきて生活圏を広げられるレベルになるまで、積極的な干渉をしないのが宇宙では一般的なルールだ。


 未開文明を見守るとか高尚な理由ではない。もっと即物的な理由だ。

 干渉して技術供与とかすると、それまで持っていた技術や文化が廃れてしまい、干渉した国の劣化コピー的な文明に技術体系になってしまうケースが多いという。

 独自の文化や技術をそのまま発展させると、たまに遺失技術に近いものが発明されたり、宇宙でも通用する新文化が生まれたりする。


 ばっさりと一言で言ってしまえば「収穫するなら実のなる収穫の時期を待ちましょう」という事だ。

 1つの星系の中に9つの独自の未開文明惑星があるというのは、非常に稀少で将来が楽しみではあるが―――


「現状では不良債権も良い所だな」

 未開文明が宇宙で通用する文化や技術を開発するまで、余りにも時間がかかりすぎる。


「否定はしねぇ、つーかできねぇ」


「残り4つの惑星はどうなんだ?」


「環境も良いし緑も豊かで、ちょいと開発すりゃ居住から観光用にまで何でもイケそうなイイ所さ。

 俺も子供の頃は何度か遊びに行ったしな。

 ま、問題は立地じゃねぇ?」

 この星系は無法な海賊多発地帯の『獣道』の中にある。

 気軽に観光に訪れるには少々ハードルが高い。


「……せめてパワープラントは普通か?」


「ここまで来ると怪しむなっつー方が無理だと思うけどよ、パワープラントは太陽光式の普通のもンだぜ。

 軍事力だけじゃどうしようもねぇし、インフラの1つ2つ押さえてないと海賊団として色々ヤバくてよ」

 軍事力だけだと国に『解放』された方が利益が出る場合、最悪後ろから刺されかねないよな。


「―――まあ、何とかなりそうだな。

 よし、まず『隠者の英知』の25%を『魔王軍』に直接吸収する。

 残りの75%のうち、50%は星系の自衛軍に切り替えろ。

 この星系ごと中立自治星系化させる。幹部連中には人材の割り当てや統率を頼むぞ」


「50%ありゃ自衛くらいはできそうだな。

 中立自治星系化って…できンのか?」


「ここ位、立地条件が悪ければ何とかな。

 根回しはウチでやっておくさ」

 ここ最近の交易で『魔王軍兵站課』が大きな利益を上げているが、その傍らであちこちのステーションや惑星と、その管理者や権力者と縁が出来ている。

 アドラム帝国だけに限らず、フィールヘイト宗教国やコランダム通商連合国など各国で、政治家やら権力者に甘い汁を吸わせているからな。

 ……清廉潔白を通すよりも甘い汁を吸わせた方が、色々スムーズに物事が進んで結果的に利益が拡大する辺りが世知辛い。

 SF世界なのだから理想的とまでは言わないが、もう少し腐敗してない権力構造になっていて欲しかったものだ。



 魔王としても企業家としてもやりやすくて良いんだけどさ。

 SF世界的な幻想ゆめというか…な?分かるだろう?



―――



「残りの25%は希望者を募って海賊稼業を続けて貰う。かなり特殊な海賊家業になるけどな」


「海賊業続けられるって言えば、ウチの連中には大喜びしそうなのが沢山いるが、イイのか?」


「なぁリョウ。今いる大半の海賊がやってる、海賊業はあまりにも原始的過ぎると思わないか」

 これは俺が常々思っていた事だ。


「ああ、仁義のねぇ海賊は多いな。つーっても仁義守ってもメシは食えねぇし、懐も暖まらないけどよ」

 リョウが何気なく言った言葉、まさにそれこそが核心だ。

 

「そうだな。なら、仁義守った方が懐も暖まるし物資も得やすいとしたら、海賊達は変わると思うか?」


「は?」

 絶句するリョウ。冗談か?と俺の目を覗いて来るが、どこまでも本気なのが分かったんだろう。


「―――3割、多く見積もっても4割位なら変わると思うぜ。

 残りは今の海賊家業が気に入ってるか、お利口な考えが出来ない程度の連中だ。

 イグサ、てめぇ何考えてやがンだ?」


「海賊達が襲った船員を皆殺しにしたり、凶行ばかり目立つ原因の一つは各国の海賊への姿勢だろう。

 アルテ、アドラム帝国と周辺国の対海賊姿勢はどんなものだ?」


「はっ。アドラム帝国、フィールヘイト宗教国、ユニオネス王国、コランダム通商連合国、全てにおいて海賊とテロリストとは交渉せず、取引に乗らず、ただ殲滅するのみ。

 見敵必殺であります」

 背筋を伸ばしたアルテがきびきびと答える。


「正しいな。確かにその姿勢は正しい。

 正しいが―――

 実際に海賊に人質になった被害者や、家族が人質になった被害者の関係者は少々意見が変わってくるだろう?」


「国の威信よりも自分や家族の命なのですよぅ」

 リゼルの発言が大体このSF世界の住人の本音だろう。

 国に忠義を尽すような文化形態が廃れて久しいらしいしな。


「捕虜をIC(カネに変えられる交渉窓口、海賊に対して闇ブローカーよりも”良心的な”値段で物資を提供し、奪った物資を比較的マシなレートで買い上げるバイヤー、それを一手に引き受ける組織の設立をする」


「法律的にグレー越えて真っ黒なのです。

 普通の国の中ではとてもできない業務形態なのです」

 法律的に抵触ていしょくする意味ならブラック企業呼ばわりも上等だ、何せ魔王軍だしな。


「そして組織と取引する為の条件をつける。

 条件は『仁義を守る事』それだけだ。

 仁義と言っても最低限、素直に降伏したヤツに危害を加えない程度のものばかりだろうが、今の無法よりは余程マシだろう?」


「……」

 『隠者の英知』側からは低い呻き声や考え込むような唸り声が聞こえる。


 リゼルに「その笑い方は怖いから、ステーションでしないで下さいよぅ」と言われた笑みを浮かべつつ、足を組んでミーゼを手招きする。


「(こくこく)」

 察したミーゼが膝の上に乗ってきてくれる。

 やはり悪巧みをするならこの体勢は外せないな。

 それに最近この体勢だと落ち着くんだよな……



「そう、古典的な物語に出てくる癖にこの世界には無い『海賊ギルド』を作ろうじゃないか。

 これだけ非常識ファンタジーな連中が揃っているんだ。

 1つ2つ御伽噺おとぎばなしを再現しても構わないだろう?」

 足を組み幼子を膝の上に侍らせた『悪の総帥スタイル』でうたうように言い放つ。

 ああ、俺。悪として輝いているぞ…!



 かつて俺はこの世界の海賊のあり方に失望した。

 なら、俺の心がときめくような海賊組織を作ったって良いだろう?



「この近くに作るとしたら、アドラム帝国、フィールヘイト宗教国、コランダム連合国はどうするんだい?

 そんな組織を作ったら黙ってる連中じゃないよ」

 『隠者の英知』の幹部の一人、恰幅の良い初老の女性が小さく手を上げて質問してくる。


「表向きは『獣道』内に本拠を置く企業にする。

 そうだな、登録上の名前は『ハーミット海難保障』とでもしようか。

 各国には帳簿上の海賊被害者数の低下で納得して貰う。

 海賊被害が飛躍的に拡大している今がチャンスだな。

 税金と賄賂をしっかり払っておけば『獣道』の奥までちょっかい出す酔狂な国もいないだろう」


「確かにねぇ。うちみたいな海賊一本だときついが、まっとうな民間軍事企業の関連会社ならいけそうだね」

 納得する初老の女海賊。

 維持管理費が収入を上回ってしまうからこそ、放置されている『獣道』だしな。


「海賊達にはどンな餌ぶら下げて言う事聞かせるンだ?」


「さっきリョウが言っていただろう?仁義を守っていてもICカネにならないってさ。

 なら、海賊が仁義を守ればICカネになる仕組みを作るまでだ。


 皆殺ししないで非戦闘員を捕虜にした方がIC(カネになる、捕虜に手出ししないで綺麗なまま返した方が価値が高くなる、奪った荷物も適当な闇ブローカーに流すよりギルドに買い取って貰った方が買取額が良い。


 後はそうだな、ギルドで海賊の格付けをして格が高い海賊には艦船や戦闘機、補修部品類の販売とかで便宜を図る。

 これを国や政府機関、大企業がやったなら反発喰らうだろうが、歴史のある『隠者の英知』が始めたってなら海賊連中も納得するんじゃいか?」


「海賊として利益的にも情的にも問題ねぇ。っつーか諸手あげて歓迎しそうだな。

 でもよ、捕虜の移送や物資の搬入はどうす………」

 途中でリョウも気が付いたようだ。


「そうだ。ジャンプドライブつきの大型輸送船と、物資を動かす先。

 どこかの勢力圏内に交易用の本拠地があればいけるだろう?」

 愛着を感じてきた『船の墓場星系』にある『ヴァルナ』ステーションを利用するつもりだ。

 『ヴァルナ』ステーションに限らず『船の墓場星系』周辺のステーションや、警備艦隊とかには人脈コネが沢山あるからな。


「なるほどな………なぁ、ここまで見越してうちに侵攻してきたのかよ?」


「いや、今思いついた」


「「「思いつきかよ!!?」」」

 海賊達から総ツッコミを受けてしまった。

 いいじゃないか、丸く収まりそうなんだしさ。




 ここで海賊達を全部吸収して軍拡するって手もあった。

 だが、浪漫を優先する方が俺らしいだろう?




勇者パーティの最大の敵は時間と世代交代と権力闘争だったようです。

ジャンプドライブ云々は次話から本格的に。

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