プロローグ2
「それじゃあ私はお先に失礼するわ」
ハナコがそう言って去っていった。
「さて、お前は神になった。神になったらなにをすると思う?」
タロウがそう聞いてきた。
神といえばやはり……。
「世界作ってそれの管理とか?」
「まあ一応正解だ。と言ってもお前は神になりたてだしそもそも記憶持ちだからな。現時点で世界は作れないし管理も任されん。しばらくは、もしくはずっと他の神々の管理の手伝いだな」
記憶持ち?
確かに生前の記憶があるけども。
それについて聞いてみると、
「お前は人間から神になったわけだが人間の時の記憶がある。ってことは人間としてのしかも偏った価値観を持ってるってことだ。そんな奴に世界は管理させられんってこと。まあ、人間を神にするときに色々条件を絞ってるからそう馬鹿な神とかは生まれないが、それでも管理するならまっさらな状態から調整された神のほうが都合がいいってことさ。世界を構成するのは人間だけってわけじゃあねえからな。むしろ人間なんざちっぽけなもんさ」
と、いう風に説明された。
なるほど。
まあ、いきなり世界管理しろって言われてもどうすりゃいいかわかんねえしな。
生物の営みや自然の巡りを管理するとかどうすりゃいいんだか。
基本見てるだけなのかもしれんが、世界の管理なんていうものを適当にやるわけにもいかないだろうしそれでもなかなかしんどそうだな。
「じゃあ記憶持ちってのはどうするんだ? 神の肩でも揉むだとか、そんなの嫌だぞ」
「いや、記憶持ちは例外なくギルドに配属される」
「ギルド?」
なんだそれは?
「正式名称は『神々連合による世界管理のための相互仲介システム』だがな。小説で冒険者ギルドってあんだろ? あれだよあれ。そこに世界を管理してる神が「うちの世界で◯◯してほしい」だとか「魔王討伐求む」とか依頼を出すわけ。んでそれを記憶持ちが受けるっていうシステム。つっても記憶持ちじゃなくても受けれるし、実際受ける神も多い。格上げのためな」
「意外と凝ってるっていうかなんか役所? いやどちらかと言えば企業かな……格上げって?」
「そのままだ。自分の存在の格を上げるってこと。俺もお前も神だから神格っつっていろんな世界の存在よりも高い格だが俺とお前は同格じゃなくて結構な開きがある。あ、立場は対等だけどな。どの神も格の差はあっても同じ神として対等ってのが神の世界の原則だから相手の格が、とか気にしなくていい。その代わりお前も格の差で態度変えんなっつー話だ。あいつ好きだ、嫌いだってのは結構だがな。んで、なんで格上げるかって言うと格に応じてできることが増えるからさ」
「なるほど……もしかして格を上げ続けてったら世界管理もできるようになるのか?」
「その通り。飲み込みが早くて助かるよ」
「ギルドに配属ってのはつまり依頼を受ければいいのか。もし受けなければ存在が消えるとか?」
「いんや別に」
「じゃあ他のことで罰が与えられたり?」
「しない。神ってのは結構自由だ。特に記憶持ちはな。だからこのまま千年間俺とだべり続けてもいいし寝ててもいい。誰も文句言わん。怠惰の神ってのがいるがそいつは生まれてからずっと眠りっぱなしっていう話もある」
「そんなんで大丈夫なのか?」
ようは働かなくていいしひたすら遊んでてもいいと言われてるようなものだ。
「全然大丈夫だな。まず神がいるってだけでそれなり世界は安定するし、結局はほとんどが自分から依頼を受けるのさ」
「それはまたなんでだ?」
「そりゃお前、記憶持ちってなると生前にいろいろ妄想するだろう?あーなりたいとか幻想の世界に行きたいとか。お前も好きだろう?所謂ファンタジー世界。そこでいろいろできるってのに引きこもるってのは一部の変神ぐらいだろ。記憶持ちでなくても格を上げれるしいろんな世界で遊べるってのは魅力的だから同じく、だ」
言われてみれば確かにそうだ。
小説の中だけの世界だったはずの場所に行くことができる。
魔法を使うこともできるだろう。強大なモンスターと戦うなどの熱い展開も望める。
ともすれば、目の前にそんな魅力的なものがあるなら惰眠を貪るよりはそちらを取る。
「さすがによくできてんな。神々の世界って」
「おうよ。ちなみに無双はもちろん縛りプレイもできるから飽きないぜ」
「縛りプレイって……そんなことしていいのか? 世界管理のための依頼なんだろ?」
「元人間のお前さんにしてみれば気分のいい話じゃないだろうが最悪世界が一つや二つ消えても誰も気にしない。消えた世界のリソースが他の世界に回されたり新しい世界のリソースになるってだけだからな。故に依頼の成否は問われない。失敗しても格は上がる。もちろん成功させたほうが格の上がりはいいけどな。ついでに縛って成功するともっと上がりがいい」
「あー神からすればそんなもんなのか。ついでに格の上がり方にも関係するのか」
なかなかに厳しい。
だが、それは人間として見ればの話なのだろう。
企業が事業を展開していくつかの事業が潰れてもそれは仕方ない次に活かそうっていうのとだいたい同じなんだろうな。
俺は既に人間ではない。神である。
そのことを肝に銘じておこう。
「まあ、だいたいの説明はこれで終わりか。わからんことがあれば追々聞けばいい」
「りょーかい」
「んで、ほれ。受け取れ」
タロウが何かを差し出してきた。
ゴルフボールぐらいの球、クレジットカードみたいな板、そしてノートパソコン……パソコン!?
「なに、これ? ってかなんでパソコン?」
「球はお前の<神器>ってやつで様々な武器になる。その板は<神証>っつって証明書みたいなもんだな。ノートパソコンは<端末>というもので、依頼を探したり格上げ報酬を受け取ったりできる。ノートパソコンなのはお前にとって使いやすい形に自動的にそうなってるだけだ。今後本の形状のほうが分かりやすいとかそういう風に思えば自動的に本の形になったりするから自分の好きなのにすればいいさ」
「へえーなんか面白そうだな。<神器>はどうすれば武器になるんだ?」
「武器の形をイメージしながら『チェンジ:◯◯』って言えばいい。長剣をイメージするなら『チェンジ:長剣』って感じにな」
「わざわざ長剣とかいう必要あるのか?」
「ある。最初にそう言って<神器>に武器形態を登録する必要があるんだよ。で、2つ目以降はワードを変えることで区別するから」
「なるほど。まあオーソドックスに剣……いや刀にするかな」
そう呟き、刀をイメージする。
装飾はいらない。実用性だけを重視した武骨なもので――
『チェンジ:刀』
そう言った瞬間ゴルフボール大の球から細い糸が出たかと思えばそれは瞬間的に編みこまれていきイメージ通りの刀になった。
「お、おぉ~すげえなこれ。戻す時はどうすんだ?」
「戻す時は『リバース』だ。後<神器>はどんなに離れていても形態変化させられるし手元に転移させることもできて、そのワードが『アポート』だよ。あとワードは念じるだけでも大丈夫」
それを聞いてまずはリバースと念じて球に戻す。
戻る時は外側から糸が解けて球に吸い込まれていくように消えていった。
これ隙になるんじゃと聞いてみたがどうやら意思次第で一瞬で展開したりゆっくりと変化させれるようだ。
今度は、球になった<神器>をおもいっきり投げた。
驚くほど遠くまで飛んでったが大丈夫か?
やや不安に思いつつも『アポート』と念じると手元に転移してきた。
「マジで<神器>便利だな」
もう一度投げる。
今度は投げた後に刀へと変化させた。
予想では投げるとき球が回転してるのだからそれが刀になれば回転しながら飛んで行くかと思ったが、突き入れるかのように真っ直ぐと飛んでいった。
投げて串刺しにするってことが出来そうだ。
刀のまま手元に転移させてみればしっかり柄の部分を握るように転移された。
さすがにその辺は抜かりないよな。
横でタロウがニコニコ顔で見てるが気にしない。
もうちょい遊んでみよう。
ここでちょっと悪戯心が湧いてきて新しい形態を試して見る。
一旦球に戻してから
『チェンジ:棘玉』
そう念じてみれば手の中の球は砲丸ほどの大きさになってそれにトゲが付いてまるでイガ栗やウニのようになった。
これを投げつければ結構なダメージになるのではないだろうか?
このままじゃとても投げれないが投げてから形態変化させればいいだけの話だ。
「あー変な武器登録しちゃって知らんぞ?」
「まあ、いいじゃないか一個くらいこういう形態があっても」
「いや、それは結構だが<神器>って初期だと2つしか形態記憶できないからな?」
「え、まじで!?」
「おう」
や、やっちまった。こんな棘玉に貴重な1枠を使っちまうなんて……
「まあ、大きさも格に応じて変化させられるし、初期でも50cmくらいは変えれたりするしからそれを考えれば全く使えないってことはないさ。一個は普通に刀だからそっちでも十分だし。ギルドの依頼を達成すれば格が上がって記憶できる数も増えるから気にすんな」
ありがたいタロウ様のお言葉である。
50cmぐらいは変えれるってなら刺玉もあながち使えないってことは無さそうだな。
直径50cmの棘玉がものすごい勢いで飛んでくるとか……こわっ。
「さて、無事武器も手に入ったしこれでいつでも依頼を受けれるようになったわけだ。これから何をするか自由に選択して素晴らしい神ライフを送るといい」
そう言ってタロウは去っていった。多分世界の管理とやらの仕事に戻ったんだろう。
さて、早速依頼を受けるとしますか。
やることもないしな。
そうして、俺はノートパソコンにカードを差し込みどんな依頼があるかを確認していった。