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第5階層 迷宮にも2ちゃんねるはあるんだよ

「略奪、ムリだったです。寝てるふりして狙ってたです。でもあの竜の人、ずっと警戒を解かなかったです」

「丸さんでもダメかぁ。確かに一組最強パーティって噂だからねえ」

「え? なに? なにやろうとしてたわけ?」

「迷宮じゃあパーティ同士の争いはよくあることだぜ」


 どうやら藤吉も太刀丸も、エルフのエルメス・アールヴに気後れしていない様子。むしろ獲物として虎視眈々と狙っていた辺り、強かで頼もしい。


「じゃあやつらが油断して歩いてる途中で暗殺はできそう?」

「忍者、暗殺しないです。試したとしても、丸はたぶん、失敗すると思うです。三人とも隙がなかったです」

「うへえ。丸っちがダメとか、(やっこ)さん人間かよ」

「純粋な人族はいなかったね。西蓮寺さんは海姫(セイレーン)族のハーフらしいし」

「エルフ、怖いです。丸はまるくなることしかできないです」


 腕の中でまるくなった丸をおーよしよしとあやし、耳の後ろを掻いてあげると、太刀丸は気持ち良さそうにゴロゴロと喉を鳴らした。

 僕たちはエルフパーティが先行して攻略を進める間、一時間休むことを話し合って決めた。

 腰を落ち着けて話し合うこともあるし、この休憩は先行するエルフパーティと間を空ける意味合いも強い。


「戦闘の連携はどう? 僕はほとんど参加してないけど」

「オレっちと丸坊の連携は十分じゃないか? それにおまえの指示も的確で助かってるしよぉ」

「丸も同感です。回復薬(ポーション)いっぱいくれて助かります」

「まあサポートくらいしかできないから」


 そう言いつつ、僕は携帯すり鉢でゴリゴリと乾燥した薬草を粉末にしている。ふたりから飲みかけの水筒をもらって粉末にしたばかりの粉を適量投下した後、〈アイテムボックス〉にしまっていた備蓄の水ボトルからいっぱいになるまで足す。さらに市販のスポーツドリンク用の粉末を適量入れて、軽く十回ほど撹拌して中級回復薬の出来上がりだ。

 《薬術師》の〈調剤〉スキルで作るため、〈品質+〉のスキル効果もあって市販の物よりまず間違いなく質がいい。販売するなら500mℓで1500円は取れるね。

 低級だと同じ量で300円、ちょっと高い飲料と言った感じ。高級だと5000円から10000円を超えるものまである。材料がすべてアホなレベルなので手が出せない。しかし需要はあるというね。


「はい、疲労回復にも効果がある、特製体力(スタミナ)回復薬(ポーション)スポーツドリンク味の完成ね」

「サンキューちゃん」

「ありがと、です」


 藤吉と太刀丸に手渡そうとしたが、太刀丸は膝の上に乗ってきたので哺乳瓶で与えるようにわずかに傾けてやって飲ませた。つぶらな太刀丸は首を伸ばしペットボトルを肉球で支えて一心不乱にぺろぺろ飲む様子には癒し効果がある。


「ポーション、なんで作り置きしておかないんだ? 素材を持ってくるのも面倒だろ?」

「うん、おかげでアイテムボックスの中の食糧、少し削った。でも市販のポーションならともかく、手作りだと日持ちしないからその場で作って飲むしかないんだよね。だいたい半日でただの飲料になっちゃうから」

「素材が現調達できたとしてもかなりシビアだよな。戦闘じゃレベル上がらんし、迷宮潜ってるだけでレベルが上がるような《地図士》のようなパッシブジョブでもないし。……でもまあ、こうして休憩中にジョブレベルを上げてるからいいのか? ……ごちそうさまっす」

「支援系のジョブは大変です。丸の燻製ささみ、食べるです?」


 ふたりに同情されたが、〈アイテムボックス〉のLv.が上がれば素材くらい余裕で入るようになるだろう。それまでの辛抱とも言える。

 最初は何もかも足りないのが当たり前だった。パーティの連携も拙く、道具も足りない。武器だって自分にしっくりくるものを探し、馴染むためにふるっているようなものだ。

 ゴブリンが落とした素材やら武器やらも、〈アイテムボックス〉の容量と相談して捨てたものも多い。要するにさっさと階層を攻略してレベルアップしろってことだよね。


「おいおい、見てくれよ。スマホなんだけどさ、電波は入ってこないのに迷宮内限定SNSだけは更新されてるし。不思議機能を発見したべ」



24 :名無しさん@ぼくたちルーキー:

   スケルトン無双w

   リアル骨キモとか思ってた時期がありましたwww

   動きが遅くてマジ美味しいwww


25 :名無しさん@ぼくたちルーキー:

   こっちはコボルトニャ

   なんで獣人が犬無双しなきゃいけないのニャ

   動物愛護団体仕事しろニャ


26 :名無しさん@ぼくたちルーキー:

   一階層は一種類の魔物で固定らしいな

   アーチャーとかソルジャーとか職種が違うけどほぼ雑魚は確定


27 :名無しさん@ぼくたちルーキー:

   三体くらいオークが襲ってきたんだけど

   自分が振り回した槍で味方を殺してたw

   なにこれw


28 :名無しさん@ぼくたちルーキー:

   クソワロタwww



 自分のスマホでアプリを開いて見ると、同じように迷宮を攻略している連中の生の声が飛び交っているのがわかった。それとひとりだけ名前の特定ができてしまった。なんでSNSでも語尾に「~ニャ」を付けるのか意味が分からない。ポリシーなのだろうか。

 太刀丸も見たそうにしていたので、脇に手を入れて持ち上げてやると、「この猫、媚売ってるです」と憤懣やるかたない様子だった。君の語尾も十分狙っているように思えるけど、言わないでおこう。


「時間も進んでないみたいだね。時計が最初から変わってない。もう数時間は過ぎてるはずなのに」

「ホント不思議空間だよなぁ。時間は過ぎないのに腹は減る。腕がもがれようが迷宮を出たら治っちまう。マジファンタジーだわ」

「丸はスマホのほうがファンタジーだと思うです。肉球でタッチしても反応するです」


 いやいや、人間より猿に寄った藤吉や、まんま猫なのに喋って忍者の動きをする太刀丸の方がファンタジーだよと、喉元まで出かかった言葉を呑み込んだ。この世界は他種族がそれなりに共生して成り立っている。お隣の国の国家主席は豚獣人で、まんまオークの見た目だし。



29 :名無しさん@ぼくたちルーキー:

   魔物のレベルが低いからなのか、頭の悪い行動しか取らないんだろうな

   連携もまったく取ってないから突っ込んでくるだけだし


30 :名無しさん@ぼくたちルーキー:

   俺らも似たようなもんだろ

   実戦楽しくて剣振り回してるわ

   連携とか考えてねー


31 :名無しさん@ぼくたちルーキー:

   感触リアルでもうムリ

   心が折れそう……_(:З」 ∠)_


32 :名無しさん@ぼくたちルーキー:

   そんなときはみんなダイスキ♡モモシロスペーダァーを想像するんだ!


33 :名無しさん@ぼくたちルーキー:

   32>なぜにモモシロ限定?

   YKH36じゃダメなん?


34 :名無しさん@ぼくたちルーキー:

   何もダメなことはないさ

   心におわすアイドルを想い、

   愛と勇気を少しだけ分けてもらえばいい

   「頑張ろう……」そう思える心が大事なんだ


35 :名無しさん@ぼくたちルーキー:

   感動した!


36 :名無しさん@ぼくたちルーキー:

   いやするなよ


37 :名無しさん@ぼくたちルーキー:

   アイドルオタは他所へ行け


38 :名無しさん@ぼくたちルーキー:

   僕頑張るよ!

   心の中の宇都宮し〇んに元気分けてもらう!


39 :名無しさん@ぼくたちルーキー:

   38>それあかんやつ……


40 :名無しさん@ぼくたちルーキー:

   宇都宮なんとかって誰?

   何のアイドル?


41 :名無しさん@ぼくたちルーキー:

   AV女優


42 :名無しさん@ぼくたちルーキー:

   www


43 :名無しさん@ぼくたちルーキー:

   笑


44 :名無しさん@ぼくたちルーキー:

   迷宮潜ってする話がAV女優かよ!

   チ●コ捥げろクソ男子ども!


45 :名無しさん@ぼくたちルーキー:

   みんな忘れるなぁぁぁぁぁ!

   アイドルは心の中にいるぅぅぅぅぅぅ!


46 :名無しさん@ぼくたちルーキー:

   その後 44 の姿を見たものは誰もいなかった……


47 :名無しさん@ぼくたちルーキー:

   二度と現れないでほしいんだけど



 うん。みんな頑張っているようでよかった。一部おかしなひともいるようだけど、結構余裕がありそうだ。


 休憩を終えて先に進むことにした。二階層の内壁は遺跡のような四角に切り出した岩を重ねた造りで、足元が皮鎧の下からでもわかるほどひんやりしている。

 出てくる魔物も二種類に増えた。相変わらず闇雲に突っ込んでくるゴブリンと、頭上を飛び交うコウモリ。キーキー鳴いており、一度に五匹から十匹の量で遭遇する。超音波攻撃は頭痛と吐き気を覚えるが我慢できないほどではない。取り付いて吸血攻撃を行ってくるので、接近される前に叩き落とす必要がある。

 しかし割となんとかなった。翼を広げた姿は太刀丸より大きいモスキートバットだが、見つけた傍から太刀丸が次々と落としていき、僕は落ちたコウモリの止めを刺すだけでよかった。藤吉はゴブリンの相手をしていればよく、二階層もサクサク進んでいく。


「寒いです。猫人は寒いの、苦手です」

「かといって暑いのも苦手だろ。夏休みは毎日ぐだっとしてたじゃんか」

「まさに縁側で寝そべる猫だったねえ」

「猫じゃないです。猫人です」


 冷気は足元を漂うというし、猫のように四足でトコトコ歩く太刀丸には辛そうだ。小脇に抱えると大人しく足をプラプラさせていた。


「ゴブリン二匹とコウモリ三匹だ。ゴブリンは任せろい」

「丸がコウモリ撃ち落とすです」

「敵後方に増援はないみたいだから、時間かけても大丈夫だよ」


 小脇に抱えた太刀丸がロケットのように射出され、コウモリを次から次へと落としていく。コウモリにとっては素早く動き捕捉できない太刀丸は天敵なのかもしれなかった。

 二階層攻略も順調に進んだ。敵のレベルも一階層とほとんど差がなく、ふるった棍棒が仲間のゴブリンを巻き込んでこちらに有利になる場面が多々あったのだ。

 半日ほど進んだだろうか、ここまで一本道だったので二階層の終着地はすぐに見つかり、螺旋の石階段が下へと続いている。


「なんか代わり映えしないな。陰気な臭いだぜ」

「わかってはいてもね。気は緩まないようにしないと」

「丸は特に不満ないです」

「そりゃひとりだけVIP待遇だからよぉ。オレも猫のサイズになったら楽できるんかな」


 太刀丸はいまや僕の後ろのリュックサックにすっぽり収まって旅行気分だ。リュックサックには、軽いもので〈アイテムボックス〉に詰めると容量を圧迫してしまう寝巻きや着替え、タオルなどを詰め込んでいるため、太刀丸にとっても過ごしやすいようだ。敵が出たとなれば何を言わずとも切り込み隊長をやってのけるので、文句もない。


「むしゃむしゃ……ジャーキー美味しいです」

「あっ、丸それ僕の非常食!」


 すぐに取り出せるようにリュックに詰めていたのがアダになった……。


 三層はさらに一種の魔物が増え、地を這うネズミが足元に噛みついてきた。一抱えもあるラットでカピバラがイメージに近い。顔は間の抜けたぬぼっとしたもので、見た目通りの雑魚モンスターだ。

 名前はマッドラット。泥ネズミにしては泥が辺りにないが。上下にふたつある鋭利な歯で足をかじられたら大変なことになるだろう。藤吉が避けたラットが勢いのままに岩を噛んだのだが、藤吉の剣を叩きつけたところで砕けない岩が、大型ネズミの齧歯によりあっさりと砕けてしまった。

 いくら革製の脛当てで守っているとはいえ、岩を砕いた頑強な顎の前では齧り取られること請け合いだ。しかし顎と歯が強力なだけで、移動速度は速くない。突進してくるだけなので避けるのも容易だ。とはいえゴブリンに手間取り、モスキートバットが頭上をうるさく飛び回っているときに足元に忍び寄られると大変危険である。藤吉と太刀丸が奮戦している中、そうした“奇襲”を先に見抜くのも『斥候』の仕事だった。


「もう四層だぜ。オレら早くね? 最速クリアもあるかもしれねえな!」


 三層の終着地で夜を明かし、朝から四層目の攻略である。

 しかし景色は変わり映えのない石造りだった。藤吉はごくごく水を飲んで浮かれている。水の配分とか考えようよとも思うが、ここまでハイペースで来ており、一層目からたった一日である。


「戻ることを考えるなら、進むのは五層目到着までだね。初回アタックでレベルもそこそこ稼いだと思うし、二回目で十層まで攻略を目指すのがセオリーだから」


 水・食糧の残りと相談して進むか戻るかを決めるのがこれからの階層を攻略する上で重要になってくる。調子が良くて突き進んだはいいけど、地上に戻る十階層のチェックポイントを前に進退窮まる状態になっては元も子もない。

 十階層のエリアボスを攻略し、その先にある出口まで到達しなければクリアにならないのだし、それまでに力を使い果たしては勝てるものも勝てない。

 そういう意味では藤吉の楽観的な考えは危ないかもしれない。


「丸はどっちでもいいです。見張りして眠いのでお昼寝します。はふぅ」


 太刀丸は深く考えておらず、決定は人任せである。文句も言わないのでやりやすいが、現状を再確認するディベートができないのが悩みどころだ。

 四階層で出くわした魔物は指折りで数えられるほどしかいなかった。新しい魔物は出現せず、三種類の魔物がほんの少し知的になったくらいで、もはや戦闘より移動時間のほうが長い。そのため、太刀丸が飽きるのも無理はないのかもしれない。

 四時間ほどで五階層に到着してしまい、藤吉は肩透かしの様子だ。昼には少し早いが昼食を用意し、僕らは少し休憩を入れた。

 おそらく、先を行くエルフのパーティが魔物をほとんど狩り尽くしているのだ。新たにポップした魔物とエンカウントする以外に戦闘はないため、こんなにも暇なのだろう。


「五階層まで到着したけど、どうしようか?」

「行こうぜ。食糧はあと二日分あるんだしよぉ。戻るより進めってな」

「ZZZ……」


 藤吉は前進あるのみ、太刀丸は熟睡中。進むのに十分な余力はある。セオリーなら引き返すべきだが、先に進んで行き詰ったところで引き返すことも不可能ではない。

 探索を初めてまだ一日半。

 サクサクと進み過ぎて、こんな状況で無理を言って引き返そうとは言えなかった。

 他のひとたちはこういうときどうしているんだろう?

[ファンタジー高校生の日常 人物紹介編5]


名前 / ()(じり)()()()

年齢 / 15歳(11月20日)

種族 / 猫人族Lv.15 (※種族レベルは職種レベルの合計値)

職種 / 斥候Lv.7 軽業師Lv.8

ポジション / サブアタッカー


HP:110/110 (補正+0)

MP:0/0 (補正+0)

SP:122/122 (補正+0)


STR(筋力値):92

DEX(器用値):36

VIT(耐久値):86

AGI(敏捷値):355 (補正+50)

INT(知力値):42

RES(抵抗値):72


《斥候》 忍足Lv.3 気配察知Lv.4

《軽業師》 無音歩行Lv.4 敏捷値+Lv.4

パッシブスキル / アイテムボックスLv.1

種族スキル / 獣化Lv.2


 隣のクラスの《斥候》の獣人少女。青灰色の毛並みの猫獣人。猫目・猫っ毛。陸上部にいそうな健康的な太ももが魅力。胸はない(推定Bカップ)。明るく無邪気なところもあれば、男子に混じって悪巧みに興じる小悪魔なところも。なにより楽しく生きることが信条。語尾の「~ニャ」はキャラ付けなのでは?と本家の猫人から疑問の声が。

 どこかの異世界物語の猫ちゃんとはパラレル的なあれで同一人物ではない(作者談)。

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