16話:魔王、愛玩動物を入手する
「……もしかして、これがリゼルねーさんが、おに、お……」
ぱくぱくと口を開くが、声が出なくなり喋れなくなる。
ああ、使い魔契約のデフォルトだと通称も禁止だったっけ。
「ミゼルリータ、命令、拘束部分解除、呼称は任せる」
「…ぷはっ。おにーさんをご主人様とか言ってる理由ですか?」
うむ、様付けばかりでは飽きるからな。
魔王の様式美的には様で呼んで貰うのに統一する所なんだろうが。
幼い美少女におにーさんと呼んで貰うのは、それはそれでアリだ!
「そうだ。弱みなんて握ってはいないだろ?」
契約上、握っているのは魂だからな。
「非常識な上にもっと悪質なのです」
ファンタジー的な契約なのに飲み込みの早い子だ。
だが大人数で襲った上にスナイパーまで配置していた子に悪質と言われるのは複雑だな。
狐耳の幼い少女、ミゼリータは驚きから戻ると、俺に質問しつつ、冷静にあれこれ検証し始めた。
悪の組織の参謀や副官向きの性格をしているな。
才能があるとは思っていたが、良い拾いものだったか?
ちなみに麻痺させた黒服達は護衛を残して帰した。
スナイパーの2人とか持っていた銃を破壊されて病院送りだろうしな。
護衛の2人は気まずそうな顔で少し離れた場所に立っている。
ミゼリータはファンタジーな事でも「現実にあった事はまず受け入れる」という、科学者や研究者向きな面も持っているな。
理解できない事を科学的ではないと否定していたら科学は進歩しないもんだ。
「私の事はミーゼでいいのです。
おにーさん、一つだけ大事な事を聞かせて下さい。
リゼルねーさんは自分の意志でおにーさんに同行しているんですか?」
「ああ、それは間違い無い。
自由になるかどうか、意志を確認した事があるぞ」
聞いたタイミングは卑怯だったと思うが。
悪として誘導するのは良いが、強制はNGだ。
悪の美学とは恋する少年の心のように繊細なものなんだ。
「……それなら良いのです。おにーさん、私も連れていって貰っていいですか?」
「良いぞ。さっき言っていた通り才能もあるしな。
丁度、げぼ……社員の募集をしている所だ。
ただ、理由を聞いても良いか?」
使い魔にする前から愛玩動物枠で確保する予定だったが、言わぬが華というものだろう。
魔王だと部下や下僕枠なんだが、SF社会だと社員とか言わないといけない辺り。
ファンタジーとSFの差を感じるな。辛い所だ。
「リゼルねーさんを放置しとくと怖いのです。
悪徳傭兵にひっかかるし、行方不明になるし、帰ってきたらおにーさんに捕まってるし、全然自覚ないし…」
「あー…………うん」
すっごい納得。
主として擁護の一つ位してやりたいんだが、何も言い返せないな。
むしろ深く共感しかしない。
腹黒い子だが苦労性の香りを感じるぞ。
「おにーさん、一緒に来て欲しいのです。
さっき会ったばっかりだけど、おかーさんを説得するのを手伝って下さい。
今ならまだパパは寝てるからやりやすいのです」
……さっきも思ったが、リゼル父へのこの家族達のスルー
「わかった。長居したくないからな」
今回はライムもいないから、暴走したリゼル父と斬り合いとかご免こうむる。
護衛の黒服が運転するトランスポーターに乗り、再び屋敷へと戻る事になった。
―――
「おかーさん。リゼルねーさんが心配だからおにーさんについて行きます」
「判りました。ミーゼが決めたならいいですよ」
良いのかよ!?ってか説得短っ!?
上品に微笑むリゼル母。
やはり30過ぎでもどこか若々しさがあって妙な色気があるな。
手に持っているバチバチと痛そうな電撃音を立ててる鞭はなんだとか、後ろにある防音性が高そうな分厚いドアの奥には何があるのだろうとか、何でちょっと顔が恍惚としているんですか、とかツッコミ入れたらまずいんだろうなぁ………
「やりました、これでおにーさんに付いていけます」
むぎゅっと抱きついてくるミーゼ。
愛玩動物枠の予定だったから嬉しいのだが、作為しか感じないな。
瞳が純真無垢なら癒されるんだが、すげぇ冷静に何か計算してるよ、これ。
「イグサさん、私からも一つお願いがあるのですが、良いでしょうか?」
「どういう内容だ?」
はいはい何でしょうか。
リゼル父はどうでもいいが、リゼル母は敵に回したくないタイプだ。
手に持っていた電撃鞭的なものを凄い自然に腰ポーチにしまいこんだしな。
……あれ、日常用なのか。その日の気分で違う色とかにするんだろうか。
「イグサさんは社員の募集をされていますよね?
10人程度なのですが、当家の使用人を連れて行っては貰えませんか。
当然、特別扱いもいりません。
身元がはっきりしている、腕の良い子達だと思って同列に扱って下さい。
娘達を心配してしまう親心でしょうか……これでは主人の事を笑えませんね」
ステーション内の情報ネットに出した求人を空間投影で表示するリゼル母。
耳の早い事だ。
しかし―――悪い話ではないな。
実質リゼルやミーゼの護衛も兼ねているのだろうが。
元々コンビニのバイト経験しかないような素人でも雇う気だったんだ。
待遇が同じで良いなら、多少でも経験者がいる方が良い。
「ああ、構わない―――と言いたい所だが。
実際に会ってみないとな。部下するならまず人を見る主義なんだ」
角刈り的な髪型のゴツイ筋肉男が並んでいたら速攻で断ろう。
腕が良くても俺の精神が悲鳴を上げる。
「はい。すぐに呼びますね。
メイドチーフ、第二特殊戦闘群をこちらに。二種兵装のままで構いません」
リゼル母はどこか満足げに頷いて。
横に控えていた、近未来的に機能的なメイド服的な服装をしていた、すらりと背の高い赤毛の兎耳女性に声をかける。
ああ……うん。歴戦の女軍人的な顔の傷とか、マルチスコープ的なものがついてる眼帯とか、メイド服着てるけど腕を体の後ろで組んで直立不動の軍人立ちとか。
頑張ってスルーしていたんだが、そうですか、メイドチーフ(長)でしたか……
いかん、こいつらが濃すぎて俺がついて行けなくなりかけている。
魔王として由々しき事態だ。
兎耳のメイド長……俺の精神安定の為にそう呼称させてくれ。
メイド長は妙にファンシーな色合いの携帯端末を取り出すとキビキビと呼び出しをかけていた。
「マム、第二特殊戦闘群、お呼びにより参上したであります!」
「よろしい。現状報告を」
「第二特殊作戦郡11名欠員なし、ご命令があればいつでも出撃可能であります!」
びしぃ!と敬礼する、灰色の長髪をした犬耳メイド。
その後ろには同じ灰色の毛並みをした短髪の犬耳メイドが10人並び、シンクロした動きでびしぃ!と同じように敬礼をしていた。
皆15~18歳位か。若いし見た目も悪くないどころか、かなり良い。
メイド長が着ている、近未来的に機能的なメイド服とは違い。
服のあちこちに金属か樹脂のような輝きを放つパーツがついている。
装甲メイド服とでも表現すれば良いのか?ともかくそんな服装をしている。
揃って意志強そうな瞳をしている犬耳メイド達なんだが。
何故か一番端の娘だけ瞳にハイライトのない死んだ魚のような目だし………
ツッコムな、俺。
ここで突っ込みを入れたら色々負けな気がする。
「イグサさん、この
熟練とは言えませんが戦闘艦や戦闘機の搭乗経験もありますし、見た目も性格も良い可愛い子ばかりですよ」
わかってますよ、男の人なら可愛い子達に囲まれていたいですものね的な、上品なうふふ笑いをするリゼル母なんだが。
ごめんなさい、ちょっと上級者向けすぎて素直に喜べません。
こいつら未来に生きてるよ………いや、俺から見れば全員未来人なんだけどさ。
個別に聞いてみたら、リゼル母のメイド兼私兵みたいなポジションらしい。
若いだけあって多少経験不足な感はあるが、十分有能なので採用する事にした。
―――
「リゼルねーさん、お帰り」
「ほえ。ミーゼ、何でここにいるんですか?」
買い物帰りで心なしつやつやしているライムとリゼルとブリッジで出迎えた。
魔王っぽく艦長席に優雅に座り、ミーゼを膝の上に乗せて片手に赤い液体が入ったワイングラスを持ってみた。
……何故この浪漫溢れる格好に、誰も反応を示さないんだ?
「『法理魔法発動:鑑定Ⅱ』……種族が半分使い魔になってる。イグサ、増やした?」
相変わらずライムは勘が良い。
「ああ、事情は本人に聞いてくれ」
「ううぅぅ。どういう事なのか良く判らないのですよぅ」
「リゼルねーさん。私もおにーさんの使い魔になったのです。
ねーさんと同じでおにーさんのものになったのです」
「え………ええっ?……えー…………イグサ様ぁぁっ。
何でミーゼまで使い魔になっちゃうんですかぁぁぁ
ミーゼまで手を出すとか犯罪臭いのですよぅぅぅぅ!」
人聞きが悪い事を言うな、手は出してないぞ……まだな。
がくがくと久々に揺らされるんだが、ワイングラスの中身が零れそうだ。
というか、どさくさに紛れてなに首筋に匂いつけてるんだ。
猫か!いや猫なんだが。
「誤解しているようだが、手を出されたのは俺の方だからな?」
普通のやつなら5回位は死ねそうな襲撃だった。
「ふ、ふにゃぁぁぁぁぁっ、何が起きてるのかさっぱり判らないのですよぉぉぉ!!」
まてリゼル。驚くのは判るが、何で赤面しているんだ。
お前今頭の中、絶対ピンク色な想像してるだろう。
……落ち着くまで放置するか。
「まぁ、そういう事だ。ワイバーン、お前もよろしくな」
『へい。ミーゼお嬢ちゃん。ワイはこの船の管理AI、ワイバーンといいます。
よろしくお願いします。飴ちゃんもどうぞ』
小型のマニュピレーター(機械腕)でミーゼの手の中に綺麗な包装された飴を落とす。
細かい芸を増やす事に余念がないやつだ。
「……どうも。ミーゼです。よろしくお願いです」
「ワイバーン、命令権第二位、空席だった副長の所にミーゼを登録してくれ」
『承知しました。優先権書き換え、ライド完了しましたわ』
「イグサ、この子指揮とか上手い?」
「勿論だ。俺が才能を見込む程度に将来有望だぞ?」
「イグサがそこまで手放しで褒めるなら、納得。どういう子か何となく分かった」
「イグサ様っ!ミーゼを借りるのです、しっかり話し合って来るのですよぅぅぅ!」
リゼルがミーゼを抱き上げて、何故かライムも連れて自室の方へ行ってしまった。
膝の上の暖かな感触が無くなって少し寂しい。
まあ、ミーゼなら1時間以内にリゼルが逆説得されるだろう。リゼルだしな……
手の中で、赤い液体が入ったワイングラスが寂しそうに水面を揺らしているんだが。
……なぁ、この悪役の浪漫的な格好、誰か反応してくれても良いと思うんだ。
―――
翌日、人材募集への応募が定員の10倍を軽く超えたので受付を停止したと、情報ネット担当の兎耳娘に連絡を貰った。
流石に『ヴァルナ』ステーションの人間だ。
働く事に非常に貪欲で、行動力もあり好感が持てる。
あまりに人数が多いので、半分以上を書類選考で落として―――流石に82歳の元熟練海兵とか、やる気に満ち溢れた7歳児とかはお引取り願った。
400人位にまで絞ったんだが。
これがまた見事に若い動物耳娘ばっかり残った。
男が全然居ない。これでは淫魔が召喚できないな……あいつらは男さえ与えておけば忠誠度も高いし、仕事も真面目だから期待していたんだが。
どうして男が居ないのか、ミーゼに聞いてみた所。
『ヴァルナ』ステーションの男達は、ほぼ全員既に働いているらしい。
日雇い仕事をしている屈強な(ただし見た目は少年の)男達もいるという話だが、そっちは募集条件にあるような長期就労を好まないそうだ。
必然的に、働き口を捜してるものの仕事にありつけていなかった、若い娘達がこぞって応募してきたらしい。
基本的に俺とミーゼで順番に面接して行く予定なのだが、面接だけで2日は軽くかかりそうだ。
ライムとリゼルはどうしたかって?適材適所というものがあるんだ…察してくれ。
しかし、面白い位に様々な種類の耳を持つ種族がいる。
種族的な特徴なんだろう、顔立ちは綺麗系か可愛い系のどちらか。
動物要素も耳と尻尾程度で、顔や体にまで動物要素が混ざる事は少ないという。
たまにふかふかの毛皮を持った子とか生まれるそうだが。
この動物耳系のアドラム人を作った地球人は業が深いな。
良い酒が飲み交わせそうだが…!
残念ながら、俺は耳を見ただけで何系の動物か判別できるような深刻なケモナーでもないのだが。
20歳よりやや若い位か?元気そうな顔をした、髪の色も顔立ちも良く似た2人は姉妹なのだろう、その娘達はすぐに牛娘なのだと判った。
なんというか胸の膨らみ的な意味で。
採用、即決即断で採用だ。
あの見た目なら多少ドジっ子や無能でも構わん!
と言うかそっの方が
所々に俺の趣味が入った人材募集は終わった。
大部分は真面目にやったから、やらかした所は見逃して欲しい。
戦闘・修理船員。一般船員とも全員13~20歳程度の女性。
採用数は船舶戦闘・補修船員が67名、一般雑用・非定期戦闘員42名と予定より多く採用した。
数がギリギリだと退職希望者が出たり、戦闘で怪我人が出た時に辛いから多めに採用した方が良いという、ミーゼの助言を受け入れた形になった。
その船員達の教育係になる教導員も20~30歳位の女性で埋まった。
乗っていた船が沈んだ元船乗りや、勤めていた企業が潰れたりして路頭に迷っていた者達だ。
採用した9人は全員、随分生活に困っていたらしく、採用したら大変感謝された。
デフォルトで忠誠度が高そうだな。
リゼル母から預けられた武装メイド達は船舶操作の操作も慣れていたので、そのまま全員ブリッジ要員になって貰った。
白兵戦でも強そうだが、うちにはリビングアーマー達がいるしな。
ブリッジ要員は俺、ライム、リゼル、ミーゼ、ワイバーンとメイド達に、オペレーター要員として牛娘の姉妹が交代制でやる事に決まった。
後から知ったが、勢いで採用した牛娘姉妹は戦闘艦の搭乗経験があった。
……何もできない所を性的な悪戯をしつつ教えて行くとか、そんな浪漫を抱いていた俺の男心が血涙流しながら嘆いていたのは秘密だ。
べ、別に悔しくなんてないぞ……!
人員の補充も出来て一気に賑やかになったワイバーンの船内だが、男臭いのも勘弁だが、女子学院気味な配分も辛い所だ。
良い男性社員はこれからじっくり探して行こう……
深夜、ワイバーン船内のオフィス。
これからは対外的なお客を招く事もあるだろうからと作られた、士官用の部屋を一室まるまると使った、社長室兼来客用オフィスで色々な事を考えている俺の前に、今回採用した人員の契約用紙があった。
普通は空間投影型の契約書で済ませるらしいが、紙に近い有機素材の用紙で書いて貰ったのだ。
採用した118名と、メイド隊の11名。合計129名分の契約書の束が随分とかさばる。
履歴書も兼ねた契約書を1枚ずつ確認するように、魔力を通していく。
魔力をうっすらと通すと、文字と文字列から出来た模様が浮び上がり、事前に仕込んでおいた魔法が発動する。
『契約成立しました。ランクⅣ・主と下僕の主従契約が執行されます』
『契約者 ―――』
『契約先 魔王イグサ』
『契約代償:なし』
『―――は魔王イグサの下僕として命を捧げ、その命尽きるまで忠誠を誓う事がここに誓約されました』
『特記事項:本契約は契約者の無意識下に常駐するものです』
『特記事項:無意識下での発動により、誓約は本来の効力を発揮できません』
『特記事項:契約者の信頼が増えるに従い、本契約はその効力を発揮していきます』
『例外項目:本契約書を契約者が意識した瞬間、本契約書は十全の効果を発揮します』
雇用契約だとしても魔王と契約する以上、多少の覚悟はして貰うが、最初から忠誠心MAXな部下ばかりというのもつまらない。
忠誠心が増えるようなイベントもないのに尽くされるというのは、悪の美学的にも面白くない。
と言う訳で、信頼するほど命令に逆らえなくなる契約を仕込んでみました。
あぶり出しというのは古典的だが、浪漫だろう?
―――
船員達が船内の活動に最低限慣れるのに5日程かかった。
技術持ったやつも結構いたんだが、魔改造した旧式の強襲揚陸艦に慣れるには多少時間がかかるようだ。
実習代わりに出航し、海賊達が跳梁跋扈している『獣道』に入り「第一種戦闘態勢」とメイド達が言っていた、いつ戦闘が起きてもおかしくない状態が続く状況も体験させた。
たまたま海賊に襲われていた商船がいたので、賞金稼ぎがてら殲滅したりもした。
乗員達が慣れてないせいもあって、やはりジェノサイド気味になったが。
かなりの旧式だが、大型駆逐艦を拿捕できたので『ヴァルナ』ステーションまで回航させた。
船を拿捕できるようになったのも、人が増えた大きな成果だな。
自動航行システムはあるんだが、骨董品クラスの旧式な上に大型艦なので艦内調整に最低5~6人はいないと回航する事もできない。
ライムとリビングアーマー達が活躍しすぎて、サイコホラー風味の内装になってしまった大型駆逐艦の扱いをどうするか悩んだものの、結局売り払う事にした。
旧式の大型駆逐艦は速度が遅すぎてワイバーンと同行できないし、強襲揚陸機能を持つ上に大型艦の為、運用には船員が大量に必要になる。
海賊でもしてないと微妙に扱い辛い代物だったからな。
これ以上業務内容を増やす前に、資本金(IC)がもっと必要だ。
『ヴァルナ』ステーションは専属の防衛艦隊がフリゲート艦6隻しかなかったので、大型駆逐艦の売却をしたら、壮絶に苦い顔したリゼル父に感謝された。
感謝された後『娘達を返せよぅ』と子供泣きされたが。
やはり『獣道』が近いせいで、海賊被害と防衛戦力に困っていたようだ。
その結果、ワイバーンの戦闘力―――主に魔改造と魔法を使ったずるい所―――を見込まれて、海賊相手の大仕事が舞い込む事になる。
旧時代の発電ステーションを長年に渡って占拠している中規模海賊団の討伐依頼だ。
―――さあ、やっと面白くなってきた。
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おまけ:とある日の帝国情報局・遺失技術探索室・外縁部担当11課
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広く、暗い室内には幾つもの空間投影型モニターが表示され。
様々な情報―――それも機密性の高い、外部には漏らせないようなものが惜しみなく流れていた。
他国の諜報員や情報収集のマニアから見れば垂涎の代物ばかりだが、この部屋に集まった者達は「日常の光景」とばかりに特段誰も気にしていない。
「さて、次のレポートです。
技術部が新しいタイプの遺失技術と推測している、
新規企業が所持する高効率・高集積型の高度AIと思われる遺失技術の情報収集に向かった工作員からの報告書となります」
補助モニターにもなる小さな丸眼鏡をかけた気弱そうな男が、情報投影書類を上段に座っていた痩せ型の背の高い男に手渡す。
「久々の新系統という事で情報局員を送ったのだったな。
かなり高位の者を送った甲斐もあって、早速成果が出たか」
神経質そうな顔立ちの男は満足そうに頷き、情報投影書類を開いて中身を確認する。
『帝国情報局 2級潜入情報収集エージェント、コードネーム”カミーラ”第72次報告』
『銀河標準時間、06:15 イグサ様起床される。
鮮やかな手並みで支度されて10分で出立』
『06:28 イグサ様一般船員用食堂へ到着。
不慣れな一般船員へ食料作成機のマニュアル操作について教導。
カルミラス家所属、戦闘メイド達も参加。
イグサ様が使った食器を洗浄機に投入される前に確保』
『07:12 イグサ様お手洗いに。
標準装備の重力波マイクと録音機を使用。使用記録165-180音声記録添付』
『07:22 イグサ様ブリッジ入り。
昨晩丹念に掃除しておいた艦長席に座る。私の手で掃除した所に…所に!』
―――1548行、中略―――
『23:21 イグサ様の自室にあの銀髪小娘が入っていく。
船体管理の高度AIは工作費用で購入した動画データーで買収済み。
室内の画像はリアルタイムで入手可能。
銀髪小娘はイグサ様と親密そうにな様子で話していt………銀髪小娘の呼称を泥棒小娘と書き換え。イグサ様とあんな事をっ!?
羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨まし<不正な情報量を検出、表示停止します>』
「「………………」」
室内に沈黙が満ちる。
「…なぁ、課長。私は遺失技術の情報収集を命じたはずなんだが、何か伝達ミスでもあったのか?」
「はぁ。私もそう命じたはずなのですが、何故か対象企業社長の行動情報ばかりレポートに上がっています」
「なぁ、課長。ちゃんと情報局員を送り込んだのだよな?
予算をケチって犯罪者を送り込むとかしていないな?」
「…はぁ、勤務実績の高い、高位情報局員を潜入させたはずなんですがねぇ」
「なぁ、課長。撤収命令は出したか?」
「かなーり前に。2通目のレポートで既におかしかったので」
「…で、結果は?」
「はぁ、成果が出ていたら、まだ4日目なのに第72次レポートなんてナンバリングになってないかと………どうしましょう?」
パタン、と情報投影書類を閉じる神経質そうな顔立ちの男。
こめかみを指で揉み解し、深い溜息を吐く。
「………なぁ、課長。私はこの情報局員のレポートをつい確認し忘れた。
今後ともこの局員のレポートを確認し忘れる。いいな?」
「……はぁ、承知しました」
「―――最近、たまに寒気がするんだよな」
「イグサ、風邪?」
「病気耐性はMAXだから風邪にかからないはずなんだが」
「人が急に増えたし、お疲れなんですよぅ」
「おにーさんは仕事増やしすぎ。もっと私達に任せればいいのです」
―――主従契約の悪影響が出ている事にイグサは気が付けていなかった。
アドラム帝国情報局の影響を排除できてはいたが―――
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おまけ:強襲揚陸艦ワイバーン、ブリッジ要員紹介
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イグサ (真田 維草/さなだ いぐさ)
21歳 男 黒髪黒目 短髪
ポジション:艦長兼魔法使い
浪漫大好き魔王様
ライム (向井寺 頼夢/むこうじ らいむ)
17歳 女 銀髪翠眼 長髪
ポジション:操舵・艦載機パイロット・主砲
合法ロ……勇者様
リゼル (リゼルリット・フォン・カルミラス)
16歳 女 黒髪黒目 短髪 猫耳
ポジション:火器管制・その他雑用
天然な駄メカニックの猫耳娘
ワイバーン (強襲揚陸艦)
年齢不明 男 ブラウン髪(薄)黒目 ハg…やや短髪
ポジション:制御補助(全体)
怪しい方言のエロ付喪神
ミーゼ (ミゼリータ・フォン・カルミラス)
13歳 女 明るい茶毛・茶目 ポニー 狐耳
ポジション:副艦長
「~なの」あるいは「~なのです」が口調の狐耳娘。
苦労性の陰謀家。
綿密な計算を立てた後にうっかりでご破算するうっかり属性持ち。
大人ぶってはいるが甘えたい盛りなお年頃。
アルテ (アルティリア・カレイドミリト)
17歳 女 灰髪黒目 長髪 犬耳
ポジション:火器管制補助・副操舵手
「~であります」が口癖の軍人娘。
カルミラス家私兵、第二戦闘メイド隊、隊長
戦闘に邪魔なはずの長髪が熟練兵の証。
趣味は裁縫とぬいぐるみ集め。
アルテの部下×10
15~18歳 女 灰色黒目 短髪 犬耳
ポジション:色々
灰色の短髪がトレードマーク。アルテの部下の軍人メイド娘達。
就業中はやはり「~であります」口調。
オフの時は歳相応の姦しい娘達。アルテと大体親戚関係に当たる。
一人だけ口調や雰囲気が違う子が混ざっている。
ユニア (ユニア・バルバリア)
20歳 女 金髪茶目 三つ編み長髪 牛耳
ポジション:オペレーター
元気印なものの、元気も熱意もが空回り気味なお姉さんキャラ。
仕事はしっかりしてるが、私生活は駄目な人。
ルーニア(ルーニア・バルバリア)
18歳 女 金髪茶目 サイドテール短髪 牛耳
ポジション:オペレーター
スポーツ少女風の元気キャラ。
家事も料理も出来るしっかりもの。
艦内「幼馴染ヒロインならこの子ランキング」常連。
次回はSFっぽいバトル回になる予定です。