3話 偽神ハンター、勇者を見守る。 その2
さて、移動のための馬だが借りるよりは買っちまうか。
金は国からたんまり貰ってるしな。
勇者予算とかいって毎年金を積み立ててたものがあって、この世界は勇者の存在が普通のこととして成り立ってる。
まあ貴族の中には、この金になんとか手を出せないかと画策していた奴もいたようだが、そういった奴はもう生きてはいないか、没落している。
うーん、馬は適当なのでいいだろう。まあいいのがあったらそいつを買うけど。
そういえば馬とかは現物で最初から支給してくれてもいいのにな。
でも買うのは後だ。
馬以外にも買うのはある。
「後、とりあえず必要なもんは食糧を少量に、水筒か。野営道具はフェノルシアに着いてからでいいか。あとは……ああ、収納袋は買っておかねえと」
ぶつぶつと確認しながら必要なものを買っていく。
その途中、武器屋で1.7m程の大剣に、木と金属を組み合わせた合成弓と矢筒、矢を二十本、さらに投擲用の小さいナイフを四本購入。
そこからさらに、防具屋に寄って魔獣の革で作られたロングコートにレザーズボン、それと投げナイフのホルダーベルトを数本と、それなりに高めで軽量化と衝撃緩和の魔法付加の施された金属鎧、後は身体をすっぽりと覆うフード付きの外套を大きいのを二着少し小さめのを一着購入。
古着屋にも寄って一般的な平民の着る男用の服を四着、女用のも四着買った。
金属鎧と外套の内二着については勇者と姫様の分なのでこれは勇者予算から出して、後は俺の私物であるため自腹で購入した。古着も俺からのプレゼントだ。
武器は別に騎士団長として持っていた騎士剣と呼ばれる刃幅の広い片手半剣を持っていたがこれは勇者にやることにしたので大剣を買ったのだ。
わざわざ大剣を買ったのは、<神器>を現状では使わないことにしているから。武器としての格が違いすぎて勇者の補佐(笑)になってしまう。
なぜ勇者に装備を用意するのかと言えば彼は平民の出で、勇者の紋が出る前は土木建築の仕事で稼いでいたらしく、武器などは一切持ってなかったからだ。
ずぶの素人が突然勇者ってどうなのかとおもうが、仕事の関係上ガタイはいいしそれなりに持久力はあるから多少はマシか。
買ったものは収納袋にまとめて入れて、店を出た。
ちなみに、この収納袋ってのは要するにアイテムボックスとかそういうのだ。
100kgまでは入る。
とりあえず装備していた騎士団長仕様の鎧は脱ぎ、鎧は紐で纏めて背負い、騎士の詰所へと向かう。
そこでこれ保管しといてと頼み鎧とはおさらばした。
まあ、道中使うかもしれないので団長仕様のマントだけは収納袋に入れてある。
このマントがある種の身分証明の役割を果たしてくれるのだ。
ついでに、ちょっと詰所のスペースを借り買った物を装備していく。
レザーズボンを履きロングコートを着てから、ブーツにナイフホルダーベルトを装着しそこに投げナイフを二本、左腕にもホルダーをつけそこにも二本装備。
矢筒に矢を入れて背負い、弓は弦を外し片側で纏めてから同じように背負う。
大剣は……これどうしようか。
まあ街中では大剣は使えないし、普段は収納袋で街道なんかは普通に持って肩にかけて持つか。
装備を終え、次は街の西壁の外へ向かう。ここの場合馬はそこでしか買えないからな。
途中雑貨屋で角砂糖を一個勇者達をからかうために買った。
だが、改めて考えるとアホらしいしもったいないしってことでその辺歩いてた女の子にあげたのだが、その際に
「団長様ありがと!」
と、とてもかわいらしい笑顔でお礼を言われたがこの姿で普通に気づかれるとはと少し驚いた。
子供は案外よく見てて覚えてるもんなんだなあと思う。
その声を聴いて周りにいた大人はえっ!?って感じで驚いた顔してたからな。
さて、街の外へ到着したので、まずはその辺の乾いた土を三着の外套に振りかけてから軽く払ってを繰り返し外套を傷めない程度に少し汚しておく。
治安の悪いところに行くとき上等なものを見せびらかしていればそれはカモにしか見えないだろう。
カモはカモでも手を出せは痛い目にあうだろうが。
対処できるとはいえそういった事態にならないようある程度の予防はしておくべきだ。
そんなわけで外套を汚すことで目立たなくするのが狙いである。
それと新品の外套はある程度こうやってわざと汚すことで少し柔らかくなり着心地も多少よくなる。
これやってから、別に旅の道中これ身に着けてたら治安の悪い所に着くまでには自然に汚れてるのではと思ったが、それは気にしないことにした。
その後は馬を買うため馬の飼育場に向かった。
西側の壁の外に飼育場があるのは、西側の草が馬の育成に良いかららしい。
飼育場に着き様子を見れば馬は放し飼いされていて、黒やら白やらいろんな色をした馬がのんびり草を食べたり走ってたりしている。その中で仲良く並んで走って遊んでいる二頭の馬が目についた。
体格もよく走る姿からは力強さを感じられ、片方は黒毛でもう片方は赤みがかった茶色の毛だ。
側の小屋へ行って馬主を呼び、先ほど目についた二頭を馬具一式付きで買うことにする。
「旦那、お目が高いですなあ。こいつらは色は全然違うが姉妹馬でな。毎日、疲れを知らないのかってぐらい仲良く走って遊んどるんですが、そのお陰でなかなかに健脚ですわ。おまけに頭もよくてな、こっちの考えをちゃんと分かってくれる。でもって度胸だってある。騎士様が訓練する軍馬にだって負けてねえと思いますよ。」
「ほう。脚良し、頭も良しで度胸もあるか。それはいい買い物をしたな」
馬主の売り文句に社交辞令を返しつつ金を払い買った馬に近づく。馬具はすでに装着してあるのですぐにでも乗れるようになっている。
買った二頭の馬の首筋を優しく撫でながら
「よろしくな」
と声をかければ、二頭とも気持ちよさそうに目を細めてから小さくヒヒンと鳴いた。
これで全部揃ったから外壁沿いに進んで北門へと向かうことにする。
トールとティアとはそこで合流することになっているはずだ。
別れ際に何も言ってないがそのくらいはあのお転婆姫も承知しているからな。
で、北門へは、二頭の手綱を引いて壁沿いに歩いていくことにした。
壁の外といっても何もないわけではなくここら一帯は農場が広がっている。
今歩いてる道は馬車がぎりぎり通れるかと言った農道だ。
最初こそのんびり歩いていたのだがよくよく考えれば王都であるこの街はかなり大きく、その外壁沿いともなるとそれなりの距離であったことに気づく。
「こりゃちょっと遅くなりすぎるかもなあ」
そう一人ぼやくと後ろから背中を軽く押される。
振り向いてみれば黒毛のほうの馬がじっとこちらを見ていた。
「ん?なんだ?……乗れってか?」
ヒヒンと一鳴き。どうやらその通りらしい。
「とはいってもなあ、もう一頭を制御しながら馬に乗るって難しくてなあ」
そう言うと、今度は俺が持ってる手綱を噛む仕草をしてきた。
どうやらこれを放せってことらしい。なんとなく逃げないだろうと思ったので放してやった。
すると、黒い方の馬がトコトコと歩いて先へ進みその後ろを赤茶色の馬がぴったりとついていく。
少し進んでから反転し、今度は小走りでこちらへと戻ってきてそのまま俺を通り過ぎていった。
そして、再びある程度進んでからまた反転して、戻ってきて今度は俺の目の前で立ち止まった。
その際ずっと黒毛の馬が先導し、赤茶毛の馬はぴったりと後ろにくっついていた。
そんな様子を俺にみせた後、二頭はヒヒンと鳴いた。
「んー……勝手についていくから大丈夫って事か?……わかったよ。ありがとな」
そう言って、首筋をポンポンとたたいてから俺は黒毛の方の馬に乗る。
「んじゃ、よろしく頼むな。人いたら危ないから速度には注意してくれよ」
そう声をかければわかってるとでも言いたげな様子でヒヒンと鳴いた。
どうやら本当にこの馬たちは頭がいいらしい。
それからは馬に乗って移動したため北門にはそれほど時間を置かずに到着した。
「まあ、仮にもこの国の王女に勇者様だからな。当然っちゃ当然だよなあ」
北門に到着した俺だったがそこにはトールとティアがいて周囲には大勢の人々が集まっていた。
幸いにも遠巻きから眺めるに留めているし、騎士も出張って抑えているし、馬車の通る大通りもちゃんと空けていて行き交う商人などのの邪魔にもならないように配慮しているようだが、その好奇の目に晒されているのは精神的に辛いらしくトールは顔を引き攣らせながらも人々に手を振ったり声にこたえて左腕にある勇者の紋を見せたりしている。
ティアのほうは一応王女としてこういうのは慣れているのかトールほどではないが、それでも精神的に疲労を覚えているのは間違いないだろう。
「これからあの中に行くとかめんどくせえな」
そうはいっても時間も余裕がなくなってきているため覚悟を決めていくことにした。
「よう、説明はちゃんとしたか」
「へ?えと……あっ!遅いですわよ!」
「色々準備あったんだから仕方ねえだろ。おらトールはミース……赤茶色の馬に乗れよな。とりあえず乗るぐらいはできんだろ」
「え?……あ、レイ団長!」
気づくのおせえ。
まあ、金属鎧着ていかにも騎士って分かる姿からいきなりロングコードだから無理もないが。
ちなみに今俺が乗ってる黒い方の馬――姉らしい――をマース、赤茶色の方――こちらが妹――をミースと呼ぶことにした。
もし三頭目がいたらムースだったな。おいしそうだ。
「ほら、さっさと乗れ。乗ったらティアを引き上げて乗せてやれ。……ミース、ちょっと重いだろうが頑張ってくれな?」
トールにさっさと馬に乗るように発破をかけ、ティアを引っ張り上げるように指示する。
ミースには少し重いのを我慢してもらおう。
「は、はい!……よっと。……ティア、手を」
「よろしくお願いしますね」
結構軽々とミースに乗ったトールは多少バランスを確認してからティアに手を伸ばした。
そして、彼女の手を握ると軽々と引っ張り上げ自分の前に座らせた。
必然的に彼は左腕でティアのお腹あたりを抱え固定するのだがトールは顔を真っ赤にしている。
初々しいことで。
だが、街の人たちからはそんな細かい様子は見えず、勇者様が姫様を華麗に抱き寄せたように見え、キャーキャーと盛り上がっている。
「んじゃトールとりあえず背筋伸ばしてバランスだけ取ってろ。可能なら街の皆に手を振ったりしてな。あとはミースが自分で動いてくれるから」
「ふふ、トールなら絶対大丈夫ですわね?」
小声でトールに指示を飛ばし、それに合わせてティアもいたずらっぽくトールに声をかける。
トールは顔を赤くしながらもへっぴり腰になどならずちゃんと背筋を伸ばして座っているから大丈夫だなと判断し、俺はいったん街の人々へと振り返る。
俺が登場してから今までの間街の人からは「誰だあいつ?」とかそういった声がちらほら上がっていたからな。
「俺はこの国が誇る最強と名高い騎士団長だ!!自分たちの国を守る騎士の団長の顔ぐらい覚えとけや!!!!」
そう、大声をかければ「えっ!?」とか「嘘!?……あ、よく見たらそうだ!」とか「げっ団長!」などと言った反応が返ってくる。
「いま、『げっ』とか言った奴減給だからな!」
中には騎士の連中もいて一緒に驚いていた。
顔は覚えたからな。
最後は街の人々が笑い声をあげる中俺たちはようやく出発するのだった。
すこし進んで街の様子も見えなくなったところで一旦岩場の陰で馬から降りる。
「さて、ここまでくりゃ街からも見えんからいいだろう」
「何かあるんですか?」
トールがそう聞いてきた。
とても大事なことがあるのだけど少しは気付けよ。
「ほら、これ受け取れ。こっちはティアの分な」
渡したのは金属鎧と片手半剣、それに外套だ。
「とりあえず装備を何とかしないと戦えないからな」
「それってあなたの剣じゃない。でもまあ、トールの仮の武器としては当然といえば当然ね」
「ああ、勇者の聖剣ってのはこれと同じ型らしいしな」
そう、勇者には勇者専用の装備がある。
それは単純に聖剣と呼ばれ、魔を断つ剣だと伝えられている。
そしてこの聖剣は騎士が使う騎士剣と非常に似ている。
というよりも勇者の聖剣を倣って作られ定着したのが今の騎士剣である。
今回北へ向かうのもその聖剣を回収するためだ。
「で、でもレイ団長の剣を頂いていいのでしょうか?」
「かまわん、かまわん。この弓もそうだが既に自分の武器はもう別に用意してあるしな。一応中古ということになるが切れ味も耐久性も保障するぞ。ついでに最強たる俺のお古なんだ。御利益間違いなしだから、それ使ってとっとと強くなれよな?」
「……はい……必ず。必ず強くなって勇者の使命を果たします!」
「おう、その意気だ」
そう強く宣言したトールを俺は激励するように、軽くトールの胸を拳で突いて笑いかけた。
この勇者世界はそれなり丁寧にやっていこうと思います。
そういえばこの小説ハーレムタグあるのにハーレム要因のサクラ、エルザとは別行動しちゃってるけどいいよね?