第54話 狭間叶愛
妹が付いてきているのには気づいていたが、まさか中に入る度胸があったとは思わなかった。
そもそも僕は彼女の性格だってろくにわかっていない。ちょっと気まずさから距離を取っていたから、そのまま確認するだけで終わると思っていたのに。
余計な荷物だが、来てしまったものは仕方ない。
闇音の訓練だと思って開き直っていくとしよう。この春休み中にいくつかの野良迷宮を攻略してレベルアップした闇音のいまのステータスはだいたいこんな感じだ。
名前 / 黛闇音
年齢 / 16歳(2月4日)
種族 / 半吸血鬼族(吸血鬼・狼獣人のハーフ)Lv.116(※種族レベルは職種レベルの合計値)
職種 / 闇魔女Lv.51 吸血鬼Lv.44 獣戦士Lv.21
ポジション / アウトサイドアタッカー
HP:450/450
MP:980/980
SP:230/230
STR(筋力値):120
DEX(器用値):230
VIT(耐久値):150
AGI(敏捷値):590+450
INT(知力値):110+90
RES(抵抗値):800+400
《闇魔女》☆ 享楽地獄Lv.18 魂葬Lv.12 高魔術抵抗+Lv.21
《吸血鬼》 影縛Lv.13 影棘Lv.10 昼光耐性Lv.3 擬態Lv.18
《獣戦士》 獣化Lv.7 敏捷値+Lv.9 鋭爪Lv.5
パッシブスキル / アイテムボックスLv.2
潜在スキル / 闇の王Lv.1(未装備)
スキル枠とジョブ枠がひとつずつ増えたのが大きい収穫だ。魔術師として大成するのか甚だ不安だが、本人の厨二心を尊重して闇魔術系は残してある。しかし本当に使わないんだよな。フレンドリーファイアが怖くて野良迷宮では許可がなければ絶対に使わせないことにした結果、近接ばかりになって魔術系統を忘れてしまったみたいになっている。しかし初期からあって経験値も少なからず流れるので、いちばん成長しているという不思議。全体のレベルが低いのも、野良迷宮では戦闘をこなすより、隠密行動に徹しているからだろう。確実に勝てる場合や避けられないときを除けば、だいたい避けて通る。
そして僕にとって嬉しい誤算というか、迷宮内のフロアの広さがわかるリアルマップカードを手に入れたことだ。このアイテムはどの迷宮でも適応され、立体映像のホログラムのようにカードから浮かび上がる。残念ながら記録機能がないので、過去の記録は見られない。その分迷宮すべて、隠し部屋から最終階層まで表示してくれている。次の階層への扉は近づかないと表示されない仕組みだが、こら以上を求めたらバチが当たってしまう。これを冒険者のオークションに出したら、間違いなく億単位の値段で落札される。それくらい有能なアイテムだ。
早速起動してみると、球体の状態で入り口と自分が赤ポイントで表示される。どうやらオープンマップにはステージの切れ目がないようで、まっすぐ進めばぐるりと一周することになる。球体の下にふたつの小さな球体があり、それに触れようとするとセンター位置にピックアップされ、先程見ていた一階層目は縮小されて上に押し上げられる。一番下の階層を触れようとすると、一、二階層の半分以下の大きさの球体が表示され、こちらは大樹が中心に延び、途中で表示されず切れてしまっている。オープンマップ二階層分とボス部屋なのだろう。今日中に帰るには少し急ぐ必要があるかもしれない。
「さて、探索しようか。闇音が斥候で、とりあえずこのフロアの敵の強さがどれくらいか調べよう」
ふたりは特に異論がないようで、おとなしく頷いた。
苔むした木の根を跨ぎながら進んでいくと、小動物がそこらの枝や木のウロ、根本に見え隠れしていた。ウサギだったりリスだったり、ネズミのようなタヌキのようなよくわからないのもいた。それらは魔物というより、野生の動物である。鳥も豊富で、囀りがどこからともなく聞こえてくる。
そしてふわふわと漂い、ときどき意思を持ったように動き回る妖精の光だ。妹が指を伸ばすと、そこに光が集まって来たりもする。
「なんか幻想的。お伽話の世界に入っちゃったみたい」
「こんな緩い世界は珍しいよ」
「ホントだよ。泥沼を舟で掻き分けたり、めっちゃ暑い砂漠だったり、嫌なところだらけだった」
闇音がとても嫌そうに語る。確かに環境変化はつらいところだが、その分強い魔物がほとんどいないラッキーと言える迷宮だったのだ。
「うわー、なんだこいつ」
「キモ、近づくな、キモッ!」
気づけば足元を並走する小さな妖精、いや、妖精と呼ぶには見た目がまんまおじさんだった。闇音と、特に妹が生理的に無理なのか、飛び上がって悲鳴を上げた。いや、ここがどこだかわかっているのか。小さなおじさんは赤い帽子を被っており、肥満体型な上に手足は短めだ。髪と髭は灰色で、それ以外はなにも着ていない。妖精補正がかかっているのか股間部分に何もないのが救いか。ここがリアルテイストだったらBANの危険に晒された実況者並みに妹が叫ぶに違いない。
「これはレッドキャップで、悪戯妖精と呼ばれてるらしいからあんまり関わらない方がいいかも」
「関わりたくなくてもまわりに集まってきてるってば!」
「逆に考えるんだ。気持ち悪くってもいいさって」
「なんで適応力高いの!」
寝そべった闇音は小人の国のガリバーよろしく何十というおっさん妖精に持ち上げられて運ばれていた。なんで横になって捕まっているんだと説教をしたい。
「闇音、妖精に身を任せちゃダメ。絶対に悪い結果になるから」
「そー言われても立ち上がれないというか、捕まれて動けないというか」
話している間にも、レッドキャップたちに仰向けの闇音が運ばれていく。それを僕らが追う形だ。道なりに進んでいるように見えて、既に小人たちに道を決められている。レッドキャップは好戦的ではないから、こちらから手を出さなければなにもしてこないだろう。言い換えればこちらが油断するのを虎視眈々と狙っているのかもしれない。彼らについて行って、良い結果になる未来が見えなかった。
唐突に森が拓けた。小さな川が横断しており、その向こうに樹の洞でできた家のようなものがあった。百エーカーの森とかで見かけそうな童話の家である。
木の扉かギイッと開き、中からはとがり鼻で黒ローブを着た、見るからに魔女といったふうな老婆が出てきた。その魔女の顔色は悪く耳障りにキヒキヒと笑っており、節くれた枝のような指で手招きしていた。レッドキャップはどうやら彼女に献上するために闇音を運んでいるようだ。
「あれはハッグって名前の魔女だ」
「人間じゃないの?」
「れっきとした魔物だよ。白目のところが全部黒くなってるし、肌の色が黄緑色。指もよく見れば植物じゃないかな」
「黛さんが連れてかれてるんだけど」
「そこだよねぇ。唯一のアタッカーだし」
そんな他愛ない話をしている間に、川を越えたレッドキャップたちは魔女ハッグの前に闇音を差し出した。魔女は指先で闇音の顔をさわりと撫でる。相変わらずキヒキヒと笑っているが、対照的に闇音の顔は引きつって固まっている。
「ハッグってたしか人食いの魔女だった気がする」
「冷静に言ってる場合!?」
闇音の服がぺろんと剥かれ、生っ白い腹が露になる。ハッグのメスのような指先が、ソソソッと闇音の腹の上をなぞる。腸でも食べるのだろうか。
「ヒィィィィ、くすぐったぃぃぃ!」
「闇音余裕じゃん」
「言ってる場合か」
「しょうがない、闇音! 影術解放! 必殺厨二攻撃!」
「ウッシャァァァ!〈影縛〉! 〈影棘〉!」
闇音を中心に淀んだ闇色の影が生まれる。連れ去られた闇音の場所が家の前の木陰になっていることも奏して、闇音の周りにいたレッドキャップたちやハッグに地面から伸びた茨の触手が絡み付き、ギチギチに締め上げていく。レッドキャップなど耐え切れずに光の胞子となって消えたが、ハッグだけは拘束されたまま動けないでいる。
「闇音! 切り刻め!」
「シャアァァァ!」
レッドキャップの拘束が失くなったことで飛び起きた闇音は、爪が伸びてハッグの顔を横薙ぎに切り裂いた。こうしてあっさりと森の人食い魔女を撃破した。
「お兄ちゃんは黛さんを道具か何かだと思ってない?」
「いや、道具ならどれほど楽か。文句垂れないし言うこと聞かないとかもないのに」
「人権侵害って言ってるの!」
「いや、これは闇音が自分だけではうまく戦えないから、それを外側から指示出すことで戦闘を楽にしてるだけで」
「見てたらなんかいや! まるでお兄ちゃんの人形じゃん!」
「そうか、そう見えるか。でもね、闇音の魔術は敵味方関係なく攻撃するタイプなんだ。それが突然横で発動するのを想像してみてよ。恐怖しかないよね?」
「まぁ、いまのを見てるかぎりだとお兄ちゃんには逃げようがないね」
「そうなんだよ。だから魔術に関しては僕の言葉で発動するように設定したんだ」
「それ! その設定って言い方!」
「おっと失礼。でも調教したって言い方よりマシじゃない?」
「やってることが非人道的なのが悪い!」
「いまのよりもっとヤバいスキルがあとふたつもあるって言ったらどうする? しかも人間焼き肉か、魂を針千本で突き刺すとか」
「それは……」
「まぁまぁ、兄妹ゲンカもその辺にしなよ~」
闇音がハッグから魔石を抜いて持ってきた。君のことで妹が怒ってるんですけどね。
その後は森の中を極力見つからないように移動した。とはいっても妖精にとっては気になる侵入者のようで、ふわふわと光の玉が飛び回っていた。手を伸ばせばスルリと逃げるのに、気づかなければ耳のすぐ横まで近づいてくる。悪戯好きなのだろう。
しばらく歩くとのしのしと地面を揺さぶる足音が聞こえてきた。なるべく音を立てないように進んでいくと、緑の苔と草に覆われたずんぐりした巨人が歩いていた。
「ウッドワス、森の野人だね。知能は低めだけど、怒らせると狂暴になって手がつけられない」
顔がどこにあるのかわからないくらい毛むくじゃらだが、そのコミカルな見た目に反して普通に肉食である。通りかかったウサギをハンマーのような腕で叩き潰してしまった。地震のような揺れが起こり、妹が転びそうになったのを寸前で支えた。ぺちゃんこになった哀れなウサギは、周りの地面と一緒にウッドワスがつまんで口に放り込んでしまった。ウッドワスの足元を逃げるように走っていたおっさん妖精も、土と一緒に握られぱくりと飲み込まれていった。
「というわけで、あれと戦うのはやめておこう。体力も高そうだから、苦戦したら魔物が集まってきちゃう」
それから半日は歩いただろうか。途中次の層への門があり、潜ったところで昼ご飯にした。自分のごはんをすっかり忘れていた妹に弁当を半分譲る。闇音は腹を空かしてモチベーションが下がるといけないのでひとり分食べさせた。
次の層を進んでからも、光るヤギを遠目に眺めたり、わけのわからない蔦が絡まったような生き物に森の野人が補食されているところに出くわしたり、ゴブリンの集団を森の野人が蹴散らしていたりと緊張感は続く。
一度野人に見つかってしまい、闇音が戦闘になったが、倒しきる前に野人が集まってきてしまい、止めを刺す前に逃げ出すことになった。閃光弾や臭い玉を投げて撹乱し、なんとか窮地は脱することができた。こちらは妹がいるので、見切りはいつもより早かった。安全マージンをいつもより多くとらないと、なにが起こるかわからない。妹が先にバテてしまい休憩を何度か挟みつつ、ついにボス部屋にたどり着く。
そこは小さな泉だった。木々の隙間から流れ込む清流に、地面を埋め尽くす苔むした絨毯。倒木すら永い年月を感じさせ、まるで時間が止まったような悠久の間である。
そこには緑の妖精がいた。人のサイズよりいくらか大きいだろうか。花びらのようなスカートは身体の一部か、倒木に腰掛けていた。長い髪は地面に広がっており、地面の一部になっているようでもある。そして妖精の左右には、二足歩行の犬と猫が控えていた。
「緑の妖精、ドリュアデス。木の精で比較的温厚のはず」
妖精らは立ち上がり、ゆっくりと近づいてきた。能面のような笑顔だが、何を考えているのかわからない。
「え? なに?」
突然妹が声を発した。
「何ってなにが?」
「え? あの妖精が喋ったの、お兄ちゃんは聞こえなかった?」
闇音を見やるが、ブンブンと首を横に振る。
「僕らには聞こえないみたい。何て言ってる?」
「えっと、あなたはとても魅力的な器。わたしの力を与える代わりに、わたしと同化してほしいって」
「いや、ダメでしょ」
脳裏に浮かぶのは、蛇神の姿。僕らは憑かれやすい質なのだろうか。
「お兄ちゃんがダメだって。え? えっと、良からぬモノに乗っ取られる前に、わたしが護ってあげる、だって。お兄ちゃんのことはもう手遅れとも言ってる」
「余計なお世話じゃい。そもそもドリュアデスを信じられないよ」
「お兄ちゃんだって温厚って言ってたじゃない」
「比較的だから。魔物は信じられないよ」
「魔物じゃなくて妖精でしょ?」
そんな言い合いを続けているうちに、ドリュアデスは妹の前まできてしまった。僕は兄としての役目か、彼女を守るように間に立った。
「どうせ妖精を入れるなら、もっと高位の妖精を探すんで」
「あたしはこの妖精でもいいな。なんだか信頼できそう」
「そんなこと言って人生棒に振ったらどうするの」
「あたしの人生なんだからいいでしょ」
「それを言われたら何も言い返せない、けど」
ドリュアデスは敵意がないのか、まったくの無警戒で横に立った。それだけでも背が高くて威圧的なのだが、逆に腰くらいの高さしかない二足歩行の犬猫の方が腕を組んで警戒心を漂わせているが、こちらはどうしてもコミカルに映る。妹は緑のドレスをまとった妖精とじっと目を合わして離さない。そこには他者の介在しない会話があるのだろう。闇音は暇が過ぎてケット・シーの耳をいじり始めた。煩わしそうなムスッとした顔で黙っている彼らの方が大人に見える。
「終わったよ、お兄ちゃん」
「で、どうなった?」
「あたしのジョブ? になるみたい。隣の二匹は彼女の眷属だから、いつでも出てこれるんだって」
「うーん、本当に同化するの? 騙されてない?」
「そんなのわかんないよ。あたしが死んだら彼女も死ぬんだって。でもそれを含めて望んでいることだって」
「じゃあこうしない? 今日のところは封印して迷宮を出る。後日安全とわかったら同化する。そもそも妖精と同化なんて簡単にはするものじゃないし」
普通は妖精の方が頷かない。精霊魔術や召喚魔術など、野良の魔物を調伏して手持ちにすることは多々あるが、それだって狙ってできることはなく、難易度は高いのだ。精霊に愛されるどこぞの古代エルフの坊っちゃんくらいでないと、向こうから好意を持たれることはないだろう。だから妹が妖精に興味を持たれたのは、それだけ妹の中に素質が眠っているということである。両親や親戚は純粋なヒト族だったが、祖先に精霊関係の血筋でも入っていたのだろうか。
ドリュアデスが蔓の指を伸ばしてくるのを、妹は手を伸ばして握りしめた。結局、妹は妖精を受け入れた。手を触れ合うと、妖精の姿が光に包まれ、輪郭が薄れていく。獣の妖精たちは相変わらず闇音を敵視してブスッとしていたが、主人と同じく光に包まれ消えた。
「どうなった? 気分はどうだ?」
「うん、たぶん大丈夫。でもなんだろう、ちょっと気持ち悪いかも」
「意識が乗っ取られるとか、そういうのがなければいいんだけど」
「それは大丈夫。ドリーがいるのはわかるけど、こっちの意思を尊重してくれてる」
「ドリーって、もう親近感出してきてさあ。警戒心が足りないんじゃない?」
「それをお兄ちゃんだけには言われたくないんだけど」
一瞬だけ険悪なムードになったが、僕の方が折れて諦めることにした。
魔物に意識を乗っ取られるという怖い結果にならなくてよかったが、しかしこういうのは長い目でみないといけない。翼蛇だって意識まで奪うことはないから、脳に寄生しているとか、そういうSFかホラーな恐ろしいものではないのだろう。
妹は首をかしげながらも、自分の体の変化に戸惑っているようだ。
「あ、ワンちゃんネコちゃん呼べるみたい」
妹の目の前に光が集まり、さっきの犬猫が現れた。先ほどのポーズと同じく尊大な態度で腕組みしている。
「自由に動かせるの?」
「あんまり認められている気がしないけど、ドリーと同化しているから命令を聞くみたいな?」
「じゃあなるべく仲良くなるように頑張らないとな」
「そうだね」
犬猫の目線に合わせてしゃがみこんで挨拶する妹を横目に、僕は迷宮の核を探した。それはすぐに見つかった。ドリュアデスが座っていた木の根の下に洞窟があり、その奥に迷宮の核があった。
「じゃあ、初の迷宮制覇の記念に叶愛が触ってみるか?」
「触るとどうなるの?」
「頭にいくつかの選択肢が浮かぶから、そのひとつを選ぶだけだよ。ジョブ枠、スキル枠、魔道具、スキルの順かな。なにが選べるか教えて」
「わかった」
妹が恐る恐る触れる。
「なにも選べないよ。ひとつだけ」
「それって?」
「ジョブ、《妖精少女》だって」
「妹よ、十四歳でアイドルって……」
「あたしだって恥ずかしいんだけど?」
むっとした顔の妹だが、頬に赤みが差しているのだ。今度の誕生日プレゼントはマイクかアイドル衣装にしたほうがいいだろうか。いや、こじれそうだな。
「止めることはできないから、それを取るしかない」
「わかった」
妹の体が一瞬、淡く金色に輝いた。
夕方、空いた電車に三人が並んで座る。闇音は早々に夢の世界に旅立ち、僕の肩を枕に小さく鼾を掻いている。頼むからよだれは垂らしてくれるなよとハラハラしながら見守っていた。
「迷宮っていつもこんな感じなの?」
「入ってみないとわからないな。でも今回のは当たりだよ。ぬるい部類。階層も少ないし、ボスと戦わなかったし」
妹のために用意されたような迷宮だったと思うのは僕だけだろうか。もし妹を連れて行かなければ、ドリュアデスとケット・シー&クー・シーは戦って倒していただろう。それが正しいことだったと思えないのは、いまだから感じるのだろうが。
「お兄ちゃんは死んじゃうこと怖くないの?」
「そりゃ怖いけど、ちゃんと危なくなったら最終兵器を用意してるからね。できれば使いたくないけど、それがあるからある程度無茶ができるのかな」
「どうしてそこまでするのかわたしにはわからないよ。あの冒険者の人から迷宮の場所を教えてもらってるの? できれば危ないことはしないでほしい」
「ええ? あの人は冒険者としては中堅くらいだから、別にそんな頼ってないよ」
「だってお兄ちゃん、こそこそ話してた」
「あぁ、あれはなんと言うか、野暮用だから」
「目を逸らした。やましいことがあるんでしょ」
「むしろやましさしかないというか……」
「言ってよ。言わないと安心できないよ」
妹の剣幕に押される形で、僕は降参した。電車内なので妹の耳元に手を添えて小声で話してやる。
「ええ、なにそれ。エッチな本を取り寄せるために現役冒険者を使うとかバカ? ネットにそういうのいっぱい溢れてるでしょ」
「本じゃなくて道具というか、コスプレとかプレイ道具というやつで」
「はぁぁ? ……心配して損した」
「心配、してくれたんだ?」
「はぁぁぁぁ。こんなでも兄でしょ。というかなんであの冒険者がエッチなものを用意してくれるの」
「だってあの人、いま大人の道具のお店でアルバイトしてるんだもん」
「なんか人を見る目が変わりそう」
「なにしようが人に迷惑かけなければその人の自由だよ」
「お兄ちゃんは! もう! 迷惑かけたでしょうが!」
「……面目次第もございません」
妹に頭の上がらない兄である。どちらにしたって強く出られるとは思えないから、この関係でちょうど良いのかもしれなかった。並行世界へやってきてしまった僕は、目の前の少女とは正しい意味で血のつながった兄妹ではないのだから。
後日、冬休みが終わる前に妹と公的機関へ行き、ステータスを確認したらこんな感じになっていた。警察署や区役所へ行けばだいたい確認できるのだ。
名前 / 狭間叶愛
年齢 / 14歳(2月22日)
種族 / ヒト族Lv.2(※種族レベルは職種レベルの合計値)
職種 / 妖精少女Lv.2 (未装備)
ポジション / サポーター
HP:80/80 MP:50/50
SP:20/20
STR(筋力値):10
DEX(器用値):25
VIT(耐久値):23
AGI(敏捷値):30
INT(知力値):24
RES(抵抗値):22
《妖精少女》アイドルLv.1 応援Lv.1 木妖精Lv.1
パッシブスキル /(未装備)
種族スキル /(未装備)
アイドルってなんだ。マイク一本で歌って世界を救う系だろうか?