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最終話 終わりと始まり。

 偽神を片付け、サクラとエルザから送られる冷たい視線をとりあえずは無視して偽神の持っていた<神殺し>を手に取る。

 いつも通りに<神具>へと吸い込まれ、神具が浸食、もとい拡張を始めた。

 右腕も全部<神具>に守られるようになりこれで上半身はほぼ無敵である。

 

 だが、拡張はそれだけではなかった。

「おお?……おおっ!」


 そのまま腰、両足全体までもが<神具>で覆われさらには頭部も覆われた感覚があるがどんな見た目は当然わからない。

 これは一気に<神具>全部揃ったのではないだろうか。

 そういえばあいつは<神器>を吸収していたとか言っていたからその関係か。

 

 だが、そんなことは今は考えてることじゃない。

 サクラとエルザのあの冷たい視線をやめてもらわなければ……。

 内心冷や汗を掻くような気持ちでサクラ達のもとへと降りる。


「レイ、流石にアレはないよ」

「もう少し考えて欲しいわね」


 傍に降りたそうそうにそういわれてしまった。

 エルザはもちろんサクラまでもがアレは酷いと思ったらしい。


「確かに惨たらしかったかもしれない。それは悪かった。でも、お前たちに手を出そうとしたんだからその報いをやっぱり与えないとってさ?」

「違う。別にあいつがどんだけ惨たらしく死んでも興味はないよ」

「私たちが怒ってるのはレイが危険なことをしていたからよ」

「危険?」


 あまりにも惨たらしく殺したから怒ってるのかと思ったが、違うらしい。

 危険なことをしたから怒ってると……はて、俺は危なげなく完全勝利したかと思ったんだが。


「あいつ、今までの偽神とは遥かに格が違った。だからこそ私たちは邪魔になるとおもってすぐに引いたのに」

「レイはわざわざ偽神が力を解放するのを待ったわよね。あんな異常な力を持つ相手にそんな危険を冒す必要はなかったはずよ?」


 ……え?


「ちょっと待ってくれ。えと、2人とももしかしてあいつのことかなり高く評価してる?」

「うん。あれは強いよ。かなり強い力を感じてた」

「正直出会った当初から冷や汗ものだったわ。顔に出せばレイの邪魔になると思って耐えてたけど」

「いや、あれ雑魚だったろ?」

「「え?」」


 何か俺とサクラ達とで意見の相違があるらしい。


「えっと俺対面してた時から正確に偽神の力を把握して遊べると思ったからこそ、ああやって嬲り殺したんだけど……」

「レイ、それ本気で言ってる?」

「アイツから感じた存在感はそれこそ世界を管理する神よりも遥か強いものに感じたのよ?」

「いやいや嘘だろ?そんなわけ……あれ、そういえば俺、最近他の神相手にもプレッシャーとか感じたことがないな」


 あまりにも感じないから他の神との違いとかどうでもよくなって、神相手には力を図ったりとかしてなかったんだよなあ。

 そういえばソウ爺との会談の時も完全に俺完全にリラックスしてたしあまりソウ爺からも威圧感みたいなものを感じなかった。

 あれは単にソウ爺が抑えてただけだろうと思ったのだがよくよく考えれば世界を偽神からさらに奪い返したと言ったあたりで少しだけソウ爺の顔が怖くなっていたから威圧されてた気もする。

 でもその時も特になにも感じなかったし……。


「ねえ……それってさレイがそれらを意にもかけないほどに強くなってるってこと?」

「まさかレイでもそこまでは……でもレイだものねえ」

「……」


 いや、そんな馬鹿な。

 そりゃ俺と同じ時期に神になったやつに比べればかなり強くなってるだろうという自覚はある。

 だが、それだけじゃなくて他の世界を管理できるような神々を遥かに超えていたなどとは思わない。


「ま、まあなんだ。取りあえず俺がどうこうは置いといてさ、アイツに対して俺は絶対に勝てるって確信してたんだよ。絶対大丈夫だってな?まあ、その、心配させて悪かったよ。もっとちゃんと言っておけばよかったな」

「うん、レイが危険な事してないってのは分かったよ。私もごめん」

「私もその、ごめんなさい。あれこれ言ったけどレイはあいつに圧勝してるんだから後から言うことではなかったわ」


 万事まとまってよかった。

 そう、問題は何もなかったのだ。


「いろいろ問題も解消したところでさ、これどう思う?」

「<神具>はそれで全部揃ったんじゃない?」

「これ以上増える場所もなさそうだしね」

「やっぱりそう思うか。ところでヘルムってこれどんな感じなんだ?確かにあるってのは感覚で分かるんだけど視界一切遮ってないし視線動かしても<神具>の端すら見えないんだけどさ」


 全部揃ったとかはまあぶっちゃけどうでもいい。

 問題は今の見た目がどんなのかってことだ。

 これが超絶ダサいものなら今後頭部は展開することは無いだろう。

 感覚的には顔は全部空いてるようだが……。


「えっソレ見えてるの?」

「てっきり気配とかなんか別の手段でこちらのこと把握してるのかと思ったわ」

「え?」


 どういうことだ?

 確かに見えてるし視界になにか靄がかかってるということもない。

 むしろ今までよりはっきりと見ることができるし、真後ろも見れる……ってあれ?


「なんだこりゃ?真後ろまで見えるようになってる」

「ええ?どういう仕組み?」

「取りあえずレイ自分の目元辺りを自分で触ってみたら?少しは状況が分かるんじゃないかしら」


 それもそうかあるのなら触れるはずだもんな。

 エルザの言葉に従って手のひらだけ<神具>の展開を解除して自分の目元を触ってみる。

 すると何かに当たって肌に触れることは無く確かに覆われてることが分かる。

 そしてのぞき穴となる部分がまったくないことも分かった。

 見た感じでは指で眼前1cmあたりでぶつかってるようなのだが<神具>は一切見えない。

 不思議だ。


 もうちょっと詳しく触ってみるとどうやら鼻と口元以外は覆われているようである。


「いえ、多分口元も覆えるでしょうね。ちょっとそのまま動かないでね」


 そういってエルザが俺の両頬あたりに手を添える。

 エルザが積極的になってキスを迫ってきた……と言うことも無く頬にある何かを押しているようだ。

 するとカチリという音がした。


「うん、やっぱりね」


 口元を触ると触れる直前に何かに阻まれた。


「なんか横にね無駄にずれてる感じであったからそれをスライドさせたのよ」


 へえ、なんかSFみたいな自動で開閉する奴みたいでいいかもしれん。

 そう思ったのが切っ掛けだったようで、


「おお!勝手に動いたよ!」

「どうやら手動で動かす必要はないみたいね」

「おお、これいいな」


 口元を覆っていた部分が左右にスライドして開けられた。

 じゃあこの目元の部分も開かないかなと考えてみれば何かがズレる感覚がしたと思うと上へとずれていった。

 それが分かったのは上へずれる時にようやく<神具>の端の部分が見えたからである。

 それと同時に視界が狭まった。


「ああ、そういう仕組みなのね」

「なんかヘルムだけは機械的だね」


 確かにサクラが言うように今までファンタジー系というか不可思議素材でできた普通の鎧だったのにこれだけはSFっぽい。

 開閉時にフシューとか空気が抜ける音鳴ったら完璧だったな。


「さて、取りあえず重大な事実が判明してしまった」

「え?」

「なによ」


 <神具>の確認も終わったところである問題を提示する。

 これはある意味非常にやっかいな問題だ。


「さっきの偽神。多分あれは偽神の中でもかなりの上位にだったんじゃないかと思う。というか偽神をまとめてた奴だな」

「まあそんなことを言ってたしね」

「あれほどの異常な強さよ。さらに上がいるとも考えられないわね」

「そう、それだよ!アイツが世界管理者よりも強大な存在で、それのさらに上の存在、そんなものの存在をさすがに他の神々も気付かないとは思えないし、存在することを許しておくとは思えない。だからこそあれが一番強かったんじゃないかっていう可能性があるんだが……」


 今まであまり偽神に対して目立った対抗はしていなかった神々だがそれほどの存在を見逃し手を拱くなんてことはあり得ない。

 今まではただ必要がなかったから対抗しなかっただけでその気になれば偽神問題などすぐに解決できる力を神々は有している。

 だからこそ今回のアレがギリギリの限界値で多分あいつがもう二体ほど神を殺して力をつけたとすればその時点で全ての神々による報復が行われたと思う。


「でも、別にいい事じゃないの?あれより強い奴がいないってことは少なくともレイならなんとかできるってことだよね?」

「そうよ、別に問題なんか……ねえ、もしかしてもう手ごたえの相手が現れないんじゃないかとかそういう話?」

「その通り!」


 大問題だ。

 もしあれが偽神の最高レベルとしたら今後、縛りプレイしない限りは完全に手こずる相手はいなくなってしまう。

 そんなのつまらないじゃないか。

 それにサクラ達の話を真とすれば、っていってもサクラ達の言葉には少なくとも嘘は含まれてないってことは神の言葉の力によって分かってる。

 つまり俺は同じ神の間でも逸脱した強さを持っているということだ。

 となれば仮にほかの神を集めて神界闘技大会とか開いたとしても微妙な気がする。

 俺がそう悩む傍ではサクラは「まあレイは最強だからね」と呑気に笑ってエルザはため息をついてかぶりを振って呆れているようだが、今はそれに気をまわす余裕もない。

 そう、俺は軽く絶望しているのだ。


「レイ、大丈夫だよ。別にちょうどいい敵がいなくても私たちがいるよ?」

「え?」

「ねえ、レイ。あなたは戦いしか楽しみがないの?」


 え?

 別にそうじゃないが……。


「って、そうか。別に敵の存在はいらないよな」

「うん!むしろいない方がのんびり一緒にいられると思うよ」

「それとも私たちと一緒にいるのは偽神との戦いに劣るのかしら?」

「いや!それはないって!絶対」


 それはあり得んぞ。

 例え神界が全て崩壊しても絶対になんとかして一緒に居続ける。


「そうそう、レイは最強だからそれでいいんだよ」

「さあ、そんなどうでもいいことを考えるのはやめてまた旅行をしましょう?今度は別の世界に行ってもいいわね」

「ああ、ありがとう。ちょっと視野が狭くなってたわ」


 うだうだと考えることはやめにすることにした。

 サクラとエルザ、それにたくさんの家族(従神達)がいるのだから何も心配することはなかったのだ。





 その後、取りあえず従神達を全て集め、今回の旅行の終了を告げると共に完成した<神具>、改め<神装>を全員に分け与えた。

 もはや完全な戦闘態勢に入れば俺たちに傷つけることはできなくなっていて格の差など関係なくなっている。


 そして神界に戻り、今まで通り従神達はそれぞれ自由に依頼を受ける日々に戻った。





 あの偽神大戦を終えて百年ほど経ったのだが変わったことと言えば偽神の問題がぷつりと消えたことと、神界にあったいくらかの隔離されていた世界から偽神が消えていたことだろうか。

 おかげ様で対偽神ギルドは解体かと思えばそうではなかった。

 結局このギルドの構成員は発生直後に出くわすことも多いのでなんだかんだで最速で解決できるからである。

 それでも緊急で呼ばれることはなくなったわけだが。


 閑話休題(それはともかく)


 隔離世界から偽神が消えたのは多分、偽神がその世界からリュニオンマレイジへ流れ、俺たちが殲滅したからだろう。

 そして偽神の問題が消えたのは全ての神が、隔離された世界を元に戻すことができるようになったからである。

 なぜそんなことをできるようになったかと言えば<神装>の存在だ。

 なんとこの<神装>、未完成だった<神具>と違って俺の従神に属していなくても分けることが可能だった。

 あとは簡単で俺たち<神装>持ちが、ある程度の神に分け与える。

 そしてまたその神が別の神へ……とネズミ算式に分けていったのである。

 また、<神器>など他の神の道具と同じようにその形は自由自在に設定できるようになっていたため個人個人でデザインに差ができたのもよかった。


 俺は結果的に長く神界にあった問題を解決し、そして新たな神の力を作り出したことになる。

 そのおかげか俺は『終焉始源の神(ゼ   ロ)』なんていうよく分からん称号を貰い、なぜか創造神様であるソウ爺と同列の存在になっていた。


 また、俺の存在格はソウ爺を大きく上回ってるということはなかった。

 あの時はただ単に力を抑えていただけだそうだ。

 さすがにソウ爺を超えるとかはあり得ないかと思ったのもつかの間、同等ではあるということが発覚した。

 というか存在格の上限らしい。

 何かがおかしい気もするがそれだけ新たな神の力を作り出した事は偉大な事なんだとはソウ爺の言葉だ。





 かつては人間として二十年。

 雷で死んだら俺は神になった。


 それからいろいろな依頼を受け多くの世界を見てきた。

 俺の趣向からそのほとんどが剣と魔法の世界で戦いばかりだったのは仕方ないことだろう。

 偽神と出くわしたことも理由の一つだ。


 そして神になって数千年。

 

 そんな短い期間で俺は、創造神と同列の神になりました。

と言うわけで最終話です。

これで完結です。

ここまで読んでいただきありがとうございました。


やや突然な感じもするかもしれませんが、今後やることが一切ないというか思いつかなかったためこんな感じで終わりにします。


もし何かまた何かしらの世界の話を思いつけばその時は後日談のようなものを書くかもしれません。


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