17話:魔王、下僕達の進言に耳を傾ける
戦闘突入前の説明回的な話です。
工業ステーション『ヴァルナ』の外部停泊港に停泊中のワイバーンのブリッジ。
普段は広く感じる室内には、交代制が板についてきたブリッジ要員が全員集まっていた。
「ではっ『ヴァルナ』ステーション行政機関より依頼された海賊排除の要綱について、不詳、アルテがご説明させて頂くであります!」
リゼルの実家から半分派遣されている、戦闘メイド隊(正式名称は第二特殊作戦群とかそんなのらしいが、こっちの方が判りやすい)の隊長、アルテが一際大きなサイズの空間投影型モニターを開いて説明を始める。
軍帽チックなデザインの金属質のヘッドドレスを乗せた、灰色の長髪が投影型モニターの光を反射して輝き、なかなか眼福だな。
軍人風の雰囲気と、金属棒タイプのポインター(指し棒)の組み合わせも、えらく似合っている。
作戦前のブリーフィング風だが、実際にはまだ依頼を受けるかどうか検討する為に開いた会議だったりする。
だが緊張と興味が漂う、SF的な戦闘に備えるこの空気は悪くない。
実に浪漫がある。
「目標は対象海賊勢力の撃破または撃退、主に旧世代の大型エネルギー生成ステーションと、そこに出入りしている大型の海賊所属艦が対象となるであります」
撃退?追い払うだけでもいいのか。
海賊達を確保するか、殲滅するか、追い払うだけにするか。
どれを狙うかで随分準備にかける手間も変化するな。
「敵戦力を教えて」
ライムが合いの手を入れる。
黙っていても教えてくれるだろうが、こういう発言は大切だ。
「はっ。まず主なターゲットになっている海賊所属艦は800メートルクラス、大きさだけならば準戦艦クラスであります。
ただし、これは厳密には戦闘艦ではなく特殊艦という分類であります」
「詳しく」
「はっ。特殊艦はユニオネス王国が開発した8世代前の科学調査・実験艦であります。
形式名はSSU-540K『ラー・ヘジュ・ウル』
本来は恒星表面に接近し、恒星環境における科学調査と実験をする為の大型艦であります」
カシャリ、と音を立ててモニターへ特殊艦の画像が映し出される。
別にスライドでも何でもないので、切り替える際に音なんて出ないんだが。
ワイバーンは『定番は大切です』とわざわざ効果音を入れている。
……浪漫の分かるヤツめ。
モニターに映し出されたのは明るい灰色の大型艦、尺図も入っているが縦横にも広いのでサイズ以上に大きく見える。
大雑把に言うと、上と下を切り取った球形。
真上から見ると丸く整形したアルファベットの「H」のような形をしている。
「恒星活動によるフレアの直撃に耐えうる、強力な戦艦クラスのシールドジェネレーターを複数装備、それを支える大出力リアクターを持つであります。
反面、攻撃性能は最低限、機動性もあってないようなものであります」
厳しいな。時間がある時にリゼルからレクチャーを受けているが、船のクラスが変わると搭載するシールドジェネレーターも隔絶した性能になる。
強襲揚陸艦時代のワイバーンのシールド強度が800S、魔改造したワイバーンやそこらの軽巡洋艦が3万S前後。
これに対して現役で使われてる一般的な戦艦のシールドが70~80万S。
相当旧型だとしても、戦艦クラスなら20万S以上のシールド強度を持つだろう。
まさに段違いとしか言えない。
強度の高いシールドはシールド修復速度も早いので、豆鉄砲では撃つだけ無駄だという。
「その時点で十分すぎる難物なのです」
難しい顔したミーゼ。対応策を既に頭の中で考え始めているのだろう。
「しかしながら、これを海賊が改造したらしく。
低速ながら機動性を向上、攻撃兵器の追加は無いものの、母艦機能が増設され。
原型となった『ラー・ヘジュ・ウル』級の積載能力を考慮すると、クラス3の戦闘機が推定15から20機搭載可能、クラス5戦闘機であれば40機以上との推測がされるであります。呼称がないと不便なため、便宜上『特殊海賊空母』と呼称するのであります」
特殊環境対応の小型空母という所か。
サイズからして小型という言葉は似合わないらしいが、このSF世界の軍隊が使う空母はもっと巨大かつ、搭載機数も多いらしいので小型という表現になってしまうらしい。
「が、頑張るけど。強襲揚陸艦一隻でどうこうってレベルじゃないですよね……ですよね?」
言い切りきれずに周囲に尋ねているのは、オペレーターをしている牛娘の姉の方。
元気な印象を受ける三つ編みにした長髪の女性だ。
雰囲気を例えるなら「新任の自信はないけど熱意はある女教師」だろうか。
教師にするには豊満すぎる体型が、あまりにも青少年にとって目の毒だが。
牛娘らしくカウベルがついたチョーカーを是非プレゼントしたくなる。
殴られそうだが……いや、殴られても構わん。今度渡そう!
「次に旧世代の大型エネルギー生成ステーションでありますが。
これは約320年前に廃棄された『太陽熱型エネルギー生成プラント』であります」
「技術的な事は私が説明するのですよぅ!」
はいはいはい、と手を上げて主張するリゼル。
「ではリゼル、頼む」
捨て猫が「拾って!」という感じで見つめてくるのに近い視線をリゼルから感じる。
前は説明関係をほぼ全てリゼルに頼っていたからな。
仕事が減っている危機感でもあるんだろうか。
「はーい、まいますたー!」
満面の笑みで返事するリゼル。
耳はピンと尖って、尻尾はぶんぶんと振られている……猫なんだよな?
最近自信がなくなってきた。
「このステーションは今はもう使われていないタイプの、恒星が発する熱を利用してエネルギーキューブを生成していたのですよぅ」
エネルギーキューブとは凝縮されたエネルギー結晶で、膨大なエネルギーを固形化・安定させたものらしい。
形状は半透明の白く柔らかい樹脂…だろうか、不思議な手触りだった。
ドラム缶サイズのキューブ1つで、工業ステーション『ヴァルナ』全体の電力やエネルギー消費を30分から1時間、
このエネルギーを固形化する技術のおかげで、発電能力とかを自前で持つ必要がなくなり、複数の工業や商業ステーションで1つのエネルギー生成ステーションを持っていれば十分になったという。
「何故廃棄されたんだ?」
「効率が悪いのですよぅ。
恒星の近くにプラントがあるから、エネルギーキューブを運搬するのにも特殊海賊空母みたいに、耐高熱・高エネルギー環境対応の特殊輸送船が必要になるのですよぅ」
…まあ、良く考えればそうだよな。
「何より今の主流は低効率をサイズと数でカバーする太陽光集積型のエネルギープラントか、少し危なくて制御も難しいけど、場所も選ばないしエネルギー生成効率が段違いに高いブラックホール炉のどっちかなんですよぅ」
ああ、ガス火力発電所や原子力発電所が出来た後の、環境に優しくない石炭火力発電所的な過去の遺物なんだな………。
「リゼル様説明感謝であります。
該当海賊は特殊海賊空母を母艦に、そしてこの太陽熱エネルギープラントを母港及び本拠地として活動しているのであります。
また、太陽熱エネルギープラントには、近距離ステーションへの直接エネルギー供給用に大容量レーザー発信器が搭載されているのであります。
恒星付近という悪環境の為、極端に有効範囲は短いものの、武器として転用すると新型準戦艦の主砲に遜色無い威力があると推測されるのであります」
予想以上に難物だな。
ファンタジー的に例えるなら、武装した砦に立てこもった山賊か。
「聞く限り海賊とは思えない充実っぷりなんだが、何故国や軍は放置しているんだ?」
そこが解せない。
「こいつらは『船の墓場星系』でセコい事で有名な海賊なのです。
近くの星間航路を通る船を狙って、特殊海賊空母から発進した戦闘機で襲うのです。
だけど、戦闘機は積載量が小さくて、輸送船の中身をあんまり積んで持ち帰れないから海賊被害の発生回数に比べて被害額はずーっと小さいのです」
………何だろう、壮大な話が急にしょっぱくなってきたぞ。
「ミーゼ様の発言を補足するのであります。
特殊海賊空母が運用する、艦載戦闘機自体は数こそあるものの、旧式のものであるため、護衛がついた大企業や商船団の輸送艦は襲われないのであります。
そして強力な軍や軍事企業の艦隊が来ると、特殊海賊空母で恒星近くまで退避するのであります」
「パパも何度も軍に討伐依頼をしてるのだけど、特殊艦以外で恒星環境に耐えられるのは軍の主力戦艦位なのです。
主力戦艦入りの艦隊は軍としても大事な存在なのです。
ここは田舎だし、脅威も低いし被害が少なすぎて出動して貰えないのです」
……あ、うん。隙間産業的な海賊なんだな。
「……立派な本拠地や船を持つ割に、仕事のやり口が随分と小口だな」
「でも、やっぱり海賊。酷い事ばっかりするよ。
数年前かな…友達が乗った船が襲われて、可愛い子だったらそのまま誘拐されて。
その子の家、貧乏だし普通の家だったから身代金も払えなくて。
結局友達、帰ってこれなかったんだ……」
哀しげな口調に思わずブリッジ内に沈黙が落ちる。
今話したのはオペレーターをしている牛娘の妹の方。
普段はスポーツ少女的な明るい子なんだが、それだけに哀しげな口調から痛ましい雰囲気が伝わってくる。
身代金を払えるなら無事に解放、払えないなら部下の慰みものか。
金持ちと敵対しない海賊的には上手い方法なんだろうが…………怒りしか沸いて来ないな。
「アルテ、ワイバーンは見た目より強い船。
けど、この仕事は実力を過大評価しても厳しい内容。
私達は何を期待されているの?」
「はっ。特殊海賊空母、太陽熱エネルギープラントの攻略は非常に困難であります。
しかし、依頼内容は撃破または撃退となっております。
当艦には光学測定を回避する隠蔽装置が搭載されている模様です」
まぁ、ただの透明化魔法なんだが。
「故に特殊海賊空母から出撃する、海賊機の撃破を期待されているものと、小官は判断するであります!」
びしぃ!と敬礼ポーズで固まるアルテ。
うちはそんな社風でないから普通でいいぞと言ったんだが、癖になっているらしい。
制服とかもないので、私服や作業服の船員が多い中、あの装甲メイド服のままだから目立つ目立つ………いや俺的には眼福だから良いんだけどさ?
「納得。待ち伏せしての戦闘機迎撃なら、ワイバーンでも十分出来る」
魔剣や魔法の道具を作る付与魔法もあるし、透明化の魔法の装備でも作っておいた方が良いんだろうか?
だが、このSF世界じゃ魔法の道具なんて、国や大企業が大好きな
「しかし、何故このタイミングで直接依頼なんだ?」
大型駆逐艦を売却したばかりだし、うちの船員達はまだ初心者マークがついている。
しかも今回の依頼、依頼主は『ヴァルナ商工組合』実質リゼル父の依頼だ。
「はっ。それについて情報収集は完了しているであります。
ツェーン、説明を」
アルテが部下メイドの一人を呼ぶ。
仕事用のコードネームらしいが、アルテの部下達はアイン(1)、ツヴァイ(2)…からツェーン(10)までの古代地方語での数字―――俺からすればただのドイツ語で呼ばれる。
……なぁ、リゼル母の私兵らしいけどさ。
どう見ても、どこぞの特殊部隊だよな、明らかにメイドの枠はみ出ているよな?
「いえす、まむ。
我々が作戦行動中でした一昨日『ヴァルナ』ステーション所属の民間船が襲われ、民間人89人が誘拐されました。
『ヴァルナ』ステーション自治体及び自警隊にも確認済みであります」
仕事が早いのは良い事だ。
しかし、このツェーンと呼ばれてるメイド少女、例の死んだ魚のような目をした、瞳からハイライトが消えている子なんだが。
話す言葉にも抑揚がない、感情も篭ってない棒読みで、この子の身になにがあってこうなったのか、すげぇ気になる。
「誘拐された民間人の中には休暇を使い実家に帰省予定だった、当家の一般メイド15名が含まれていたであります。
海賊達の要求する身代金は高額であり、特に当家のメイドは要求額が非常に高く。
だんなさまも奔走しましたが、人材に回せる予算的では8名なら身代金を払える、逆にいえば15名中7名を見捨てる判断が必要であります。
戦力的、特に誘拐された人質が囚われていると思われる太陽熱エネルギープラントの制圧は立地的に非常に困難であります。
故に海賊の撃退、これ以上の副次被害を抑える依頼が発生したと推測されるものであります」
リゼル父も辛い所だな。
そして娘達が絡まなければ本当に優秀なんだな。
1人でも多く助けて、切り捨てる所は切り捨てる判断を下せるリーダーはそう居ない。
「たいちょう、おくさまより伝言を預かっております。『情報収集はまだまだね、隠れてるつもりだろうけど、可愛い尻尾が見えてるわよ』であります」
くっ!と悔しげに唇を噛むメイド隊長のアルテ。
リゼル母は本当に何者なんだろうか。
ツェーンが操作すると、投影ディスプレイに大量の履歴書のような顔画像入りのパーソナルデーターが表示されていく。
これが今回誘拐された人達の情報か。
メイド達はわかりやすい……うん?何故かって?そりゃ全員メイド服着てる状態で画像になってるからな。
…男も美形を狙って攫ったようだし、身代金が取れなかった時を海賊達も考えているんだろうけどさ、男が2割いるってのは業が深いな。
表示されたパーソナルデーター…いや、履歴書だけじゃなくて病歴とか親の情報とか書いてあるから、非合法的な手で入手したのだろうが。
メイド達や牛娘の中からも「……姉さん」とか「アルゼさんまで…」とか感情を押し殺した声が聞こえる。
メイド達以外にも攫われた民間人がこれだけいれば、知り合いもいるだろうしな。
ミーゼも攫われたメイドは、大半顔見知りだったんだろう。
必死にポーカーフェイスを保っているが、かなり辛そうな感情が漏れて見える。
こんな時にも「身代金が盛られすぎてるのです、もっと値切れそうなのですよぅ」と計算しているリゼルは色々アレだな。
確かに身代金値切れれば、助けられる人数が増えると思うが、こう………何か違うだろう?魔王の俺が言うのもおかしいけどさ。
おい、ミーゼ「その手があった!」と顔を輝かせるのは止めろ。
お前の冷静さや頭の切れる所は買っているが、やりすぎると愛玩動物枠から外れる。
………さて。そうか、肉親や顔見知りも被害にあっていたか。
胸の奥には懐かしい、暗く、熱さと冷たさが混ざった感触。
魔王としての俺はこの程度の被害は良くある事だと冷静に流している。
魔王としての別の側面は、身内の身内に手を出すような敵は皆殺しだと猛っている。
魔王化の影響なんだろうな、精神や感情に結構作用が来ているのは。
そして俺自身の感情も怒っている。
だってそうだろう?
あまりにも美しくないし勿体無い。
誘拐されても身代金が払えないとかさ、何すぐに慰みものにするかな!
そこは「君は見捨てられたんだよ」とか絶望を煽ってみたりさ。
「見捨てた連中を見返してやろう。私は最後まで味方になってあげるよ」とか。
甘く篭絡してみたり、復讐心を煽って手先にしたりできる美味しい所だろうが!
ああもう、あまりにも勿体無い。
雑すぎる扱いにふつふつと怒りがこみ上げて来る。
その手の商売しているお姉さんを雇って派遣してやるから、もう帰れないと絶望している人質と交換してくれ……!
お前らには悪の美学がないのかと小一時間、いや日単位で語ってやりたい。
え?人道とかはどうかって、魔王に聞かないで頂きたい。
クイクイとコートの裾が引っ張られた。
引っ張ったのはライムか。
「どうした?」
「イグサ、この人達を助けたい。勇者としてじゃない、私が助けたい」
相変わらず感情が読み辛い表情に、淡白な口調だが。
その声の奥には火傷しそうな程の熱が篭っていた。
勇者としての性が助けたいだけならお断りだが、ライムが願うなら話は別だな。
「でも、私だけだと無理。お願いイグサ、手を貸して」
「魔王への願いは高く付くぞ?」
魔王の助力を求める勇者か。
出合ったのが普通のファンタジー世界だったら在り得ない光景なのだろうな。
「ん。判ってる、何でもする」
即断でどんな代償でも払うと言い切るライム。
愉快すぎて思わず、くはっと笑いが零れてしまったじゃないか。
「契約成立だな」
俺にしては契約魔法も使ってないが、ここで持ち出すのも無粋というものだろう?
口約束だからこそ遵守される契約とか浪漫じゃないか。
契約や代償なんて無くたってライムの願いを叶えてやると言っても良いんだが。
そこは繊細な魔王心というものを察して頂きたい。
―――
「よし、方針を決めた。聞いてくれ」
「総員傾注であります!」
ざっ、と腕を体の後ろで組んだ「休め」の体制になるメイド隊一同。
……リゼルにミーゼよ、状況に気がつかずまだ身代金の値切り計算を続けないでくれ。
それだけ必死になのかもしれないが。
使い魔にした2人がこれというのは、凄く微妙だ。
ユニア、牛娘の姉の方が肩をつついて教えてる。
あ、ミーゼが気がついてリゼルの首をぐりっとこっちに向けた。
変な風に力入ったらしく、リゼルが首筋押さえて凄い痛そうにしている。
もう俺、シリアス風に気合入れるの止めていいかな…
「まず、待ち伏せをしての海賊撃退はしない。
やるなら徹底的に叩き潰す。
このワイバーンで出来るのか?という疑問はとっておけ。
お前達が考えている無茶や無理を何とかする方法は一通りある。
これから船員達にも通達するが、信じきれないなら船を下りて構わない」
「私はおにーさんを信じるのです」
「ちょっ、ミーゼ。人の台詞を取ったら駄目ですよぅ。
イグサ様とライムさんの非常識っぷりはもう慣れてきました。
どこまでも付いていくのですよぅ!」
2人ともすぐに付いてくるとか、嬉しい事を言ってくれるな。
メイド隊は知識があるだけに、まだ戸惑っている子が多いな。
ユニアとルーニアの牛姉妹は「私達は姉さんなんだからしっかりしないと」とか言っている。
気持ちはありがたいが、俺まで弟枠に入れるのは止めて頂きたい。
「ワイバーン、マイクとカメラをこっちに向けろ、艦内放送準備だ。
範囲は船内全域。聞き逃しがないようにな。
それと逆方向マイクも動かせ、反応を知りたい」
体がコンパクトサイズなライムを抱き寄せて、膝の上に乗せる。
ライムは俺の意図に気がついたのか、寄りかかるように体を預けてきた。
愛玩動物枠ならミーゼなんだが、折角の晴れ舞台だ。
魔王と勇者が揃っていた方が良いだろう?
『へい。カメラ及び指向性マイク稼動。魔王様、準備できましたわ』
視界に●RECと表示が見える。
「ワイバーン艦長、そして民間軍事企業『魔王軍』代表のイグサだ。
次の仕事を教える、大仕事になるから心して聞けよ?
『ヴァルナ』ステーションにいたなら知っていると思うが。
廃棄された太陽熱プラントを本拠地にする海賊、そしてその母艦になっている大型特殊艦相手が次の仕事だ。
目的は特殊大型艦の撃沈。及び太陽熱プラントの完全制圧と、そこに囚われた一般人の救出だ。
勝算はある。だが、危険な戦闘になるだろう。
下船したいヤツは船を下りろ、契約違反を問う気はない。
準備期間は24時間、1日後に出港予定だ。
船を下りるならその間に下船しろ。
だが危険な仕事だけに稼ぎも良い。
稼ぎ時だと思うヤツは実力以上に働きまくれ、成功時の臨時ボーナスは保障しよう。
さあ、気合を入れろ野郎共。稼ぎ時だ!
ここ一番の化粧をしろ、とっておきの服と下着をつけろ。
死んでも悔いを残さないように、綺麗な死に顔を残すように。
そして凱旋した時、花道を一番に歩けるようにな!
以上だ、社員一同の活躍を期待する」
演説スキルとっておいて良かった…どう話せば良いかすぐに思いつくのは便利だな。
視界内の●RECが消えたのを確認する。
「ワイバーン、ある程度は見えたが艦内の反応はどうだ?」
『へい、歓声10割です。見込んだ通り骨のある連中ですわ』
期待以上だ。2,3割の脱落を覚悟していたんだがな。
「と言う訳だ、1日で支度する。忙しい日になるぞ」
ブリッジ要員を見渡す。
メイド隊は揃って敬礼をしていた。
信頼の視線を感じるな。若干1名良く判らないのも混ざっているが。
牛姉妹はやる気に満ちていた。
―――
そこから1日で必要なものを揃えるのはかなり大変だった。
ステーション内のジャンク屋や、元宇宙船部品屋を巡り。
リゼル父のコネを使って優先的に、そして割引価格にして貰い色々と買い叩いた。
まずは特殊環境用の突入ポッド、場所が場所だけに使い捨てになるのが少々勿体無いが、エネルギープラントを制圧するので、ワイバーンの積載スペースギリギリまで数を揃えた。
リビングアーマー達は痛みも知らないし、多少の破損でも動くが、流石に鎧の関節部分とかを破壊されると動けなくなる。
十分な数を準備してやらないといけない。
耐高熱・耐高エネルギーの突入ポッドとか、マイナーなものがあるか少々心配だったが、意外と簡単に、しかも沢山見つかった。
冷静に考えてみれば、ビーム砲やレーザーが飛び交う宇宙戦で使うのだから、
耐高温・耐高エネルギーなのは普通のようだな。
中古でも耐久度が高いものをかき集めて、後は中に冷却装置を設置すれば完成だ。
次に中古の宇宙戦用装甲服集め。
ただの金属塊から作ったリビングアーマーよりも、実戦で使われていた装甲服をベースにリビングアーマーを作成した方が、知能が高く色々な判断が出来る上に、戦闘能力も高いものが出来るからだ。
今もワイバーンに50体ほど居るが、種族も「ファントムアーマー」になっている。
リビングアーマーの上位種族的な扱いなんだろうか。
プラント内部を制圧するには色々な機械操作も必要になるし、普通のリビングアーマー達に任せると、片端からジェノサイドしてしまうので指揮官役にも最適だ。
海賊でも非戦闘員を虐殺してしまうのは色々と寝覚めが悪いし勿体無い。
非戦闘員の中には、海賊に捉まって強制労働させられている民間人や、元誘拐された人質も混ざっているだろうしな。
忘れてはいけないのは、冷却ジェルの大量購入。
恒星に接近する事になるので、ワイバーンの船体内部を冷やす、冷却材を大量に運び込んだ。
あちこちの倉庫も満杯になって、通路や船員室にまで冷却ジェル入りの金属缶が山積みになった。
最後に船長席の改造。
今回はワイバーンで恒星に近い、無茶な所に接近する事になる。
いくら軽巡洋艦のシールドジェネレーターがあるとはいえ、そのままではすぐにシールドが崩壊して艦ごと丸焼きになるのが目に見えている。
魔法を使ってごり押しで何とかする事になるが、ワイバーン全体に魔法をかけるなら、艦内に巡っている生体神経情報網に直接接点があった方が良い。
この辺はミーゼと相談して構想を練って、リゼルが改造をやってくれた。
ワイバーン全体への魔法行使は更にスムーズになったんだが、中年サラリーマンそのものな外見のワイバーンと直接繋がるとか、凄く心理的な抵抗を感じる。
せめて女性人格だったらなぁ……とぼやいたら。
投影している姿だけでも女性にしますか?と言われて拒否った。
見た目美女でも中身が中年オヤジとか、もっと嫌だ。
こうして特殊環境用の突入ポッドを14個準備し。
各ポッドにはリビングアーマーをぎっしり作成、人間と違い無茶な収納が可能なのが強みだな。
その数はポッド1つ辺り180体、合計で約2000体のリビングアーマーと500体のファントムアーマーを準備した。
全部準備し終わえた頃には出航4時間前になっていたので、そのまま艦長席で仮眠を取った。
……妙に寝苦しくて目覚めたら、何故かライムとミーゼが俺を布団にして寝ていた。
目が覚めたら猫が胸の上に乗っていた的な、シチュエーションに近いのだろうか。
残念ながら召喚される前は、犬はいても猫を飼っていなかったので経験がないが。
乗員の乗り組み確認と点呼も完了、港湾管理に既に出港許可も取ってあるという。
ライムとミーゼが張り付いたままなので、微妙にブリッジ要員の視線が生ぬるいが仕方ない。
座席を起こして優雅に足を組み、愛玩動物風になってる2人をそのままに出港命令を出す。
さて、浪漫を解さぬ海賊共に魔王の裁きを与えようじゃないか。
ブリーフィングを表現してみたら1話かかった。
何を言ってるか判らないと(略)
戦闘回は18話になります