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プロローグ1

「おお、人間よ死んでしまうとは情けない」



 目の前で爺さんが意味の分からぬことをぼやいている。


 まああれだ。こいつ神様ってやつだろう。

 神々しいし。

 ネット小説とかでよく見かけるし。

 っていうか俺死んだのか。


 んー覚えてるのは嵐の中走ってたってことかな。

 急に視界が暗転して……、いやその直前に視界が真っ白になったな。

 うーん嵐……真っ白……光?


「雷、か?」


「その通りだ。ただ本来は雷など当たらずに死ぬはずでなかったのだがこちらの手違いでな」


 口に出ていたようで神様が肯定したがついでに不穏なことも言ってきた。


「手違い、ですか?クシャミして命のロウソクの火を消したとか?」


「いや、他の神のやつとな雷を使って的に”当てない”ゲームしとったんだがうっかり的に当ててしまってな」


「は?」


「お前さんの世界のでもよく言うだろ? 猿も木から落ちるってな」


「……」


 手違いってレベルじゃねえぞ。

 雷で的に当てないゲームってそもそも俺を的にしてたってことだよな。

 ってことはなんだ?


 こいつ、敵?

 とりあえず殴ろう。

 相手神様だけどそれくらい許されるだろう。

 きっとこの後お詫びになんたらがあることを考えれば許してやらんでもない。


 でも殴ろう。


 そうして殴ろうと足に力を入れ立とうとしたその時、


「ま、嘘だがな」


「へ?」


 別の意味で衝撃的なことを言ってきた。


 え、嘘?

 なにが? どこから?


「お前が死んだのは単なる偶然。死んだお前が今ここにいるのは俺が呼んだからだが。まあ普通は死んだら何もかもリセットして再利用だからその点お前は運が良かったな」


 気づけば目の前の神様は爺さんから青年の姿になっていた。してやったり顔がうざい。


 まあ、いい。

 なんだかんだでこいつは神様なのだろう。

 自然とこいつが言ったことは事実なのだろうと納得していた。


 が、それはそれ。これはこれ。


 俺はおもむろに立ち上がり神様へと近づき右手を差し出した。


 神様は胡座をかいて座ってるので見下ろす形だが神様は気にすることもなく


「ん、なんだ? 感謝のしるしに握手ってか? いいぞ、ほれ」


 と、右手を差し出してくる。

 俺はその手をギュッと握り顔面に膝蹴りをかました。


 ゴッ


 あ、当たったぞ。

 神様だから普通にこっちの思惑とか筒抜けで避けられるんじゃないかと思っていたが、目の前の神様は顔を抑えて「おぉああああ、鼻がぁーっ!!」って喚きながらゴロゴロしてる。


「な、なにをする、いきなり! 俺がお前を殺したわけじゃないってのはもうわかってるだろ!」


「いや、それは確かに納得したけどなんかうざくて。つい」


「俺は神だぞ! それをウザいで蹴るとかお前、頭おかしいんじゃないの!?」


「まーまー落ち着けってカミサマ、お前は俺に嘘ついた。俺はお前を蹴っ飛ばした。これで俺たちは対等の関係じゃないか」


 俺の中で神様の評価がかなり下がってきてる。


 あれ、でもこれって普通に俺やばい?

 こんな反抗的な存在って神様にしてみればいらないよな。


 転生とかの目が潰えた。

 まあ、いいや。


 さっき普通は何もかもリセットっていってたから俺の存在は消えるんだろうがそれだけだ。

 地獄とか……ないよね?


「まあ、いい。対等っていうのはあながち間違ってもないしな」


「ふふ、今度の子は面白い子ね」


 地獄で味わうかもしれない苦痛を想像していたがカミサマは許してくれるようだ。

 そして、同時に女の人の声が聞こえてきた。

 声が聞こえてきた方に顔を向ければそれはそれは美しい女性が立っていた。


「あ、あなたは?」


「ん?私は神の一柱のハナコよ。よろしくね」


 やっぱり女神か。

 それはそれとして明らかに名前おかしいだろハナコって。

 絶対、偽名だよな?


「言っておくけど本名よ?」


「ええー!?」


「ちなみに俺はタロウな」


 マジらしい。

 驚いてる横から男の神の方からも爆弾が投下された。

 こいつはこいつでタロウかよ!!


「神って日本人なんですか?」


 我ながら馬鹿な質問だと思う。

 神に向かってあなた、日本人ですかってなんなんだろう。


「違うわよ? 名前が日本人っぽいのはね、私達が日本の人間担当だからよ」


「まあ、もしかしたら元日本人なのかもしれねえけどな」


 担当?元日本人?


「あの、神って仕事かなんかなの?っていうか元日本人かもって人間が神になれるってことか?」


「あー概ね仕事っていう理解で問題ないな。世界ってのはたくさんあってな小分けしてそれぞれに担当させてんだよ。人間が神にってのはあれだ。魂はあらゆるものにリサイクルできるってことだよ」


「へ、へえー」


 俺の思ってた神様と違う。


「ちなみに、お前も既に神な」


「は?」


「お前、神。俺様 お前 リクルート。拒否権はなしだ」


「神々の世界へようこそレイくん」


 神……って俺が? なんで?

 っていうか名前言ったっけ?

 そこは腐っても神か。

 いやそんなことはどうでもいい。

 え、まじで俺が神?

 あ、またこの感じ、自然と受け入れてしまうこの感覚。


 嘘じゃ、ない?









 生まれてから20年雷で死んだ俺は神となった。 

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