2話 魔王倒します 後編
「さあ、どうしたい?」
そう、二人に訪ねてから長い沈黙がこの部屋を満たしている。
やっべえ、これはスベったかな?
いや、まあそうだよなあいきなり俺、特別な力あるんだって言っても何言ってんだこいつってなるもんな。
やっべえ、どうしよう。
なんか気分が乗っちゃったんだよ。
大体どうしたい? って帰りたいってもう言ってんだろうが。
何言ってんだ俺。
沈黙なげーよ。
頼む。なんでもいいから反応してくれ。冷めた目でこちらを見ながら「何いってんの?」っていうだけでもいいんだ。
このままじゃ俺も動けないじゃないか。
思わぬ沈黙に焦りながらも状況が動くのを待ってると、
「……ふざけないでください。あ、あなただって私達と同じ普通の人間じゃないですか……」
そうカナちゃんに怒られた。
ただ先ほど王達に言ったように叫ぶわけではなく静かに、だ。
俺が、ふざけてもなく嘘も言ってないってことは薄々わかってるんだろうな。
俺もそうだったし。
神の言葉には力が宿る。
こうして話してみるとよく分かる。
神になったと言われ自然と受け入れざるを得なかったのはこの力があったからだ。
神に殺されたって言われた時は自然と受け入れるなんてことは無かった。
馬鹿みたいな思考の末に短絡的になったりはしたがそれだけだ。
そりゃそうである。この力は真実の言葉にしか宿らない。
まあ、俺は新神なのでそのへんもショボイっぽいが。
とは言え相手はいくら勇者召喚されたって言ってもノーマルな人間。つまり存在的に格下である。
普通にこの力は通る。
それでも半信半疑か。
俺が真面目に言ってるってことは伝わってもそれが事実であると納得はさせられないってことね。
んーじゃあどうすればいいかな。
問答無用でやればいいかもしれんが味気ないし。
少し考えて思いついた。
手の中で火の球、水の球、風の球、土の球を作り出してみせたりした。
最後になんとなく自分の死因の雷の球も作ってみせる。
……雷だけ他のよりなんか大きい球になったな……同じ感じでやったのに。
これには部屋にいる皆が目を見開いで驚いていた。
「こんな感じでどうだ?」
「で、でもそんなのだってここに召喚されたせいかもしれないじゃないですか!」
「確かにな。でも、ここまで誰にも説明してもらってなかったのにいきなりできると思うか?」
っていうか俺よくこれ発動できたな。
魔法なんてこれが初めてだってのに。
神補正ってやつか。
それを聞いてまた考えるようにして、
「……本当に帰れるんですか?」
カナちゃんがそう聞いてきた。
「ああ」
「今すぐにですか?」
「望むのなら今すぐにでも」
俺はハッキリと答えてやる。
ってか、やべえ今自然にクッサイセリフでた。
一方カナちゃんはまた黙り込んだ。
まだダメ?
「……分かりました。お願いします、元の世界に帰してください」
カナちゃんがそう言って頭を下げてきたので俺はずっと黙ってるセイジ君のほうを見れば、視線を向けられたことに気付いた彼は慌てて立ちあがる。
「お、俺も! 俺も、お願いします。帰して、ください」
どうやらセイジ君も帰ることにしたようだ。
やや未練が見えるが仕方ないね、浮ついてたしね。
「了解。じゃあ最初の部屋に行こうか。出現したところからやればその分やりやすいし」
そう言ってすぐさま部屋を出る。
ルイス王たちはずっと固まってたがそこでやっと気づいたようだ。
「お、お待ちを。そんな勝手に帰られては我々っ―――」
王様は最後まで言うことはできなかった。
俺が殴り飛ばしたからな。
「うるせえ、黙ってろ! 俺は残るから安心しとけ」
さすがの王様も急に帰るなんて言われたら落ち着いて対処も出来ないようだな。
まあ、勇者召喚して1時間もたたずに帰るって言われたら仕方ないか。
彼らもそれなりに追い詰められてるようだしね。
そんなわけで召喚された部屋に向かう。
途中後ろで兄妹が「ごめん。俺少し舞い上がってた。お前が不安になってたのに……」「……ううん。別にいいよ……」なんて声掛けあっていたが仲のいい兄妹だと思う。
にしても空気が重いな。
なんでだろう。
召喚の部屋に着いたので二人には魔法陣の上に立ってもらう。
「二人とも今日はどこに行こうとしてたんだ?」
「え、えっと。母が誕生日だからケーキを買おうってことになって」
「それで私とセイ兄とで買いに行く途中でこっちに……」
「ふーん。まあそれはどうでもいいんだけど」
「「えっ」」
「んじゃあ召喚された時のことを目を閉じて思い浮かべて」
「え、あっは、はい。」
さて、それではさっさと送り返してしまおう。
いい加減この空気にうんざりだ。
目を閉じている二人に向かって手をかざして特別な詠唱を――――
するなんてことはなくちょっと気合を入れて念じればあっという間に二人はこの世界から消えていった。
二人はたしかに元の世界に戻ったはずだ。
……戻ったよな?
やっべえこういうのも初めてやるから自信ないわ。
今更ながら不安になってきたぞ。既に時遅しなんだが。
―プルルルルルルル
どこからか着信音がする。
って俺の携帯か。人間時代の携帯持ってたんだな。
見てみれば電話じゃなくてメールだった。
えーっとタロウから……ってタロウから!?
内容は……なるほど。
タロウからのメールは短いもので『送還成功』の四文字だった。
さて、ところ変わって再び客室である。
重い空気も一変してなにやら皆さんご怒りのようで。
今度はピリピリとした空気だ。
はて? なにかあったかな?
「レイ殿……なぜあのような勝手なことを……」
「勝手? 勝手はどっちだよ。あいつらまだまだ子供だぜ? それを無理やり連れてきて自分達のかわりに戦って欲しいって勝手はあんたらの方じゃん」
「しかし……それは止む無くであって……」
「いや、別にどうでもいいよ。それに俺が残ってるだろう。元々勇者ってのは一人らしいし、問題無いよな」
やや、投げやりにそう言えばルイス王はしばらく俺を睨むと不意にため息を吐く。
「……もうこの話をしててもしょうが無いかの……。で、レイ殿は残ってくれたということは我らを助けてくれるのだろうの?」
結構面の皮厚いな。
まあ、いいけど。さっさと話進めたいし。
「おっけーおっけー。つっても俺がやるのは魔王討伐だけどな。他はなんとかしろ」
「……分かった。魔王さえ倒せば他も乱れる。そうなれば我らの敵ではないじゃろうしの」
「じゃ、その魔王ってのはどこにいるのか分かってるのか? ささっと……なるほど」
「どうしたのじゃ?」
まあ、そうだよなあ。
普通勇者なんてもんが召喚されたらほっとかねえよなあ。
「いや、本人来たから情報はいらなくなったわ」
その瞬間天井が吹き飛んで空が見えるようになった。
一応王様たちを見れば全員無事である。
魔王なんだから最初からぶっ飛ばせばいいのにな。
「知っているぞ! 勇者を召喚したな!? それがお前らの答えというわけだ!!」
声がした方を見れば人影が空を飛んでいた。
肌は全体的に浅黒く頭にツノがある。顔はまさに豚っていう顔のゴリマッチョだ。
サイズは普通の人間と一緒ぐらい。
魔王ってオークか……オークの魔王ってこと?
いやただ、豚面ってだけか。
まて、こいつが魔王とは限らないのでは?
「お前が魔王なのか?」
そう聞いてみる。
「ん? お前が召喚された勇者か? そう、まさに俺様が魔王だ!!!」
馬鹿正直そうだと答えやがった。
うーん、なんというか品性がないな。
それにしてもやる気減である。
豚とか……。
うん、さっさと終わらせよう。
「この豚め、受けてみろ!」
<神器>を球状態で魔王に投げつける。
「あん? これがお前の攻撃か? こんなもん喰っちまうぞォ!」
すると豚魔王はバクッっとそれを丸飲みした。
っていやいや……アホだろこいつ。
もっと警戒しろよ。
なんかやるにしても喰う選択肢はねえだろ。
毒だったらどうするんだよ。毒効かない自信があるとか?
それでもやっぱアホだろ。
普通避けるか投げ返すかなりすると思うんだが。
まあ豚は雑食だから喰ってくれたら楽だなーとか思って投げたんだけど。
ほとんどネタで投げたのになあ。
ま、いいや。
「『チェンジ:棘玉』 サイズ最大っと」
「がっ!?」
すると豚は身体から刺を生やして第二形態になった。
いやまああれ俺の<神器>だけど。
案外棘玉便利だな。なんとなくで思いついた武器だったけど。
大体の奴は腹に放り込んでこれやれば勝てるんじゃないだろうか。
ドラゴンとか鱗硬いっていうのが定番だけど中は柔らかいだろうし。
うーん。
これで神になっての初依頼はクリアー?
あ、<端末>みればわかるかな?
んーっと。
お、依頼達成ってなってるな。
報酬とか後でみよう。
球に戻してからアポートと念じて<神器>を回収。
引き寄せられるのは<神器>のみだから豚の汚え体液とかは付いてないので安心仕様だ。
「んじゃ、まあ仕事終わったんでさようならー」
未だ魔王が現れたことで固まってる王様達にそう告げで俺はささっと帰ることにした。
後で、その世界を管理してた神様のとこに遊びにいって聞いてみたが長い硬直から復活した王はすぐさま騎士団を編成し、魔物を追い払ったらしい。
やはりそれなりに有能ではあったらしい。
「初依頼おつかれさん」
神の領域に戻ればタロウが出迎えてくれた。
「お、サンキュー」
「初依頼でまたひどく色々やったな。普通勇者送還するか?」
「問題無いんだろ? じゃあいいじゃんか」
「まあそうだけどな。そういえばすぐ帰ってきたが異世界満喫してないよな?」
あー異世界のこと忘れてたわ。
なんかセイジ達のことでいろいろあったまま魔王来ちゃったから勢いで終えてしまったからなあ。
依頼達成後の道楽として遊んでおけばよかったか。
まあ、でもいいか。
あのままだといろいろ面倒臭そうだったし。
「そういえば、あの世界行く前に俺の元の世界中継されたってのは何なん?」
「そういう趣向の依頼だったってだけだな」
なるほど。
やっぱあの依頼では巻き込まれパターンを体験できたってだけらしいな。
ってことは別に勇者どうこうする必要無かったのか。
なんとなく運命だって感じて送り返すことにしたけど。
「まあそれがお前の答えなんだから考え過ぎないことだ。どちらを取っても間違いじゃないからな」
口に出てたのかタロウがそう言ってきた。
「んじゃあ俺はこのへんで」
「おう」
さて、一人残った俺は何をしようか。
まずは報酬の確認かな。
何があるのか楽しみだな。
とりあえず存在の格がどれだけ上がったんだろうか。
《魔王討伐+10P、特別報酬「歪みの補整」+30P 今回の依頼の経験から存在の格が上がり<神器>のサイズ変更が1mの範囲で可能になりました。》
報酬の詳細を見てみたがなんぞこれ。
存在の格ってのは報酬ってより依頼を受けての経験によって勝手に上がるっぽいな。
まあそれはともかくなんだろこのポイント。
あ、なんか新しい項目が増えてる。ポイントショップ?
ああ、これでいろいろ神としての能力を強化できるのか。
お、世界作成とか管理とかもここからか。
*世界作成能力---------1垓P
*世界管理能力---------1京P
うーん?
必要P多くない?
表示だけで選べないのはP不足だからか
頭に「*」ってついてるけどこれは……ああ、格が足りないってことですか。
なるほどな。
世界を巡っていろんな経験をして格を上げそしてPを溜めなければ世界作成とかは出来ないってことなのか。
まあ扱うのが世界だし、そんなもんか。
とはいえ、世界を作ったり管理したりなんていらんな。
神ライフ続けていくとやりたくなるかもしれんが今はどうでもいいや。
とりあえず40Pで買えるのは……
お休みチケット……10P
生前の黒歴史消却キット……30P
育毛剤……20P
…………
……
…
ろくなものがない!!
なんだ育毛剤って。神がそんなの気にするのかよ!!
まあそんなのはともかくとして、お休みチケットってはありとあらゆる神の仕事を一時的に放棄してのんびり生活するためのチケットらしい。
なんでいるんだろ? そんなことしなくても神って自由だし、異世界で生活してくれーっていう依頼受ければいいだけじゃないのか?
10Pのはこれだけだった。
魔王討伐が10P
1個しか受けてないから全く正確じゃないけどもしかして一つ依頼受ける毎にお休みチケットが買えるようになってるとかなのだろうか。
あとでタロウに詳細聞くとしてとりあえず今回はパスでいいや。
んー40Pだとろくなもんは無いっぽいな
まあ仕方ない依頼を受けて溜めていけばいいだろう。
……ポチッっとな。
そうして俺の所持Pは10Pになっていた。
何を買ったかは……語るまい。
ぶっちゃけポイントで買えるものがどんなのがいいか思いつかなかった。