10話 バカップルゲーマー・5
敵の攻撃が迫る。
もう避ける気力もない。
終わったな……。
死の間際、世界がゆっくりと見えたりとか走馬灯が見えるとかよく聞くが俺にもその現象は起こった。
まるで世界が止まったように遅くなる。
そういえばサクラはどうなった?
サクラの姿を探してみれば……。
俺とは別の場所で倒れている。
彼女もまた動くことが出来ないようだ。
だが、まだ生きてる。
生きてはいるようだが時間の問題か。
俺が死んだら多分次はサクラの番になる。
世界が遅くなっても俺の死は刻一刻と近づいてくる。
神ライフ楽しかったな……。
かわいい嫁さん出来たし……。
諦めたいわけじゃない。
でも身体が動かないからどうしようもない。
足掻こうにも足掻けない。
俺はゆっくり目を瞑った。
そしてすぐに来る死が来るのを待つ。
ああ……まだまだ生きたいなぁ……。
予想していた衝撃も痛みも苦痛もこない。
なぜだろう?
ゆっくり目を開けてみる。
ヴァーンズの姿は見えなかった。
それは目の前に人影があったからだ。
サクラ……ではない。
誰だ……?
もっと目を凝らして見てみる。
男だ。
青年ぐらいの知らない男が俺の前に立っている。
知らない男だが……知ってる気がする。
なぜ俺の前に立っているのか。
まるで、俺を守るように?
地面を見ればこの男の前までは割れているが男のいるところで止まっている。
やっぱりこの男が攻撃を防いでくれたのか?
もう一度男の姿をよく見る。
後ろ姿だが……輝く銀髪に尻尾、それに狼のような耳があることがわかる。
そういえばサクラも神モードでは獣耳だったな。
その時のサクラと似ているなあ。
それに雰囲気もサクラと似ているし……。
男が振り向いた。
その顔には笑みが浮かべられている。
目つきが悪い。イケメンだか普通なんだか評価し辛い顔をしてやがる。
そのくせ笑った顔はサクラそっくりの柔らかいものだ。
そういえばいたなあ。
俺と繋がりの深くて俺に引っ張られて神になる可能性があった奴が一匹。
「長、いいえ、父上。助太刀に参りました」
「レイサーク……」
俺の目の前に現れ俺を救ってくれたのは俺の神狼時代におけるカワイイ息子、レイサークだった。
「いろいろ説明したいところですが、まずはあいつを一旦抑えてからですね」
あいつ、とはヴァーンズのことだろう。
様子を伺ってみればいきなり現れたレイサークに目を見開いて驚いている。
多分攻撃を防がれたってことも驚きの原因だろう。
「では、ちょっと拘束してきます」
もはや残像すら残さずレイサークの姿が消えたかと思えばヴァーンズに接近していた。
相変わらず速えな。
「少し動きを封じさせてもらいます」
そう言ってレイサークは何かをヴァーンズに掌底で押し付ける。
ヴァーンズも接近されたことに反応できずに避けられなかったようだ。
「限られた絶対拘束」
その呪文により<神器>が武器に変化する時にでる細い糸のようなのものがレイサークに押し付けられた何かから出てきてヴァーンズを覆っていく。
ヴァーンズはもちろん抵抗するがどんどん覆われやがて繭のようになった。
ヴァーンズは中から繭を破ろうと大剣を振るってるようで凄まじい轟音が響く。
レイサークはそのままどうこうするでもなく俺の所に戻ってきた。
ついでにサクラを抱えてきていて俺の傍にゆっくりと寝かせる。
サクラは気を失っているようだが、死ぬってわけじゃ無さそうだ。
俺がまだ意識を保っててサクラが倒れたのは多分、神としての存在格の差だろうな。
なんだかんだでサクラより前から神やって存在の格が上がってるから不完全な今の状態でもその分ぐらいは耐えられたってとこだろう。
「なんか知らんが今のうちに攻撃すれば倒せるんじゃないか?」
「無理なんです。さっき使ったアイテムは限られた時間、確実に相手を繭に覆いあらゆる攻撃を防ぐ事できるのですが代わりにこちらの攻撃も通らないらしいので」
「らしいってお前の能力か武器じゃないのか」
「ええ、あれはタロウ様から頂いたアイテムです。最初にあいつの攻撃を防いだのも同じく頂いたアイテムで防ぎました。どちらも一度限りの使い捨てアイテムですのでもうありませんが」
「そうか……俺は意識を保っちゃいるがもう体が動かん。アレが解けたらお前があいつを倒してくれ」
「無理です」
は?
何言ってんだ。
少なくとも縛りプレイの俺らよりはレイサークのほうがいまは強いだろうに。
「まず僕には<神器>がありません。他のやつも、です」
「そいつはどうしてだ?」
「父上からまだ頂いてませんから」
あーなんだっけ俺に引っ張られて神になった奴は俺のものを分けるんだったか。
「じゃあ俺のを使えば」
「<神器>って固有のもので他の存在には使えないらしいです。ちょっとしたものを斬るとかぐらいならいいんですけど戦闘となるとやっぱりダメだそうで」
そうなのか……。
「じゃあ、今すぐ分けるってのは」
「ダメですね。あれ、神界じゃないと出来ないらしいです。」
やっぱりか……。
なんとなく分かってた。
というか息子のほうが情報通で泣けてくる。
「じゃあ、どうしろと。助けてくれたのは嬉しいがどうしようもないぞ」
「これをどうぞ受け取りください」
何かの薬か?
「なんだこれは?」
「飲んでください」
うーん回復薬とか?
動けるようになっても正直あいつに勝てる気しないんだが……。
ゴクッ……ゴクッ……
「おえ゛ぇ、マズいなこれ」
で、飲んだけど特に身体に変化は……ん?
体中の痛みが引いて身体の傷も消えていく……やっぱり回復薬?
いや、痛みが引いてくだけじゃない。
力が溢れてくる。
溢れてくるっていうよりも本来の力を取り戻していくのがわかる。
「今飲んだのは制限を完全に解除するためのものです。これで父上は万全の状態で戦えます」
その言葉はほとんど耳に入ってこなかった。
制限が解除された。本来の力で戦える―――
「いよっしゃあああああああああ!!でかした我が息子!さすが俺の子だ!」
やっぱ、神モードはいい!
溢れ出る力!
縛られてたさっきのスペックがゴミのようだ!
なんだって出来るかのようなこの万能感!
テンションが一気にMAXだ。
「んじゃあ、早速ケリつけようか、ヴァーンズ!」
そう叫んでヴァーンズの方を睨みつける。
同時に繭に罅が入っていく。
「母上は私が守ります。気にせず戦ってください」
息子の言葉を背後に聞いて駆け出したと同時に繭も砕け散り中からヴァーンズが出てきた。
その顔は狂った笑みではなく憤怒の顔だった。
「卵から孵った気分はどうですかぁ?ヴァーンズ赤ちゃーん?」
「アァ!?テメエがやったわけでもない癖に何様のつもりだァ!!!」
そう叫び、武器を振るってくる。
相変わらず馬鹿げた威力を秘めているが、
「何様だと?神様に決まってんだろう、がッ!」
刀を振るって軽く相殺する。
「なっ!?」
先ほどまでは一方的に追い詰めていた相手に簡単に攻撃を防がれて目を見開いている。
その顔を思い切り斬りつけるが、これは大剣で防がれる。
「悪いがさっきまでの俺じゃねえぞ」
ニヤっと笑いながらそう言ってやる。
「ソレが神としての貴様の力かァ!!」
ヴァーンズはそう叫びつつ攻撃してきた。
それに対して刀を叩きつけて防ぐ。
今までは衝撃波などでも受ければ吹っ飛ばされていたが今はピクリともせず受け止めた。
「馬鹿な!?いくらお前が力を取り戻したとしても解放した<神殺し>の一撃を簡単ニィ!?」
まあ、こいつ片腕だからなあ多少力も落ちている。
ま、俺も片腕で振るってますが。
それでも簡単に防げるのは当然理由がある。
「貴様とは格が違うのだ格が!」
そう言って前蹴りでヴァーンズを吹っ飛ばす。
「ガハッ…!」
うーん今まで散々吹っ飛ばされたからやり返して少しスッキリした。
「なぜ……俺とて神格と同格のはずだ……なのになぜここまでの差が……!」
確かにヴァーンズは神格と同等の格を持っている。
だがその存在の格の高さは神になって少し毛の生えた程度だ。
縛りプレイしてるときにはやたら存在が高く感じたもんだが神の力を取り戻してみたら、そうでもない。
俺は結構ハイペースで依頼を受けてたし結構存在の格は高まってたりするのである。
「ところで貴様散々俺たちを傷めつけてくれたよなあ?サクラなんてかなりボロボロになっちまった……」
ニコニコと笑いながら近づいていく。
「お返し、しないとなあ?」
そう言った瞬間今度はヴァーンズがこっちに駆けてきた。
その目からは一切の遊びがきえ全力で殺しにかかってきている。
だが、もう見えている。
左上から右下へと流れる斬撃を左に躱し腹を思いっきり下から突き上げるようにぶん殴る。
刀ではなくわざわざ拳で攻撃したのはより痛めつけるため……ではなく情報を聞くのに殺しちゃマズいと思ったからだ。
まあ傷めつけようという思いは少しはあったけど。
今の一発で既にヴァーンズは瀕死である。
縛りステータスの時は散々苦しめられ勝てるわけが無いと思っていたのに、本来の力が戻ったら存外あっけないものだったな。
やっぱ神って化け物だわ。
「ぐ……っ……ぁ……」
「おう、まだ意識はあるな?貴様は何者だ。何が目的だ」
今の状態と逆で俺がボロボロだった時に質問したことをもう一度聞く。
「はあ…はあ…、誰が……っ、教える、か……!」
「そうか。んじゃもうサヨナラだ」
直感でこいつはなにをされても言わないだろうと感じたのでさっさととどめを刺すことにした。
刀を真上に上げて振り下ろしヴァーンズを真っ二つに斬り裂いた。
後に起こったのは男の死体と<神殺し>という武器。
血を吸い赤黒くなっていた刃はいつの間にか白銀色に輝いていた。
全く物騒な武器もあったもんだな。
そう考えつつそれを左手で拾い上げた。
「んー確かに<神器>と遜色無い程の力があるから神も殺せるのかもしれないなあ」
その瞬間<神殺し>が光り輝いてそのまま実体がなくなったかと思えば、光が分裂して弾け空中に漂う。
そしてその光の粒が俺の左腕に纏わりついてきた。
なんとなく危険な感じはしなかったのでそのまま抵抗することもなく見守ることにした。
そうして出来上がったのは前腕部分を覆うような腕甲だった。
きつく締められてる感覚は無いのに完全に固定されているようで腕を振ってもずれることもない。
<神器>で腕甲にだけ刃を当てるように斬りつけてみたが斬れるどころか傷もつかなかった。
今度は少し強めに斬りつけてみたがしっかり防いでくれた。
防いでくれなければ腕落ちてたけどな。
戦ってた時は確かに<神殺し>という名に相応しく嫌な気配を感じていたのに
腕甲となった今ではどういうわけか絶対に守ってくれるだろうという安心感がある。
でも、今後これ付けっぱなしっては見た目窮屈だなあ。
なんて考えると再び光の粒となって俺の腕の中に吸い込まれていった。
疑問は色々残るが、まあ便利には違いないと考えることを早々にやめて、息子とサクラのもとまで戻った。
「さすが父上、楽勝ですね」
レイサークが笑いながらそう言ってきた。
「まあお前が来て制限解除してくれたからこそだけどな。そういえばどうやってここまで来れたんだ?確かここに介入出来なかったはずだろ?」
「ええ、ですが私が完全な神になれてないということに加えて、私と繋がりのある父上と母上がこの世界にいましたので私だけは介入出来たんです」
「完全な神になれてない?……ああ、<神器>とかか。それでなんか色々持ってこっち来たんだな」
持つべきものは息子だな。
「う……ん……?」
おや、サクラも気がついたかな?
サクラと目があった。
しばらくそうしていると意識がはっきりしてきたのか
「あっ!あ、あいつは!?」
といって周囲を見渡す。
そしてヴァーンズが真っ二つになっているのを見て目を見開いていた。
それからこっちを見て
「倒した、の?ていうかあれ?レイ、力取り戻してる?」
「うん倒したよ。力が戻ってるのはサクラの後ろにいる男のおかげさ」
息子とは言わずに背後に男がいることをサクラに教えればサクラは振り返り苦笑しているレイサークを見る。
「えっ……ああ!レイサークじゃない!」
俺も分かったがサクラも人の姿の息子は初めて見るのにすぐわかったようだ。
「ええ、その、お久しぶり?です。母上」
サクラもすぐに満面の笑みを浮かべてレイサークを抱きしめた。
「ちょ、ちょっと母上!」
「レイサーク!久しぶり!怪我はない?大丈夫?」
「だ、大丈夫だから離して……」
顔を赤くしてなんとかサクラの抱擁から逃げたレイサークを見てたらおかしくて笑ってしまった。
少しだけ恨みがましくこちらを見たレイサークだったが一つため息をついてからサクラにも説明していった。
「そう、だったの。ありがとうレイサーク。お陰で助かったよ」
「そんじゃあまあ、神界に戻りますか」
ヴァーンズを倒したことでこの世界にも介入出来るようになっていた。
あいつが原因で間違いなかったようだ。
こうして俺とサクラの休暇は終了したのだった。
テストあるので7月の更新ないです。