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3話 神狼ライフ 前編

 俺は今、狼を率いて魔物と戦っている。

 正確には狼が魔物を狩るのを眺めているといったところか。

 別にテイムできるようになったからそれの力を駆使して戦ってるわけじゃない。


 率いてっていうのは群れの長としてだ。

 そう、今の俺は神ではなく神狼(フェンリル)のレンなのである。


 なんでこんなことしてるのかっていえばもちろん神ギルドの依頼を受けたからで、その依頼の内容は「新種族として神狼を誕生させたい。最初の神狼となって基盤を築いて欲しい」というものだ。


 神になって初めての人間をやめる形になる依頼を受けてみた。

 依頼達成は神狼として群れを率いてその寿命を全うすることだからかなり長い期間を神狼の姿でいることになる。

 寿命を全うする依頼というのも今回が初めてだな。


 ちなみに最初の依頼を受けてから既に人間時代の感覚で言えば三百年経っていてその間もいろいろ依頼受けてたりする。

 魔王討伐も数回こなして一度は魔王になった。

 大火力による殲滅戦。

 ぶっちゃけ超面白かったです。

 やりすぎて別の神様が俺を討伐に来ちゃって手痛い経験したのも今ではいい思い出だ。

 ちなみにその世界では魔族が世界を謳歌して人間は隅っこで隠れながら生きています。

 もう魔王がいなくなればどうこうってレベルじゃなかった。

 世界って難しいね。


 まあそんなわけで今回はフェンリルとして生きていきます。

 あ、群れの連中が魔物を倒し終えたな。


 これで十分餌は集まったし今日も群れに飢えるものなし!

 俺は鬼のような魔物―――オーガを巣へと持ち帰るため適当に三匹に命令し引きずらせる。


「ウォォォォォォォォォーーーーーーーン!!!!(野郎ども!巣に帰るぞ!!!!!!)」


「「「「ウォオオオオン!」」」」


 うむ、いい返事だ。


 今のところ俺を除いた群れの総数は四十匹になる。

 といっても今回この狩りに連れてきたのは十五匹。

 皆、通常の狼よりも二回りは大きい。


 日々強い魔物を倒し喰っているからだろう。


 ちなみに俺は高さは3m、体長は6mぐらいはある巨大な狼の姿だ。

 全身は白銀色に輝き凄まじくビューティフォーなイケメン狼である。

 くっそ。

 これで自分じゃなければ喜んでモフモフしたのに。


 でも、まあそれはそれでモフモフされたいな。

 もちろん、女の子に。男は食い殺す。





 群れを率いて巣へと帰ってきた。

 戻ってきた俺たちを巣に残って確保してある餌などを守っていた二十五匹の狼たちが出迎えてくれる。

 俺がいない間に巣に残った者たちが欠けていないことを確認して一安心。


 それにしても四十匹の群れなので巣はなかなか場所を取る。

 うーむ。

 新種族誕生のための基盤には四十匹じゃ足りないかもだけどもこれ以上増えても巣がなあ……。


 まあ先は長い。

 のんびりやってこう。


 まずは飯を食おうではないか!

 と言っても俺の食事は簡素なものだ。

 なんせ腐っても神。元々食事など不要だったりする。

 だがそれじゃあ味気ないってことで半分にされた魔石をバリバリと喰らう。

 というか狩りの獲物の魔石は半分は長にっていう決まりになってた。

 残りの半分はさらに半分にしてそれを狩りのMVPに、残りは砕いて群れの仲間に行き渡らせ魔物の肉と一緒に食べている。

 これは俺がそうさせたわけでは無いが気づいたらそうなってたので仕方ない。


 この世界の魔物は体内に魔石を持ちそれを他の魔物が食べることでその魔物は力を増すようになってる。

 つまりこの決まりってのは俺に対する群れの敬意の表れなのだろう。


 まあ、俺の存在格の足しにもなるから俺にも得があるけど。チリ積もってな。


 そうこうしているうちに食事も終わり、することもないので寝ることにする。

 巣の中心には周りの木よりもはるかに太くでかい巨木が生えておりその根本ががいい感じに穴蔵となっていて、その中が俺の寝床だ。

 結構巨体な俺が入ってもそれなりに余裕があってそんな大穴があってもこの木は全く倒れる気がしないのだからなかなか謎な木である。

 そして、俺の寝床はいつもその日に集められた草の葉などでベッドが作られている。


 これも群れの仲間が毎日俺が狩りを見守ってる間にやってくれている。

 いつの間にかそういうルールが出来てたのでこれも群れの仲間たちが自らそうしている。


 なんていうかこいつらから自然と湧き出るような俺への敬意がこそばゆく、また愛おしくもある。

 依頼とか関係なく俺の生きてる間には全力で守っていこう。


 そう思いつつ俺は寝床に体を下ろし、群れの連中の様子を少し眺める。

 群れの狼たちは寝ることもなく、連携を確認したり決闘まがいのことをして訓練に励んでいる姿が目に移った。

 狼には狼なりの戦略があり、強くなろうと努力する心がある。

 俺はそんないつもの光景を見ながら少しずつ夢の世界へと旅立っていった。







 太陽もそろそろ登り始めるかという頃、侵入者がきたことで目を覚ます。

 最も警戒線を張っているのは巣の中心から300mの範囲までだから通りがかったってだけかも知れない。

 ただ、最近ではこの巣は他の魔物からは忌避されていて近づくものもいないので今回の侵入者はそれを知らないもの……つまり森の外から来たかもしれないわけだ。


 寝床から出てその者の元へ向かう。

 まあゆっくり歩いてだが。

 いつの間にやら群れの中で強いものから順に五匹が黙って付いてきた。


 ゆっくりと歩いていると太陽も顔を出し、森は朝霧に包まれている。

 そんな中、件の侵入者の元まで辿り着いた。


 朝霧の中からゆっくりゆっくりと足音を鳴らしながら侵入者に近づく俺。

 俺自体も大きいが後ろには通常の狼をはるかに上回る大きさの狼を引き連れているのだからかなりの威圧感だろう。

 どうでもいいが、ゆっくりゆっくり歩いてたのはぶっちゃけ朝霧の中から現れる巨大狼の影ってかっこよくね? っていう考えからだったりする。


 侵入者は三人の人間だった。

 多分冒険者ってやつだろう皆、男である。

 一人は大剣を、一人は弓を、そして最期の一人は大盾とメイスを持っている。

 全員もちろん臨戦態勢を取っているが構えてるだけだな。

 完全にビビってるようだ。

 まあ即座に襲いかかってこなかっただけマシだろう。


「何のようだ人間。この先は我らが領域だぞ」


 神狼たる俺はもちろん人語も話せます。

 どちらかといえは元々人の言葉の方が馴染みが深いんだが。


「しゃ、しゃべっ……い、いや、お、俺たちは、ただオーガをか、狩りにきただけで」


 汗を垂らしながらも大剣の男が答えた。


「では、今すぐに出て行け。ここにくる途中木に蔦が巻いてあったはずだ。そしてその木には爪あとも付けておいたはず。かなり念入りに付けたからな。まさか見てなかったとは言うまいな?」


 人間どもを睨みつけつつ、低い声で警告する。


「は、はいぃ……! 確かに、み、見ました! で、でも知らなかっただけなんだっ……! すぐ出ていきます……お、お許しを……!」


 大剣の男はそう言って頭を下げた。

 弓と大盾の男たちもガクガクと頷いてから深く頭を下げた。


「今すぐ出て行くならどうこうしないと言った。さっさと出て行くのだ!」


「は、はいっ!!」


 男たちは回れ右して逃げていった。


 魔物ならばさっさと殺して喰うんだけど人間は逃した。

 一応元人間ですし。

 ま、人間って魔石ないから何の旨みがないってのが本音だったりするんだよな。喰う価値がないっつうの。

 身も少ないし。


 結局何事も無く巣へと一旦戻りそのまま十五匹の戦士を選んでから本日の狩りへ出かけた。


 本日はサイクロプスという4mあるデブ巨人な魔物である。

 奴に睨まれれば石化の恐れもある割りと危険な魔物であるが目だけはさっさと俺が潰すので仲間に石化の危険はない。

 もちろん群れの仲間にはサイクロプスの能力の恐ろしさを教え、理解させている。

 その時罪も無いゴブリンが石になったが知ったことではない。

 あんなの一匹見つけたら三十匹は湧いてくるんだから気にする必要は皆無だ。


 目を潰したサイクロプスは我武者羅に暴れるかといえばそうでもなく、何か別の方法でこちらの位置を感知できるようで豪快なパンチを正確に群れに向かって放っているが、俺の仲間たちのスピードは尋常ではなく一発も当たることはなかった。


 本日も順調に餌を確保。

 にしてもこの森いろんな魔物いるよなあ。

 繁殖してるわけでも無さそうだし多分魔力溜まりだとかそういう何かから湧いてるんだろう。


 一方で俺の群れ以外の狼は全く見かけない。

 なぜだろうか。狼って言ってもやっぱり魔物なんだが。

 狼は今神狼になるための調整中みたいなものだからそのせいか?


 まあ、深くは考えないことにする。

 世の中適当にやれば適当に落ち着くものなのである。


 まあ、さっさと巣に帰ろう。



 だが、すんなりとは帰れなかった。

 地這い竜が襲撃してきたのである。

 地這い竜。その名の通り地を這う竜であるが、ぶっちゃけ大蛇に足が生えたようにしか見えん。

 ほとんど大蛇にしか見えんが確かに竜種の因子を持っている。

 最も、竜種の中では最弱で、ブレスもなければ飛ぶことも出来ない。

 それでも表面の鱗は強固だし顎の力は強大なもので腐っても竜。


 普通に強い。

 基本スピードを武器とする狼にとっては天敵とも言える。


 今のレベルじゃあまだ群れの連中には狩れんだろうな。

 それを理解しているのか群れの戦士達は挑むことなく俺に場を譲っている。


 ともすればビビってるとも捉えられるだろうがそうは思わない。

 生きるためには相手の実力と自分の実力をしっかり把握せねばならない。

 初めのうちは格上が襲ってきても果敢に攻めて無駄に傷を負ったり死んでった者もいるが今では即座に見極めて行動している。

 まあ、かと言って撤退は今のとこ俺がいるのであり得ない。


 俺が狩りにわざわざ一緒に出かけるのはこういう事態に対処するためなのである。

 こういう時に力を見せて置かないと俺の存在が軽んじられてしまうからな。

 基本狩りを見てるだけの日々になりがちで暇ってのもある。

 仕方ないよね。神様っていい加減な存在なので。


 俺は群れの中から出て地這い竜と睨み合う。


「フシュー……」


「ガルルルルルル……」


 気分で獣の感覚で唸り声をあげて威嚇。

 並の相手なら大概この時点で逃げようとするがやっぱり竜種は引かないか。

 引かれても困るんだけどね。

 さて、こいつの鱗はさすがの俺も牙では貫けない。

 狙いどこは目ぐらいしかないがそれじゃあとても短時間で竜を倒せない。


 ってことで<神器>を口元に転移させ『チェンジ:刀』と念じて刀にする。

 サイズは2mにまで大きくしてあるのでそれをガッチリと咥え込む。


 相手はいきなり現れた俺の武器に警戒度を最大まで高めつつこちらの様子を伺ってるようだ。

 逆に俺は相手の出方を見るなどと面倒なことはしない。


「ガフっ!」


 小さく吠え俺は駆け出した。

 真っ直ぐ近づく俺に噛み付いてこようとするがそれを軽くステップで左に避けてまずは敵の右目に刀を突き刺した。


「ガァ!?」


 かなり痛いのか叫び声を上げ我武者羅に暴れるので一旦下がる。

 こいつはパワーもあるから結構危険だ。


 しばらくして暴れるのをやめこちらを睨みつけてきた。

 かなりお怒りのようだ。


 今度はあちらから向かってくる。

 そのスピードはかなり速い方ではあるが、俺からしてみればまだ遅い。


 簡単に突進を躱す。

 どうも避けられるのは想定済だったのか目の前に尻尾が迫る。


 このまま喰らえばフェンリルな俺でもダメージは免れない。


 だが、問題ない。

 ジャンプしながら首を振って尻尾を斬りとばす。


 フェンリルなりたては狼形態で刀を扱うのが殊の外難しく苦労したもんだが今では慣れたものだ。


 斬りとばされた尻尾は勢いそのまま吹っ飛んでいき、本体の方は血飛沫をあげている。


 また尻尾が斬られたことでバランスが崩れて横倒しになっている。

 その隙を見逃す意味もないのですぐさま接近して、地這い竜の体の下に入れるように地面に刀を突き刺し、首を下から上に振り上げて敵の首を落とした。


 さすがに武器を使えばあっけないものだ。

 それにしてもこのへんでこいつを見るってのは珍しいな。


 今回は多少の前提知識を得ているがこのへんでは見かけないはずなんだが。

 あれか。

 なにか天敵が現れて逃げてきたってことなのか?

 うーむ、まあなるようになるだろう。




 とりあえず刀で皮を剥いで肉の塊は群れの連中に運ばせて鱗付きの皮は俺が運ぶ。

 こいつの鱗は強固で軽い。

 これで狼達に防具でも作ってやれればいいんだがあいにく俺も狼な見た目なので簡単なものも作れない。


 人間でも攫ってくるか?

 この世界ドワーフとかいるようだしな。


 攫うとかじゃなくても交友を結んでもいいかもしれない。

 この森の収穫物を渡すかわりに装備を作ってもらうとか。


 まあ、話がうまくいけばいいが下手すれば敵認定されて討伐隊とか組まれそうだな。

 いや、既に冒険者に存在知られてるから俺という素材目的で馬鹿が来るかもしれんしそれは今更か。

 来てくれれば群れの戦士にも武器とか持たせられるかもしれないから構わないが。

 前向きに検討してみるとして今は置いておこう。追々考えてみようかね。




 そうして巣に帰り竜の魔石は全て群れの仲間に与えて強化を図った。

 これでまた仲間たちは強くなり神狼へと近づくだろう。

イメージはダークソ◯ルのシ◯

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