9 困った時の女神頼み
しかしパメラを助けるにはどうすればいいのだろう。
再び自室でゴロゴロしながら、オルタンシアは思案した。
(盗まれた屋敷の備品がパメラの荷物の中から見つかったんだよね。……誰かに入れられたってこと?)
誰かがパメラを陥れるために、わざと彼女の私物の中に盗品を仕込んだのだ。
うまく冤罪だと証明できれば、パメラにかけられた濡れ衣が晴らせるだろうが……。
「どうすればいいのよ~!」
枕をぎゅっと抱きしめて、小さな足をジタバタさせながらオルタンシアは唸った。
いくら犯人を見つけたいと思っても、四六時中パメラに与えられた使用人の住居を見張っているわけにもいかない。
他にオルタンシアに取れる手立てなんて――。
「あっ、そうだ」
(私……女神様に新しい加護貰ってたんだった!)
ようやくそのことを思い出したオルタンシアは、慌てて棚に仕舞われていた命名状を引っ張り出した。
命名状には、洗礼の際につけられた新たな名と、加護についての詳細が載っていたはずだ。
洗礼式当日はバタバタしていてゆっくり確認する余裕はなかったが、命名状を確認すれば加護についてもわかるだろう。
おそるおそる書状を開いて、オルタンシアは仰天した。
「加護多いな!」
そこにはずらずらと、オルタンシアに与えられた(らしき)加護が羅列してあったのである。
(本当にこんなに加護があるの!? 全然気づかなかったんですけど)
「でも、これを使えば……!」
パメラの冤罪を防げるかもしれない。
オルタンシアはごくりと唾を飲み、作戦を考え始めた。
「オルタンシアお嬢様、失礼いたします!」
翌日、パメラは元気よくオルタンシアのもとへやって来た。
そんなパメラに笑顔で答えながら、オルタンシアはおずおずと小さな鉢植えを手に取った。
「あのね、パメラ。昨日お庭に出たら、とっても綺麗なお花が咲いていたから、パメラにもあげようと思って……」
(大丈夫!? 不自然じゃない!? 7歳の子どもってこんな感じで良いのかな!?)
できるだけ「7歳の純真な少女」のように見えるように気を付けながら、オルタンシアは何度も練習したセリフを口にする。
「いつもパメラは私の部屋のお花の世話をしてくれるでしょう。私、急に広いお屋敷に来てしまって心細いけど……パメラが世話してくれたお花に元気を貰ってるの! だから……パメラにも綺麗なお花をあげるね! 私だと思って大事にしてほしいな!!」
精一杯愛らしく見えるような笑顔を浮かべながら、昨日庭で適当に見つけた花の鉢植えを差し出す。
パメラは驚いたように、そんなオルタンシアを見つめていた。
(うっ……変だったかな!? さすがにこんな汚い鉢植えじゃダメだった!?)
その辺で土に埋もれかけていた鉢植えを発掘して、適当な野花を植えただけなので、正直インテリアとしても微妙な出来だった。
もっと凝ったものにすればよかった……と、オルタンシアが後悔し始めた頃――。
「お、お嬢様にそう言っていただけるなんて……」
急に、パメラはぼろぼろと泣き出したのだ。
(!? 何で泣くの!?)
「私……田舎者で気が利かなくて、失敗ばかりで、もう何度もこのお仕事を辞めようかと思っていたんですけど……ありがとうございます、お嬢様!」
パメラはぼろぼろ泣きながらも、笑顔でオルタンシアの鉢植えを受け取ってくれた。
そのあまりの喜びように、オルタンシアはちくちくと罪悪感を刺激されてしまった。
(うっ……こんなに喜んでくれるならもっとちゃんとしたのにすればよかった……。でも、これでパメラの冤罪を晴らす突破口になってくれるはず……!)
「大切にしますね!」と嬉しそうなパメラに頷きながらも、オルタンシアは幼子らしからぬ打算に満ちた目で、鼻歌を歌いながら掃除を進めるパメラの背中を追った。