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第52階層 聖夜の学祭

 終業式が終わり、午前中で学校行事が済むと、ここ二週間前からにわかに準備が進められていた学祭が開幕した。

 部活動、クラン、有志の参加者たちが中庭から屋内にかけて屋台を開き、体育館や校庭では特設ステージでのイベントが始まっていた。

 『筋肉同好会』がステージの上でマッスルポーズを決め、観客から「胸筋マスクメロンばりばり」「肩に戦車乗せてんのかい」とノリの良いかけ声が飛び交っている。飛び入りの竜人や鬼人の男子が半裸でポーズを決めると、それだけで黄色い声が上がった。

 校庭では鳥獣人が飛び回り、そこに向けてバズーカ砲を模した銃でゴムボールを当てる鳥獣駆除ゲームが人気だ。なぜか虎牟田先生率いるむさい野郎教師たちがサングラスを掛けて、何度もバズーカをぶっ放している姿は異様であった。きっとストレスが溜まっているのだろう。

 プールではガチガチと震えながら水棲系の生徒たちが浮島渡りチャレンジをして、その順位を当てて配当金を得られる水上競馬が観客を賑わせていた。年の暮れに水着でチャレンジするGカップ女生徒に人気が集まり、途中ですっころんで胸を揺らしながら着水すると、大金をスッたというのにむさい男たちから歓喜の声が上がっていた。


「やめるなってしつこいんですよね。クランを抜けるのにもひと苦労ですよ」

「誰か新しい人間を推薦して、自分の抜ける穴を埋めてもらうしかないんじゃないですか?」

「いやですわ、穴を埋めるなんて……」

「頭お花畑か」


 体幹の良さそうなシャチの男子に千円賭けていた僕は、大人気のGカップ魚顔女子を抜いて先頭をぶっちぎる様に手に汗握っていた。

 僕は部活動に参加していないし、クランもまだ発足していない。有志参加も特に興味はなかった。なんなら午後から迷宮に潜ろうと思っていたところに、男子寮のエントランス前で待ち構えていた真梨乃に捕まってしまった。それからなんだかんだと話術で絡め取られ、学祭を楽しんでいる自分がいる。肉系もりもり網焼きの山賊焼きは美味しかった。ベーコン、ウィンナー、チキンと豚ロースがフードカップに収まりきらないくらいに山盛りだった。


「冗談ですよ。でもそれもいいかもですね。戦乙女隊に入りたいって子はたくさんいますし。推薦してもいい子のアテもあります。でもいまのままだと全然実力不足ですから、後輩を鍛えるのにまた一緒に迷宮に潜ってくれます?」

「そういうことだったら構わないですよ。僕らの潜る日以外の休みの日だけになっちゃうけど」

「あなたが空いてる日で十分ですよ。何日も潜れるんでしょう?」

「キャパが広がったんで、三人なら百五十日は余裕ですね」

「それは頼もしいです。では、新人を連れてくるときはよろしくお願いしますね」


 シャチ男子が浮島ふたつでゴールというときに、横合いからあまり目立ってなかった小柄なラッコ顔の獣人くんが頭角を現した。体当たりされたシャチ男子は、足を滑らせて氷の浮かぶ水面へ甲高い悲鳴とともに落ちていった。

 勝者となったラッコが勝利のガッツポーズをする。

 真梨乃の手には同じくチケットが握られており、そこにはラッコ獣人くんの番号が印字されていた。僕に余裕の流し目を送り、機嫌が良さそうに犬尻尾をふりふり換金所(学祭で使えるチケットの払い戻し場)へと歩いて行った。そしてわたあめを手に戻ってきた。そのまま消える空気だったけれどそんなことはなかった。


「じゃあ次はどこ行きますか?」

「迷宮はダメですか?」

迷宮中毒(ダンジョンジャンキー)って本当にいたんですね」

「やることが決まってるほうが落ち着くっていうか」

「そんなことばっかり言ってるとモテない系男子になっちゃいますよ?」

「モテようとは思ってないんですけど」

「クラン立ち上げるんならそんなこと言っちゃダメですよ。自信がなくて魅力がない人間のところに、ひとは集まりませんから」

「……ごもっともで」


 体育館を覗いたら演劇をやっていた。タイトルは『転生した聖騎士が魔王を倒した後、悪役令嬢とSランク冒険者を目指す』とか、要素モリモリすぎて時間がいくらあっても足りないだろと思う。いまはちょうど聖騎士が夜の町で艶やかな女性に引っかかって、ガチの値段交渉をしている場面だった。おまえ清い体の聖騎士じゃないだろと言わんばかりの交渉術である。そしてこの場面はタイトルとまったく関係ない。


「まだメンバーは増やすつもりなんでしょう?」

「前衛に偏ってますからね」

「ちょっとずつ系統の違うアタッカーなのが救いですか」

「ヒーラーと魔術師はほしいですね。特に土魔術師がいると拠点構築できて快適というのは先輩から教わったので」

「バッファーとデバッファーは奥へ行くごとに重要度増してきますよ」

「そういう話は貴重ですね」


 ブタ王子と平民の少女が結ばれ、公爵家の悪役令嬢が悪事を曝かれて追放されるところで第一幕が終わりらしかった。ブタ王子はまともで、悪役令嬢は冷酷無比で救いようのないキャラだったが、この後聖騎士と出会って改心するのだろうかと心配になってしまう。入ったのが途中だったし、最後まで見る気もなかったので外に出た。


「げっ」


 真梨乃にしては珍しく素の声が出た。その理由は、正面から人垣を自然に割ってやってくる女性陣たちが理由だろう。明らかに強者のオーラを纏い、ついでに気品まで漂っている。『戦乙女隊』の冠姫たちなのは遠目からもはっきりとわかる。


「すみません。お迎えが来ちゃったみたいです」

「クランを辞めるにしても、穏便にお願いしますよ」

「心得ました、私のご主人様」


 学内では首輪をしていないが、真梨乃は自分の首を撫でてペットアピールをしてくる。そしてひとつウィンクを残して、真梨乃は冠姫たちのほうへ歩いて行った。

 凜々しいポニーテールの銀髪長身女子に背後を取られて捕まり、海賊帽を被った女子とドクロのお面をした女子に挟まれ、ハーフエルフの風紀部長に正面から説教されている。ウサギ耳をした女子がぴょんぴょん跳ねながら看板を掲げていて、『占いの館、女子限定、クラン戦乙女隊、家庭科室』とだけ書かれているのが読めた。

 真梨乃は冠姫ではないらしいが、準一線級で参加していたこともあって、彼女たちとは上下関係という感じではないようだ。仲のいい女子グループにしか見えない。あの輪からあっさり抜けようとする真梨乃の塩対応のほうがおかしいのだろう。


「これからどうしようかなあ」

「あ? ウチらと回るに決まってんだろ」


 後ろから声がして振り返ってみれば、頭ひとつ分小さな少女がふたり。ひとりは闇音で、首根っこに腕を回されてぐったりしている。もうひとりは金髪の十人が十人とも振り返りそうな顔立ちの整った天使のような少女。


鶲輝(ひたき)さん、うちの闇音が死にそうなんですけど」

「ウチの舎弟だからいいんだよ。おまえも第二号だ。こい」


 鋭い眼光に耳のピアスが威圧的だ。小さな体に収まりきらない強さというか、圧倒的なマイペース感。僕は苦笑しながら、ふたりのつむじを眺めながらついていった。

 お祭り騒ぎな校内は、そこかしこから元気な声が聞こえていた。




〇〇〇〇〇〇




 龍村は手の中のギターをこれほど重く感じたことはなかった。

 普段はもっと重い槍を振り回しているが、それとは違った緊張でギターが重くなっているのだ。初めてのことだらけだった。数か月前は、まさか自分が音楽に関わるとは思いしていなかった。

 変化をあまり好まないタイプだと思っていたが、彩羽(いろは)は新しいことに触れることを後押ししてくれる。知らないことばかりで戸惑う龍村を温かく見守っていた。新しい人脈、新しい世界に飛び込んでいくことを、喜ばしいことだと思っているのだ。


「アチシたちは最強! テッペン獲るのはアチシたチ!」

「みんなをメロメロにしちゃうよ~」

「最高の時間をお届けだよ☆」


 パンクな黒とピンクの衣装を身にまとった軽音部の三人が龍村を見る。龍村の言葉を待っている。


「私たちの音楽で、最高の夜にしよう」

「「「もちろん☆」」」


 ステージに上がると、冬とは思えない熱気を顔に浴びた。それはスポットライトであったり、観客の熱であったり、龍村の内側から沸き起こるものでもあった。

 観客席にはリーダーの姿があった。横にフランクフルトとチョコバナナの両手持ちで交互にもぐもぐ食べる闇音もいる。食べ合わせがどうかと思う。

 配置につき、仲間と目配せし合う。ギターをかき鳴らすと、ドラムとベースの音が付いてくる。マイクを通して溜め込んだ熱を吐き出すように、冷たい夜空に白い声が良く通った。練習と変わらない音のはずだが、練習より弾んでいる気がする。


 最初の曲はアップテンポだった所為もあり、ふわふわとした気持ちで歌っていた。

 二曲目、三曲目と続き、四曲目になると落ち着いて歌うことができた。間違えないように歌うことに集中していたからか、視界が狭まっていたのだろう。いまは観客のリーダーの顔がしっかりと見える。藤乃とのデュエット曲だったが、龍村の視線はじっとリーダーに向けられた。

 そのリーダーはというと、闇音の隣の金髪少女から持っていた焼きそばを奪われて、ちょっとごたついている様子だ。この前の救済措置で一時的にパーティを組んでいた白い翼の少女だった。また口説いてパーティに入れるのだろうか。曲のフレーズを口ずさみながらも、頭のどこかで高ぶった熱が冷めていく自分がいることに龍村は気づいた。

 リーダーには集中して聞いてほしかった。気持ちを乗せた歌声が届いてほしいと思った。こんなふうに思うことも、以前ならば考えられなかった。直接口で言えば良いと思っただろう。だが彩羽なら、「情緒ですよ」とか良いそうだ。龍村のこんな些細な変化さえ、彼女は喜んでくれるのかもしれない。


「雨に打たれる彼は~知らない誰かと寄り添っているの?」

「運命がふたりを結んだら~震える手を温めてあげる~」

「会いたいって言えない私~あなたが口にする魔法の贈り物~」

「舞台で踊るワルツに~あなたに魅了された私がひとり~」


 藤乃と交互に歌う。龍村は自分のパートの歌詞に共感できなかった。恋する乙女が来てもらうのをただ待っているだけの曲だと。会いたければ自分から行くべきだと。でもそれは、相手が受け容れてくれることが前提だった。片方が突っ走るだけではうまくいかないものだ。

 世界は難しいことだらけで、思い通りにならないことばかりだった。ふたりで踊るワルツのように、呼吸が合わなければうまくはいかない。それでも相手を求めるのは、自分ひとりでは足りないものを埋めるためだろうか。


「雨宿りできる場所であるといいの~」

「甘えた声も表情(かお)も~私だけに見せて~」

「あなただけの都合のいい女になってあげる」

「笑顔も涙もいっぱいの好きも全部全部」

「「私だけのクリスタル・スカイ!!」」


 歌い切ったとき、額に浮かんだ汗が流れた。肩で息をして、心臓がいつもよりうるさい。十二月の夜の風が心地よく感じ、腹の底にまだ音の響きが残っている。

 ふと観客席を見ると、金髪不良娘に腹を小突かれた闇音が地面にゲーゲー吐いて、それをリーダーが介抱しているところだった。

 「私の歌を聴け!」と叫んで鞭でぴしゃんと床を叩きたくなったのは、後にも先にもこのときだけだろう。




〇〇〇〇〇〇




 龍村がステージから降りてくる。

 それを迎える姫叉羅は、同じダンス部と揃った衣装を身に纏っていた。軽音部の次の演目であるため、スタンバイしていたのだ。


「いい歌だったよ」

「ちゃんと聞いて欲しかったんだが」

「ああ……なんかひとり増えてるよな。こっからでも見えるよ」


 姫叉羅が観客席のほうを見ると、ぐったりした闇音がリーダーの膝枕で介抱されているところだった。


「常々思うんだけど、パイセンみたいに生きられたら人生って楽だなって思うよ」

「奇遇だな。私もだ。だが、私は私のまま勝負がしたい」

「アタシだって自分が嫌いなわけじゃないからさ、自分らしく勝負したいよ」

「姫叉羅にリーダーの目を釘付けにすることができるかな」

「やれるだけやってやるさ」


 拳の裏を互いにぶつけ合う。

 龍村とは不思議と戦友という気持ちが芽生えていた。苦楽をともにする仲間で、同じ目標に向かって歩む同胞で、同じ男に好意を持った恋敵だ。

 里唯奈の尻を引っぱたいて気合いを入れる。


「いったいにゃあぁぁ! なんでウチの尻叩くんにゃああ!」

「全力で出し切るためだよ」

「じゃあウチが姫叉羅のケツに気合い入れてやるにゃあ!」


 引っぱたくのかと思いきや、里唯奈のハイキックが尻に決まる。しかし微塵も動じない。


「にゃに……無傷、ニャと……?」

「効かないなあ、いまお尻撫でられたかなあ」

「ほら、ふたりとも、遊んでないで行きますよ」


 狼獣人の大上真梨乃に背中を押され、意味深なウィンクをされる。ムッとする姫叉羅は、この強敵とどう張り合うかも今後の課題だと思った。けれどもいまは、頼りになるダンス部の先輩で、みんなを引っ張っていく実力のある、ステージの花形だった。必死に食らいつくため、里唯奈と並んでステージを駆け上がった。








 踊り終わってステージを降りてくると、ダンス部でミーティングを行い解散の流れになった。真梨乃は三年生から逃がさないとばかりに連行され、一、二年も各々学祭を楽しむ流れだ。


「姫叉羅はどうするニャ? これからウチらと回るかニャ?」

「いや、観客席にリーダーたちがいたから合流するよ」

「頑張るニャ。ウチは姫叉羅がいちばんだと思ってるからニャ」


 ぐっと親指を立てられ、そんなんじゃないと誤魔化しそうになる自分を抑えて、しっかりと頷いた。照れ隠しすると思っていただろう里唯奈は、ちょっと驚いた顔をしたが、すぐに笑顔になって手をぶんぶん振った。

 観客席にはすでに龍村が合流していた。




〇〇〇〇〇〇




 龍村と鶲輝が睨み合っているのを、僕は闇音と抱き合って震えて見ていることしかできなかった。

 その様はドラゴンを前に勇ましいチビのチワワが唸っているようであったが、相手が誰であろうと一歩も引かずに牙を剥くのは、もしかしたら彼女の良さなのかもしれない。単純に無鉄砲で単細胞である可能性は捨てきれないのだが、怖いもの知らずなのは冒険者としての素質のひとつである。ただ、誰彼構わず攻撃的になることが愚かなのは間違いない。

 不穏な空気が漂い始めた原因は、我が物顔の鶲輝にある。軽音の発表について感想を求めてきた龍村に、横合いから茶々を入れたのが鶲輝だった。

 曰く、「メス顔して媚びてんじゃねえ」とのこと。龍村からしたら絶対に言われたくない言葉だろう。告白を知るが故に、龍村がどんな気持ちで歌っていたのかはわかるつもりだった。彼女が落ち着きのなかった所為で、龍村の演奏に集中できなかったことも申し訳なく思っているのだ。鶲輝が闇音のお腹をバシバシ突かなければ、闇音もゲーゲー戻さなかっただろうし。闇音とは別の意味で手のかかる子で、じっとしていられない子どものようであった。

 姫叉羅のダンス部の発表を見ているときも、静かに火花を散らしていたし、『しゅき兄』のひとりがダンス部で、観に来ていた寿々木先輩たちも、険悪な雰囲気に挨拶もそこそこに退散かましている。

 そうこうしているうちに発表が終わり、舞台袖に引いた姫叉羅がしばらくしてやってきて「どういう状況?」と首を傾げた。


「まあいいや、アタシ、リーダーに言いたいことがある」

「な、なんでしょう?」

「アタシもリーダーが好きだ! 龍村だけにずっとアピールさせるのは、なんかもやもやする。だからアタシのことも見てくれ!」


 新たな爆弾が投下された気がした。


「リーダーはまだ私に返事をくれていない。それを待ってからでもいいんじゃないのか?」

「アタシだってもう一秒も待つのは嫌なんだよ。立ち止まってなにもしないで、ただ後悔するのは絶対に嫌だ!」


 龍村が落ち着いて受け答えするのと対称的に、姫叉羅は瞳の奥にメラメラと炎を灯していて、決意を秘めた表情だ。何かを吹っ切ったような迷いのない目をしており、里唯奈から元パーティメンバーと仲直りしたことは聞いていた。


「おまえら盛り上がってるところ悪いけど、コイツオレのもんだから。渡さねーから」


 横合いから渦中の僕の首に腕を回して掻っ攫っていったのは、純白の天使の羽根を生やした金髪少女だった。背丈は闇音ほどに小さいのだが、目の据わり具合だとか、威圧感は龍村に勝るとも劣らない。馴れ馴れしさにはもはや慣れたが、反対側にはすでに諦めた顔の闇音が収まっている。


「コイツらオレの舎弟だから。オマエら仲良く向こうでレズってな」

「は? 中学生が口の利き方がなってないだろ。もう時間も遅いんだ、お家へ帰りな」

「いや、小学生だろう? 失礼極まりないやつだ。目上には弁えるべきだと思うが」

「高一だけどわかんないかあ。なんかおばさん臭いもんな、アンタら」

「ああ?」

「……訂正しろ」


 ギロリと射殺せそうな目で金髪少女を見下ろすふたりの怪物。竜と鬼に見下ろされながら、黄色いひよこがまるで動じず一歩も引かない。天使と見まがうばかりの愛らしい容姿にして、中身に不良の魂を宿しているこの少女は、余裕の表情でふたりを正面から受け止める。首根っこ掴まれて逃げられない闇音と僕は、借りてきた猫のようにきゅぅぅんと縮こまっていた。姫叉羅と龍村の目が据わっていてとても怖い。やり合うのはいいんだけど、解放してもらっていいだろうか。


「オレは天道(てんどう)鶲輝(ひたき)。コイツらとテッペン目指すって決めたんだよ。入りたければ入れてやるよ、オレのパーティに」

「おまえのパーティじゃねえよ。リーダーのパーティだよ! おまえが頭下げて入れてもらうんだよ!」

「いや、実力もわからない前から入る入らないの話をするべきじゃない。リーダーはどう思っている?」

「オレ最高だったろ? 闇音とオレとオマエで三人パーティだぜ」


 三者三様の目を向けられて、僕は口ごもる。しかし、こと迷宮に関しては嘘や妥協はない。


「鶲輝さんは回復役のヒーラーなんだけど、釘バット持って前衛で暴れて、一度も回復しないところが問題かな」

「戦士は暴れてナンボだろ」

「問題しかねえよ、このチビ」

「んだとコラ? 角押し込むぞ」


 姫叉羅の眉間にびきりと青筋が浮かんでいる。対する鶲輝は挑発するように下から睨め上げる。


「翼生えてるけど、基本スキルがないと飛べないよね。体力、防御力ともに低め。攻撃力も釘バットの釘部分以上には高くないから、どう考えても後衛向き」

「言いたい放題じゃねーか、舎弟のクセに」


 首が少し絞まった。女の子のいい匂いが鼻を掠める。ヤンキーだが柔らかいのに変わりないので、それほど悪くないというのが正直な感想か。


「自分の特性とやりたいことが噛み合ってないのだな。自身を知ることこそ強さの秘訣だぞ」

「説教垂れんじゃねえよトカゲ女」


 龍村も冷静に見えてかなり怒り心頭のようで、腕組みする姿からイライラが伝わってくる。


「ということで、総評としてはバランスが悪くて目的意識が不明瞭。実力と理想が乖離したトリッキータイプ。現状使い勝手が悪くて使えないです。要訓練」

「あっははははっ! ゴミカス女」

「ふっ、それでよく胸張れるものだな。張る胸もないというのに」

「ンだテメーら! シめんぞカスヤローが!」


 姫叉羅は腹を抱え、龍村は顔を背けて口元を抑えた。ふたりとも肩を震わせている。鶲輝は僕の首をぎゅうぎゅうと絞めて、巻き込まれる形で闇音の首も絞まっていた。闇音の顔がちょっと青白くなって、顔からすーんと表情を失くし始めている。僕の顔も似たようなものかもしれない。


「第二の闇音って呼ぼうか? ひよこちゃん」

「光と闇でちょうどいい。ユニットを組め。名前は五目並べでいいだろう。背丈も同じくらいだ」

「テメーらいいように言ってくれてんじゃねえか。覚悟はいいなぁ? クソが」

「かかってこいよ、ぴよちゃん」

「礼儀を叩きこんでやる」


 バチバチと視線が爆ぜる。相変わらず気の強い女子で溢れている。今日は聖なる日のはずだが、いつもと変わらない日常があった。しかしこっちの方が僕は安心するのだ。強さを求めて仲間が集まる。一癖も二癖もあるメンバーが少しずつ集まってきている。翼蛇コアトルを討伐するための駒が、少しずつ揃ってきている。

 ……ちょっとどころではない問題を抱えている気が、しなくもないけれども。

これにて連続投稿はおしまいです

ポンコツというか、紙一重な女子たちに存分に振り回される主人公

影が薄くても主人公の存在感はしっかりと残せたのではないでしょうか

風呂敷広げるだけ広げた感はありますが、ここからクラン設立に向けてパーティを整えていくことになるかと思います





戦乙女隊(ヴァルキリーズ)の冠姫のキャラは、とあるグループを参考にさせていただきました

ピンときた方は同志ということで

ちなみに陰キャクラン「しゅき兄」のメンバーは大学時代の文芸部の仲間たちが参考になってます

投稿途中で止まっている「迷宮高校の陰キャクラン」で存分に活躍してもらってます




評価、ブックマークしてくれてありがとうございます

それではまた、次の投稿で

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