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34話:魔王、海賊の首領と一騎討ちをする

4話同時投稿です。話数にご注意下さい。



「敵艦載機はほぼ無力化されました。残存的戦力の追撃中です」


「アルビオンへ対艦攻撃中のドローン隊損耗率8%、敵艦表面での爆発を複数確認。

 このまま削りきれるであります」


「順調だな。負けない算段をしていたんだから当たり前だけどな」

 投影ウィンドウの向こうでは、アルビオンがイナゴの大群に襲われた農地のように、雲霞うんかの如く押し寄せたドローンゴースト達にまとわりつかれて被害を出し始めていた。

 アラミス、ボルトス、アトスの改装大型輸送艦から各4500機、ダルタニアンからも2000機射出した、合計15500機に及ぶドローンの物量はまさに圧倒だった。

 うち3000機位が敵の艦載機を追い回しているが、こちらも目立った被害なく追い詰めている。

 圧倒的ではあるし、この光景は浪漫の産物でもあるんだが何か一味―――


「敵艦に再度高エネルギー反応、艦首にエネルギーが集中しているであります!」


『アルビオンのオペレーティングデーター取得中。対要塞級のレーザー砲がこっち狙ってます!』

 セリカの悲鳴と共に投影ウィンドウに映し出されるのは、アルビオンの艦首が展開してそこから顔を出した、巡洋艦位なら砲身の中に入れそうな馬鹿みたいに巨大なレーザー砲の砲塔。

 そして、砲身の周囲に展開する巨大な複層魔法陣―――魔法陣だと?


『法理魔法発動:魔法解析Ⅷ

 解析結果―――法理魔法系:光属性増幅陣』


 間違いない、あれは魔法だ。

 この世界で普通に俺やライムが魔法使えていたから、この世界で広まっているSF世界な科学法則とは別に、魔法的な技術の持ち主がいてもおかしくないと思っていた。

 思っていたがタイミングが悪いな、いやボス戦らしくなってきてテンション上がりもするんだが!


「各艦全力回避!ボルトス、アトス、アラミスはワイバーンの後方にしっかり隠れろ。

 各艦にいる魔法使えるヤツは光系の耐性魔法を力の限り重ねて張れ!」


『祈祷魔法発動:光の城壁Ⅹ/重複展開Ⅸ』

『祈祷魔法発動:守護の盾Ⅷ』

『法理魔法発動:鏡の鎧Ⅸ』


 ワイバーンの前方に光で出来た巨大な壁の幻影が、幾つも重なって出現するとほぼ同時に投影ウィンドウ越しに見える世界から光が消える。


 ―――人の心臓が鼓動を1回か2回鼓動する程度の刹那、宇宙が闇に包まれた。

 そして、闇が塗りつぶすように暴力的な程の光が満ちる。


 アルビオンの巨大艦首砲から極大な青いレーザー光が撃ちだされた。

 半径数百メートルにも及ぶ、レーザー砲と言うには太すぎる光の奔流が、宇宙を光で埋め尽くしながら接近。

 余波で近くにいた運の悪いドローンゴースト百機近くが、爆散する事も許されずに蒸発。

 さらにその周囲の数百機が爆散して宇宙に炎の花を咲かせる。


「至近弾きます、左舷に接触!」

 一直線に向ってきたレーザーは、ワイバーンのシールドを掠めるように命中して、防御魔法にシールドとエネルギーがせめぎ合う。

 レーザーとはいえ、膨大すぎるエネルギーの余波でワイバーン内が激しい振動を起こす。


「シールド低下中、削り取られそうです!

 シールドジェネレーター緊急出力、220%までオーバーブースト!

 後で分解整備してあげるから耐えてくださいよぅ!」


「左舷装甲表面融解中。左舷装甲の23%を喪失したであります!」


「アルビオン艦首レーザー砲掃射の終了を確認。

 艦内の被害状況チェック開始します」


「高速巡洋艦ベルタ、砲撃余波を受けた模様、艦首大破、その他損害不明!」


「アルビオン艦首で小規模な爆発を複数確認。

 あちらにとっても負担の大きい攻撃だった模様なのです」

 膝の上でちまちまと投影ウィンドウを操作しているミーゼは流石に冷静だ。

 その冷静さに免じて体が小刻みに震えてるのは、気が付かないフリをしてやろう。


 しかし、まずいな。

 今の攻撃はアルビオンでも連射できないようだが、何度も食らうのはやばそうだ。


「ライム『主砲』を頼む、配置についてくれ」


「ん。行ってくる」

 ライムがワイバーンの通路へと走って行く。


「ドローンゴースト第38対艦攻撃隊より連絡、アルビオン上部第8セクターのシールドジェネレーターを破壊!」

 良いタイミングだ、この時を待っていた。


「アリア、セリカ。艦首イオン砲全力掃射。目標アルビオン上部、第8セクターだ!」


『『はい、魔王様!』』

 アリアとセリカの艦首装甲が展開して、戦艦級の出力とサイズの砲身が顔を出す。


「撃て!」

 アリアとセリカの艦首砲から圧縮されたイオン粒子が、アルビオンの装甲上へとビームのように掃射し続けられていく。


『アルビオン第8セクターに直撃、付近のシールドジェネレーターが機能停止しました。

 修理を人力でやってるみたいで、復旧までの時間不明ですー!』

 戦闘しながらもアルビオンの情報察知を続けているセリカが叫ぶ。

 機械的な修復ならセリカのハッキングで調べられるが、人力でやられると調査不能なのは仕方ないな。

 だが、一時停止で十分だ。


「アルテ、ワイバーン全速前進、アルビオン上部に乗り付けろ!」


「あいあいさーであります!」

 漂流している敵艦載機地帯を避けるようにして、散発的にビームやミサイルが飛び交う中、ワイバーンが推進器から大きな噴射炎を吐き出しながら加速する。

 散発的に飛んでくるビームも一本一本がワイバーンの主砲より強力そうなあたり、アルビオンの性能との差を感じるな。

 いやこの性能差を苦しいと思うよりも、既に楽しいけどな!

 小型艦で大型戦艦に挑むとかファンタジーではないが、SF浪漫情緒たっぷりじゃないか!


「シールドジェネレーター調整中、頑張ってなだめているけど、いつ動作停止してもおかしくないですよぅ!?」


「リゼル、後少しで良いから持たせてくれ!」


「ライム『主砲』を任せる、アルビオンの上部甲板にある砲を薙ぎ払ってくれ!」


『頑張る』



―――


>ライム


 ワイバーンの上部甲板から見えるアルビオン周辺は賑やかだ。

 アルビオンの対空砲火で撃墜されて火球になるドローンゴースト、光のシャワーを降らせるドローンゴーストの対艦攻撃、迎撃されたミサイルがアルビオンの船体周囲のあちこちでも小さな爆発を起こして花火みたいに光ってる。


 宇宙空間にエネルギーの風を感じて、乱れた前髪を整えていると通信が入った。


『ライム『主砲』を任せる、アルビオンの上部甲板にある砲を薙ぎ払ってくれ!」

 通信越しに聞こえるイグサの声。

 特筆する程美声ではないのに、どんな雑踏にいても「あ、これはイグサの声だ」って聞き分けられる不思議な印象を受ける声。


 そして、どんな時でも憎たらしい位に余裕綽々なイグサが私に頼んでいる。

 この場面を任せるのは私しかいないと、頼ってくれている。

 たったそれだけの事で胸がどうしようもなく熱くなってくる。


 まったく、1年位前の私が今の私を見たら、きっとこう言うだろう。

 私はこんなに単純な性格しているの?

 これじゃまるで恋に恋するお手軽な少女じゃない、ってね。


 今の私はこれが良いって本気で思ってるから救いようがない。

 熱くなった私の胸から出てくるのは嬉しい、嬉しい、嬉しいと洪水のような歓喜。


「任せて」

 色々言いたすぎて、結局シンプルになってしまう返事をする。

 聖剣を鞘から抜くと、黄金と蒼色の粒子が周囲に溢れ出していく。


 私の勇者としての本質は「私が助けたいと思う人を助ける事」

 普段から余裕ぶってる癖にいつもギリギリだったり、見えない所でこっそり自分が頑張ってる、見ていて色々心配になるイグサを助けたい、手伝ってあげたい。

 ―――私がこの手で守ってあげたい。そんな想いを勇者の性質が力にしてくれる。


 今の私ならどんな事もできる、そんな恋心が生み出す万能感が体に満ちていく。


「聖剣解放―――」

 胸を焦がす想いが溢れそうになるほどに、蒼い粒子が黄金色を塗りつぶす程に広がっていく。



―――



 待機していたライムが、あちこちビーム焦げやレーザー焼けがついたワイバーンの上部装甲に立ち、聖剣を構える。

 既に技…というかスキル発動状態になっているのだろう。

 白い刀身をした聖剣を引き抜くと蒼と黄金の粒子が周囲へ溢れ出す。


『聖剣解放―――ソードブレイカー!』

 ライムが放つ、蒼と黄金の入り混じった幾百もの光が五月雨のようにアルビオン上部へ降り注ぎ、主砲や副砲を”切り裂いて”吹き飛ばす。

 魔法防御力がなければ聖剣の攻撃を止められないらしいが、そもそも戦艦の砲を剣で斬り飛ばす事自体、非常識ファンタジーな光景だ。


「良くやった。ライム、船内へ戻ってくれ」


『後でたっぷり褒めて』


「ああ、良い仕事をしてくれた。今は忙しいから後でな」


『今の言葉を忘れないで。約束』

 ……普通に褒めただけなんだが、何故か地雷を踏んだ気がする。

 気のせいだよな?

 まあ良いか、今は目の前の事に集中しないとな。


「ワイヤーアンカーを出せる距離まで接近、ぶつけないように注意してくれよ。

 近接レーザー砲塔全力稼動、ライムが潰せなかった小型対空火器を片っ端から黙らせろ!」

 ワイバーンをアルビオンの上部甲板に接近させながら、ワイバーンの固定砲がレーザーを大量に降らせて、アルビオン上部甲板の小型対空砲群を破壊していく。


「アルビオン上部甲板との相対距離200m以内に接近、対象装甲上のシールドダウンを確認。

 ワイヤーアンカー射出、船体接舷開始であります」


「着地脚展開、装甲板に直接貼り付けろ!

 船体下部主砲展開、射撃準備。準備だけで良い、どうせ脅しだ」

 ワイバーンの装備している巡洋艦レベルの主砲でも、シールドが消失した上にこの距離で連射されれば、アルビオンのような大型戦艦でも致命傷になる。

 喉元にナイフを突きつけた状態だ。


「ルーニア、アルビオンに通信を繋いでくれ。

 勢いの良いBGMも頼む」


「はい社長、任せておいて!」

 悪ノリ仲間の牛娘(妹)なルーニアなら、意味も無いが盛り上げてくれるだろう。

 戦闘というものは効率を求めていくと、行動から余裕というものが削れていくものだが、それじゃ浪漫がないよな?


「通信繋がりました。メインウィンドウを開きます」

 通信に出たのは海賊団首領のリョウだった。

 相変わらずチャラさが半端無い。

 普通の艦長や首領なら戦闘中は顔色悪かったり、逆にギラギラとしていたりするんだが、どうにも肩の力が抜けている印象だ。


『よぉ、降伏勧告かい?できりゃぁ逆の立場で言いたかったんだがよ。

 けどよ、最後の接舷はなんだよ?武装解除に乗り込むにしては気が早くねぇか』

 やれやれと肩をすくめてみせるリョウ。

 普通ならここは降伏勧告する所なんだろうな。

 あのまま戦闘を続けていれば、ドローンゴーストの物量でアルビオンは沈んでいただろう。

 随伴艦との戦闘をしていた巡洋艦アリアとベルタも投入していれば、アルビオン艦首砲の再発射も間に合させずに轟沈させる事も出来た。

 だが、今回の目的は海賊討伐じゃない。

 それにまだもう1つ位、山場があってもいいだろう?


「いいや、用件は降伏勧告じゃないぞ?」


『なんだよ?他の心当たりはねぇぜ』


「民間軍事企業『魔王軍』代表イグサが、海賊団『隠者の英知』リョーカンに一騎討ちを申し込む。

 場所はアルビオンの甲板上、乗り物も飛び道具もなし、敗者は勝者に従うって条件だ。

 どうだ、乗るか?」


『くふっ、ははっ、はははははは!

 何だよそりゃ、イグサって言ったか、どこまで酔狂になれば気が済むんだよ!

 ああ、だが上手い手だ。ちくしょう、その手があったかよ。

 海賊って連中は馬鹿が多いから普通に降伏させても使えねぇ、っつーかお荷物になるだけだ。

 けど、連中にも分かり易い馬鹿な手で降伏させりゃ言う事聞くよな。

 しかも、この負け戦の状況だ。

 勝てば起死回生の一発になるし、俺は受けるしか手が無ぇじゃねぇか!』

 心底楽しそうな笑顔を浮かべて笑うリョウ。

 そう、海賊を降伏させるには、反抗する気にもなれない圧倒的な戦力差を持ってくるか、皆殺し一歩手前まで追い込む事が必要だ。

 降伏した海賊の処遇は大抵悲惨な事になるからな、今のように明らかに負け戦でも降伏はし辛い。

 

 だが、大時代的なボス同士の一騎討ちで負けたという「理由」があれば海賊達も降伏しやすい。

 それに、魔王軍は民間軍事企業だ。

 できるだけリスクが少ない方がいいし、ドンパチは控えめにして経費は軽い方が良い。

 その上で浪漫を満たせる最高の手だと思うんだが、まだリョウは笑ってるな。

 何かツボに入ったのか?


『よぉし、その勝負受けた!『隠者の英知』首領リョーカンが『魔王軍』代表イグサとの一騎討ちを受けて立つ!

 オペレーター、全艦に戦闘停止命令と映像配信の準備しやがれ!

 ガタガタ言うヤツがいたらぶン殴って静かにしろ!』


「ユニア、こちらも戦闘停止命令を出してくれ。

 リョウ、お互い救護機は仕事させるようにしないか?」


『そいつぁウチに嬉しいけどよ、良いのか?』


「折角の舞台だ、観客が減ったらつまらないだろう?」

 俺の言葉にリョウは再び破顔した。


『違ぇねぇ。勝負は30分後、俺も化粧とかあるから少し時間くれよ?

 場所はアルビオンの甲板上、近くにいる見届け人はそれぞれ1人。

 獲物は白兵用なら何でも、飛び道具はご法度、異能や超能力とかはあれば使え。

 こんな所で良いかよ?』


「十分だ、また後でな」


「通信停止しました。社長、ライムさんに頑張って貰うんですか?」

 海賊にとって好条件な一騎討ちに心配顔の、オペレーター牛娘(姉)のユニア。


「俺が行く。向こうも首領が直に出てくるから、ウチも代役はなしだ」


「イグサ様の能力を疑う訳ではないのですが、大丈夫でありましょうか?

 向こうは指揮官とはいえ海賊の首領、軍隊程ではありませんが戦闘のプロであります」

 同じく心配顔のアルテ


 ………あれ?ここってお任せしますって送り出してくれるシーンじゃないのか?

 もしかして俺信用されてない?っていうか素直に心配されてるのか。


「おにーさん」

 膝の上にいたミーゼは物知り顔で上目遣いに見てくる。

 ミーゼは分かってくれるよな!


「ここで勝てれば後が楽だけど、危なくなったら逃げても何とかなるのです。

 セリカおねーさん。アルビオンのジャンプドライブを探して、オペレーター権限のプログラムの上書きによる操作権奪取オーバーライド準備して下さい。

 イザとなったらどっかの辺境にジャンプさせて逃げるのです」

 既に逃走の算段をされていらっしゃいました。


「イグサ、普段から人に任せすぎ。日頃の行いが大事」

 主砲役から戻ってきたライムがしたり顔で言っている。

 澄まし顔をしているが、かみ殺した笑いで肩が小刻みに震えているぞ。

 ライムが剣の訓練する時は俺が相手しているので、スキル任せとはいえ魔王の実力を知っているのが勇者だけというのは、少々切ない。


「……行ってくる」

 せめてもの格好つけにスーツコート風になってる魔王の衣をばさりと翻して、エアロックに向う。

 背中に突き刺さる、初めて買い物をする小さな子を心配するような視線が心に痛い。



―――



「よっ、と」

 ワイヤーアンカーと地上着陸用の接地脚で、アルビオンの上部甲板に張り付いているワイバーンのエアロックから甲板までの高さは5mほど。

 アルビオンの擬似重力発生装置が動いているので、この期に及んで着地失敗しないように慎重に飛び降りる。

 既にワイバーン側からもアルビオン側からも、映像配信用のカメラが向けられているだろうから、油断して足を滑らせて顔から着地とかしないように気をつけないとな。

 そんな無様な着地をした上で相手に心配されたら、心が折れてしまいそうだ。


『待ってたぜ。ってかその格好で大丈夫なのかよ』

 吹きさらしのアルビオン上部甲板に待っていたのは、黒を基調に金で縁取りされたいかにも高級そうな装甲戦闘服。

 片手にサーベルを持ち、背中に大きな両手斧を背負っている。


「見ての通りだ。この手のずるを出来るのはお互い様だろう?」

 遮断フィールドを展開して呼吸可能大気の放出とかしていないので、普通に真空だが適応魔法を使っているので苦しくもない。

 コートやスーツ部分とかも、空気があって風が吹いているような動作しているんだが、魔法に深くツッコミを入れたら負けだ。


『ああ、うん。そっちもなんだが、装甲服とか良いのか?

 どう見ても繊維服でしかさそうなンだけどよ』


「これも特製なんだ。下手な装甲服よりは頑丈さ」

 魔王の衣だしな。レーザーやら光属性への防御能力には若干不安が残るが。


『ならイイんだけどよ。うちの見届け人は副官のコイツだ』

 数歩離れた位置に立っている、金属地の無個性な装甲宇宙服を着たガタイの良い中年男性が頭を下げる。

 髭面のいかめしい、いかにも海賊!という見た目だな。

 副官という所が残念だが、海賊としての見た目で満点をやれる。


「ウチのは…って。やべ、ブリッジに置いてきたな」


『空間魔法発動:影の回廊Ⅵ』

 足元に出来た影に手を突っ込んで、首根っこを掴みライムを引っ張り上げる。

 影が必要だし近距離でしか使えないが、自分の持ち物を召喚する魔法だ。

 使い魔だとギリギリ使えないが、ライム位に深い所持契約してあれば持ち物扱いで引き寄せられる。

 どこかの未来な青狸の道具にも似たようなものがあったな。


「挨拶はさっきしたよな?うちの見届け任をする副代表のライムだ」


「イグサ、人を忘れた上にこの扱いは酷い」

 じっとりとした視線を送ってくるライムから顔を背けて話を進める。



『なんつーか、色々ツッコミ所が多いンだけど、多すぎてツッコミきれねー』

 悪いな、非常識ファンタジーで。そっちも魔法を多少使っていたし、この位は許して欲しい。


『ううん。これから殺りあおうってンだ、細かい事はイイか―――』

 小さく咳払いをして気を取り直したリョウが気合を入れるが、良いタイミングで投影ウィンドウが俺の回りに連続で開く。



『社長、本当に無理しないで下さいね?少しの怪我は仕方ないけど、本当に命は大切にしてください』

 心配で仕方ない顔のユニア。

 ただでさえ自分に自信のない新任女教師という雰囲気に見た目なのに、心配そうな顔をされるとそのものにしか見えない。


『イグサ様、命あってのものだねです。危なくなったら逃げて下さいよぅ』

 待てリゼル、ライムと同じで一番古い付き合いなのに、何故そこまで信用がないんだ。


『魔王様、どうかご武運を。でも武功より怪我しない事が一番です』

 セリカもか。


『どうかご無事で、帰ってきてくれたらご褒美に夜這いさせて貰います!』

 誰だ変なフラグ立てっつーか夜這いするとか言ってるの!?

 サウンドオンリー…待て、逆探知させろ!


『社長が帰ったら、私社長と結婚するんです』

 だからフラグ立てに便乗するな、ってか結婚しないし心当たりは……色々あるが、する予定はないからな!

 これも画像なしか、誰なのか気になるだろう!?


 携帯端末を弄って、色々カオスは言葉が飛び交う投影ウィンドウを閉じる。

 最後の方に戦闘以外の不安要素が出ていた気がするが、この際忘れる事にする。



『なぁ、すっげーやり辛いンだけどさ、そういうのは先に済ませておいてくれねぇ?』

 やたら苦い顔をしているリョウ。

 人情話とかそっちに弱いのだろうか。


「悪い。普段デスクワークばっかりで信用が無かったらしくてさ」

 本当に悪い、盛り上がりに水を差してしまったな。


『ああ、分かる分かる。オレも年寄り連中に「若に任せるなんてとんでもない、ワシが出れば十分です」とか色々止められてよ。

 でもよ、こーいうのは指揮官の仕事じゃないけど、一番美味しい所だし人に譲れねぇだろ?』


「当たり前だ、効率優先かただの無計画ばかりのこの世界で、こんなに賭けるものが大きい酔狂な勝負なんて探しても早々ない。

 この舞台を人に譲れる程謙虚じゃないさ」


『だよなぁ、よっし、気合入りなおしたぜ。

 海賊団『隠者の英知』首領にてアルビオン艦長リョーカン。

 民間軍事企業『魔王軍』代表イグサの一騎討ちに応じる!』

 背中に背負っていた巨大な斧を片手に構えるリョウ。

 流線型の大斧は刃の部分を白熱させていく。

 ヒートアクスだろうか?趣味の武器だな。


「なぁ、リョーカン。もっとシンプルで馬鹿らしく、こんな舞台にもってこいの肩書き持ってるだろう?

 『魔王軍』代表”魔王イグサ”一騎討ちの受諾に感謝する!」


『創生魔法発動:長剣創生Ⅵ:炎/闇属性』

 横に突き出した右手の先に魔法陣が生まれ、ずしりとした重みの闇色と紅色の光沢を持つ金属の長剣が手の中に納まる。


『おいおい、ただの洒脱かと思ったら直球かよ、しかも魔王様が気軽に来るとか気軽すぎねぇか?

 ああ、馬鹿らしい肩書きがあるぜ!

 魔王相手なら不足ねぇ、『隠者の英知』7代目”賢者”リョーカン、勇者もなく賢者単体ってのは御伽噺おとぎばなしにしちゃ役者不足だが、魔王に一つ挑ませて貰おうか』

 魔法使いかと思っていたが賢者だったか。

 ……チンピラとか盗賊の方が絶対似合っているよな。


「いいや、御伽噺にしたら上出来だ。

 何せ賢者が導き助言する勇者は既に魔王に捕まっているからな、解放するってシチュエーションは良いものだろう?」

 まあ、勇者様は隣で見ている訳だが。


『上出来すぎて色々怖くなるじゃねぇか。

 ついでに、それも戦う理由に追加させて貰うぜ』


「むー」

 あ、ついで扱いでライムがむっとしている。

 気持ちは判るが静かにしていてくれ。今良い所なんだ。



「いざ尋常に―――」

『勝負!―――』

 お互いに走って距離を詰め。


『賢者らしく小手先の技も豊富だぜ。

 賢者リョーカンが世界の法を操作する、我が肉体は万夫不当、法理魔法発動:総合身体強化Ⅲ』


『法理魔法発動:魔法解析Ⅷ』

『法理魔法発動:総合身体強化Ⅲ』

 リョウが賢者―――近接戦闘も出来るっぽいので、魔法戦士型だろうと思っていた。

 使用魔法を解析して、同じだけの身体強化を発動させる。


 リョウが大型のヒートアクスを、まるで新聞紙を丸めた棒程度の気軽さで振り回す。

 一撃一撃が肉体にとって致命傷になる斧の攻撃を、長剣で弾き受け流して捌く。

 受け流すたびにアルビオンの装甲板に深い傷が入ったり、構造物がバターみたいに溶けて行く。一見普通のヒートアクスだが、どんな威力しているんだ?


 俺とリョウがやっている事はまるで、念密な打ち合わせと練習をした殺陣だ。

 少々周囲への被害が大きいが、剣と斧を使った舞踏にも見えるかもしれない。


 振り下ろししてくるリョウの斧に刀身を当てて、横に力を入れて受け流し。

 受け流した勢いで螺旋を描くように突いた長剣の剣先を、リョウが斧の柄で受け止める。

 そのままお互いに距離を取り、リョウが振り回した斧をしゃがんで避けて、さらに切り返しで足を狙ってきた大降りを今度は飛んで避ける。

 体勢を崩したリョウへ3連で突きをするが、斧とは逆の手で持った、大きなハンドガードが付いた剣で受け流され、横にした斧の刃で受け止められ、3回目は剣を巻き込むように武器落としを狙ってきたので、逆方向に捻って突き出した剣を引き戻す。

 そんな剣戟の応酬をお互いに20手ずつ繰り出した所で、示し合わせたように同時に後方へ飛びのいて距離を取る。


「悪いな、俺は武闘派の魔王じゃないから、小技はこっちも得意なんだ」

 リョウの剣と斧のスキルは3から4位か。

 スキルが1あれば一人前なこの世界において、両方とも達人級とか賢者にしては肉体派過ぎるな。


『相性悪ぃな。魔王らしくもっと慢心していて隙だらけで良いンだぜ?』


「それは見た物語が古典的過ぎるな。

 俺の知ってる魔王はもうちょいクレバーなヤツが多かった。

 その分力押しとかは苦手だったみたいだけどな」


『なぁ、俺達のじゃれ合いの余波であちこち地面がざっくり斬れてるンだけどよ、この辺の地面って大型戦艦の装甲板だぜ?

 張替えのコスト高ぇンだよな』


「装甲板が斬れてる所がツッコミ所だろう。

 なら、次で決めるか。冗長じょうちょうになってもギャラリーが冷めるからな」


『分かってンじゃねぇか。じゃ、行くぜ?』


「いつでも来い」


『ミンチになっても恨むなよ!―――賢者リョーカンが次元の理を操作する、我が刃は空間と次元すらも切り刻む。法理魔法発動:空間切断Ⅲ/対象数増加Ⅳ』

 リョウが大斧を振り下ろすと、淡い緑色をした半透明の刃が幾本も地面―――装甲板を切り刻みながら広がってくる。


「魔王として大技を受けるのは望む所だ。

 ついでに、それを力ずくで押さえ込むのも―――な!」


『概念魔法:次元属性付与Ⅶ/剣』

 属性付与した長剣を横に構えて一閃、リョウが放った空間を切断する魔法の刃を一撃で全て吹き飛ばす。

 大量の窓ガラスが割れたような音がして、魔法の刃が崩壊。

 距離をつめてリョウの首筋に剣先を突きつける。


「勝負ありだな。認めるか?」


『認める、っつーか俺の負けだ。

 どっからどーみても言い訳できねぇし、言い訳しても格好悪い!』

 リョウは大斧と剣を投げ捨てて、甲板の上に座り込んだ。


『おい、ケーンジ。中継してるカメラをこっちに近づけろ』

 あの中年副官の名前か、ケンジ?日本風だな。

 副官が操作すると、金属のボールようなものがリョウに近づいて行った。

 あれがカメラか。レンズもないしゴツくもないカメラは少々味気ないな。


『お前ら今のりあいを見ていたな?

 艦隊戦でも押されて一騎討ちでも綺麗に負けた。

 各艦、各自、素直に降伏を受け入れろ。

 もうすぐ無くなると思うが、海賊団『隠者の英知』の名にかけて、見苦しい真似するヤツは許さねぇ。

 やらかしたヤツは俺が直接八つ裂きにして太陽葬にしてやるから覚悟しとけ!』



―――



 こうして民間軍事企業『魔王軍』と海賊団『隠者の英知』の戦闘は終結した。

 結果は海賊団の降伏による戦闘の終結。

 戦闘参加艦艇は『魔王軍』が巡洋艦3隻、強襲揚陸艦1隻、戦闘輸送艦4隻、輸送艦に搭載されたドローンが約15000機。

 『隠者の英知』は大型戦艦1隻、強襲揚陸艦改装空母26隻、駆逐艦改装空母18隻、艦載機約1800機。

 参加した戦力的には小競り合いの規模を超えて、マイナーな宇宙史の片隅に記載される戦闘規模だったが、お互いに轟沈した艦もなく、死傷者も規模に比べて非常に小規模に留まっていた。



 リョウとの一騎討ちを終えて、降伏後の処理の打ち合わせをする調整をしてから、ワイバーンに戻った俺を黄色い歓声が出迎えとか、少なからず期待していたんだが。

 実際に出迎えたのは心配のあまり大泣きしていたリゼルと、一見冷静だが飛びついて背中に張り付いて離れなくなったミーゼだった。

 ずっと俺だけが戦ってきたなら分かるんだが、皆も戦闘していたのに何故ここまで心配されるのだろうか。

 いや、普段から皆頑張れと後ろにいたツケなのは分かっているんだが。

 ここまで心配されると、この姉妹は愛情とか深すぎて男を駄目にする才能があるのではと疑いたくなる。

 ……俺の服の裾を掴んで離さないライムも同類か。



 楽しい戦闘まつりの後には書類仕事あとかたづけが待っている。

 アルビオンごと降伏させた事で、ジャンプドライブの入手のツテはついだんが、海賊牧場への対処をするには、もう少し時間がかかりそうだ。



 だけどさ、後片付けすらも次の祭りの準備みたいなものだろう?





2013/12/7 ライム視点の記述を追加しました。

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