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5話 歌姫の選定

王都の中央に位置する中央広場。


広い面積があるその場所は今、沢山の人で

埋め尽くされていた。

設置されている舞台上にはカーテンで覆い隠された

檻のようなものと警備兵が数人。

それを一目見ようと集まった人達が群がりもはやお祭り騒ぎだ。


「平民は1番後ろよ!まったく、なんで高貴な存在の

わたくしが平民と一緒に選定されなければならないのかしら」


「なによ、平民だからってバカにして。

歌姫には身分の差なんて関係ないわ。

選ばれたらお姫様になれるかもしれないのね。」


舞台の端で列になった令嬢達から様々な言葉が飛び交う。


私利私欲にまみれ

誰一人、何かを救おうとする気概を感じることができない。

歌姫の称号を得ると王宮で暮らし、任務を全うする。

少女達は皆、王宮で暮らせる事の憧れにしか

頭が回っていないようだった。



「くだらない」


舞台裏に到着したフランシスが自嘲気味に笑い呟いた。



「静粛に!只今より、歌姫選定の儀を行う!」



警備兵が高らかに宣言すると

舞台上に団長であるフランシスと

副団長であるギルバートが現れた。


思わず令嬢達から黄色い歓声があがる。

騎士団の中でも類まれなる美貌を持つこの2人は

一際令嬢達の憧れの的だった。


ギルバートは笑顔で令嬢達にヒラヒラと手を振り

フランシスは目もくれず、カーテンの隙間から

檻の中にいる動物を見る。



その動物は額にツノがあるウサギ。

『ウール...』

捕獲した際にできた傷は治ってはいないが

致命傷になっているわけではない。

ウールと呼ばれた動物の反応は無い。今は寝ているようだ。


「すまないな...」


ボソッと誰にも聞こえない程度の声で呟くと

ギルバートが簡単に説明をする。


「1分程度、この檻に向かって歌って欲しい。

歌の指定はない。こちらで時間を見て止めさせて頂く。」


「それでは、1番の御令嬢から、はじめ!」



辺りが静まり返った。



1人ずつ舞台に上がり、歌声を披露する。

檻の中にいる動物は特に暴れることもなく静かだ。


始まって数分、

一人、また一人、悔しそうに顔を歪ませ退場する。


「そんな...!そんなはずありませんわ。

もう一度やらせて!」


そんな言葉も聞き飽きたかのように

警備兵に連れて行かれる少女達。



最後の1人が壇上に上がる。

この見飽きた光景に苛立ち焦りを感じ

フランシスは拳を握りしめた。



選定が始まる少し前のこと

広場の少し離れた場所に豪勢な馬車に2人の女性がいた。


「ミレーネ様。由緒正しき侯爵家のミレーネ様の歌声に

勝る者などいるはずがありません。」


侍女らしき人物が語りかける。


見事な金色の髪に

ルビーのような瞳をもったミレーネという少女。

着ているドレスは一目見るだけで一級品だという事が分かる。


「えぇ。当然よ。わたくしのこの歌声を王国中に響かせて差し上げますわ。」


言いながらミレーネは次女から小瓶を受け取ると

中に入っている紫色の液体らしきものを飲んだ。


そして

歌姫の称号を手に入れ、フランシス様を手に入れるのよ。

あの方に相応しいのは私なのだから。


瓶を空にしたミレーネは次女と共に舞台に向かう。

その姿を見た人々がザワついた。


「あれは侯爵家の...」


「あの見事な金髪に赤い瞳は...」


「やはり歌姫はあのお方なのか...」


注目され、多くの人から羨望の眼差しを受け、

満更でもないミレーネは笑う。

そして

舞台上にいるフランシスに向かって微笑みかけた。

相変わらずのそっけない態度だが

きっと、この後わたくしに跪く事になるわ。


ふふ、お姫様は1番最後にやってくるものよ。



ミレーネは高らかに歌い始めた。


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