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第11階層 留年闇魔術師

 もうひとりの留年生――(まゆずみ)闇音(あんね)

 黒いローブを足先まで覆うように羽織り、黒のとんがり帽で頭と顔をすっぽり隠していて、教室内ではまるで壁のシミのように存在感が浮き出ている。どう好意的に見ようにも関わるなオーラをひしひしと感じ、とても友好的な会話ができるとは思えない。

 しかしもうヘマはしない。担任の八ツ俣先生から情報を得ている。他にも去年担任だった茉莉花先生にも裏を取ってある。普通個人情報はもっと秘匿されるべきだと思うが、生徒想いの先生ふたりは孤立した生徒を放っておけないのか、質問にはほとんど疑いもせずに答えてくれた。終いには彼女をパーティに誘う話をしたら泣いて喜ばれた。

 曰く、味方誤射(フレンドリーファイア)が酷すぎる、日中はやる気がない、ろくに話ができない、協調性がない等々、去年のクラスでは完全にいらない子扱いだったようで、それを聞いて正直なところ僕も勧誘を考え直したかったが、八ツ俣先生の頭の蛇たちまで目を潤ませている気がして、今更辞退する言葉が出なかった。最悪、勧誘したけど無理でしたーと報告しよう。


 クラスでは誰かと親しげに話している姿をほとんど見たことがない。教室の隅で必要最低限の動きだけして一日を過ごしている。休み時間はすっぽりとローブを被って寝ているようで、わざわざ話しかける人間もいない。連絡事項を彼女に伝えるときでも不機嫌な面で対応するし、聞いて居るのかよくわからないぼうっとした目で適当に受け答えをするので、クラスの評判は厨二病患者の留年生に続いて悪かった。


「どうも、黛さん」


 放課後、僕はそんな彼女に意を決し話しかけた。人見知りのある僕にとってはとても勇気のいることだったが、背に腹は代えられないというやつだ。クラスメイトがこちらを見てこそこそ話をしている。もうひとりの留年生に話しかけたときと同じだ。僕の悪評と相まって、パーティ組むためならひとを選ばないだとか、誘いやすそうなら誰でもいいんだとか、小声で聞こえてくる。

 実際その通りだから文句は言えないな。孤立している人間の方が勧誘しやすそうっていうのは事実だし。


 予想通りというか、黛さんは顔すら上げなかった。でも、声をかけたときぴくりと動いたから、起きてはいると思う。それでも顔を上げないのは、対応が面倒だからだろう。


「ちょっと話したいことがあって。いま時間ある?」

「……」


 返事がない。後ろからクスクス聞こえてくるのが正直恥ずかしいが、もはや死なば諸共、なんとかして話し合えるところまではいく決心でここにいる。

 僕は魔法の言葉を使うことにした。


「食堂で話せないかな。ごはん奢るよ。ステーキ定食とか」

「行く」


 ガタッと勢いよく立ち上がった黛闇音は僕の顎位の身長で非常に小柄な部類だった。しかしその目は爛々と輝き、ともすれば肉食獣にも思え、心変わりの早さと勢いに圧倒された。


 周りなど見えていないかのように闇音は放課後でざわつくクラスを飛び出すと、食堂まで先導するようにずんずんと歩いた。その歩みに迷いはなく、少し寝起きの所為かふらふらしているものの、三百人は収容可能な食堂に飛び込むなり、食券の自販機前で鼻息荒らく待機している。

 僕は彼女に追いつくと、千四百円(食堂最高額)のステーキ定食の食券を購入した。闇音は僕から食券をひったくるように奪うと、パタパタとカウンターへ駆けていった。


 僕は食欲が湧かないので二人分の水を用意し、適当な席に腰掛けた。

 食堂のカウンターとは反対側の窓は全面ガラス張りであり、そこから五十卓くらいのテラス席が見える。大学構内の食堂のようである。時間の所為もあってか食堂内は閑散としており、陽も傾きかけたテラスに夕日が差し込んでいる。

 暇なのであたりを見回していると、クラスメイトの霧裂姫叉羅が何人かの女子と席に着いているのが見えた。彼女は鬼人族であり、学年イチの身長の持ち主である。椅子に座ったところで並の学生と比べると頭ひとつ分高いのだ。今朝から見なかったから、迷宮で酷い目にあったのだろう。


 それと……ゲッ、テラスに紅茶を嗜む一組の委員長、西蓮寺彩羽の姿が見えた。お嬢様然としており、所作は完璧である。そしてこちらに背中を向ける位置に、金糸のようなサラサラな金髪ロン毛、頭の横からにょきっと細長の耳を生やしたエルフがいる。今朝方、迷宮内で召喚獣〈コアトル〉に手も足もなく燃やし尽くされ、パクリと食べられたエルフである。その横にはまるで騎士のような堅牢な立ち方をする九頭龍村が、学内だというのに槍を脇に挟んで控えていた。なぜ座らないのか。疑問は尽きない。

 竜人の彼女だけは僕に気づいたようで、驚いたように目を見開いたがそれも一瞬。すぐにぷいっと顔を逸らした。随分と嫌われた様子だ。


 他には見知った顔はおらず、闇音が戻ってくるのを待っていると、彼女はカウンターで鉄板からじうじうと音を立てるステーキ定食を受け取り、すぐ近くの席に着いて早々に食べ始めている。


「っておーい」


 ひとりツッコミは誰にも聞いてもらえなかった。


 さすがソロプレイヤーだけはあるな。ひとの好意を当然のごとく受け取り、報いようとも思わないらしい。僕はため息をひとつ吐いて、水入りのコップをふたつ手に持ち、彼女の向かいの席へ移動した。


「ちょっとひどくないですか?」


 「なにが?」と言わんばかりの目で見上げてくる。初めて顔をまじまじと見たが、相変わらずフードを被りっぱなしの頭から、漆黒の外はねした髪が零れている。澄んだ青い瞳と童顔も相まって、お人形さんのような精巧さを抱く。しかし態度を見れば本当に自らの行いについてわかっていなさそうだ。協調性! と声高に叫びたい。


「まあいいです。それでですけど……」


 血の滴るレア肉を頬張り、美味しそうにもっちゃもっちゃと食べる姿は可愛げがなくもない。ただ愛想というものが致命的に欠如しているので、人気はそれほどなさそうだ。幼児の必死さよりも飢えた狼のような食べ方を思い起こさせるんだよな。

 欲張りすぎて喉に詰まったのか、口をいっぱいに膨らませたまま胸を叩き、青だったり赤だったり忙しなく顔色を変えている。僕はそっと水を差し出すと、それを奪い取ってゴクゴクと喉を鳴らしながら飲み下した。「あ”あ”ーっ」とおっさん混じりのひと息を吐いている。


「ソロプレイヤーの黛さんにパーティに入ってもらえないかと思いまして」


 黛闇音は黒系の服を好んで着用していた。夕日の差すまったりとした食堂にあって、闇音の周りだけ闇が取り巻くようにぽっかりと黒い。顔の半分以上を隠した前髪は鴉の濡れ羽色。黒が好きなのだろう。格好が自由な盾浜高校にあって、完全な黒尽くめの衣装。少し厨二を漂わせる。


「え? なんで? ムリ。なんでうちが」


 返事は先ほどのがっつくような食事風景から一転、いつもの受け答えも気怠い様子になっている。


「黛さんが一年の課題をクリアできないって聞いてたから、パーティを組めないかなと思ったんだ。僕はもうノルマを達成してるから、アシストができるし」

「ええ? 昨日の今日でもう十階層超えたの? すご。そんな天才くんがうちに用とか笑える。なに? 出来損ない指差して笑うの? はは、ぶっ殺すよ?」


 口が思ったよりも悪い。

 重苦しい前髪から覗く海色の瞳は、殺意のようなものを発していた。クラスメイトにそんな態度を取るなよと言いたい。


 そういえば聞いたことがある。

 黛闇音は最初から孤立していたわけではない。クラスの中には親切心から話しかけた子が少なからずいた。

 いわく、何を考えているのかわからない。

 女子の中でも特に気さくで人の良い犬耳の狛池さんが話しかけて友達になろうとしたが、会話にならず逃げ帰ってきた。いわく、まともに会話をしてくれないと。


 黛闇音の容姿はそれほど悪くないと思う。思うというのは顔の半分を重い印象の髪で隠しているからで、ぼさぼさの貞子のような雰囲気を纏っていれば、誰だって親しみは感じにくい。髪を洗わず、ぼさぼさ、不潔感が漂っているなら近寄りがたいが、身綺麗にはしているようだ。いまだって対面に座っているのに、わずかにシャンプーの匂いが鼻を掠めた。

 それにしろ、いかんせん人を寄せ付けないというか、野生の犬? という目つきでステーキを貪っている。他にもときどき授業中であろうが休み時間であろうがお構いなしに最後列でひひっと笑ったりするので、不運にも彼女の前の席となった豆谷君はノイローゼ気味になり、席替えの際に彼女から最も遠い教室の最前列へと退避した。


「黛さんのことは悪いとは思ったけど色々調べたよ。魔術師系職業なのに命中精度が神がかってるくらいアホな上に」

「アホォ?」

「ポンコツ」

「あぁん?」

「狙いがちょっとずれちゃうやつですね。日中は身体能力が低くてやる気がないこととかも」

「……まあ、否定はしないけどさあ、それ本人の前で言うって無神経じゃね?」


 味方殺しの異名もある彼女から言われたくない台詞だ。

 そもそもそんな誰もが避けて通るような事故物件をパーティに招こうという僕の神経もどうかしているのだろう。しかし、条件次第では彼女を活かすことも殺すこともあると考えていた。この場合、活かせる可能性が高いと踏んでいる。


「なにも酔狂で誘ったわけじゃないです。黛闇音さんのジョブは《闇魔術師》と《影魔術師》のふたつですよね? 魔術師系を重ねて尖ったスキル編成を組んでいるだろうから、戦闘では無類の高火力を発揮するでしょう。味方誤射が酷いのは広範囲系の魔術をぶっ放すことが好きだからじゃないですか?」

「なんでそんなこと言われなきゃなんないの。知らんし」


 否定しつつも苦虫を噛み潰したような顔になって目を逸らした。もっと命中精度が悪いなら、単発系がまっすぐ飛んでいかないアニメのようなノーコンぶりだろうか。

 普通、範囲攻撃にはそれなりに範囲指定ができるのだ。それができないとなると、大雑把で最初から味方を避けようという意識がないか、範囲指定ができないほどの精度か。後者であってほしくないが……。


「黛さんのような高火力魔術師は引く手数多でしょう。それでもいまもソロプレイヤーをやっているのは、十階層まで通路と小部屋でできた広範囲魔術に適さない環境であることもそうですし、日中はやる気のないところがパーティ内に不和を生んだとか、そんなところでしょう? ソロで始めて、それでも十階層の壁を越えられないのは、戦闘以外で問題があるからだと僕は思っています」

「うぐ……」

「戦闘ばかりが迷宮の醍醐味ではありませんもんね。十階層に辿り着けない理由のひとつに食糧管理があるみたいですし。空腹で死に戻りする駆け出しパーティも少なくないとか。かくいう僕らもかなりギリギリでしたよ。他にも環境適応に体調管理、対魔物の知識も必要となってくる。戦闘以外の部分が迷宮攻略に多く必要になってくる」

「それが面倒なんだよぉ……」

「ソロだと全部自分ひとりでカバーしなければならないんですよね」

「面倒……面倒……ああ……」


 面倒と言いつつ今日まで冒険者を辞めなかったところは、同じ留年生の男子と同じく褒めてあげたいところだ。問題を抱えてはいるものの、心が折れて普通科に転科するようなこともなく、半年以上ひとりで迷宮に挑み続けている。

 精神的なタフネスは相当なものだと思っていい。

 迷宮内で寝ることの恐怖を今日まで耐えてきたのだ。寝ている間に頭をかち割られることだってある。その緊張感をひとりで我慢しなければならないと思うと、僕なんかは絶望的に思ってしまうくらいだから。


「戦闘特化の黛さんは本来、ソロで活動すること自体デメリットでしかないんです。魔術師は遠距離無双ができても、近接戦闘になるとあっさりやられたり、不意打ちに弱かったりと弱点は多い。それに、戦闘以前の冒険者に有利な地形を選定したり、魔物が近づかないように工夫した休憩場所を設定したりすることはひとりではなかなか難しいと思います。戦闘は行き当たりばったりになっているはずです。どうですか?」

「……その可能性はなきにしもあらず」


 ここまできて認めたがらないところが彼女のプライドのように思える。他人に自らの弱い部分は、文字通り死んでも見せたくないのだろう。


「つまり、黛さんのような魔術師は、サポート役があって初めて輝く職業と言えます。迷宮で一夜を明かす怖さを思えば、やっぱり誰かの助けが必要になってきます。僕は《斥候》と《薬術師》というサポート特化の職業なので、うまく合わせられると思いますよ」

「そういう問題じゃないし。あたし、面倒くさがりだし」


 暮れるテラスを眺めながら、闇音はフードと前髪で顔を隠してしまった。

 鉄板の上にはナイフとフォークが転がり、苦手なのかブロッコリーだけが残されている。


「まずは十階層まで試してみてみませんか? 黛さんも十階層を越えてから好きなように行動すべきです。十階層までのパーティ制限は三名。十階層までクリアした人間がひとり付くこともできますので最大四人。十階層以降は六名と、クランの加入許可が下ります。そうなれば黛さんの活躍場所は多くなるはずです。まずは十階層攻略ですよ。そのための協力は惜しまないつもりです。戦闘では役立たずですが、それ以外の面倒はすべて僕に任せてもらって構いません」


 最初の三名の頃からはっきりと役割を分けることは珍しいが、十階層以降の迷宮攻略では、戦闘職に戦闘をすべて任せ、支援やそれ以外の役割を分担するとはほぼ当たり前になっている。魔物を狩ることを苦手にしている生徒だっているし、《治癒術師》や《付与術師》など、戦闘力がない役職も多く存在する。冒険者がすべて脳筋とは限らないのである。読書が好きでも立派に冒険者は名乗れるのだ。


「……そこまで言ってもらって悪いんだけど、たぶん君の思い通りにはならないと思う」

「それでもソロが良いんですか?」

「別にぼっちじゃないし。孤高なだけだし」


 ツンを唇を尖らせて、闇音は添え物のブロッコリーを口に放り込んだ。

 僕は残った水を全部飲み干す。


「……つまらない見栄を張るなあ」

「うるっさいな! ステーキ奢ってもらったから正直に言うけど、うちノーコンなんだよ。術を前に撃っても後ろに飛ぶことがあんの。だからパーティには嫌がられるわけ。わかる?」


 そっぽを向いて、心持ち声のトーンが下がりながら答えた。

 恥を晒している自覚があるのか、悔しそうに歯を食いしばっている。ついでに握りしめているフォークの柄が握力で曲がっている。


 僕はその顔に対して、にやりと笑って返す。

 もちろん、ノーコンのことも八ツ俣先生から聞いて承知済みだ。


「僕はね、やるからには妥協しないんです」

「なにがよ」


 僕は横に置いた学生鞄から、ジャラジャラと装飾具をテーブルの上に広げた。


「ちょっとこれって……」

「いわゆる魔道具ってやつですね。その中でもステータス値にプラス効果を与える補助魔具ってやつです」


 僕が持ってきたのは命中上昇の指輪が四個に腕輪がふたつ、精度上昇の耳飾りが一対である。

 命中上昇は基本的に武器や素手、魔術の命中上昇に効果を発揮するもので、重複しても効果は加算されるタイプのものだ。いわゆる命中+10とかである。

 精度上昇は魔術のみに効果があるもので、たとえばファイアーショットを敵に当てる際に、撃ち出してから当てるまでの誘導もその精度に含まれ、投擲武器のように撃ちっ放しではなく、ある程度術者が操作できる仕組みである。闇音の足りないものを補うには、これくらいは必要だろう。


「これ、持ってたの?」

「いえ、購買であるだけ買いました」

「いくらすると思ってんのさ!」


 いつもはダルそうな目が恨みがましくキッと開いた。それでもやっぱりどこか眠たげな様子を滲ませていたが、真面目に取り合ってくれているのはわかる。


「僕の貯金をかなり使いましたけど、後悔はしてませんよ」

「しなよ! バカなの? ムダだってこんなの」


 あの闇音が大声を出している姿は、見るひとが見ればレアであり驚くことだろう。闇音が平常心ではいられないくらいの目が飛び出る額が学内の購買で決済されたのだ。高級車の一台は買える値段であった。それが売っている購買もおかしいと言えばおかしいのだろうが。


「それくらい黛さんの力を借りたいんです。どうかパーティを組んでくれませんか?」

「うーうー……」


 思いっきり悩んでいる様子だ。学食最高値のステーキを奢られたことが些事に思えてくる。


「うーあうー……」


 頭を抱えてまだ呻いている。しかし呻き方が可愛いな。もしも黛闇音という人間の人となりが、他人から高価なものをもらっても平然としているような腐った性根であったなら、僕もここまではしなかっただろう。それこそもうひとりの留年生にしたみたいに言葉だけで交渉をしたはずだ。

 しかし彼女を手に入れたい理由が本当はもうひとつあった。

 彼女のフードの頭の部分で、ふたつの尖ったものがしきりに動いている。ついでにテーブルの下から、箒を掃くような音も聞こえてくる。


「僕は本気です。黛闇音さん、貴女でないとダメなんです。貴女の力がほしい」

「あーもう! はずい台詞だなあ! 少女マンガか!」


 闇音は覚悟を決めたのか、顔を上げた。その拍子にフードが後ろに落ちた。

 彼女のしっとりとした黒髪の頭の部分からひょっこり顔を覗かせるのは、黒い毛に覆われた三角の狼の耳。

 そう、黛闇音は狼獣人の血を引いている。


「わかったよ。パーティメンバーになってやるよ!」


 暮れかかった陽が、ついに落ちる。テラスは暗くなり、いつの間にかエルフ一行も見えなくなっていた。室内は明るいが、外はもう夜の世界に足を踏み入れている。

 そうして向き合っている黛闇音を見れば、海を思わせる透き通った青色の瞳が、いつの間にか血の色を想起させる真っ赤な色に変わっていた。


「メンバーに加えるからには覚悟をしておきなよ? そっちから脱退を申し込んで来たら許さないからね?」

「そのときは貴女が卒業するときですかね。慰謝料代わりに花束を贈りますよ」

「ふん! 言い切ったね、上等だよ!」


 昼間の気怠さは消え去り、むしろ生き生きと生命力に溢れているように見えた。イーッと歯を見せる八重歯の部分が犬歯になっているし。

 黛闇音。狼獣人の血を引くウルフガールである。髪は少しハネているが、どちらかといえばストレート。そこはウルフカットではない。

 彼女の瞳は夜になり赤くなったが、それは本来の狼獣人の特性ではない。


 もうひとつ彼女には秘密がある。

 語られる種族の代名詞は夜の住人。闇夜に生き、暗闇こそ種族の本領を発揮する。

 その名を吸血鬼――。


 黛闇音は世にも珍しい、吸血鬼と狼獣人の両親を持ち、そのふたつの特性を顕現させた存在だった。普通、見た目も特性も両親のどちらかに偏るものだが、百万人にひとりの確率でどちらの特性も現れる子どもが生まれるという。


「よろしくお願いしますね。僕が黛さんを未到達の階層まで連れてってあげます」

「大ぼら吹きか、それとも本物の実力者かね。ちょっと不安」

「今後も食堂でごはん食べさせてあげます。ステーキ定食とか」

「やろう! パーティ入るよ! そんでどこまでも付いていくよ、すて……リーダー! いやあ、それくらい大見栄切ってもらわないとうちのリーダーに相応しくないしね!」


 ガタッと椅子から立ち合がり、ぐわしと肩を掴んできた。小柄な彼女は腕を目いっぱい伸ばしている。目の前には、薄いが確かな胸の膨らみが強調されていた。ごちそうさまです。

 なんだかさっきよりテンションが高いが、夜になると活発になると担任の八ツ俣先生から聞いている。吸血鬼は物語のように朝日で灰になったりはしないが、昼間は動きを制限され、代わりに夜になると異常なくらい活性化する特性を持つのだ。狼獣人の血もあってか熱血っぽくなっている。ギャップがひどいな。


 とにかくパーティメンバー一人目の勧誘成功である。

 僕らは握手をすることにした。


 ギュ。


「ぎゃー!!!」


 とんでもない握力に右手が握り潰された。

[ファンタジー高校生の日常 人物紹介編8]


名前 / (まゆずみ)闇音(あんね)

年齢 / 16歳(2月4日)

種族 / 半吸血鬼(ダンピール)族(吸血鬼・狼獣人のハーフ)Lv.26(※種族レベルは職種レベルの合計値)

職種 / 闇魔術師(ダークメイジ)Lv.14 影魔術師(シャドウメイジ)Lv.12

ポジション / アウトサイドアタッカー


HP:101/101

MP:196/256

SP:40/40


STR(筋力値):31

DEX(器用値):21+250

VIT(耐久値):19

AGI(敏捷値):23

INT(知力値):45+24

RES(抵抗値):88+400


《闇魔術師》 闇弾(ダークショット)Lv.6 享楽地獄(ラストインフェルノ)Lv.2 高魔術抵抗+Lv.6

《影魔術師》 (シャドウ)(バインド)Lv.5 影棘(シャドウスパイン)Lv.3 擬態(トランスフォーム)Lv.4

潜在スキル / 吸血Lv.8(未装備) 獣化Lv.7(未装備)


 狼獣人と吸血鬼のハーフで、両親の特性をどちらも引き継ぐ半吸血鬼。父親が吸血鬼、母親が狼獣人。授業中でも黒ローブと三角帽子は決して外さない。服装に厳しくない校風なので怒られることはない。昼は〈擬態〉のスキルで黒い犬耳と黒い尻尾を隠している。テンションが上がったり、集中力が乱されると割とボロが出るので、夜は基本は出しっぱなし。

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