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26話:魔王、魔女と僕達を教育する



 未来世界に生きる民間軍事企業、あるいは賞金稼ぎ達の収入源の一番大きな部分とは何だろうか?



 戦闘機一つで宇宙を駆ける命知らずの賞金稼ぎ達は、各国が海賊にかける賞金と答える。

 何故なら、戦闘機同士の戦闘は基本殺すか殺されるかだ。

 海賊の戦闘機を撃墜しても、せいぜいスクラップかジャンク品が手に入る程度。

 運悪く、或いは運良くリアクターに直撃させて爆発四散させてしまうと、スクラップやジャンク品すら目減りする。

 収入の比率的に賞金の割合が重くなるのは当然の事だろう。



 だが、賞金稼ぎでもフリゲートや駆逐艦に乗り始めるか、小規模な民間軍事企業レベルになると今度は収入における賞金の割合がやや減少する。

 海賊達も規模が地方の無法者から組織だった海賊になってくると、戦闘機数機程度の集団から駆逐艦やフリゲート艦などの艦艇が中心になってくる。


 海賊の艦艇と戦闘になって、優勢になれば降伏勧告をして拿捕する事も夢じゃない。

 宇宙艦は戦闘力や機動性云々の前にまず簡単に轟沈しない事を前提に作られる。

 戦闘機と違って一撃で沈む事は少なく、不利な状況でも降伏を考える余裕が出来る。


 上手く拿捕できれば艦がまるっと手に入るし、海賊の私有財産の没収だって出来る。

 海賊らしく旧式だったり、スクラップを寄せ集めた船の場合も多いが、それでも宇宙艦を売れれば美味しいし、海賊は国営の銀行なんて使えないので財産を持ち歩いている、つまり財産を没収できれば海賊がそれまで稼いできたお宝を頂けるので2度美味しい。


 問題は圧倒的な軍事力差を見せても、素直に降伏する程頭の良い海賊が少ない所だろうか。

 自棄になって降伏勧告も聞き入れずに、無駄な抵抗をしてしまう海賊も多い。

 その点、相手がどのような態度だろうが船内から制圧できる突入ポッドを扱える、強襲揚陸艦としてのワイバーンの能力は海賊相手に実に有効だ。

 普通なら船内での白兵戦は熟練を求められる上に洒落にならない被害が出るらしいが、魔王軍うちはリビングアーマーとファントムアーマー達がいるので、白兵戦要員は給料的にも人材的にも実に安上がりだ。



「敵艦隊との戦闘領域内に突入したであります。

 前方で襲われているのはコランダム通商連合国の民間企業所属、輸送艦パルミラE型が2隻、国際救難信号(SOS)を発信中。

 海賊は駆逐艦が一隻に強襲揚陸艦改造と思われる小型空母が一隻であります。

 更に海賊所属と思われるクラス3から4の戦闘機を18機確認であります」

 アドラム帝国中枢に近い『船の墓場星系』の西部にしてはかなりの戦力だ。

 ブリッジ内に出ていた投影ウィンドウから、戦闘に関係ないものが第一種戦闘配備中と表示が切り替わっていく。


「駆逐艦に主砲斉射、シールドを削って注意を引け。

 小型空母には副砲で対処。沈めるなよ」

 船員も増えたので前のような全力戦闘以外も出来る。

 戦力差もあるので、撃沈ではなく拿捕を狙いたい所だった。


「はーい。隠蔽解除、下部3番4番主砲駆逐艦へ発砲。

 副砲各個射撃開始ですよぅ」

 手馴れてきたリゼルの制御で淡く光る白い弾体の衝撃砲が駆逐艦のシールドを削り、火花に似た青白い粒子を撒き散らす。


「駆逐艦へ主砲命中、シールド強度60%にダウン。

 輸送艦を襲撃していた海賊所属機反転してこちらに向かってきます」


「ライム、任せた。出来るだけ峰打ちで頼む」


『ん。頑張る』


「ドローンゴーストも順次射出、オーダーはミディアムレア(半生)」

 指をパチリと鳴らして『伝達』魔法でドローンゴースト全体へ命令。

 キュィ!とモーター音を鳴らして了承の返事をしてくれる。

 自律型なのでファジーな命令でも分かってくれるのが美味しい所だ。

 命令を下す時に悪役として格好はつけたいが、普通の部下にファジーすぎる命令をすると困惑されるからな……


「ミストレス発進、ドローンゴースト順次射出。

 32秒後に交戦に突入予定であります」

 光の粒子を撒きながらライムの乗ったミストレスが格納庫から発進して行く。

 更に船体下部の格納庫と上部甲板に追加されたドローン射出口からドローンゴースト達が射出され、宇宙空間で編隊を組上げながら海賊戦闘機群へと向かって行く。

 すぐに推進器の光が複雑な航跡を描き、ビームやレーザーが飛び交う乱戦へと突入した。


「敵艦シールド弱体化、突入ポッドを順次射出するのです

 割合は駆逐艦に2、小型空母に2なのです」


「いえすまむ。主砲副砲斉射停止、突入ポッド順次射出」

 アルテが素早く対応して巨大な砲弾にも見える突入ポッドが駆逐艦と改造小型空母へ突き刺さっていく。


 ライムとドローンゴースト達の空戦もすぐに終結し、ファントムアーマー達からも戦勝報告が上がるのだった。

 被害はリビングアーマーが9体、ドローンゴーストが2体大破。

 どちらもファンタジー的な魔物で言う所の「瀕死」状態なので回復魔法で修復可能だったのでライムとミーゼの回復魔法で修復された。


 この戦闘で割と新しい型の駆逐艦と改造小型空母を拿捕し、クラス3戦闘機を4機、クラス4戦闘機を3機中破から大破状態で回収した。

 『ヴァルナ』ステーションからは離れているので、近くのステーションで売却するつもりだ。

 捕虜にした海賊も300人を越え、所有財産に今まで被害を受けた船から奪取した荷物を隠してある、小惑星のアジトの座標もばっちり聞きだした。

 正直どちらが海賊か分からないようなやり口かもしれないが、戦艦や正規空母が出張ってくるような大規模戦以外での民間軍事企業なんてこんなものだ。


 そのはずなんだが―――


「アリア、ベルタ、セリカから通信が届いています。

 内容は業務内容について。暗号解凍、表示します」


 高速巡洋艦の三姉妹艦はそれぞれ別行動を取らせていた。

 確かに『船の墓場星系』はアドラム帝国の外縁部にあり、『獣道』に通じるジャンプゲートが存在するので海賊の出現率は高いのだが、巡洋艦3隻に実質軽巡洋艦+αの性能を持つワイバーンの艦隊で相手するレベルの海賊は早々出ない。

 と言うか巡洋艦一隻でも過剰すぎる。


 小規模な海賊があちこちで被害を出すケースが多いので、個別に小口の海賊討伐や賞金首対応をしていたのだった。

 ワイバーンが『船の墓場星系』西側、セリカが東側、アリアとベルタは『船の墓場星系』から直接繋がった、『獣道』を構成する星系の1つを手分けして仕事させていた。


『アリアより経過報告。

 『獣道内』セクター103星系で海賊と順次交戦。

 戦果報告、戦闘機18機撃破、軽巡洋艦1隻撃沈、フリゲート艦2隻撃沈。

 当方に被害無し』

 軽巡洋艦が出たか、随分大物が釣れたみたいだな。


『ベルタより経過報告。

 『獣道内』セクター103星系で海賊勢力と交戦。

 戦果報告、戦闘機43機撃破、駆逐艦4隻撃沈。

 頑張りました、褒めて下さい』

 戦闘機の数が多いな…拿捕も出来なかったか。


『セリカより経過報告

 ごっめんなさーい。海賊さん達、戦闘機20機位相手したけど全部蒸発しちゃいました』

 ファジーな報告だな。

 付喪神もそうだが、知性高い魔物は個性が強いのが多く混ざるのはデフォルトなんだろうか。


 ああ、懐かしいな。

 思えば俺達も最初はそうだった。

 海賊達を蒸発させたり蒸発させたり蒸発させたり―――


 まて、艦船も相手にしておいて一隻も拿捕できてないとはどういう事だ?



「各艦に通達、撃破した艦の座標を各自記録。

 『ヴァルナ』ステーションに今すぐ集結。反省会の時間だお転婆娘共。以上だ」


「はい社長。各艦に通達します」



 その後、集まった付喪神の娘達をワイバーンのブリッジに正座させて説教コースになった。

 元が「ハングリーウルフ」級高速巡洋艦のせいか、付喪神の3人娘は飼い主に叱られている犬のような雰囲気を出していた。


「アリア、質問だ。敵艦とはどう対処するものだ?」


「可能な限り被害を出さずに撃沈するものです」

 そうか、元が軍艦だったせいでやるかやられるかの思考しかないんだな。

 アリアの答えにベルタもセリカもうんうんと頷いている

 知らなかった事で罰を与える気はないが、教育が必要だな。


「軍隊ならそれでも問題はない。

 だが、民間軍事企業としては足りないな。色々覚えて貰うぞ」


 説教は30分程度で切り上げたが、その後にミーゼ先生による小規模企業における経済観念授業が12時間、リゼル先生とおやっさんによるジャンク品再生の必要性とその可能性授業が交互休憩しつつ38時間続いた。


 終わった頃には三人娘とお付きの艦長と副長達は虚ろな瞳になっていた。


「さて、やる事は理解出来たか?出来なかったらもう一度最初から丁寧に教えてやるが」


「「「……(がくがくがくがく)」」

 揃って壊れた機械のように首を縦に振る巡洋艦三人娘。


 拿捕の必要性以前に、また反省会に参加させられるのが怖くて頑張ってくれるようになるだろう。

 しつけは大事だな。



 ちなみに『獣道』内部で撃沈されていた艦艇は、死霊魔法の『幽霊船作成』魔法で幽霊宇宙船にしておいた。

 幸いな事に撃沈された駆逐艦の一隻が工作船モドキだったので『船の墓場星系』のすぐ東にある『獣道』の星系、セクター103に数多く漂っている小惑星の一つをくり抜いて中に保存しておいた。


 幽霊船は運航に必要なアンデッドを自分で生成するので手間いらずであるし、多少穴が空いていようが航行に必要な部品が無くなっていようが動いてくれる便利なものなのだ。


 便利なんだが、一度幽霊船にするとアンデッドが自動で湧き続けるので間違っても中古船として売れなくなるし、幽霊船としての能力は元の船に多少+αされた程度でしかない。

 これが地球の大航海時代位の船なら、海賊スケルトンの群れによる白兵戦とかでもう少し頑張れたのだろうが、多少動きが早くなろうとただの骨でしかないスケルトンはSF世界では重火器にあっさり駆逐されるし、スケルトンより動きが鈍いゾンビに至ってはただの的にしかならない。


 また、幽霊船自体は高度な知性を持たないので指示も出し辛い。

 ワイバーンやファントムアーマーとは比較にもならない、リビングアーマー達よりも随分と緩慢かつ大雑把な命令を聞くだけの存在なので、頼りになるとは言い難い。

 かなり古びた残骸からでも作れる代償なのだろうか。


 回収途中で見つけた旧式の巡洋艦の残骸もついでに巻き込んで、巡洋艦1隻、軽巡洋艦1隻、駆逐艦4隻、フリゲート艦2隻からなる幽霊船艦隊を小惑星に急造した隠蔽施設に押し込みながら、これだけの艦隊を売ったり普通に運用できていたら……と少し寂しい気持ちになるのだった。



―――



 生粋の魔王とはいかなるものだろうか。

 そんな事をたまに考えてしまう事がある。


 ステータスからも分かる通り、俺は種族としては地球人で職業が魔王になっている。


 魔王にも色々なパターンがあると思うが、生粋の魔物の王として生まれた種族としての魔王と、人類への憎しみや怒りなどで人が魔王としての立場を手に入れたパターンとで分類すれば、俺は後者に該当するだろう。


 いや個人対象ならともかく、人類全体への憎しみや怒りとかはないんだけどさ?


 何故そのような益体も無い事を考えてしまうかとういと、魔王専用の魔法系統である『魔王魔法』の中級辺りの難易度に『魔王転生』という魔法があるんだ。

 人類への憎しみに満ちた人間とかが「俺は人間を止める、魔王となって災いを世界に満たしてやる…!」とか格好良く『種族:魔王』へ転生する為の魔法だ。



 そう、俺はいつでも人間から純粋な魔王へと変貌する事が出来る。



 魔王化の特典は色々と豪華だ、ステータス増強に寿命の消滅から、望むなら不完全ながら不死性すら取得出来る。

 魔王化セットとでも表現すればいいのか、そんな特典がフルセットでついてくる。


 だが、俺は種族としての魔王になる気はない。

 その理由を話そうと思う。

 少し長くなるし、退屈かもしれないが最後まで聞いてくれると嬉しい。



 性善説と性悪説というのはご存知だろうか?


 性善説とは人間は生まれながらに善なる存在であるという考え方だな。

 しかし、手放しで人間は善なんだというぬるい考えではない。

 人間は生まれながらにして善ではあるが、それ故に悪に染まりやすく、悪にならないように人間を律する為の理性や教育を大切にすべしという考え方だな。


 性悪説とは人間は生まれながらにして悪を行ってしまう倫理的に弱い存在なので、善なる存在になる為の心がけや教えを大切にすべしというものだ。


 まあ、そんな薀蓄うんちくはどうでも良い。


 ここは性善説と性悪説と聞いて、すぐに人が連想するもの

 人は生まれながらに善であるというイメージと、人は生まれながらにして悪であるというイメージで考えて欲しい。


 俺は考え方としては後者の方が好きだな。

 人は生まれながらにして悪であるが、だからこそ持ち得た善性が尊く見える。


 この辺は平和な日本だと余り実感し辛いかもしれない。

 例え話をしようか、誰しもが生まれた頃からの顔見知りばかりの閉鎖的な山奥の村の平和と、弱肉強食の理が全てのスラム街で全くの他人同士が紡ぐ友情や愛、どちらが尊く感じるか、想像をしてみて欲しい。


 魔王らしくないと言わないで欲しい。

 ひたすら人間に関わる魔王は基本的に人間と善が大好きなものなんだ。

 嫌いだったり無関心なら、魔王曰く「取るに足らない人間共」なんて放置するもんだ。


 さて、その上でだ。

 種族としての魔王に生まれたヤツが悪をやって何が楽しいのだと主張したい。

 だってそうだろう?

 種族としての魔王が悪の限りを尽したとしよう。

 だが、魔王なら当たり前だろう、むしろ優等生と言っても良い。

 それは悪ではあるが、ただの生態であって美学ではない。

 俺がいつも大切に思っている悪の美学とは、当たり前の事のように悪を行う事では無いんだ。


 美学ある悪とは、人々に憧憬と恐怖をもたらすものだが、決して善を大切にする大衆の人々に受け入れられる存在であってはいけない。

 抽象的ではあるが、それが俺が思う悪としてのあり方だ。


 だからこそ、人間であると同時に職業が魔王である現状は俺の理想に近い。


 現状に満足をしているのだが、If(もしもの話として純粋な魔王になった俺はどのような存在になるか、つい考えてしまう時がある。




 いやな、種族も魔王になれば強くなるのは分かるんだけどさ。


 寿命が無い不老の存在って事は基本的に繁殖の必要性もないだろうから、今でも胸で熱く猛っているエロへの情熱なんて消えてしまうだろう。

 常時賢者モードとか便利かもしれないが、味気ないにも程があると思わないか?


 まあ、元が人間ならまだエロな事をする習性が残るかもしれない。

 しかし強い種族というのは基本繁殖力の弱い存在だ。

 つまり子供なんて頑張りまくっても殆ど出来ないだろうし、個人的にはそういう要素のないエロい事はどうにも浪漫が少なく感じる。


 もしもメンタリティはそのままに、人間を滅ぼさないといけない存在になったとしたら悲劇でしかないな。

 想像をしてみて欲しい、人間の世界を侵略していた頃はお楽しみも色々あるだろうが、人間が完全に滅んでしまった後は悲劇でしかない。

 だって世界には魔物が満ちるだろう?

 淫魔位は残るかもしれないが、大半はゴツかったり獣だったりする。

 深刻なケモナーでも魔物スキーでもないのに、エロい事をする対象の相手がほぼ居なくなるとか、ご褒美どころか拷問でしかない。



 今日も俺は人間のまま職業としての魔王で満足している。


 完全な魔王にならないのは哲学や美学的な理由が大きいからであって、後者の理由が主ではない。

 全く無いとは口が裂けても言えないが。



―――



 ライムは相変わらず膝の上で猫のように甘えているが、ここ最近ミーゼはきちんと副長席に座ってる。

 膝の上に座るライムの方を見てかなり羨ましそうな視線を向けているが。

 ワイバーンに船医室と船医が急遽追加された。

 前から自分で応急手当が出来る処置室はあったんだが、専門の医者を雇う事にしたんだ。


 勘の良いヤツは言わなくても、もう分かってるかもしれないが、いくらミーゼが軽いとは言え不安定な膝の上に母体を乗せておく訳にはいかないからな……


 いちいち乗員を降ろしたり実家に帰らせるのも大変なので、ワイバーンの船内に船医室と外科や内科も出来るが、本業が産婦人科な船医を増やす事になった。


 このSF世界、特に獣系のアドラム人は子供が出来やすい体質な上に妊娠から出産までのサイクルが短いので、普段はインプラントチップ(体内埋め込み式の機械)によって、避妊モードにしているらしい。

 だがリゼル母の陰謀なのか、魔王化によるステータス強化やファンタジー要素がいけないのか、インプラントチップが上手く機能してなかったようだ。



 俺の年齢だと気も手も早いヤツが親になっているのを見る事はそう珍しくも無かった。だが、立て続けにそういうイベントが起きると流石に色々と考えてしまう。

 もう2人目か……うん、複雑だ。



 色々台無しとか言わないで欲しい。

 魔王といえどもこの手のイベントには複雑な心境になるものなんだ。


 余談ではあるが無事に2人目も生まれて、2人の孫に囲まれたリゼル父は立派な孫馬鹿になってなかなか仕事が手に付かずに周囲を困らせているらしい。

 この前顔出した時には相好を崩した笑顔で「で、3人目はまだかい?」とか言われた。



 ………複雑な心境になるよな?



―――



 ワイバーンの発案で始めた『総合商社・魔王軍兵站部』は試しにやってみる程度の気楽な気持ちで始めたものだったが、これが非常に上手く行っていた。


『順調に業績伸びてますなぁ。

 長く商売に使ってた汎用端末の付喪神達も随分頑張っているみたいですわ』


「危険がある分やや冒険だが、定収入が得られているのは大きいな。

 軍事部門の方はたまにガッツリ稼げるんだが、間隔が不定期なんだよな」


「利益の伸びが非常にいいのです。利益を全部準備費用に回して、軍事部門の利益を多少投入しても事業拡大する時なのです」


 エネルギーキューブも先のフィールヘイト宗教国との戦争以来、高騰が続いている。

 地方の太陽光エネルギープラントやブラックホールエネルギープラントが相次ぐ海賊被害によって操業停止している所が相次いでいるせいだ。

 巨大な発電用パネルを開く太陽光エネルギープラントは海賊などの攻撃に対して非常に脆弱であるし、ブラックホールエネルギープラントは制御が難しく、技師を誘拐すれば非常に高価な身代金が取れるし他国に売り払っても儲かるので、海賊達に狙われていた。


「『ヴァルナ』ステーション近くの太陽エネルギープラントも、海賊に発電パネルを沢山やられて操業停止していたのですよぅ。

 資金入れれば再稼動できるけど、また海賊来るかもしれないって再開は当分見合わせるみたいです」


 また、SF世界の主な食料源たる汎用オーガニックマテリアルの製造には、やはりエネルギー源たるエネルギーキューブが必須になる。

 するとどうだろう、安全にエネルギーキューブを生産できる治安の良い中央星系でエネルギーキューブを買い付けて、外縁部近くにある汎用オーガニックマテリアルや各種生産プラントに販売し、海賊たちのせいで出荷がままならずにダブついて値段の下がった品を購入してまた高く売れる所へ持っていく…という。

 大航海時代的な地方による品物の価格差のおかげで不思議な位に売り上げが良く、時には積荷の利益率が300%(仕入れ価格の3倍で売却)以上になる事もあった。


 たった3隻の中型輸送艦と護衛のドローンゴースト27機で始めた『総合商社・魔王軍兵站部』は飛躍的に規模を拡大させ、現在は中型輸送艦20隻、大型輸送艦3隻、護衛のドローンゴーストが270機という大所帯に発展を遂げていた。

 また、ミーゼとリゼル母に進言されて、アドラム帝国の周辺国であるフィールヘイト宗教国、ユニオネス王国、コランダム通商連合国の中央星系にアパート程度のささやかな規模だが支社を作って『民間軍事企業・魔王軍』と『総合商社・魔王軍兵站部』はアドラム帝国の一企業から多国籍企業へと変化した。


 というのも、アドラム帝国にべったりだと次に軍事衝突が起きた際、半ば強制的に従軍させられる可能性もあるし、SF世界から見ればファンタジー技術を盛り込んだ魔王軍は魅力的な遺失技術の塊なので、軍が手を回して徴発命令を受ける可能性すらある。

 多国籍企業になってしまえば軍からの庇護をかなり失う事になるが、従軍命令や徴発命令に従う必要もなく、フィールヘイト宗教国の中でも大手を振って商売が出来るようになるとメリットも大きいのだ。


 特にこれ以上『総合商社・魔王軍兵站部』を伸ばす場合は多国籍企業にならざるを得ない。

 エネルギーキューブや汎用オーガニックマテリアルの不足はアドラム帝国だけではなく、戦争国だったフィールヘイト宗教国の外縁部でも同様に起きている。

 このビジネスチャンスを逃す手はなかった。


 兵站部の輸送艦は全力運転で順調すぎる売り上げを出していた。

 ワイバーンも喜んでいたし、ミーゼすら収支計算をしながら顔がニヤついていた。

 だからこそ、違和感に気がついた。


 ―――この状況はあまりにも美味し過ぎないだろうか。


 兵站部の輸送艦と同じような商売をする船は国籍問わず数多い。

 沈んだ際のリスクが大きいので、中型以上の輸送艦を使って商売している所こそ少ないものの、個人所有のクルーザーから、果ては船倉が小さくて本来輸送に向かない戦闘機まで集まり、さながらゴールドラッシュの様相を見せている。


 海賊被害も天井知らずに拡大しているが、それでも集まる船乗りや艦艇は後を絶たない。


「……不自然だな、意図は何だ?」

 この状況に悪の匂いを感じる。それも人々に憧憬を抱かせるような悪ではない。

 もっと醜悪なのに機械的で、人を数字に置き換えて利益の為に削り壊すような、そんな悪の匂いがする。


「通信、セリカに連絡。グローバル情報ネットからの情報収集及び分析に重点を置くように。

 ミーゼ、アルテ、ワイバーン。上がってきた情報を精査、兵站部以外で利益を上げている企業や組織を中心に調べてくれ」


「分かったのです」


「あいさー、了解であります」


『魔王様、承知しましたわ』


 これから調査が始まる訳だが、面白い結果が出てくるかもしれない。




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