30話:魔王、幼子達の面倒を見る
準備回でございます。SF成分大目でお送りしています。
10/20 修正版をアップしました。
修正箇所
・存在を忘れてた偽装輸送艦ダルタニアンを追加。
・本文の修正・一部内容変更。
・おまけを追加
祭りと言うものは準備が大変なものだと相場が決まっている。
俺もそれなりに学生時代を送っていたから、学園祭前のあの落ち着かない楽しさと焦燥感に満ちた空気は体験していたし、嫌いじゃなかった。
懐かしいものだ。
職員に袖の下を渡して巡回の手を逃れ、入手が難しいアルコール類をツテを使って入手し、特殊な商売が出来る生徒を集め、未体験の生徒には教育を施して。
客1人辺り万札単位の売り上げになるから、収入を税務局の目から誤魔化すのもなかなか苦労したものだ。
商売を聞きつけた暴力団関係者への対応とかにも手を焼いたな。
結局そのまま商売になって、歓楽街に一つ店を作るハメになったんだよな。
………自分の事ながら、一般的な学園祭の楽しみ方から「やや」ずれていたと思う。
まあ、俺の昔話なんてどうでも良いんだが、何か大きな事のために準備をする楽しみはSF世界においても遜色がないようだ。
中古の大型輸送艦を買い付け、回航して改装し、ドローンのジャンク品や中古品、時にはスクラップを寄せ集めて組上げて。
忙しい毎日を送っていたが、社員達にはどこか浮き足立った心地よい焦燥に笑顔と活気が満ちていた。
悪の秘密結社や魔王は恐怖政治をしているように描かれる事が多いけどさ。
普通の生活より悪の方が心地良い上に楽しいってのも、悪くないよな?
―――
側道の主と対決する、今回の仕事のために準備した4隻の大型輸送艦『ウラヌスE型』は『ヴァルナ』ステーションでも長く使われていなかった、大型輸送艦用外部ドックに入港していた。
アドラム帝国規格で建造された船らしく、流線型ながら実利優先の無骨な印象を受けるデザインだ。
外見は翼を広げた飛龍が、体と同じ大きさの箱を抱えていると表現すれば格好いいだろうか?戦闘艦とは別口の、地球の巨大タンカーのような浪漫を感じる外見だ。
「ウラヌスE型1番艦『アラミス』改修率91%。
増設ドローンベイ稼動チェック中、実働テスト項目リスト消化率64%です」
「ウラヌスE型2番艦『ポルトス』改修率89%。
ER86-1611区画にて事故発生、救護班移動中です。軽症4名の模様」
「ウラヌスE型3番艦『アトス』追加装備試験中。
ドローンゴースト放出、回収チェック中。
13番射出装置にトラブル発生、改修班は作業に当たって下さい」
「ウラヌスE型4番艦『ダルタニアン』改修率95%。
火器管制装置及び対艦レーダーの発信テストを開始します。
艦外部作業員で作業中の方は船内またはドックのエアロックまで退避して下さい」
ワイバーンのブリッジに増設された仮設作業管制室で、オペレーター達が作業の指示を出しつつも次々に報告してくる。
別に携帯端末や投影ウィンドウで直接情報を貰ってもいいのだが、様式美というものだ。
あちこちに開いた投影ウィンドウに、作業中の様子や進捗状況とかが雑然と並んでいて、司令室的な浪漫を感じる。
リゼルやミーゼにとっては雑然としすぎていると、たまに来ては綺麗に整理されてしまうのが寂しい所だ。
まあ、整理した方が見やすいのだけどな。浪漫がな……
オペレーター達はユニア(牛娘姉)が集めてくれた。
以前ユニアと同じ職場でオペレーターをしていたものの、勤め先が倒産して慎ましい生活をしていたという、獣系のアドラム人女性達だ。
同郷の出なのだろうか、ユニアと随分親しいようだし年齢も近く体型も似ている。
オペレーターとしての経験もあって、声も綺麗だったので即決で雇ったのだった。
「社長、カルミラス家より至急の連絡が来ました」
緊張を帯びた時でも綺麗な声が出せるのは、オペレーターとして得難い素質だと思う。
「至急とは穏やかじゃないな。内容は?」
「はい。……あ…その」
何故か急に近くを見渡す、童顔の上に背が低いにも関わらずスタイルが抜群に良い犬耳オペレーター。
「早く頼む」
「『無事産まれた3人目は男の子だったわよ。女の子も良いけど男の子も良いわね。アルテでかしたわ』…だそうです」
非常に言い辛そうに通信内容を答える犬耳オペレーター。
リゼル母からの伝言だったか。
「「「「……………」」」
近くのオペレーター達も手を止めて、なんとも言えない沈黙が場に満ちる。
やればできる。深い言葉だよな。
一応、獣系アドラム人は妊娠しやすい代わりに出産後一年程妊娠しなくなるらしいが、このペースで増えていったら何人子供ができるのだろうか。
リゼル母には「どこで何人作っても、うちに預けて貰っていいわよ?姉弟として育てるから。むしろそうしてくれると嬉しいのだけど」とお墨付きを貰ってはいるけどな……もう3人目か、微妙な気持ちだ。
本気で避妊魔法の構築を考えた方が良いんだろうか。
魔王というかファンタジーの悪役的に、エロい事に使う魔法を開発するのはありだが、そういう切実さ溢れた魔法を創るのも使うのも抵抗があるんだよな。
具体的にナニとは言わないが、そういう方向に容赦ないのも悪役の嗜みだろ?
「社長って確かまだ独身……」
「ミーゼちゃんやライムさんとイチャイチャしてる事多いし…」
「アルテさんって、あのメイド隊隊長の人よね?」
「あの凛々しい感じの人?」
「え、でも3人目って……」
「そうそう、もう前に2人いるって事よ」
「やっぱり別の女なのかしら…」
「ユニアも妹と一緒に囲われてるとか……」
「―――さて、仕事に戻らないか?」
ヒソヒソと姦しい話を始めるオペレーター達に釘を刺す。
「「「了解」」」
びしっと敬礼をして業務に戻るオペレーター達。
ああ、こういう時に気軽に相談できる男の船員が切実に欲しい。
ワイバーンだけだと、どうしても寂しいんだよな…
どうでも良い話かもしれないが、アドラム帝国を含めこの未来世界の大半は婚姻に関して特に制限はない。
一夫多妻だろうと多夫一妻だろうと多夫多妻でもやろうと思えばできる。
婚姻以前に経済的なものというか、生活には先立つもの(カネ)や収入が必要なので、効率的な問題で一夫一妻で落ち着く事が多いらしい。
―――
大型輸送艦『ウラヌスE型』は全長600メートル幅300メートルと、大きさだけなら以前戦った特殊海賊空母並の大型艦だ。とはいえ、分離可能な船倉兼大型コンテナが船体の大部分を占めているので船としての性能は高くない。
アドラム帝国規格の量産品であるステーションは、本来このクラスの大型輸送艦が入港できるような大型港を標準装備していないのだが、幸い『ヴァルナ』ステーションでは、繁栄していた頃に大型艦専用の外部ドックを何基も増設していたので、年代もののドックではあるが巡洋艦三隻と大型輸送艦三隻を入港させてもまだ余裕があった。
「イグサ様、大型ドックの請求書が来たのですよぅ」
リゼルが差し出した端末に表示されていた請求額を見て、苦い顔になってしまう。
「…埃かぶり所か、埃に埋まっていたドックの癖に強気料金過ぎないか?」
長年使われずに放置されていた癖に、請求金額がかなり高価だ。
ドック一つ辺り一週間で20万IC、4隻を一ヶ月停泊させているので320万ICか。
最新型かつ新品のクラス3戦闘機を武装込みで買えそうだ。
「多分、昔の料金設定のままなのですよぅ」
「ライム、料金交渉を頼んでいいか?」
この二ヶ月で一番変化したのはライムだろうか。
最近は戦闘機へ乗り込む機会が少なく、突入ポッドでの戦闘もファントムアーマー達が育ってきたので、余程の修羅場じゃない限りはライムなしでもこなせるようになった。
自分の立ち位置を考えたライムは、残ったスキルポイントを使って商業系のスキルを取ったのだった。
どの職業の代わりも出来る勇者だからこその方向転換だな。
同じレベルをした熟練商人には勝てないかもしれないが、ライムの勇者補正によってそこらの商人顔負けの仕事ができる。
今まではミーゼに副官と副社長か秘書的なポジションを兼任して貰っていたのだが、業務の規模が拡大するにつれ段々と無理が出てきていたので、ライムがミーゼと仕事を分担できるようになったのは非常に大きかった。
「うん。アリア艦長のアンヌさんを補佐に付けて貰っていい?」
「構わないが、何故だ?」
「ここのオーナーはスタイルの良いお姉さんに弱いから」
この辺もライム特有のものだろうか。
ミーゼは理攻めが得意だが、色仕掛けなど感情面に訴える手が苦手だ。
逆にライムは相手の感情面に訴える手を得意としている。
「任せる。吸い過ぎて殺してしまわないように注意してくれよ」
アンヌは見た目も性格も良い娘だが、淫魔だけに取り扱いには注意が必要だ。
迂闊に一般人の精気を遠慮なく吸ってしまうと、気軽に
交渉の結果、ドックの使用料金は全額で5万ICに落ち着いた。
当初の請求金額の64分の1だ。大型専用の特殊ドックではあるが、放置されて半ば朽ちていたドックとしてなら適性価格だろう。
照明すら機能停止していたのを修理する所から始めたからな…
「頑張った。イグサ、褒めて、撫でて」
「良くやってくれた、偉いぞ」
交渉から帰ってきたライムを膝の上に乗せ、満足するまで頭を撫でる事になった。
ライムの行動が外見相応になってきているな。ミーゼの影響だろうか?
部下が功績を立てたら褒美を出すのは、上に立つ者として当然だと思うんだが。
魔王としてこの褒め方でいいのかと疑問を感じなくもない。
新人オペレーター達も微笑ましげな暖かな視線を送っているしな。
まあ、身内に甘いのは俺の基本方針だから仕方ない。
―――
大型輸送艦『ウラヌス』級は積載量が極めて大きく、大型艦の割には速度も出るが、普通の輸送や交易業をするなら燃費やリスク管理などの効率を考えると、普段使っているネプチューンシリーズの中型輸送艦に軍配が上がるという。
積載量が大きければ大きいほど良いんじゃないのか?と俺も最初は思ったんだが。
単一商品をウラヌス級の船倉一杯に詰め込んで、一つのステーションで量を放出してしまうと、相場がさくっと暴落して利益が出る所か損失が出るレベルであるという。
暴落しない程度に放出するなら中型輸送艦の船倉でも十分だそうだ。
複数の商品を取り扱えるから良いかと思えば、ステーションによって利益がでる商品が違うので、一つの船で複数の商品を同時に取り扱うのは難しいんだよな。
兵站部で使ってる同系の大型輸送艦も、中央星系の巨大生産プラントから大量買付けをして、中継ステーションで中型輸送艦に積み替えて運用しているようだ。
現代で例えるなら速度が早いタンカーのようなものだな。
大型輸送艦というフレーズに浪漫を感じるんだが、一定以上インフラと物流が整った国だとタンカーよりトラックの方が出番が多くなるのと同じようなものなんだろう。
ワイバーンのブリッジで船体改装の報告書を読んでいた時の事だ。
『『『『魔王様魔王様ー』』』』
可愛らしい甘い声と共に現れたのは4体の投影映像。
ドックで改装の最終工程を行っている4隻の大型輸送艦の付喪神達だ。
中古船ではあったが、輸送艦は効率命の為にどれも製造されてからの艦齢が短く、付喪神にできるかどうかは怪しい所だったんだが。
実際やってみたら普通の付喪神にはなりきれなかったようだ。見た目や思考がかなりロリ…ごほん、幼くなった。
『アラミス、艦内調査できるようになりました、褒めてー!』
『ポルトスは情報処理頑張りました。えへん』
『アトスはドローン達と遊んでましたぁ、リンク率少し上がったんですよぉ』
『……えっと。ダルタニアンはブリッジの人と交流してました。ちゃんと目を見て話せるようになったんです』
「そうか、良くやった。艦長の言う事を良く聞いて頑張ってくれよ」
艦齢は20年以内らしいが、付喪神の見た目は6~8歳位だ。
投影画像の頭を順番に撫でてやると、ちゃんとフィードバックされているのかとても気持ち良さそうな顔をする。
ちなみにそういう趣味もあったのか、この4人が来た時のワイバーンのデレっぷりも凄い。
『みんな元気で良い事ですわ。ご褒美に飴ちゃんどうですかい?』
ワイバーン…言葉だけは紳士だが、目が血走っているしハァハァと息が荒くて犯罪臭いぞ。
…いや、実体を持たない付喪神として芸が細かいと褒めるところだろうか?
『『『『やーっ!』』』』
まあ、当然のように悲鳴をあげて逃げられるよな。
……おや、ワイバーンが飴を差し出した体勢で固まっている。
『ワシは仲良くしたいだけなのにあんまりです……』
地面に手を付いて本気で落ち込んだぞ。
かなりショックだったのか?
―――
『戦闘輸送艦、1番艦アラミス、
元気な付喪神の声と共に、改修と物資の積み込みが終わった大型輸送艦がゆっくりとドックから出港してくるのを、ワイバーンのブリッジから見ていた。
大型輸送艦は戦闘に連れて行く事もあってしっかりと改装を施したが、ワイバーンや高速巡洋艦ほどの魔改造まではしていない。
全体的な装備の近代改修に、リアクターや推進器の
いや、SF世界には十分魔改造の領域なんだろうが、魔法の補助がなければ下手をすればまっすぐ飛ぶだけで自壊する、ワイバーン達のレベルまでは行っていない。
予算の都合もあるが、輸送艦として使い辛くなってしまうからな。
『リアクター…えっと、出力55%で安定。
艦ちょー、推進器の出力はまだ5%で大丈夫だよね?』
一々確認するあたり危なっかしさを感じるな。
『舵そのまま、誘導ビーコンに沿って微速前進。
セリカおねーさん、宙域マップ貰ってなかった、ちょうだいー!』
魔王軍のトレードマークになってきた、純白の軍用塗料で塗られた大型輸送艦の姿が見えてくる。
動きは遅いものの、高速巡洋艦よりも大型だけに見応えがあるな。
改装の内容だが、1番艦アラミス、2番艦ポルトス、3番艦アトスは同じ改造をした戦闘輸送艦になった。
通常の輸送艦も最低限のシールドや武装はしているが、どの艦も駆逐艦レベルのシールド強度と主砲こそ無いものの、対空/対ミサイル用の小型火器をしっかりと搭載している。
艦船クラス相手は辛いが、戦闘機数機程度なら十分相手できる性能になっている。
また、今回の仕事用にドローンベイを大量に増設してあるので、武装輸送艦というよりもドローン母艦として使う予定だ。
船倉が相応に狭くなっているが仕方ない。
今回の仕事で生き残ったら、危険地域の交易任務など兵站課の方で活躍してくれるだろう。
4番艦ダルタニアンは戦闘輸送艦の中でも偽装輸送艦というジャンルになるらしい。
外観は1~3番艦と見分けが付かないが、中身は全くの別物になっている。
共通点は大量のドローン運用を出来る所位だろうか。
出力だけなら巡洋艦に近いレベルのシールドと装甲板、そして装甲格納式の主砲や副砲を駆逐艦から軽巡洋艦相当のものを大量に装備させてある。
流石に機動性や速度は輸送艦並だが、この重武装で速度や機動性を維持しているのは驚く所だろうか。
スクラップヤードで朽ちていた、巡洋艦1隻と駆逐艦3隻の残骸から部品をかき集めて作った、効率という言葉を窓から投げ捨てた歪な設計だ。
輸送艦だと思って襲ったら戦闘艦でしたという。実に海賊に優しくない設計になっている。
まあ、見ての通りおやっさんと趣味仲間の作品だ。
4隻のうち1隻は戦闘力を強化した船にしたいと言ったら、色々と想定の斜め上の作品に仕上げてくれた。
リゼルも良い笑顔で「これなら軽巡洋艦位は相手できますよぅ!」とやり遂げた顔で報告しに来たしな。
難点としては大型輸送艦をしっかりと守れるシールドジェネレーターや武装に、それらを動かす為の大型リアクターの搭載とかで、1~3番艦よりもさらに船倉が狭く、積載量が減っている事だろうか。
輸送艦としての使い勝手はえらく悪いので運用は難しそうだ。
―――
「艦列形成完了しました、相対位置は誤差の範囲内であります」
『ヴァルナ』ステーションのすぐ近くで、ワイバーンと巡洋艦3姉妹、大型輸送艦4隻の8隻で艦隊編成をしていた。
目的地の『側道』は海賊達の頻発出現地帯の『獣道』の中にある。
大型輸送艦も輸送艦にしては強力なシールドジェネレーターを詰んであるし、高速巡洋艦と同じく船自体も付喪神化して、ブリッジ要員に魔法が使える女性淫魔を乗せているが、防御面で若干の不安が残る。一隻例外(偽装輸送艦ダルタニアン)もいるが。
…いや、ワイバーンや高速巡洋艦が性能以上に防御力高いだけなんだけどさ。
戦闘機じゃシールド削るのに苦労するレベルなんだが、どうにも不安なんだよな。
これが空母に艦載機なら、ローテーションで艦載機に護衛させながら移動も出来るんだが、再利用型のドローンは艦載機に比べると圧倒的に活動可能時間が短い。
また、一度使ったドローンをリアクターの冷却や消耗品の交換など、再出撃できるまで整備するのに手間や時間がかかる。
ドローンゴーストになって改善されてはいるものの、稼働時間はそこまで長くないので常時展開させるのは厳しかった。
「イグサ様、やっぱりドローンの自動再整備装置をしっかり乗せたかったのですよぅ」
「あれは容積取りすぎて積載量が減るだろう、ドローンを常時展開させたいからとドローンの搭載能力が落ちすぎるのは本末転倒だ」
うん、自動でドローンの再整備を行ってくれる装置はあるんだが、これが非常にかさ張るんだ。
ドローンを常時展開させようとすると自動整備装置を大量に搭載する事になり、積載量が極端に落ちるので見送る事にした。
普通の輸送艦が護衛用のドローンを1~2機常時展開させる程度なら、そこまで積載量が減ることもないし海賊対策になるのだろうな。
性能的にもコスト的にも、護衛戦闘機を雇った方が手軽なのは間違いないが。
艦隊は前方にワイバーン、両翼を固めるように高速巡洋艦のアリアとベルタが固め、
「こちら民間軍事企業『魔王軍』第一艦隊旗艦ワイバーン、見送って頂けるヴァルナステーションの係員の皆様にお礼を申し上げます」
「火器管制チェック完了です。装填中のフライイーター対戦闘機ミサイルの自己診断も比較的グリーンなのですよぅ」
大量の小型機との戦闘が予想されるので対戦闘機用のミサイルも買ってきた。
長らく埃を被っていたワイバーンのミサイル発射管も綺麗にしたそうだ。
自己診断させるとエラー吐いたりスラスターの不調を訴えまくるのは、消費期限切れの中古ミサイル故に仕方ない。グリーン表示が多いだけましというものだ。
再生武器屋をしている恰幅の良い中年女性の話では、最低限まっすぐ飛ぶしミサイル発射管の中で詰まったり誤爆したりするレベルの不良品は混ぜてないという。
基準がおかしい気もするが、新品を潤沢に揃えられる軍隊と違って、傭兵や民間軍事企業に海賊達の装備ならこのレベルの品を使うのは珍しくないそうだ。
今まで使った事もないが、対艦ミサイルも普通に売っている。
ワイバーンのミサイル発射管でも撃てるんだけどさ?
このSF世界のミサイルは基本的に飽和攻撃、相手のミサイル迎撃能力を超える大量のミサイルをばら撒いて目標を撃破する事になる。
弾体や弾頭の種類にもよるが、高価な対艦ミサイルならシールド中和/貫通能力を持っているので、命中すれば大戦果が上がるんだが。
そもそも、ただでさえ高価な対艦ミサイルを大量に撃たないといけないというのは、サイフ(経理)の敵でしかないよな?
主砲とかはリアクターが動いていれば、部品がちょっと磨耗する位で撃ち放題なお手軽さだしさ。
気軽にミサイルを撃てるのは軍か、自前でミサイルの生産施設を持っている大企業位なものだ。
「各艦間のデーターリンク正常、全艦チェック終了。いつでも出発可能であります」
「航路情報を確認、獣道内セクター103、セクター104、セクター105から側道のセクター201、セクター202。
セクター103から105は交通量もあるので揃っていますが、セクター201から202は相当古い情報ですね。航路の変移に注意してください」
「各艦に通信開いてくれ。平文でいいから全艦放送するように」
「通信開きました、全艦放送中、暗号強度無し」
「民間軍事企業『魔王軍』代表・イグサだ、準備してきた成果を出すときが来た―――なんて硬い事は言わない。
延々と祭りの準備してきたが、そろそろ本番をやろうじゃないか。
成果が出れば臨時ボーナスを弾むぞ、頑張って生き残れよ」
艦内から威勢の良い歓声が聞こえくる。
相変わらずノリの良い連中で小気味良いな。
「艦隊前進、目標『獣道』―――そしてその先にある『側道』
第三種警戒態勢へ。獣道内に突入と同時に第二種警戒態勢に移行する」
「あいあいさー、推進器稼動、出力8%で加速開始であります」
「―――さあ、祭りを始めようじゃないか」
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以下はSF色の強いおまけです。
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・作中登場艦船
輸送艦 [TS] (Transport Ship)
・ARTS-LCC3-2015E ウラヌスE型 (600m×300m)
アドラム帝国で生産されている汎用大型輸送艦、ウラヌスシリーズの一つ。
積載量が大きく好評だったネプチューンシリーズの拡大発展系。
広大な積載量の割に運用人数が少なくて済むため、企業の評価は非常に高い。
反面、運用人数の少なさから緊急事態への対応能力は極めて低い。
ネプチューン輸送艦を縦に何個も並べたような外見はシンプルだが、互換性に優れコストパフォーマンスも良好である。
・CDTS-Typhoon.ltd-202E パルミラE型 (40m×280m)
コランダム通商連合国の船舶企業・タイフーン社製の中型輸送艦。
速度に優れたパルミラシリーズのシールドや武装も充実させた型。
スリムな船体は速度に優れた機動性の良い輸送艦であるが、積載量の少なさからまとまった数を運用している事が多い。
外見は流線型の長細い魚のような形状。通信・レーダーがまとめて配置された角のような先端部を持つ船体形状が特徴的。
戦闘輸送艦 [TC] (Transport Combat Ship)
・ARTS-LCC3-2015E-C2 EC2アリエル (600m×300m)
非武装に近かった大型輸送艦ウラヌスを武装強化したもの。
戦闘艦としては大型の部類であるが、元が輸送艦なので直接戦闘能力はそこまで高くない。
機関出力とシールド出力が増大し、主砲こそ無いものの近接/対空兵装の火力はフリゲート級以上になっている。
コンテナは専用のものになり、ドローンベイを追加されているのでドローン運用母艦としても扱う事ができる。
・ARTS-LCC3-2015E-C3 EC3アリエル (600m×300m)
大型輸送艦ウラヌスを非常識なレベルで武装強化したもの。
巨大な船体と豊富な搭載能力を生かし、船体全体を覆うシールド強度は巡洋艦と比べても遜色なく、一見薄そうな外部装甲の下には分厚い装甲板がびっしりと埋まっている。
装甲の内部には収納型の砲塔があちこちに仕込まれており、砲撃能力は軽巡洋艦並である。
また、C2型と同じくドローンベイと豊富なドローン搭載量を持っている。
しかし、輸送能力が低下している事と、輸送艦の頃と運用人数がさほど増えてない為に想定外のトラブルに対する対処能力は低いと思われる。
既に戦闘輸送艦というジャンルとは違う、別の何かではないだろうか。