14話 ダンジョン攻略戦記パート3
ランク2のゴーレムを魔石ごと粉砕してから五年ほど経った。
今では俺たちの探索者ランクは9になっていて世界中で知らぬものはいない程の有名人となっている。
ランク9になったのは三ヶ月前だ。
ランク9になるのに五年弱掛かっているのは迷宮を全て攻略していたというのもあるが何より普通に苦戦するようになったからだ。
ランク5までは余裕だったのだが、ランク6の迷宮からはこちらの攻撃を回避したりされるようになった。
一番驚いたのは正真正銘の<神器>による攻撃を受け止められたことだ。
相手の攻撃も侮れるものではなく反撃の暇も無く攻められることもあった。
なので少し慎重に魔物を倒して行くことにした。
どうやら魔物を倒すことで能力制限が緩くなっていくようでだんだんと苦戦していた相手にも余裕が出てくる。
<神器>も前は攻撃を受け止められていたのに受け止められなくなったりしていたので<神器>にも能力制限が掛かっていたのだろう。
そんな感じで自分たちで倒せる魔物を倒し力を上げながら攻略してたため時間がかかった。
ランク7になった当たりで貴族に仕えないかなどと勧誘されたがもちろん全て拒否した。
多少悶着もあったがなんとかなった。
「さて、ラストダンジョンもこれで終わりだな」
「いよいよこれで依頼も終わるんだよね」
俺たちが今いるのはこの世界に唯一あるランク10迷宮のボス部屋の前だ。
すでに迷宮内の雑魚には苦戦することも無く倒せるようになったので今からボスへと挑戦するのだ。
扉を開けて中へと入っていった。
すると突然周囲の景色が一変した。
大地は荒れ果てて空は赤黒く染まっている。
「なあサクラこれどう思う?」
思わずサクラに聞くが返事が帰ってこない。
「サクラ?」
振り返ってみれば空間に穴が開いていてそこを通ろうとしても通れず何かを叫んでいるサクラの姿があった。
「っ!?」
すぐに駆け寄りその穴を通り抜けてサクラのもとに行こうとしたが寸前で穴は閉じてしまった。
同時に能力制限が解除されたのがわかる。
つまり管理者からの力が断ち切られたということだ。
それを認識すると同時に背後から声が聞こえた。
「空間に異常を感じたから様子を見に来れば……貴様どうやって入った?」
そこにいたのは黒いボロボロのローブを身に纏う骸骨だった。
ボロボロで穴の開いたローブから覗く内側は何も見えず闇が広がっている。
これで大鎌を持っていたなら完全に死神だな。
だが、今はそんなことどうでもいい。
こいつが黒幕だってのは今のこいつの言葉から分かった。
じゃあ後は消すだけだ。
俺は何も言うこともなく銃を向け引き金を引いた。
能力制限なしに使う銃から放たれる弾丸の速度は制限下で使ってたのとはまるで違う。
骸骨野郎が避けることもできず着弾し込められた魔法が発動し、凄まじい雷撃が襲いかかった。
「ぐっ!?」
効いてるようで苦しそうなうめき声を上げた。
生意気な。
十全な能力下からの魔法弾喰らって意識あんのかよ。
その後も何発も撃ちこんでいく。
何度も何度も撃って骸骨野郎は砕け散った。
だが、砕け散った破片が一点に集まって靄になったかと思えばその中からまるで無傷な骸骨野郎が現れた。
「死んだと思ったか?そのようなもの効きもせんわ!」
骸骨だから表情が見えんがおそらくドヤ顔だろう。
俺はまたも何も言わずに銃を向ける。
「効かないのが分からんの――――ッ!?」
構わず撃つと何かを察知したのかギリギリで回避されたがそれでも右腕に当たり奴の右腕が消し飛んだ。
「ほら、どうした?効かないんだろ?さっさと右腕治してみろよ」
「グッ……貴様ァ!」
骸骨は治そうとしているようだが一向に右腕が治る気配はない。
何を撃ったかといえば聖属性をたっぷりと込めた弾丸だ。
どうみてもアンデッド系だったしこれは定番だろうな。
「無理みたいだな?じゃあさっさと終わらせようか」
そう言って聖属性弾を連射する。
だが相手も中々やるようで全てを回避していた。
一度目は無駄と思ってたところから直感で避けたから回避しきれなかったようだ。
こいつ結構つよいんだなあ。
一発一発が音よりも遥かに早いのに。
とは言え避けるのに集中して反撃はできない様子だがだんだん余裕を取り戻しているようだ。
埒が明かないので一旦連射を止める。
「どうした?もう終わりか?クックック……一発こそもらったがもはや貴様の攻撃は我には当たらんからな。諦めたか?」
すっかり冷静になったようでこちらをからかうようにそう言ってくる。
冷静になったついでに慢心してくれちゃって馬鹿みたい。
「そうじゃないさ。ただ方法を変えるだけだ」
そう言って再び銃を構える。
今度は両手でしっかりと握って狙いをつける。
魔力を大量にこめていくと銃身の中に光の塊が凝縮されていく。
その様子に奴も何かに気づいたようで魔法で攻撃してきた。
俺はソレを避けるでもなくゴーレムが使っていた魔力を散らすフィールドを形成して防ぎながらも魔力を溜めていく。
充分に溜めたところで引き金を引けば放たれたのはボーリングの球ぐらいの太さの光線だ。
つまりレーザービームである。
その攻撃は今までのものより更に早く、というか光速であり奴の頭を消し飛ばした。
どうやら頭が弱点だったようで奴の気配は完全に消え去った。
すぐに空間が崩壊し始め、周囲の景色が変化していき元の場所へと戻っていった。
そして即座に後ろから猛烈な勢いで体当りをされ地面へと倒されてしまった。
「いっ!?」
体当りしてきた者を確認すればやっぱりサクラだった。
無言で腰に抱きついている。
「……遅い」
「……ごめん」
どうやらもっと早く片付けなければいけなかったようだ。
落ち着いたところで辺りを見るとどうやらボスの扉前のようだ。
扉は閉まっている。
「もしかしてボスが扉の中にいるのか?」
「んーわからない。扉の中に入ろうとした時レイは通れたのに私は入れなかったから」
空間が閉ざされてたのはボスエリアだけってことか。
つまりあいつがボスだったってことか?
ボスが<偽神>になったってことかね。
そういえば空間戻ったのに未だ能力制限は解除されたままだな。
ん?サクラも解除されてるっぽいな。
「んまあ、ボスがいるなら挑戦して魔石をゲットして迷宮完全制覇としますか」
「うん」
まあ、それを考えていても始まらない。
倒したあいつからは魔石など手に入らなかったし。
そのことに違和感を覚えながらも俺たちはボスの扉を開いた。
「ッ!?」
中に入った途端悪寒がして左腕を上げ首をガードする。
そして直後に左腕に何かが当たった瞬間それは固く重いものにでもぶつけたように弾かれた。
相当な威力を秘めた一撃だったと感覚でわかる。
だが左腕の<神具>で受けた時俺には何の衝撃も感じなかった。
さすが最高の防具だぜ。
攻撃をしてきたのは黒いローブを纏い大鎌を持つ骸骨だった。
「……生きてたのか」
『我は……デス……死を……与える者……』
デス……?というかさっきの<偽神>とは違うっぽいな。
さっきの<偽神>はこいつが変異したやつか。
『死ネ』
そう言ったかと思えばゆったりと近づいてくる。
なんだ?と思ってたら急に目の前に現れて大鎌を振るってきた。
「はやっ!?」
なんとかそれを回避して距離を取った。
こいつさっきの<偽神>よりも強えんだけど。
『殺ス』
そう言ったこの死神さんは分裂して2体になった。
そして俺とサクラ、それぞれ分かれて攻撃が開始される。
俺も黙って見てるわけじゃない。
聖属性弾を撃つ。
だが簡単に避けられてしまう。
避けられるだけじゃなくて距離を詰められ反撃される。
それを<神具>受けて弾いて至近距離から連射するが死神の体がまるで黒い霧のようになって霧散し避けられた。
霧散した黒い霧は背後で集まって形を戻して大鎌を振るってくる。
<神具>で受け止めるのが一番だが位置が悪い。
咄嗟に<神器>を刀にして受け止める。
防御こそ成功したがその威力に吹き飛ばされてしまった。
「くっ普通に受けたらこんな威力あんのかよ」
悪態をつきながらも銃に脅して聖属性弾を連射するが避けられるばかりかまたもや目の前に急に現れ攻撃される。
俺の左腕のことを学習したのか右側からの一閃だ。
やむなく刀にして受け止める。
先程は後ろからの攻撃だったので踏ん張れなかったが今回はしっかり踏ん張って受け止めることが出来た。
大鎌を上へと弾いて刀で一閃。
しかしこれも霧状に霧散されて避けられた。
すこし距離を離した所に集まってまた姿を表し右手をこちらに向けている。
その手から発せられたのはドス黒い球だった。
それが銃弾のごとく放たれて襲いかかってきた。
「ぬおおおおおお!?」
直感があれに当たってはマズいと告げていて必死に避ける。
避け続けて攻撃する隙を見つけ聖属性弾を撃ちだすが黒い球に当たって相殺される。
何度何度も連射するが相手も同じように連発してきて相殺が続いていた。
ええい面倒くさい。
魔力を散らすフィールドを展開し魔力を溜め込む。
黒い球はフィールドに触れ散らされるがその威力は凄まじくすぐに壊れそうである。
だが充分。
魔力を溜め込み終わったので引き金を引いてレーザービームをお見舞いする。
その光線は黒い球ごと飲み込んで死神へと迫る。
だが死神の手前で光線は四方に散ってしまった。
こいつもフィールド使うのか!?
……いや、違うか。
こいつはさっき俺が使ったの見て即座に真似しやがったんだ。
マジで化けもんかよ。
だがそれでも地力はこちらが上だったようだ。
散らせ切れず光線の一部がフィールドを貫通してヤツの左手に命中して左手を消し去っていた。
だが驚いたことに周囲から何かが集まったかと思えば左手が完全に戻っていた。
まじかよ。
確かに霧ごと消してたと思うんだが。
「長くなりそうだ……」
思わずそう呟いた。
あれからはずっと近距離では刀と大鎌で打ち合い、距離が離れると銃と魔法で撃ち合っていた。
もういちいち武器チェンジするのも面倒だったので同時に展開して左手で銃を右手で刀をもって戦っている。
長い戦いではあるが俺のほうが打ち勝っている。
近距離戦で死神の攻撃は大鎌のみだが俺は刀と銃がある。
刀で大鎌を受けその間に銃で攻撃したり、銃で撃ち避けさせたところで刀を振るうなどして徐々にダメージを与えていった。
ダメージを与えても周囲から何かを集めて復活するがだんだんその速度も遅くなっていてダメージ回復にも限度があるようだ。
「そろそろダメージ回復もできないようだ、な!」
そういって一閃。
死神の動きも落ちていて回避しきれず斬り裂かれる。
今やこいつの体を形成している霧のようなものは随分少なくなっていてまるで上半身だけが浮いているような状態だ。
攻撃から逃れるためか死神が離れたので今度は銃撃をお見舞いする。
放つのは聖属性弾ではなく<神器>の棘玉だ。
「これでどうだっ!」
出来る限り巨大化された棘玉が死神に飛んでいき残った体のさらに半分を消し飛ばした。
チラッとサクラの方を見ればあちらも似たような惨状だった。
細かく削っていったのだろうな。
だがそこで2体の死神が霧散して一箇所に集まる。
その際度々周囲から集めていた何かも根こそぎ集まっていくのが感じた。
多分正真正銘最終ラウンドへ突入するのだろう。
黒い霧が一箇所に集まる間にサクラが俺の傍までやってきていた。
「おうおつかれ。多分次で最後だな」
「あいつかなり強い……それにあの武器。いくら<神器>で攻撃してもびくともしなかった」
「ああ、<神殺し>かもな……」
全く呪われてるのか?
<偽神>に会って次の依頼の世界でまた<偽神>と出会い同じ世界でほぼ同時に<神殺し>持ちと出会うとか。
「そろそろか」
集まっていた黒い霧は形を変えていき人型へとなっていく。
格好は変わらず黒いローブ姿だ。だが先ほどまでは常に靄々と揺らめいていた輪郭がハッキリしたものになっている。
恐らくはありったけの力をかき集めて凝縮した結果だろう。
そしてローブから除く髑髏は眼球があるべきところが赤く輝いている。
これがホントの死神か……。
『全てに……死を……真の力を解放セヨ、<ブラッディサイズ>』
死神がそう言って大鎌で自分の左腕を斬り落とす。
すると斬り落とされた左腕が霧になったかと思えば鎌に吸い込まれていった。
すると黒い刃の大鎌に赤いヒビのようなものが走りそのヒビが血管のように脈動する。
やっぱり<神殺し>のようだ。
そしてあの武器はかなりヤバイ。
神としての存在をも断つ力を持っている。
もちろん俺も相手の準備が整うのをただ待っていたわけではない。
すでに銃にはかなりの魔力が溜め込まれている。
俺は未だ動かぬ死神に特大のレーザービームを放った。
その光線に対し奴は大鎌を振ると光線はあっさりと霧散して消えてしまった。
「やっぱダメか……」
効かないことは予想していたので直ぐ様別の弾を撃つ。
もはやお馴染みの棘玉だ。
再び大鎌を振るい棘玉を撃ち落とそうとするがさすがに今度は<神器>である。
光線とは違いその大鎌に対して一瞬拮抗する。
それでも支えのないただ飛んで行くだけの棘玉とその手に持ち振るわれる大鎌では分が悪くすぐに弾かれてしまった。
今度は死神が目の前に急に現れて攻撃してきた。
まともにこいつの攻撃をくらえばどうなるかわかったものじゃないので<神具>で受ける。
だが、防ぐことには成功したが今までのように大鎌は弾かれることはなく、弾いた隙を狙おうと動いていたサクラへと大鎌は振りぬかれていた。
サクラもそれを瞬時に認識してギリギリで躱す。
「大丈夫か?」
「うん、平気」
再び大鎌が振るわれる。
今度はそれをきっちり受け止めつつ刀で一閃。
だが鎌の柄でガードされる。
その隙をつきサクラが攻撃するが死神は鎌を半円を描くようにして鎌を振り上げそれを防いでいた。
今度は聖属性弾を撃ちこんでやるがこれも普通に避けられるばかりか大鎌を大きく振って反撃される。
サクラと俺を同時に巻き込む形の薙ぎ払いだ。
サクラも俺も攻撃を防御するがその威力に吹き飛ばされる。
取り回しの難しい鎌をああもうまく使われるとやり辛い。
だが、結局の所手数が違った。
少しずつ少しずつサクラと連携した攻撃で相手にダメージを与えていく。
以前の時みたいな縛られた状態でもない為攻撃にも耐えられるから幾分余裕だ。
サクラもあいつの動きに慣れたのかいつものように攻撃を寸前に躱してカウンターを決めている。
最後はサクラが攻撃を仕掛け、それを防御した隙をついて俺が刀による一閃で終わらせた。
あとに残ったのは<神殺し>の大鎌と綺麗に真っ二つにされた特大の魔石だった。
魔石落とすんだ……。
「これでこの世界の迷宮は完全制覇だな……」
「そう、だね……」
完全制覇はいいがラスボスが<偽神>というのはやめてほしいな。
さて、残った大鎌だが多分また防具になるんじゃないだろうか。
ここはサクラの身を守ってもらおう。
「サクラ」
「いや私はいいよレイが貰って」
名前呼んだらそれだけで察したようで俺に譲ってきた。
しばらく見合っていたがどうやらサクラは折れ無さそうだ。
そういうことならサクラの好意を受け取って大鎌を持ち上げる。
すると前回と同じように大鎌は光になって弾け既に左腕に付いている腕甲へ吸い込まれていった。
すると腕甲は形を変え手から肩までを覆うように変化した。
うーん左腕だけ完全防備。
なんてアンバランス。
「へーこうなるのかあ」
サクラが興味深くコンコンと叩きながら見ている。
欲しいって言うよりは変ななものをみて面白がってる感じだ。
だがサクラがそうやって触った瞬間サクラの両腕の周りが光ったかと思えば両腕に腕甲が現れた。
「えっ!?」
「ああ、<神器>と同じ感じなのね」
あれ?でも創造神様触ってたけど移らなかったな。
タロウ達も。
いやそういえばサクラを神にする時、俺のから分けたんだっけ。その関係か。
「にしてもサクラは左右でバランス取ってあるのか……羨ましいな」
「レイのは左だけ完全防備だもんね。でもかっこいいよ?」
そう、それなりにこれ自体はカッコイイとは俺も思う。
問題はバランスだ。
なんで左だけなんだよ。これだけ左側固めてたら逆に左側に誰も攻撃してこないから意味ねえよ。
その後、迷宮を出て二人で話し合ったが街に行ってもやることがないのでこの迷宮で俺たちは死んだことにでもして神界へ帰還した。
遅れたあげく終わりあっけないパターン