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24話:魔王、勢力の拡大に努める

3章1話目です。



 たまには単刀直入に出来事を語っても良いだろう?


 新型戦艦作れる位のICカネを入手したので、旧型の中古巡洋艦を3隻買いました。




 まて、落ち着け。石は投げるな。

 具体的に話そうじゃないか。




 太陽熱エネルギープラントの海賊達と、特殊海賊空母の賞金はかなり渋かった。

 規模が大きな割に、やっていた仕事は田舎航路での地道な海賊家業だったしな。


「これで航路維持課に渡す資料は最後かな。

 しゃっちょー、お疲れ様!」

 意外な事にミーゼの次位に牛娘(妹)のルーニアが細かい事務仕事が上手かった。

 さばさばした性格も、健康的で元気そうな見た目もスポーツ系少女そのもので、実際体動かすのは得意らしいが。

 牛娘(姉)とは違い、事務仕事に家事までかなりの腕前だった。

 ………姉が残念な法則でもあるのだろうか。つい視線がリゼルとミーゼに向かう。


 海賊から没収した個人資産と、特殊海賊空母の売却代金の方はかなりのものだった。

 あちこち書類出しまくって回収した賞金総額よりも多くなる位に。

 海賊の奴等はもう少し実力を誇示こじしておいて欲しかった。


「イグサ、古道具屋から明細が届いてる。

 この前売りに行ったアンティーク火器類の代金」

 海賊達から回収した火器類まで換金していった。

 海賊は古臭い武器でも使う伝統があるのか、骨董品屋やコレクターに高く売れたものだ。



 精算し終わると、新型戦艦一隻作れる程度のまとまったIC(カネになった。

 ICカネがあるなら新型戦艦乗ろうぜ!とか単純な話なら気楽だったんだが。


「収入は上がったけど一過性のものなのです。

 次の収入に繋げる堅実な投資をするのがいいのです」

 案の定ワイバーンを準戦艦位にできるのですよぅ!とこれ以上の魔改造案を出してきたリゼルの意見をばっさり切って捨てたミーゼだった。

 魔法少女になったが夢の無い現実主義は相変わらずでなによりだ。



 固定収入もないうちに維持費のかかる戦艦作るなんて、ちょっと小金が入った中小企業が社長の胸像つきの立派な本社ビル建てる程度に無謀であるし。

 あちこちで小口の仕事をやる海賊の方が多数派なのに、小回りの効かない船とか効率悪いにも程がある。

 建国から数百年後、国の発展の全盛期にAIの反乱戦争の影響をモロに食らった苦い経験のせいか、極端に自動制御が嫌いなアドラム帝国の場合、戦艦クラスになると小型でも運用に必要な船員の数が一隻三千人以上からという。

 全長1キロを越える軍の主力戦艦級になると数万人単位だそうだ。

 地方に湧く海賊のモグラ叩きみたいな賞金稼ぎがメインの現状だと、まずその数の社員を雇うのがきつい。



「現状の営業規模で、範囲と数を拡大するのが一番なのです。

 護衛はパパの紹介があれば多少は仕事取れるけど、こんな田舎から出る商船の護衛なんて報酬もたかが知れているのです。

 辺境警備とかの定収入を得れる仕事を取るには信用も実弾(賄賂)も足りないのです」

 本当に夢のない魔法少女だが頼もしい。

 そして未来世界でも汚職は払拭しきれてないようだ。



 民間軍事企業としての事業規模を広げるなら、船を増やすのが一番なんだが。

 まずどういう船をどの位増やそうか、戦艦はナシで。と話し合った。


 まず戦闘機は艦船より随分安く購入できて金額の割に戦力になるが、船と違って撃墜されて即スクラップになる事も多いので、魔王軍うちの懐事情だと厳しいという。

 戦闘機を戦力として運用するのは、身一つでICカネを稼ぐ、命知らずな賞金稼ぎや傭兵か、または撃墜されても惜しくないだけの資金がある大手民間軍事企業や軍隊が主らしい。

 戦闘以外、連絡機や偵察機としてならどこでも良く使われるようだが。


 資金回収効率だけ考えると、中古の駆逐艦やフリゲート艦といった小型艦船を中心に数を揃えて艦隊を作って運用するのが一番だった。

 小型艦船を多く揃えて運用した方が利益的にも非常に良いし、実際に他の民間軍事企業もその道を選んでいるそうだ。

 だが、小型艦船を使った艦隊における船員損耗率の見積りが、3年で10%から40%と書いてあった。


 そんなに船員がさくさく死ぬような環境とかおかしくないか?

 いやSF的には普通なのかもしれないが、基本人口が少ないせいで有能なやつは大切にするファンタジーの魔王的には見過ごせない数字だった。


「なぁミーゼ、この船員損耗率は常識的な事なのか?」


「私には分からないのです。アルテ?」


「はっ。大手を除く民間軍事企業の船乗りでは一般的な数字であります」


 人口が多いせいか人の命が軽いな。流石さすが、SF世界だ。

 民間軍事企業というか、賞金稼ぎの死生観は傭兵や西部のガンマンに近いものがあった。

 ヤバい橋を渡ってガッツリ稼いで刹那的に生きてる連中が多いそうだ。

 アドラム帝国の民間軍事企業は刹那的な生き方をする傭兵タイプの賞金稼ぎと、堅実だが命を賭ける割には稼ぎの少ない警備会社タイプの2通りがあるという。

 魔王軍うちは後者に分類されるな。


「……話にならない数字だな。うちは損耗率5%以内を目指すぞ」


「その数字は最大手の民間軍事企業レベルであります」

 最大手になると、総戦力は軍の地方軍よりも大きな規模になるという。


「実例があるなら判りやすいな。危険を下げられるなら可能な限り下げる」


「安全なのは大歓迎なのですよぅ。だから戦艦を―――「却下だ」「却下なのです」」


 被害を抑えられるなら最低限に、有能なヤツを大事にして将来の悪に備える。

 ファンタジーな魔王らしい基本方針はSF世界では人道主義に当たるのか。

 複雑な気持ちにしかなれない。



 そこから船探しが始まった。

 船の墓場星系だけでは限界があるので、アドラム帝国とその友好国であるユニオネス王国の勢力範囲内にある星系のディーラーが所持する売出し中の艦艇を探した。

 今の企業評価はアドラム帝国基準なので、中立国や敵対国では通用しないんだ。

 


 まず管理を簡単にする為に、船体とメインフレームがセットで運用されていたのものが、そのまま残ってる事が第一条件。

 ワイバーンのように付喪神化を狙えるからな。


 次に逃亡する海賊を追いかける事もあるだろうから、高速艦である事。

 高速戦闘機を使う小口の海賊に追撃をかけられるように、追撃専門の戦闘機を搭載できる事。

 海賊退治するのに逃げられては意味が無い。


 十分なシールドを持ち、船員の生存性に配慮した設計である事。

 船員被害を多くしたくないので、ここは妥協できなかった。


 最後に同型艦でまとめて購入できるのが望ましい。

 速度の問題や修理部品のストックなど、同型艦をまとめて運用した方が効率が良いからな。


 そんな条件で探したのだが、なかなか苦労した。

 特にアドラム帝国製の艦艇は量産性とコストパフォーマンスに優れているものの、船員の生存性やシールドに若干不安が残る。

 そうなるとユニオネス王国製か、正規ルート以外で他国から持ち込まれた中古艦艇の中から探すしかない。


 最終的にはアドラム帝国の北西外縁部、ユニオネス王国のすぐ近くにある中古軍艦ディーラーが持っていた、ユニオネス王国製の旧式高速巡洋艦。

 「CMM-KD260xE3ハングリーウルフ」級を3隻購入する事にした。


 どうにも高速巡洋艦というジャンルは既に廃れてしまい、買い手が付かずにドッグの奥にまとめて死蔵されていたらしく、買取と回航依頼の取引を持ちかけると、海産物っぽい異星人のディーラーは大喜びで応じてくれた。

 回航用の燃料と費用、臨時船員は向こうで手配して『船の墓場星系』まで送ってくれるという大歓迎振りだ。

 この前の仕事で企業評価ランクが順調に上昇したのも大きかったようだ。

 信用コネの大事さが身に染みる。


 ジャンプゲートで接続されているとはいえ、5つ離れた星系から運んでくるので到着には時間がかかるという事で、おやっさんをリーダーに改装用の部品の調達と製造を頼んだ。

 おやっさんとリゼルが嬉々として趣味の改造仲間を集めて、閉鎖されていたのを借りた『ヴァルナ』ステーションの気密ドッグで設計と製造を始めた。

 ある事情により、リゼルは設計以外に周囲が関わらせて貰えなかったらしい。


 船が来るのが待ち遠しすぎたおやっさんとリゼル達の手によって、半ばライム専用機と化しているワイバーン艦載機のアクトレスまで魔改造されていた。

 幸いライムには好評のようだが、普通のパイロットだと直進させるの事すら困難な仕上がりだという。

 動いている所を見せて貰ったんだが、出力上げすぎたリアクターから零れる燐光を撒き散らしながら、超高速のまま非常識な位狭い旋回半径で180度ターンをする戦闘機は色々おかしい気がする。

 SF世界でも戦闘機はもっと鈍い動きしているはずなんだが……



―――



 さて、新しい船の準備するのに何が一番大変か。


 多くのやつは購入する為のIC(カネと言うかもしれないが、それは前提条件であるし、難易度的にも2番か3番目程度だろう。


 一番大変なのはまず艦長とブリッジ要員の準備、次に船員だと俺は思う。

 艦長をいい加減なヤツにすれば艦ごと反乱を起こし兼ねないし、ブリッジ要員は訓練と経験が無ければ艦の性能が生かせない。


 そして船員を集めるのも骨がおれる。

 今のワイバーンでも船員は約120名乗っている。

 しかし、この数は付喪神なワイバーンと魔法の併用で必要人員を削っているが、本来であれば数倍の人数が必要だという。

 今度購入するハングリーウルフ級高速巡洋艦は全長が550m、全長が180mしかないワイバーンの3倍を越えている。

 強襲揚陸艦ではなく純粋な戦闘艦なので、運用に必要な人数はサイズに比べて少なくていいものの、現役だった頃のカタログスペックを見ると、最低人員は500名程度。

 実際の運用記録を見ると800人から1000人で動かしていた事が多いようだ。


 人手不足の嵐が再び到来した。

 ファンタジー的に頑張って運用に必要な人数を削りに削る予定だが、ワイバーンの人員削減率から考えても、一隻辺り250人、3隻で750人は最低限集めて、改造が終わる前に船員教育と訓練をしておいた方が良いという。


 おやっさんとリゼルとメカニック系の船員達が嬉々として搭載予定部品の魔改造をする傍ら、俺とライム、ミーゼ、アルテは人員の募集と面接をひたすら繰り返す事になった。


 海賊退治した影響で『民間軍事企業・魔王軍』の名前が『ヴァルナ』ステーション内で有名になってきていたので、前回より多数の求人応募が殺到してくれたので助かった。


 今回は男性アドラム人も随分と応募してきたので、艦内の男女比を1:9位で確保するつもりでいる。

 ブリッジ要員には魔法使い枠を確保するのに、艦長とブリッジ要員の半分位は待望の女性淫魔で揃え、付喪神をアドバイザーとして使う予定だ。

 契約してきちんと対価を払っている淫魔は知能も忠誠度も高く、魔法の行使も出来るのでうってつけだった。



 いや、淫魔は女性だけじゃなくて、男性淫魔もいるんだが。

 以前試しに召喚した『色欲』の名誉称号を持つ、大悪魔でもある男性淫魔がな………


 時代のニーズに答えるのに、どこに出しても恥ずかしくないハイレベルな男の娘だった。


 何でも淫魔は偶然に召喚される事が少ないし、偶然召喚される事があっても大抵は深い業と欲望を持つ男性が多いので、そっちに呼び出されても大丈夫なように、男性淫魔はほぼ全員武器じゃない方の意味で二刀流だそうだ。

 そして、方向性こそ違うもののライムやミーゼよりも美少女に見える大悪魔が俺を見るなり。


 「生まれる前から愛してました!」

 と、契約とか色々な手順をブッチして告白してくれた。

 ……うん、その日以来そいつの召喚魔法陣は厳重に封印してある。

 色々怖いのでそいつの部下の男性淫魔達も召喚していない。

 俺も守備範囲は広いし色々業も深いんだが、普通に女の子が好きなんだ。すまん。




 船員達に信頼されてきたのだろう。

 ワイバーン乗組員の6割位が前に仕込んだ下僕契約が成立し、ファンタジー的なステータスを俺が直接操作できるようになった。

 SF世界の住人はまずステータスやレベルなんて自覚もしてないし、存在も知らないので操作や割り振りを自分では出来ないのだ。

 多分余ったステータスポイントやスキルポイントは潜在能力的なものになるんだろう。


 乗組員達の適性と本人の希望を聞きながら成長させるついでに、[教導]や[訓練]と言ったスキルを取得させて新規で雇った社員の面倒を見て貰った。


 うん、ツッコミたい気持ちは良く判る。

 SF世界でも能力を鑑定魔法でステータスとして数字で見れるのは、まあ判るだろう。


 だが、使い魔契約や主従契約をしてファンタジー的な住人に近づくと、経験値も上昇するようになるし、レベルアップもするようだし、ステータスポイントやスキルポイントの割り振りまで出来るようになったのには、俺ですら理不尽なものを感じた。



 非常識だと言って貰って構わない。

 ファンタジーも魔王も非常識なものだと答えるが。



 直接戦闘した俺やライム以外でも、船員達が全員Lv8以上に成長していた。

 ファンタジー的に考えれば、原因は説明できる。

 あの特殊海賊空母を撃破した際に、艦内にいた船員が「パーティ」のように扱われて、パーティ経験値的なものを取得したのだろう。

 あるいは海賊退治の任務がクエスト扱いで、クエスト達成ボーナスでも入ったか。


 ファンタジーやRPGでは良くあるシステムだな。現実に起こるのは微妙感漂うな。

 そんな説明をライムとミーゼにしてみたんだが。


「うん、ファンタジーなら普通」


「おにーさんと話していると、たまに現実感が消え去るのです」

 随分と対照的な意見を頂けた。



―――



 意外な提案をしてくれたやつもいた。


『魔王様、資金に余裕があるなら輸送業をやってはどうです?』


「珍しい提案だな。お色気なグッズの運送でもやる気か?」


『そっちも捨て難いんですが、今回は別件ですわ。

 暇な時間使って色々物価調べていたんですけど。

 どうにも物流が今ひとつ上手く流れてないんです』


「……興味あるな、具体的に頼む」


『へぇ、海賊の跋扈ばっこが一番の原因だと思いますが、エネルギーキューブや汎用オーガニックマテリアルみたいな、”単価が安くてかさばるけど需要が無くならないもの”を中心に高騰してるんです』


「具体的な情報を送ってくれ」

 携帯端末に送られた情報を見ると、確かに中心星系と外縁部の価格差が随分とある。


『単価が高いもんは護衛でも何でもつけて行けるんでしょうが。

 単価の安いもんは護衛すると利益飛ぶから小口運送じゃ護衛つけられません。

 外縁部の海賊発生率はこの前のフィートヘルトの戦以来上がりっぱなしです。

 で、中央星系から運送すれば堅実に儲けられそうなんですわ』


「……確かに目の付け所がいいのです。でも海賊への対応はどうするのです?」


『まず安全面ですが、今度の巡洋艦と同じ形式が良いです。

 半分を男連中にして、残り半分を淫魔の姉さん方にすれば、ある程度は魔法で誤魔化しが効きそうですわ。

 輸送船は戦闘前提の設計ではないので乗員10名程度、人数的にも負担は少ないです。

 で、肝心な所ですがドローン(無人戦闘機)で行こうかと」


「ドローン嫌いのアドラム帝国じゃ少ないけど、

 他の国の輸送船なら積んでる所も多いと聞くのです。

 でも、ドローンは船倉圧迫するしコストが高くつくのですよ?」

 確かに海賊を追い払えても、利益以上にコストがかかっては意味が無いな。


『へぇ。そこでちぃと旧式でも再利用型のドローンを魔王様にファントムアーマーの連中と同じようにして貰えれば行けるんじゃないかと』


「ああ、なるほどな」

 確かに中古の宇宙戦用装甲服を素材にしたリビングアーマーはファントムアーマーという上位種になって、ただのリビングアーマーより頭が良い上にLvも高く戦闘力が高かったな。


「ドローンならリビングアーマー化よりはゴーレム系か。

 ……試してみる価値はありそうだな。

 ミーゼ、旧式でも故障品でも良いから、中古品の再利用ドローンを10機程度手配してくれるか?」


「その位なら大して予算もかからないのです」

 早速携帯端末を叩いて手配を始めてくれた。




 翌日、戦闘の予定もないので最低限の人員でワイバーンを出港させ。

 『ヴァルナ』ステーション近くの宙域に停泊させていた。


 俺はワイバーンの格納庫に設置されたドローン射出機と、そこにセットされたドローン達の前に居た。

 ミーゼが手配したのはアドラム帝国製「ARSM-15660Fv6ウォッチャーズ・アイ」という小型の戦闘用ドローン(無人戦闘機)だ。

 全長は8m位、近未来的な航空機と潜水艦を混ぜたような流線型なデザインがいかにもSFらしい。

 いつかの汚染惑星で戦ったドローンよりずっと小型の、数を頼りに敵へ襲いかかるタイプだという。

 『船の墓場星系』でお手軽に入手できる辺り、旧式化具合は察して欲しい。

 ドローンは機種更新の頻度が高いので、ワイバーンよりはずっと若いようだが。


『死霊魔術発動:ゴーレム生成Ⅸ/対象拡大Ⅹ』


 最近癖になってきた指を鳴らし、魔法が発動すると。

 ドローンの正面についてるモノアイ(単眼カメラ)に赤い光が宿って行った。

 赤い光が宿ったモノアイが一斉に俺の方を向くのは少々ホラーな光景だな。

 雰囲気は目覚めた子犬が主を探しているようなものなんだが、子犬にしてはフォルムがいかつ過ぎた。


『法理魔法発動:鑑定Ⅴ』


 ドローンの一体に鑑定魔法をかけと予想以上のステータスになっていた。


『ドローンゴースト Lv58』

 かなりレベルが高い。攻撃力や防御力の補正もかなりありそうだな。

 ドローンのシールドや兵器にどの程度補正かかるかは疑問が残るが。


「さて、ドローンゴースト達。俺が主だ、分かるか?」


「―――、――、―――」

 こっちを見ていたモノアイに宿った赤い光が点滅して意志を返す。

 ドローンにはスピーカーも無いから喋れないか…いや、通信はできそうか。


「ワイバーン、ドローン達への連絡回路と通信回路に切り替えろ。

 ついでに信号を言語に変換してくれ」


『了解ですわ』

 ワイバーンの返事と共に、汎用端末から投影表示されたウィンドウに文字が流れる。


『初めまして魔王閣下。

 我等ドローンゴーストはこの身朽ちるまで忠誠を捧げます』

 ……普通に礼儀正しいな。


「忠誠大義だ、今日はお前達の評価試験を行う。

 今後の仕事にも関わってくる事だ、ワイバーンの指示を聞いて働きを見せてくれ」


『『『了解』』』

 …うん、了解の中に「いえす、まいろーど」とか「やぼーる、へるこまんでる」とか混ざっていたのは気にするのを止めよう。

 知性が高い個体はどうしても個性が出てくるな。


 その日に行った性能評価試験で、ドローンゴースト一機で最新鋭のクラス3戦闘機(各国の主力戦闘機)を楽に撃墜できると出て、評価試験をしていた船員達は乾いた笑いを浮かべていた。


 あまりに評価が高かったので同系の中古ドローンを買い占めて、ワイバーンや今後増える巡洋艦の艦載機としても使用する事になった。



 運送業の方だが、いきなり資金を大量投入するのは冒険に過ぎるので。

 まずは試しにと「ARTS-CC4-2003BネプチューンB型」というアドラム帝国ではありふれた型の、中型の輸送艦を3隻購入してそれぞれドローンを9機ずつ防衛用に搭載して。

 運行用の船員に、たまたま失業していたのをまとめて雇用した独身のテラ系アドラム人の兄さん達と、女性淫魔を1隻につき4人ずつ乗せた。

 基本的な対外交渉とかは女性淫魔達に任せる予定だ。

 男達も普通に働いて貰うし……うん、独身男性として幸せに満たされるだろうが、枯れ尽きないように頑張って欲しい。

 売買もしないといけないので、トレーダーが使っていた旧型の携帯端末を付喪神化して、運行や商業アドバイザーに当てた。


 輸送艦は魔改造もしないし『船の墓場』星系でもありふれたものなので、すぐに購入してドローン射出用の改造と全体を簡単に改装した後に送り出した。


 ワイバーンと同じく純白の海軍仕様塗装をされた船体にはこう書かれている。


『民間軍事企業・魔王軍兵站課(PMC.DLA:Logistics section)』


 余談ではあるが、最初に送り出した3隻のうち1隻は目的地だった外縁部にある汎用オーガニックマテリアル製造ステーションへ辿り付く前に、撃墜したり拿捕した海賊機とジャンク品で船倉が一杯になり『ヴァルナ』ステーションへ引き返す事になる。



―――



 海外の風習ではあるが「ショットガンマリッジ」というのをご存知だろうか?


 日本で言えば「出来婚」最近じゃ「授かり婚」とか言うらしいが。

 海外では妊婦の父親がショットガンを相手の男に突きつけて「俺の娘と結婚して責任を取るか、ここで死ぬか選べ」と迫る……という笑えないジョークだ。

 いや、実際に行われる事もあるんだろうが。



 どうにも未来世界にもショットガンマリッジは存在するらしいが、長い歴史のせいで内容が若干歪んでいるようだ。

 歪み方はこうだ「未婚の妊婦の父が妊娠発覚から出産までの間に、相手の男をショットガンで物理的に制圧した場合、自動的に婚姻が成立する」という物騒な方向へ歪んでいる。

 『ヴァルナ』ステーションにも伝わっていたが、今では年寄りと一部の物好きしか知らない古い風習らしい。


 その古い風習を嬉々として持ち出して法的にも認めさせようとする権力者がいた。


 まあ、先日から制圧用の散弾銃を二刀流して襲撃をかけてくるリゼル父な訳だが。



 もう色々ばらしても良いよな?



 テラ系アドラム人は現代地球人と大差はないが、獣耳系のアドラム人の妊娠・出産期間は概ね2ヶ月から3ヶ月の間だという。

 動物達と同じ位の速さだが、流石に一度に多産という訳でもなく、普通は1人、多くても双子程度が常識らしい。

 恒星戦闘の後『ヴァルナ』ステーションに戻ってから発覚したのだが、リゼルが妊娠一ヶ月目、後1~2ヶ月で出産するという。



 やればできる。含蓄がんちく深い言葉だよな。



 それを聞いたリゼル父は法律家や弁護士をまず抱きこんだ上で、散弾銃を両手に毎日のように襲撃してくるようになったし、リゼル母は上品にあらあら笑いをしていたが、色々と嬉しそうではあった。

 リゼル母のあらあら笑いの中に「―――計画通り」的な鋭い瞳が混ざっていたのは、気がついてない振りをしておいた。


 子供はリゼル母が乳母をつけて実家で育てるようだし、今後の行動に支障はないものの、一時期周囲には色々微妙な空気が漂ったものだ。


 当のリゼルは全く気にしてなかった…というか少し前から自覚があったようだ。

 今日もおやっさん主導で作成している、巡洋艦用のリアクター改造に嬉々として参加しようとして周囲に止められていた。



 子持ちになろうとも、これから更に増えそうな予感がひしひし感じようとも、魔王である事や悪の美学を捨てる気はさらさらないがな…!



「イグサ、私も子供が欲しい」

 背中から抱きついて来て耳元で呟くライムの言葉に、幸福感とか充実感とかよりも、軽い恐怖を感じるのは魔王以前に男として仕方が無い事だと思わないか。




リゼル父襲撃の真相が明らかに。


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