51 寄り添う双子星
「俺は変わっているのは確かだろう。美しいとされる美術品を見ても、稀代の悲劇と言われる観劇を見ても……母が亡くなった時でさえ、あまり感情は動かなかった」
どこか他人事のようにそう呟くジェラールに、オルタンシアは胸が締め付けられる思いだった。
(もしかしたらお兄様は公爵夫人に拒絶されて、ひどいことを言われて……それが悲しくて、感情を閉ざしてしまったのではないですか……?)
あまりにショックを受けるような体験をすると、自己防衛のために感情を封じようとすることがあると前に読んだ本に書いてあった。
オルタンシアだって人を簡単に惨殺された教団に誘拐された直後は、何もかもが夢の中のようなぼんやりとした心地を味わったのだ。
(きっとお兄様は、自分を守るためにゆっくりゆっくり心を凍らせてしまったんだ……)
オルタンシアはそっとジェラールの手を握り締める。
その手はひんやりしていた。
「お兄様の手、冷たいですね。でもご存じですか? 私のママが教えてくれたんですけど、手が冷たい人は逆に心が温かいそうですよ!」
「……人間の体温は性別や年齢、体質や体調によって変わる。ただの迷信だろう」
「もー! 私はこういうロマンチックな言説を信じたいんです!」
ぷんぷんと憤慨するオルタンシアに、ジェラールの纏う空気が少し柔らかくなったのを感じた。
……少しずつでもいい。
彼の凍り付いた心を、溶かしていきたいと思う。
だから、今は……。
「ねぇ、お兄様。私たち……はんぶんこにしましょう」
「は?」
また妙なことを言いだしたな……とでも言いたげに眉をしかめるジェラールに、オルタンシアは必死で説明を加えた。
「ママがよく言ってたんです。楽しいことも悲しいことも、大切な人とはんぶんこにすれば幸せになれるって。だから私とお兄様ではんぶんこです!」
そう言ってオルタンシアは満面の笑みを浮かべてみせた。
「何か楽しいことがあったら、私はお兄様に報告します。それで、思いっきり笑います。それで、少しでもお兄様が楽しい気持ちになったら嬉しいなって」
「……それは何かの哲学か? どの派閥だ?」
「必要とあらば私がオルタンシア派の開祖になってみせます!」
「……そうか」
ジェラールが突っ込んでくれなかったのを少し残念に思いながら、オルタンシアは続ける。
「忘れないでくださいね、お兄様。私たち、はんぶんこなんですから。楽しいのも悲しいのも一緒です」
「……あぁ」
ジェラールが本当に納得したのかはわからない。ただ単にオルタンシアがわけのわからないことをのたまうので、適当に話を合わせただけなのかもしれない。
だが確かなのは、オルタンシアが握っていた手をほどいたかと思うと、しっかりとジェラールの方から繋ぎなおしてくれたということだった。
「そろそろ暗くなってきた。戻るぞ」
「はい、今度はヤギの放牧場を案内してくださいね!」
「……時間があったらな」
気が付くと、空には既に星が輝き始めていた。
その中で、寄り添うように瞬く双子星を見つけ……オルタンシアは静かに微笑んだのだった。