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18話 テンプレチックワールド・4

 魔物の軍勢をあっけなく倒したので座り込んでるエルザに手を貸して立たせてから街へと戻ることにした。

 流石にエルザももうボーっとはしてなかった。慣れたか?


「あなた、一体何者なのよ?」

「んーまあそうだなあ……この世界では多分最強の存在ってとこかな」

「そう」


 そういってエルザは俯いてしまった。

 なにやら考えてる様子だ。


「ねえレイ、私ってやっぱり邪魔……よね?」

「え?」


 いきなり何言ってんだこいつ。

 なぜそんなこと言うのかわからず呆然としているとエルザがぽつぽつと話し始めた。


「私とレイとじゃあまりにも実力が違う。それで一緒に行動だなんてレイに寄生してるようなものじゃない。いえ、それどころか足を引っ張ってるわ」

「いや、寄生って今回はともかく他はちゃんとエルザが魔物倒してるじゃん?そんな気にすることじゃないと思うが」

「それだって私を鍛えて欲しいというわがままの結果よ」

「まあ、そうかもしれないけどさ。最初にも言っただろ?暇だから別にいいよってさ」

「ええ、だからこれからもあなたに付きまとうわ」

「へ?」


 あれ?

 これ以上邪魔になるのもいやだからさようならみたいな流れじゃないのか?

 そう思って別にそんな悩むことじゃないよって諭そうって考えてたんだが。


「えーとつまり何が言いたいんだ?」

「あなたとパーティを組んでほしいって言った時、最初は興味半分だった。でも今はなんだか分からないけどずっとあなたといたいって思いが溢れてくるのよ」

「なんだそれ?俺に惚れたとか?」


 わけがわからずそういって茶化してしまった。


「惚れた……?そう……そうかも……いや」

「ん?」

「そうよ!その通りだわ!これが好きってことなのね?ええ!あなたに惚れたのよ!だから一緒にいたいと、そう思うんだわ」

「お、おう」

「ねえ、レイ。私はあなたのことが好き。大好きよ!」


 ぶつぶつと何か呟きながら考え込んだかと思うとそのまま告白され迫られた。

 あーれー?

 そういう流れの会話でしたっけ?


「まあ、待て。待ってくれ。俺もエルザのことはまあ好きだよ?それこそ何も問題がなければ一緒になりたいなって思うくらいには」

「何か問題が?」


 自分で言うのもなんですが俺もちょろいですし。


「いや、俺ってさ異世界的なとこから来てるわけなんだけど」

「世界の違いなんて私気にしないわ」


 エルザさん結構情熱的なんですね。


「いや、うん世界がどうとかじゃなくてもう愛する妻がいるんだよね」

「あなたの世界では一夫多妻は認められないの?」

「えっとそういうわけでもない、かな?」


 日本なら認められないだろうが俺の世界っつったらもう神様の領域なわけだしその辺は制約もないだろう。


「じゃあ問題ないわね。側室なり妾なりなんにせよあなたと一緒にいたい」

「えーと……」


 うーん気持ちはうれしいからここはさっさと頷いてしまいたいところだけど俺と一緒になるってことは高確率で神になるしそもそもサクラ抜きでこういうのを決めるのはなと思う。

 まあ、ここに来る前にサクラからハーレム許可を貰っているがそれでもだ。やはりこういうのはやっぱりちゃんと話し合わないといけないと思う。


「私は歓迎するよ。まあ、どっちにしろもう手遅れかな。彼女はすでにこっち側の存在になるのは確定してるようだし」

「ヒャっ!?」

「へ?」


 エルザの背後からそう言って現れたのはほかでもないサクラだった。

 突然背後から声がしてエルザは驚いてしまったようだ。


「あれ?サクラ?どうしてここに?」

「依頼かなり簡単だったからささっと終わらせたよ。で、レイの依頼手伝いに来た……というよりは会いに来たって感じ」

「ふーん?修行はもういいのか?」

「レイと一緒に行動しても修行はできるよ。一人は殊の外寂しかったし」

「まあ俺も会いたかったぜサクラ」


 そう言って軽くサクラの体を抱きしめる。

 五日ぶりに感じるサクラの体は柔らかくて暖かくてこのままずっとこうしていたくなるものだった。


「えっと……そろそろ私のことを思い出してくれないかしら?」


 あ、つい忘れてた。

 かけられた言葉にそちらを見れば困惑してるようでやや不機嫌そうな雰囲気を纏ったエルザの姿がそこにあった。


「ああ、ごめんごめん。ついな」

「ごめんね?」


 ここは素直に謝っておく。

 いくら俺でも謝るときは謝るのだ。


「そ、それで?そちらの方は紹介してもらえるのかしら?」

「ああ、サクラね。さっき話してたじゃん?愛する妻がいるって。それがこちらのサクラになります」

「やっほー」


 紹介すればサクラが気の抜けた挨拶をする。

 対するエルザはなぜか固まって動かない。


「え……?元の世界にいるってさっき……?」

「ああ、多分サクラも召喚されたとかそんな感じだって」

「最初にサクラ……さんがレイに会いに来たって言ってたと思いますけど……?」


 あー言ってたなあ。

 確かに俺に会いに来たってはっきり言ってました。


 えーと。

 じゃあどうやってごまかそうか?


「会いたくなったら世界の壁なんて関係なく会いに行くのは普通のことだよ?」

「あ、そうそうそれ。さっきエルザも似たようなこと言ってたじゃん?それと一緒一緒」


 悩んでいると横からサクラが世界の壁なんて関係ないと豪語したのでそれに乗っかることにした。

 ついでに似たようなことをエルザもいったよねと言ってやればエルザは納得したようにうなずいていた。


 いや、納得するなよ。

 世界の違い(・・)と世界の()って似てるようで違うと俺は思うんだけどね。

 まあ、本人がそれで納得するならいいか。


「で、エルザさんはレイのことが好きなんだよね?」

「はい。別にサクラさんから奪いたいとかではなくただレイと一緒にいたいの。だから側室とかでも、なんなら奴隷でもいいわ。だから……」

「うんうん……まあレイは最強なんだからハーレム作ってもらわないと困るからね。私も歓迎する。これからよろしくね?」

「え……あ、はい!よろしくお願いします!」


 なんか俺抜きに話が進んでそして終わっている。

 というかハーレム作ってもらわないと困るってなんなんだろう。

 実はサクラには支配欲があって俺がハーレムを作り自分を正妻に置いて他の女に対しての権威を得ることでその欲を満たそうとか?


 ……それはないな。

 まあそれはともかくとして一応サクラ達の間では問題もないようだし俺もちゃんとしないとだな。


「エルザ。なんか色々問題も解決したようだし聞いてくれ」

「はい」


 神といえどもさすがにこういうのは少し緊張するものだ。

 例え結果がわかっていることでも。

 というかすでに相手から告白されているようなもんなんだけど。


 少しだけ呼吸を整えてから口を開いた。



「多分、今後も俺はかなりの迷惑をかけることになる。それでも君は俺と一緒にいたいと?」

「はい」

「多分、俺と一緒になることで君は人という生から逸脱することになる。それでも?」

「はい」

「そうか、それなら俺はなるべく平等に愛するよう努力しよう。結婚、してくれるか?」

「喜んで!」


 そう言ってエルザは俺の胸に飛び込んできた。

 サクラはそばでパチパチと拍手をしていてその表情は曇りのない笑顔だった。




「にしてもサクラは本当によかったのか?」

「ん?なにが?」

「いや、俺がサクラ以外を愛することが、さ」

「レイは最強なんだから当然だよ?」


 エルザが飛び込んできた後、少しして落ち着いたので改めてサクラに確認してみた返答がこれだった。


 またそれか。

 なんか知らないがサクラのなかでは最強=ハーレムを作るみたいなことになってるらしい。


「それにすでにエルザはもう手遅れっていったじゃない」


 ちなみにこれから同じ俺の妻同士ってことで互いに敬称は外して呼び合うことにしたようだ。

 で、そういえば手遅れだなんてこと最初にいってたなあ。


「どういうことだ?」

「最初に言ったように彼女も私たちと同じ存在になるってことが確定してるんだよ」


 つまり神になるのか。

 でもまだエルザとはそこまで深い関係でもないと思うんだが……。


「彼女の遠い先祖がそれなんだよ。だから影響を受けやすくなっててレイがその背中を押した感じだね」

「あーそういうこともあんのか」


 まあ俺だってフェンリルとして子孫残したこともあるわけだし、神の血を引くものがいろんな世界にいてもおかしくはないな。

 ん、そういえば……


「なんでサクラはそういうことを知ってんの?」

「来る前にここの管理者から聞いてきた」

「なるほど」


 聞いてみたら単純な答えが返ってきた。

 まあ後から来るわけだし俺のいる場所とか聞くだろうからなあ。


「えっとさっきからなんの話なの?」


 とりあえず納得した横からエルザがそう言ってきたが、


「んー?今はまだ内緒。そうだなあ死んだ後にでも教えてやるよ」

「な、なによそれ」

「別に教えてもいいと思うんだけどレイがそういうなら私も内緒にするかな」

「もう二人して!」


 そんな他愛無いやり取りをしながらも俺たちはシルフィーの街へとゆっくり帰って行った。




「すまないがそこで止まってくれないか」


 だいぶシルフィーが近くに見える場所、つまり今回の騒動を解決するため集まった討伐隊のところまでやってきたのだが、そこで騎士団が整列しておりその隊長と思わしき人にそう告げられた。

 そのそばには多分王様であろう人物も立っていてこちらを見極めるよう見ている。

 後ろの騎士団の面々は別に武器を構えるなどということはないがどこか怯えているといった雰囲気だ。

 まあ、勝手な行動して一人で魔物を殲滅したわけだしそんな力を持つ相手を警戒するのも当然と言えば当然だろうか。


「まず貴殿はつい先日にBランクの冒険者になったというレイ殿で間違いないか?」


 隊長と思わしき男がそう聞いてきた


「まあそうだがあんたは?」

「失礼、私は風の騎士団団長のゾルド・アマルンドという。そして、そちらは同じくCランク冒険者になったというエルザ殿で間違いないんだな?」

「は、はい」


 さすがにこちらの身元くらいは事前にある程度確認済みらしいな。


「それで、そちらは?報告では魔物の群れに飛び出していったのはレイ殿とエルザ殿の二人であったはずだが」

「私はサクラ。レイの奥さんだよ」

「レイ殿の伴侶……ですか?まあ、わかりました。あなた方に確認したいのですが先ほど魔物の群れがいたとされる付近で大規模な雷を確認してますがこれはあなた方が?」


 あーやっぱ見えてたよなあ、あれ。

 この警戒はそれもあるのか。


「というよりは俺一人で、だけどな。ああ、魔物はきれいさっぱり掃除しといた。」

「一人で!?……失礼、少し取り乱しました。既に魔物の危機は去ったと?」

「ああ」


 とりあえずは当面の問題であった魔物の群れについては解決したと報告しておいた。

 多少はこの微妙に重い空気も変わるだろう。


「そう、ですか……あの大軍勢をこんな短時間で……一応兵に確認させますが本当の事なんだろうな。この度はありがとうございました」


 そう言って深く頭を下げるゾルド。

 その後ろでは騎士団の面々が危機が去ったことに安堵したような表情を見せていた。

 それに、いつの間にか怯えていた雰囲気は完全に消えていた。

 あまりにも簡単に消えすぎじゃない?

 俺たちを警戒してたわけじゃないんだろうか。


 なんかやたらすんなりと治まった感じだけど……ああ、神の言葉ね。

 俺の言葉に嘘はないってのが伝わってんだな。


 そして、ゾルドが王様に目配せすると一つ頷いて王様がこちらへ寄ってきた。


「挨拶が遅れたな。儂がこの国の王ルイ・エンス・シルフィーだ。レイ殿のおかげでこの街は守られた。もちろん我々騎士団や冒険者達だけでも街は守れただろう。だがその場合はある程度の被害はあっただろうが、貴殿のおかげで一切の被害なく守られた。礼を言う。本当に助かった」


 そういって今度は王様が頭を下げる。

 別に騎士団で守れただのどうでもいい事をと思ったが国の王としては必要なものなんだろう。


「ええ、街が無事でよかったですね。それじゃあ疲れてるんで失礼します」


 そういって軽く頭を下げてさっさと街に入ろうとしたのだがゾルドさんがそれを認めてくれず、前に立ち塞がった。


「まだ何か?」

「いや。ただ三日後に危機が去ったことを祝う祭りを開こうと思うのだがね」


 俺の言葉に答えたのはゾルドではなく王様だった。

 祭りですか。

 それがどうしたというのか。


「まあ盛大に祝えばいいじゃないですか」

「おお!お主もそう言ってくれるか!いやあ、やはり今回の立役者には是非参加してもらわねばならんと思ってな!いや何、悪い事にはならんぞ。なんせ―――」


 俺が別にやればいいと言えばやったらテンションを上げて祭りについて話す王様。

 とにかく国を盛り上げ皆で楽しもうとかパレードをやろうだとかそのパレードの花形に俺たちに参加してほしいとかいろいろ捲し立ててきた。

 

 サクラ達の方に顔を向けてみれば、サクラは目を輝かせてすでに祭りを楽しみにしている。

 というか涎を止めろ。

 祭りに出てくる食べ物狙いだなあれは。


 エルザを見るとこっちに気づいて諦めろとでもいうように首を振っている。

 

 まあ仕方ないか。

 こういうのは楽しんでいかないとな。


「おーけーおーけー。その話引き受けよう。やっぱ祭りは盛大にやらんとな。たくさんサービスしてやるぜ」

「おお!流石レイ殿!よろしく頼むぞ!」


 とりあえずは話もまとまり今度こそ俺たちは街へ入り宿で疲れ―――もっとも俺は別に疲れておらずエルザのほうが精神的に疲れていたようだが―――を癒すのだった。

 

長々と更新がなかっただけでなく短めです。すいません。

若干無理な展開かもしれませんがこれが私の限界。

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