1話 魔王倒します 前編
※この小説では世界はわりとあっさり滅んだり救われたりします。
死んだら神になってしまった。
とりあえず、これから俺は神としてギルドの依頼を受けようと思う。
そして今、俺は<端末>を使って依頼を選んでいるのだが実は今すごく困ってる。
ちょっと前まで人間だった俺としては依頼がおかしく見えるのだ。
例えばこれ。
アグレイアと呼ばれる世界にて特異生物、通称”魔王”出現。私の管理手法としては今は邪魔だから消しといて。-アグレイア管理担当
普通に魔王討伐依頼があるし、その理由もいい加減なものにしか見えない。
まあでも魔王だしなあとは思うんだけど別の依頼には、
最近、うちの世界の人間があまりにも調子に乗ってる。魔王になって8割ほど削ってくれ -グラトール管理担当
と、逆に魔王になってほしい依頼なんかもあった。
ホントまああれだよなあ。
世界、軽いなあ。
他にも隕石落とせだの世界を消す手伝いだとか物騒な依頼が結構ある。
中には最近暇だから革命起こしてとか、明らかに管理どうこうじゃなく暇つぶし感覚の依頼もある。
世界の闇を見た気がする。
そんな世界への影響が大きそうな依頼の他に人として降り立ちただ生きて欲しいっていう依頼もあったりする。
詳細を見ると『俺の作った人間主体の世界で、人視点からみてどうかってのを評価して欲しい』ってことらしい。
なるほど。魔王討伐とか他の物騒なのとかよりかなり平和な依頼だ。
でもこれ依頼達成ってもしかして人の身での寿命を終えることなのかね。
さすが神。気長だ。六十年以上かかるクエストとか小説で出てくる冒険者ギルドだったらまずだれも受けねえよな。
そう思ってる側からだれか他の神が受けたらしく、依頼受領済ってなって選択できなくなった。
さすが神といったところか。
それにしてもこれらの依頼全部が新神向けっていうことらしいのだが難易度の差が激しくはないだろうか。
魔王討伐と異世界生活が同じ括りってことだよなこれ。
まあ、あれだな。
どうせ失敗しても格は上がるんだしまずはやってみよう。
初めは分かりやすいものから、というわけで魔王討伐にしよう。
えっとアグレイアの魔王討伐、受託っと。
おっと、『このまま世界を移動しますか?』って表示がでたな。
なんか準備とかいるか?
そういえば、神なわけだしその世界の前提知識とか普通に貰えそうだよな。
まあ、いいか。
わかんなかったらゴリ押しすれば大丈夫だろ。
世界移動開始っと。
太陽はちょうど真上にありサンサンと地上を照らしつけていた。
そんな中俺は信号が変わるのをボーっと待っている。
俺の前方には爽やかイケメンとその彼女と思わしき女の子がキャッキャうふふしている。
羨ましいことだ。
って、おかしくね?
ここ普通に現代日本じゃないか。
アグレイアは? 魔王は?
白昼夢見てたとか……ええ、白昼夢で神になったとか頭おかしいやつじゃん俺。
……確かめてみるか。
(アポート)
そう念じてみればすぐさま手の中にゴルフボール大の球が転移してきた。
よかった、夢じゃなかったようだ。
でも、俺は確かに魔王討伐の依頼を受けて世界移動開始したはずなんだけどな。
おっかしいなぁ。
そんなことを考えた瞬間にパッと地面が輝いた。
正確には地面に魔法陣が浮かび上がりそれが輝いている。
おお! そういうパターンか!
これで俺は異世界に召喚されるってわけだな。
でもなんかこの魔法陣おかしい。
普通これ対象を中心にするもんだろ……端っこなんだが。
中心にいるのは……ああ、目の前のカップルだわ。
多分イケメンくんが勇者なんだろう。
なるほど、把握した。
まあ、問題ないか。むしろ神が勇者として召喚されるとかおかしな話だしな。
勇者召喚したら神が巻き込まれてきましたってのも変な話だが。
くだらないことを考えていたらいよいよ転移するようだ。
さて、魔王は倒すとしてもそれなりに異世界ってものを満喫させていただきましょう。
そして、光に包まれ異世界へと召喚された。
足元には魔法陣が描かれていて天井には電灯ではない何か不可思議なモノの灯りがあり部屋全体が照らされている。
全体的に清らかな空気を感じるここは神聖な場所だったりするのだろうな。
目の前には何人か人影があり中心にいるのは一組の男女。
豪華な装飾の施された冠を身に付けているからおそらく国王とその妃なのだろあ。
その横に文官であろう人らが数人いて反対側には軍のお偉いさんっぽい人が一人。
周囲には槍を持った兵士がいるが槍をこちらに向けるわけでもなくその場に立っている。
そして、ほとんどの人がこちらを見て安心したような目をしていた。
さて、勇者くんや。そろそろ何か反応してくれないだろうか。
大口上げて馬鹿面晒してますよ?
お、彼女のほうが落ち着いてきたか?
「なんなのこれは!?どうなってるのよ!!」
そんなこともなく、絶賛取り乱し中だった。
まあ、あの反応が普通か。
勇者くんもその声で我に返ったようで、今更ながら周りをキョロキョロしてる。
ん? 頬が緩みそうになってるな?
なるほど。
察してしまったんだな。
あ、もうすでにニヤニヤしてきてる。
「あ、あなたたち一体なんなんですか?」
おー問い詰め始めたなあ、ちょっと期待してるくせに。
「まあまあ。すぐ説明致すので落ち着いてくだされ」
「……っ、分かりました。カナも落ち着いて。大丈夫だから……」
おお、きちんと彼女のことも気遣ってイケメンじゃないか。
彼女も少しは落ち着いてきたようだ。
「混乱するのも無理はないことですが、ここで立ちながらというのも申し訳ないので場所を移してからでもいいだろうか。おいしいお茶を飲みながらでも説明させていただきたい」
「わ、分かりました。カナもいいよな? え、えっとあなたも大丈夫ですか?」
お、こいつここまで空気だったエア神な俺にもちゃんと声かけてくれたな。
めっちゃいいやつやん。
「あ、お構いなく。ところで一つだけ質問があるのだが」
「質問、か? ふむ、なんでも聞いてくだされ」
「さっき俺達のことを勇者って言ってたが勇者ってのは三人もいるもんなのかい?」
「いや、勇者は過去三度程召喚されたらしいが文献によると全て一人だったらしい。しかし何分前例が少ないのでな……」
「なるほど、なるほど。おっけー話はそれだけだ」
ひとまず聞きたいことは聞けたので頷き、それを受けた王達は立ち上がり移動を開始したので俺達もそれについていく。
っていうか王が先導って大丈夫?
まあ、どうでもいいか。
対応も丁寧だし、嫌な感じも今のところしないしとりあえずは屑王ってわけじゃあ無さそうだな。
そういうパターンの小説結構あるからなあ。
それにしてもやっぱ巻き込まれたっていう形らしい。
過去三人の勇者って俺と同じように神なのか?
それともそこのイケメン君みたいな異世界人?
いや、このカップルも神の可能性がある?
ふむ。
「ねえイケメン君 これわかる?」
そういって俺は球状態の<神器>を見せてみる。
「イケ……あ、いえゴルフボールか何かですか? あと僕の名前はセイジって言います……」
「そっか、そっちのえーっとカナちゃんだっけ? 君はこれ分かる?」
「い、いえ……」
ふむ。
二人とも何か分からず困惑してる様子。
演技の可能性も無きにしもあらずだけど召喚された時の二人の様子は演技に見えなかったしなあ。
そもそも神だったとして隠す意味がないだろうしやっぱ一般人か。
「なるほど。ごめんね、やっぱり混乱しててさ。変なこと聞いちゃったね」
そういってこれ以上は探らないでオーラを撒き散らしておく。
こっちから探っといてなんなんだって話だが。
「さて、こちらでゆっくり説明させていただこう」
お、どうやら着いたようだ。
どうやら客室のような場所らしい。
窓があって外の景色がよく見えるが、パッと見た感じでは自然豊かな場所らしいな。
「まずは自己紹介させていただこうかの。儂はこの国、サーフェイスの5代目国王ルイス・サーフェイス。こっちが我が妻であるユーリアじゃ」
「お目にかかり光栄ですわ。勇者様方」
王はルイスで王妃はユーリアっと。
今まで黙ってたユーリアが初めて口を開いたが綺麗な声をしている。
改めてよく見てみればルイスの眼光は鋭く鼻筋も通っており皺が深くてなんていうか渋い。
体格も大きくお腹がぽっちゃりしてるなんてことは無くむしろ鍛えぬかれているだろうと感じる。
それでいて俺の失礼な物言いにも態度を荒らげることもなく落ち着いて対処すると……けっこういい感じ王だと思う。
ユーリアの方は美しいの一言に尽きる。
こちらも歳は四十は超えているだろうに肌は未だ若々しく微笑む姿がよく似合う人である。
総じて美男美女だな。
「こちらに控えているのが宮廷魔導師のガルバス・トード。色々なことを知っておる頼りになるやつじゃ。そしてこっちの鎧を装備しとるのが騎士団長のヘリオス・レギタシス。この国一番の剣の使い手じゃ」
紹介された二人はよろしく頼むと深々と挨拶する。
魔導師のガルバスはまさにザ・魔法使い風な出で立ちだ。
足元まで隠すローブを着ていて、少しばかり装飾されているがそれは本当に些細なものだ。
今はフードを外しているので顔がよく見える。顔の皺はとても深くかなりの老齢であることを伺わせる。
騎士団長は2mを超える大男で下手すれば周りに威圧感を撒き散らすような存在であるが、ニカッとした豪快な笑顔を浮かべるその男は頼もしく誰もがこの者を気に入るだろうと感じる。
かっこいい爺ちゃんに豪快な大男。
彼らもまたイケメンである。
どうでもいいことだが俺もなかなかにイケメンであると自負している。
詳しく言うならイケメンと普通を足して2で割って人によってはどちらにも揺れるし行動によってもどちらにも揺れる程度にはイケメンだ。
なんて、こんなくだらないことを考えているのが神でいいのだろうか。
さておき、今度はこちらの番である。
まずは勇者候補のセイジ君からだ。
「僕は仁藤誠司と言います。あ、こちらだとセイジ・ニドウってなるのかな。セイジって呼んでくれていいです」
「……仁藤神奈 カナでいいです」
おや、結婚済みですか?
……いや、よくみたらどこか似た顔つきだし兄妹か。
カップルかと思ってたぜ。
「俺は、あーそうだな……レイだ」
神になる前の名前を名乗ろうかと思ったがそいつはもう死んだからレイとだけ名乗った。
なんていうか個人的なケジメってやつだな。
「ふむ、セイジ殿、カナ殿、レイ殿だな。まずはあなた方に謝罪しよう。こちらの都合で無理やり呼びつけてしまい本当に申し訳ない」
自己紹介が終わると驚くことに頭を下げてきた。それも椅子から降りて床に膝をついてである。
王妃もその隣で同じように頭を下げ、周りを見ればガルバスもヘリオスも同じように頭を下げていた。
さすがにこれには驚いたな。
俺の中で王様たちへの好感度がうなぎのぼりである。
俺自身は無理やり呼ばれたってわけでもないためスタートは0なのでかなり気に入ってたりする。
セイジ達、特にカナちゃんのほうはさっきまで睨みつけて王様達を見ていたが王様達の態度に毒気を抜かれたのか呆気にとられていた。
セイジくんは少しだけ考えてから
「た、確かに無理やり連れられてきてこちらも戸惑っていますし色々考えるところもあります。ですがそちらの様子を見る限り込み入った事情が合ったのでしょう。謝罪はとりあえず受けさせて頂きます。でも後で言葉だけじゃなく色々もらいますからね?」
セイジ君はなかなか素晴らしい。
勇者召喚というのに若干浮かれていたにも関わらず召喚されたことに批判する様子を見せ、それでも謝罪を受けてこの場は話を進めようとそう言っているのだ。
おまけに最後に冗談っぽく謝罪の品を要求もしていた。場の空気を和ませると同時に少しでも状況を良くしようとしてるのだろう。
兄として妹を守る責任があると感じているのかもしれない。
そしてセイジ君にそれを言わせたのは紛れも無く王様達の誠意ある態度によるものなのだ。
なかなかどうしていい感じじゃないか。
俺、蚊帳の外だけどな。
謝罪とか完全にいらんしなあ俺の場合。
セイジ君のお陰で暗い空気が少し晴れていよいよ本題に入る。
「まず、我々がそなた達を召喚した理由を話そう――――」
数年前から魔物の活動が活発になった。
それがどんどんとひどくなり一年前についに一つの村が消えることになってしまった。
他国でも同様の被害が出ていて、他国と協力しなんとか問題の解決を図ったらしい。
それにより一時的に魔物を抑え被害を減らすことができたがつい五日前に人の言葉を話す魔物が現れた。
その魔物はどの魔物よりも強くこの世界は我らが主の魔王様が治めるべきなのだと宣言しいくつの村を焼き払っていった。
魔王はどうやら降伏を求めているようで一ヶ月の期限のうちに降伏すれば命は助けてくれるとのこと。
もちろんそれに従えるわけもなく戦う事にした。
そうしてこの国に伝わる勇者召喚に他国は目を付けた。
他国はこの国に物資など支援を送るかわりに勇者召喚をするように願った。
この国はそれを最初こそ拒んだが他国との関係もあり断りきれず召喚することになった。
とだいたいこんな感じの話だった。
おお、まじでこの国いい感じじゃん?
稀に見る綺麗な国だったわ。
まあ、話が全て本当ならだけど。
彼らは一つの国の王であって一人の人間というわけではない。
どうしても国を率いるには様々なことを考える必要もあるし汚いことも必要になる。
とはいえ、全てが嘘でもないようだと思う。
魔王の件はおそらくはほどんど真実だろう。
神としての直感と魔王討伐という依頼から分かる。
それに今のところの印象だとこの世界の神が魔王は邪魔っていうのもなんとなく分かる。
今回は愛すべきテンプレに則った魔王様のようである。
まあ仮に魔王様実はいい人なパターンだったとしても俺の依頼は魔王討伐なのでそもそも気にすることではなかった。
「これが、そなた達を呼ぶことになった理由じゃ。そなたらにはどうか魔王を倒して欲しい。もちろんありとあらゆる支援はさせて頂く。装備はもちろん必要なら兵もだそう」
そして魔王討伐を王様にも依頼される。
セイジ君達は一体どうするかな……?
おっとカナちゃんの形相が再び怖くなってる。
「ふざけないでよ! それは、あなた達の世界の問題じゃない!! 私達だって普通の人間なの! 平和に暮らしてたのに!! 巻き込まないでよ!! 今すぐ私達を帰して!!!」
そう叫ぶカナちゃん。
震えてるのは怒りか恐怖かあるいは両方か。
そう、これが普通の反応であり、彼女のいうことは正しいと俺は思う。
この世界の問題に他所の世界の存在を巻き込む。
これは神からみても歪じゃないだろうか。
神、とはいっても神なりたてだしほとんど日本人な価値観であるが世界はその世界だけで回るべきじゃないかと俺は思う。
そしてその世界でどうしようも無い時に俺たち神が出張るというものなのではないだろうか。
わざわざ神が出てくるのだから独立した世界同士干渉してはいけない気がする。
それが正解かどうかは俺も分からんが。
なんてったってなりたてホヤホヤだしな。
でも、タロウは自由な神ライフをって言ってたし、それでいいんだと思う。
俺は俺としてそういう風に信じておく。
だから俺はこう考える。
なぜ巻き込まれパターンでこの世界に来たのか。
それは勇者として召喚される運命だった二人のためだったのではないかと。
歪みは正すべきだ。
静まる客室で俺はゆっくり立ち上がって声を出す。
「俺には特別な力がある」
そういって注目を集める。
セイジやカナは怪訝な目でこちらを見るが王たちはそうではない。
王たちは勇者に力があること、あるいは宿ることを知っているからだろう。
「だから元の世界に帰ることもできるし、帰すことだってできる」
俺はセイジとカナをジッっと見つめながら、
「さあ、どうしたい?」
と、そう聞いた。