13話 神婚旅行と子供達と異類婚姻譚と(1)
この世界はそこまで長くならない……たぶん。
『対偽神ギルドに所属する全ての神は、対偽神ギルド専用特殊小世界<ゼロ>に集合せよ』
対偽神ギルド内においての最高神、レイによって発令されたそれは対偽神ギルドに所属する神だけでなく神界のすべての神々が戦慄した。
すでに対偽神ギルドを構成する神は五百ほど存在しそれを全て集めるということはそうせざるを得ない状況になったということ。
対偽神ギルド、正式名は対偽神特殊介入統括ギルドと呼ばれるその組織はその名の通り偽神問題に対抗するために生まれた組織だ。
その構成員が全て集合しなければならない状況と言えばそれは偽神に関することに他ならない。
その構成員は対偽神においてはプロフェッショナルだ。
構成員に与えられる<神具>と、偽神との接触、戦闘経験から他の神に追随を許さないほどに凄まじい成果をだしていて最下位の神ですら強力な偽神を意にもかけず倒すことができる。
それこそ同時に偽神が五体現れたとしても彼らは一人でそれを打ち砕くことができると言われていて、事実それを可能とする力をそれぞれが持っている。
さらに、万が一構成員に対応できない相手が出てきたとしても対偽神ギルドの最高神、レイという存在がいるため全構成員を集める必要などは通常ありえない。
ただレイが出るだけであらゆる偽神は灰燼に帰すのだから。
それでも全てが集まるということはそれでも対応できない何かが迫っているということだ。
対偽神における最高戦力すべてを集めなければならないその何かに対して神々が恐れるのも無理はないことだった。
そんな、神界全てを巻き込んで騒動が広がっていく中、神界の一角では騒動の中心で原因ともいえる命令を発令した対偽神特殊介入統括ギルドの最高神であるレイとあらゆる神の上位に存在するとされる創造神が対面していた。
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「いや、勝手に大事にされても困るんですが」
「大事じゃろう。お主だけでなく対偽神ギルドのすべてで対応せねばならないというのだから。それで一体何があったんじゃ?」
「いや、だからね。俺は確かに全員集まれって指示しましたよ。でも俺は未曾有の危機が迫ってるだとかあれこれがやばいからとか一言も言ってないんですよ」
「つまり……?」
「しいて言うなら家族旅行のためですが」
目の前でソウ爺が口をポカーンと開けて固まっている。
どうしたものか……。
そもそもなんでそんな大事になってるのか。
偽神程度どうってことないだろうに。
たかだか五百ちょいの対偽神において少しだけ強いってだけの連中が一堂に集まったところでそう驚くことでもないだろうに。
「いやいやお主、自身の、ひいては対偽神ギルドの影響力を甘く見すぎじゃよ」
「そうか?偽神つってもそりゃ成り立ての神には強敵だろうけどある程度、経験積んて格の上がった神ならとりあえず負けはしないと思うが」
「まあ負けはしないだろうが楽勝とはいかんじゃろう。まあそもそも普通の神はめったに出会わんのだが。それに対してお主たちはよく出会い、簡単に倒してしまう。つまり実績が山ほど積み重ねられておる。そんな組織の最高神が急に全員を集めるなど大事以外の何物でもないわ」
へえ。意外と神界の中でも結構高い地位を築いちゃってた感じ?
っていうか最高神っていいな。こう、響きが。
「まあ何事もないのならそれはそれでええわい」
「あ、何事もないってことはないと思いますよ」
何事もないなんてあるわけがない。
俺一人でも偽神とよく出会うというのに、五百以上の俺の従神が一堂に同じ世界にいくのだからそれはもう偽神と出会うのは確定しているようなものだ。
問題はその規模だな。
これだけの偽神を引き寄せたり、偽神に引き寄せられるような性質の神が五百以上集まればそれだけ引き寄せる力は強くなるはずだ。
俺たちも五百でいくのだから相手も五百同時にでてきたり、はたまた今までの偽神とは比べものにならないほど強力な偽神が現れるといったことが予想される。
そういったことをソウ爺に伝ええれば、
「やっぱり大事じゃのう……分かっているのならその行動をやめようと思わんのか、お主は」
「いやあこれはわがままってだけじゃなくて従神達に褒美みたいなものなんですよね」
「褒美?なんじゃそれは」
「ほら、俺にはサクラとエルザっていう神としても一緒にいられるパートナーがいるだろ?
でもさ俺の子として神になったあいつらは生前のパートナーが隣にいないんだよ。
俺の影響で神になるのは俺の子であってその子のパートナーは対象外だからさ。
あいつら何も言わねえけど、それでもやっぱりかつてのパートナーの事を思ってることぐらい俺にだって分かる」
あいつらはやはり生前の夫だったり妻だったりを未だ思い続けて新しくパートナーを作ろうとはしてない。
神だし、殆ど放任しているようなもんだけどそれぐらいの情報は得ているしあいつらの事を気にかけている。
神である前に俺の子であり孫でありひ孫だしな。
「そんでもってさ、あいつらの生前のパートナーだった奴ら。転生を繰り返してるけど誰一人としてその生涯の間にパートナー作らないで一生を終えてたんだよな。魂のリセットも完全に白紙になるわけじゃないからな。記憶はなくとも未だ奴らも思い衰えずってことらしい」
「それはまた奇跡のような話じゃな」
「だろ?俺もそう思う。もう数千年経ってるのにお互いまだ思いあってる。だったらその奇跡を起こした奴らには褒美がないとだめだろ」
「まあそうじゃな。愛が生みだす奇跡というのは儂も嫌いではない」
「だからあいつらは再び自らのパートナーと出会い、今度は永遠のパートナーになれればなと思ったんだよ」
俺と同じように愛するものとずっと一緒にいられるように、そんな思いから今回の計画を考えた。
「で、その考えの結果がこの騒ぎか」
「それはまあ周りが勝手に騒いだだけなので、俺からはなんとも」
「あほ言うでない。自身の影響力を自覚せいとさっきも言ったろうが」
「まあ、それはいいんですよ。せっかく神々に警戒されてるっていうのなら万が一にも対応してもらいやすいでしょうし。結果オーライってやつですね」
せっかく俺たちの行動に警戒してくれるっていうのからそのまま俺たちのことを注視してもらえれば、万が一が起きた時すぐに対応してもらえるだろうから気楽なもんだ。
まあ、偽神に世界閉じられたら<神具>ないと如何ともし難いっていう現実があるけど、まあ多少はマシだろう。
「で、具体的にそのパートナーと出会わせるってどうするんじゃ?」
「ああ、特殊な条件……かつて神と関わったことのある魂の転生者のみが集まる世界を作ったからそこでな」
「作った……?ほう……もうそこまでポイントを……」
「いや、ポイントでじゃないぞ?」
そんな依頼のポイントでの正当な方法では万単位でかかるからな。
めんどくせえよ。
「ではどうやって……」
「そりゃポイントで作ってないのなら、偽神に隔離されてどうしようもなくなって放置されてた世界を丸ごと貰う以外にないだろう。いやあ偽神に隔離されて程よく白紙になっててさ、でもまだ崩壊するまでには至ってない世界があってよかったわ。しかもその世界は崩壊するまで放置ってことで管理してた神もその権利を破棄してたからな。取りあえず世界として一応確立してるなら俺の力でポイントなしで管理可能だから助かったぜ」
偽神の力に世界を神から隔離し管理を奪うというのがある。
そして俺には<神具>という元は偽神の力だったものが変質したものを持ってる。
それによって管理を得ることは可能でおまけに俺は偽神なんかじゃなくて本物の神で、その存在格は既に世界の創造と管理を可能とするレベルだったから崩壊させることもない。
いやあギルド作った時に<ゼロ>貰ってて助かったわ。
おかげで管理に関するノウハウもあったから完全に初めての世界管理じゃないからな。
まあその世界は世界として確立してるだけで本当に何もなかったから、その初期投資に偽神関係の依頼から発生するリソースの余剰分と今まで溜めていたポイントをぶち込んでちゃんとした世界とルールを作った。
ポイントが五百万ほど消えたけどどうでもいいや。
まだ千万くらいあるし、バイクとかそういった娯楽要素は安いから気軽に使える。
管理に関係するようなものは高いが、今回はなんだかんだで世界を管理しようとしたけど基本的には自分で作って管理することに興味はないから関係ない。
俺には他の神が作った世界で遊ぶほうがよっぽどあってる。
作った世界のベースはもちろんファンタジー。
魔法はあるし魔物もいるし迷宮もある。
あと付け加えるなら人間っていうか人型が主体の世界で人視点で考えられた世界だ。
これはまあ、あいつらのパートナーの魂を呼ぶのだから当然である。
やがてはここへくる魂の条件を変えることもあるだろうが、取りあえず最初は俺の子供たちのパートナーのみである。
それとゲームのNPC的な存在も用意し、仮想空間、遊園地、映画等などの娯楽要素を世界のシステムとして用意してある。
というよりも魔物とか迷宮も娯楽の一部だ。
なぜそんなことをしているのかと言えばこの世界が生きるための世界ではないからである。
この世界はかつての生涯で別れることになった人と再会し、幸せな時を得るための世界なのである。
そして、再び愛する人と出会うための世界ということで名を俺の人間時代、つまり地球にあった言葉から文字って<リュニオンマレイジ>とした。
「いやはや突拍子もないことをやりおるのう……下手すればお主、邪神認定して討伐対象だったぞ」
「ん?大丈夫だろ。それこそ俺は多少の無理ができる地位を持ってるんだしな」
それを言ったのはソウ爺だしなと満面の笑みを浮かべて返してやった。
「はあ……ちゃっかりと自分の状況を把握していて利用するあたり、お主なかなかいい性格しておるの……」
「お誉めにあずかり光栄です、創造神様」
「やめい、わざとらしい。まあ主の言うように今回の事は問題ない。だが頼むから次からは儂に一言言っておいてくれ。世界のことも、お主に従う神を集めるのもな」
「創造神様の仰せの通りに」
大げさに演技をしつつ今後はソウ爺に事前報告することを誓った。
まあ邪神認定も面白そうだけどな。
完全に一人で神やってたら最終的には邪神になってたかもしれん。
「じゃあ、まあ一応偽神の動向についてはできる限りでの警戒をよろしくお願いします。あと今回の旅行中は対偽神ギルドのほうは2人ほど残しておきますので、ある程度は依頼も受諾可能です」
ソウ爺にそういうと共に心の中ではトールとティアに合掌する。
今回はパートナーとの再会が目的ですでに仲良く神になってるあいつらには必要のない。
せいぜい頑張るがいいさ。
その後、依頼で離れていた従神達も<ゼロ>へと戻ってきたので今回招集した目的を説明したところ、
「先に目的を言って招集しろよ!!」
とか、
「どんなやばいことになったのか警戒して損した!」
とかブーイングの嵐。
だが、そう言いつつもかつてのパートナーと再会できること、相手もまた自分のことを忘れていなかったということを知り嬉しそうにしていた。
説明が終わり質問などもなくなったところで、俺の子供たちはパートナーとの再会のため。
俺はサクラとエルザとの神婚旅行のため。
五百を超える神々が再会の地、<リュニオンマレイジ>へと旅立った。
再会 Reunion リユニオン
婚姻 Marriage マリッジ
リユニオンマリッジ
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リュニオンマリッジ
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リュニオンマレイジ