23話:3章プロローグ 魔王軍躍進の時
新章プロローグになります。
海賊退治や治安維持に必要なものは何かと問われれば、
人間だろうが魔族だろうが魔王だろうが似たような答が出てくるだろう。
賞金稼ぎは言うだろう、十全に振う事ができる武器や防具だと。
勇者は言うだろう、素晴らしい仲間達だと。
……あ、ライムは別だ。あいつは勇者としては規格外も良い所だからな。
だが、冒険者でも勇者でもない統治者や企業(商人)にとって。
一番重要視するのは安全だ。
だってそうだろう?
毎回命を賭けて海賊達と立ち回りなんて命が危なくてできやしない。
そんな事ができるのは時代劇の主人公達位だ。
賞金稼ぎは命なんて惜しくないかもしれないだろう。
勇者は山賊や海賊相手ばかりしないだろう。
毎日のように仕事としてそれを行うなら、まず安全を確保しないといけない。
もし気になるならそこらの警察官に聞いてみるといい。
まずは自分の安全を確保した上で、危険に対処するのが基本だと言うだろう。
質問したのが純真な子供でなければ、きっとそう答えてくれると思う。
ファンタジーな世界は人口が少ない割に、命の価値が実に安い。
冒険者ギルドなら、冒険者を相応の危険地帯に送り込める。
魔王ならゴブリン辺りの魔物を壮大に使い捨てるやつが多い。
だが、SF世界の社員達を消耗するような所に置いておけないんだよな。
人の命は地球より重いなんてフレーズはあるが、
SFな未来世界は人の命に金額をつけられるだけに、具体的に重い。
報酬を吊り上げればあちこちから蟻のように社員は集まってくるだろうが、安い金額で使うなら技能も知識もない頃から育てないといけない。
当然死亡したら家族に見舞金を出す事になるし、育成にかかった手間も費用も丸損だ。
船や戦闘機ごと沈んでいたら、財産も失って二重に痛い。
冷血な意見かもしれないが、魔王云々以前に現代地球でも事情は似たようなもんだ。
魔王ならば配下がごっそり壊滅しても「所詮あのような雑魚は我が配下にいらん」とか言うのが正しい姿かもしれないが。
SF世界に生きる魔王にとって部下の命は文字通り財産だった。
何故だろうな、人道的なはずなんだが。
魔王がやるとセコく感じるのは……
―――
ワイバーンのブリッジで行われている会議は難航していた。
帝国からの賞金の額が決まり、特殊海賊空母の売却代金も入ったので今後の運営方針を話し合っていた。
話し合っているのは主に俺とミーゼと経済や運営に詳しい一般船員だが。
ライムやリゼル?
リゼルは浪漫ばかり言ってスルーされている。
浪漫は大切なんだが、SF世界の企業運営はシビアだからな。
浪漫な提案をしてはミーゼに却下されるコントを繰り返している。
ライムはミーゼが膝の上を占拠しているので背中に張り付いて寝ている。
こっちの
何故か俺の方を見る一般船員の視線が生暖かい。
どうして「そうですね、私達は分かってますから」的な視線が来るのだろうか。
……いや、今の自分の姿を見れば考えるまでも無いんだけどさ。
そして難航している一番の原因だが。
俺が「最大限社員の安全を確保する」と方針を決めたからだ。
SF世界は部下の命が財産であると同時に、人の命がやたらと軽いというか、簡単にまとまった数が死亡する世界でもある。
利益と人命優先の天秤は片方に偏ったままらしいが、魔王としてその状況を甘受する気はない。
世界の秩序がこうだと言うなら、それに叛旗を翻すのが魔王というものだ。
難航する会議はこのところ恒例になった、心底嬉しそうな笑みを浮かべたリゼル父の制圧用散弾銃を持った突入でお開きになった。
ブリッジは船で一番セキュリティ堅い所だと思うんだが、どうやらワイバーンがまたエロ動画で買収されたようだ。
後でしっかり複製を貰っておかないとな。
少年風の体のサイズで、大型の制圧用散弾銃を両手に持ってのガンアクションは船員達にウケがいい。
合成でもCGでもないのが新鮮だという。
毎回お約束のように相手をする事になる俺は大変だが。
だがまあ、こういうじゃれ合いも楽しいものだろう。
さて、乱痴気騒ぎでうやむやになりかけたが、魔王軍は躍進と言う名の事業拡大の時を迎えていた。
それだけに苦悩も多い。
だが、祭りの準備に似た苦しくも高揚感のある空気は誰だって嫌いじゃないだろう?
3章1話目は近日中投稿予定です。