第八十三話 トーナメント開始のお話
クリスマスオフ会が終わり、月曜日。
今日からついに、第四の街「ホーサ」でのPvPトーナメントが始まる。
ちなみに冬休み中なので、たくさん二度寝もできる。素晴らしい日だ。
午前中いっぱい寝過ごして、午後から『IWO』にログイン。
一階で偶然会ったフレイと会話をする。
「そういえばフレイ。今日ってなんかイベントあったっけか? トーナメント開始祝いみたいなやつ」
「ありますよー? といっても、今日トーナメントに参加すると、トーナメントでの順位に応じて通常貰えない賞品がでるだけですが。本選出場の上位八名は結構良いものらしいので、是非ともゲットはしときたいですがね~」
しかしなんでも、トーナメントの順位といっても予選で八名までふるいにかけられるらしいので、実際それより下は全て同じ賞品らしいが。
世の中世知辛いってことかね。
「へぇ……特に大規模なイベントはしないのか……」
「いや、トーナメント自体初ですし、イベントみたいなもんじゃないですかね?」
「あー、それもそうだな。まぁとりあえず、本選出場目指して頑張るかな」
そういえば、二人きりということで、”デート”について
「日曜日って一月二日だよな? 初詣も兼ねるのか?」
と聞いたところ。
「なにいってんですか。一日に一緒に初詣、二日にデートの完璧プランですよ! 行けますよね? 初詣。あ、ちなみに大晦日はちょっと外出するので一緒には過ごせないのです……残念ですね」
「……まあ、行けるけど」
清々しく言いきられた。
……初詣に行くことがもうフレイの中で決まっていることはさておき、じゃあもう、デートくらい券使わなくても良かったんじゃね? などと思ったが。
まあそこはフレイの心意気?に免じて、精一杯彼氏感を醸し出す事で満足してもらうかね……
ちなみに今、エリザは奥の工房に引き篭もったままでてこないが、大方俺のせいである。
まあ、イブの日にアレな素材持って来ちゃったからね……
他のメンバーは見当たらないが、カリンはソロで狩りに出ている模様。
中学生組はまだログインしていない。
今日のトーナメントは確か、個人戦のみの解禁だったっけな? 他にはタッグ戦とパーティー戦があるが、それは明日解禁である。
おそらく「ホーサ」に辿りついたほとんどのプレイヤーが闘技場に押し寄せるんだろうなぁ。いくら生産数の少ない第一陣プレイヤーが主とはいえ、現実からしたら結構な人数になりそうだ。
あの馬鹿でかいホールでも入りきるんだろうか?
とか一瞬思ったけど、よくよく考えてみるとコミケとかの比じゃないよな。じゃあ大丈夫か。
なんてことを思ってみたり。
今回は事前に内容が明かされていないらしい賞品について、玲花としばらく話して、俺はレベル上げのために西のフィールドに出かけた。
モンスターのレベル帯は、49~52。
当たり前のように格上フィールドに行ったのに案外手ごたえが無くて、気が付いたらレベルが42に上がっており。〝ベルセルク〟の効果もちゃんと発動しているようで、基礎Strは更に+3されていた。
モンスター何十体倒して+1とかなのな。
……まぁ、一体倒して+1とかだったらバランス崩壊どころの騒ぎじゃないけど。
モンスターを倒した後に発生する光が、まるで糧となるかのように俺の剣に吸い込まれていったのと、それを後ろで見ていたレイレイがガクブルしていたのが印象的だった。
ちなみに腕輪は未使用な。
そして、少し気がかりだった称号の効果である”移動力低下”については大体の所が判明した。
どうやら状態異常〈鈍化〉などのように全ての行動が遅延するといった致命的なものではなく(移動力限定な時点でそれはほぼ確定していたが)、普通に歩いたりもできる。
ただし、歩く以上のスピードで動こうとすると、急に足が重くなった。
早歩きすらアウトだったが、モンスターに勢いよく吹っ飛ばされたりと、自分の足で動かない移動(?)のはセーフな模様。
これに関しては
そうしていろいろな検証をして、夕方まで時間を過ごした。
―――
『ホーサ』にある花鳥風月ギルドホームの一階にて、メンバーが全員集結していた。
理由は、これから始まるトーナメントに一緒に行くためだ。
ウインドウを展開させ、トーナメントの予定表を確認していたフレイが、声をあげる。
「今から行くと……六時開始のトーナメントに出場することになりそうですね」
「受付締め切りが確か30分前だったよな? そろそろ出ないとか」
「そうだね。じゃあ、全員揃ったし行こう」
カリンの号令の下、闘技場へと歩き出す。
こうやって全員で出歩くのも久し振りな感じがするな。
「あれ? エリザさん、そのペンダントどうしたんです?」
「……あー、これは、その……新しい装備よ。イブの日に手に入れたの」
「ああ、なるほど。いいなー、そんな綺麗なアクセサリ。私なんかイベントの報酬も使いきりのアイテムばっかでもう……まあ、クノさんのポーションテロに比べたら全然ですが。ぜ・ん・ぜ・ん! ですがっ!」
「テロじゃねぇよ」
エリザの胸元に輝く黒い宝石のペンダントに、目ざとく気付くフレイ。
なぜかエリザから困り顔で見られたので、意味も無く頷いておくと、どうやら出所は誤魔化す方向にシフトしたようだった。
……まあ、俺もこれ以上フレイに「なんて非常識なッ!?」とか言われるのもアレだしな。ただでさえ昨日の夜から今日にかけて、イブの日の戦利品について追及されまくったし……
いいんじゃんか、ねえ? 別に超級ポーションが99個あろうが聖水が99個あろうが。
軽くメンバーがバグっていたけども。アレを直すのは一苦労だった。
「そういえばクノ君。昨日の夜に君から貰ったスキルの事なんだけど」
「ん? あぁ。そういえばアレ、どうだった?」
俺がパンチングマシーンをぶっ叩いて手にいれた四つのスキル習得権。
それらも昨日の夜のうちにメンバーに渡した(というか共有倉庫につっこんだ)のだが、今日の大会には使えそうだろうか?
確か、カリンが【天使の羽衣】、フレイが【エスケープゴースト】、ノエルが【魔素転用】、リッカが【集中魔法術】を選んでいたはずだ。
ちなみにエリザにはすでに「黒妖魔石のペンダント」をあげていたので、辞退した模様。
あ、それと、イブの夜に大量にエリザに渡した素材。それを使った装備はまだ完成していない。
結局一日使って、先ほどギリギリまで粘っていたようだが、あと少しの所で時間切れとなってしまったようだ。
原因は素材の加工難易度なんだが……済まん、エリザ。でも頑張ってくれ……
本当に後少しだから早ければ、トーナメント中に渡せるかも、とは言っていたが……トーナメント中?
そんな中で作る時間とかあるのかと疑問に思う。
「昨日から試してみたけど、中々強力だったよ。改めてお礼を言うけど、有難う。これで今日のトーナメントも心強いね」
「そか、そりゃ良かった」
「特にリッカのスキルが……こう、魔法の威力が桁違いに上がってだね」
苦笑するカリン。
隣を歩くフレイが、戦慄の声色で言う。
「あれは凄かったですよね……もしかするとクノさん超えたんじゃないですか?」
「お、まじで?」
「いやフレイちゃん。残念だけどそれは絶対あり得ないよー……私の魔法じゃどんなに頑張ってもボスのHPを一撃で半分なんて無理だもん」
「見た目の派手さではリッカの勝利なのだけれどね」
「なんでも無い風に攻撃する分、クノさんの理不尽さが際立ちますよね……」
「……うん。確かに、クノさん超えは安易すぎでしたね、すいません。しっかしホント理不尽ですよねぇ……」
しばらく歩くと、中央広場に到着。
しかしここ、結構広いのに何回見ても、中央広場と言うか闘技場の付属品感が否めないよなぁ。
それだけ闘技場が立派なのだ。
俺達の他にも、多くのプレイヤーが見られる。
皆トーナメント目当てで来たんだろうな。出場者か観客かの違いこそあれ。
しかし、広場に入るなり周囲に戦慄がはしったような気がするんだが。
少し耳を澄ませてみると、こんな会話が聞こえてきた。
「おい、あれ花鳥風月じゃね?」
「ホントだ。魔王が居やがる」
「あの人らもでるのか。そら出るわな」
「おい、誰か勇者呼んでこいよ……さっきそこで見たからさぁ」
「おおう、まさかこの時間帯にぶつかるとか……出直そっかな。」
「出直すって、何時だよ。初トーナメントはのがせねぇべ」
「うわ魔王かよ……洒落になんねぇ。出場申請前で良かったぁ」
「さっきグロリアスが入っていったよね? こんな所で頂上決戦が見られるとか……こりゃ観戦決定だ」
「魔王まじ自重……」
「おい、フレに緊急連絡だ!」
魔王ってなんだ。
なんとなく俺のことじゃないかなぁ、という気はするが何故そんな物騒なあだ名が定着してるのか。……最近なんかしたっけな? ギルド対抗戦のMVPだし、有名になれば通称みたいなのを付けられるのは覚悟していたが、魔王……
そんな疑問を抱えながら、闘技場のホール内へと足を運ぶ。
ところで、ここの受付は、受付とは名ばかりのインフォメーションセンターみたいな扱いだ。
そりゃ、一個しかないカウンターで沢山のプレイヤーを捌ける訳もないしな。並ぶような手間が省けていいけど。
出場申請やらなんやらは、専用メニューから行う。
プレイヤーカードの発行もそこから出来たことだが、まぁ、俺の場合他に人が全く居なかったし。
では早速、参加申請と行こう。
専用メニューを開いて、参加申請をしようとすると、どうやら参加料500Lが必要なようだった。
昨日の時点での俺の全財産は14L。
……昼間狩りにでてて良かったぁ。
―――
『さぁ、いよいよ始まりました、PvPトーナメント! 今日は個人戦のみの解禁となりますが、多くのプレイヤーさんにご参加頂いております! 有難うございます!
さて、このトーナメントは今後、『IWO』のAI三姫の一人と名高いこのわたし、パトロアが司会を務めさせて頂きますよー。え? 聞いたことない? そんなアナタはさっさと街のクエストを洗ってくださいねっ。そしてわたしの隣の眼鏡君が~?』
『はい、記念すべき第一回解説係に当選した、ロキシです。皆さんの代表として、精一杯解説を行いたいと思いますので、よろしくお願いします』
『しっかし決闘の解説なんて役割を試しに募集してみたら、案外たくさんのプレイヤーさんから応募貰ってわたしびっくりですよ。半分ネタだったんですけどねー』
『ぼくの前でネタとか言わないでください。なんか傷つくんで……』
熱気に満ちた、円形闘技場。
数万人は収容できるのではないかと思わせる観客席にいる人の数は、1000人にも満たない程度であるにもかかわらず、その熱狂度は闘技場を覆ってあまりあるものだった。
観客席の中段辺りに設置された、前面がガラス張りとなっている箱型の実況室。その中では一人のプレイヤーとAIが、漫才を繰り広げていた。
観客席と、そしてモニター越しの、俺が居る選手控室に堂々と映されるそれ。
第一回目だから普段より豪華にやってるらしいが、いいのか、これで……
「選手控室」は、同じトーナメントに出るプレイヤーが、何箇所かに分けられて控えている部屋だ。
第一から第十六まであるらしく、俺が居るのは第六控室。一緒に居るのは、九人(俺を含めて十人)のプレイヤーである。
他のメンバーは、カリンとエリザが第三控室、フレイが第四控室、ノエルが第七控室、リッカが第八控室だ。ギルドチャットで確認した。
しかし、この部屋の空気の悪さはどうにかならないのかなぁ……戦い前でピリピリしてんのは分かるけど、ピリピリし過ぎてまるでお通夜だな。
ところで、今回のトーナメントの参加者の人数は78人だそうだ。
それをまず、「予選」でふるいにかけるのがこのトーナメントのルール。
「予選」の内容は簡単。
同じ控室のプレイヤーでバトルロイヤルを行い、最後に残った一人を本選出場者とするというだけ。控室の数だけ本選出場者が選出されるのだ。
今回は第八まで控室を使っているから、本選出場者は八人となる訳だな。
そして俺の予選は、第六控室なので六番目。
一回の予選の制限時間は確か20分だったか? ……おおう、約二時間も待ち時間あるのかよ。そこから更に本選も合わせるとなると、終わるのは一体何時何だろうな……
『――だよー。それと、待ち時間については、戦いの始まる十五分前までに控室に戻ってくれれば、何してもオーケーですので!
闘技場から出ても結構ですが、必ず十五分前までに戻って来てくださいね。でないと、出場破棄扱いで失格、折角のトーナメントにでれなくなっちゃいますのでー』
『ええと、後は……この闘技場内では、体感時間加速装置により時間が闘技場外の二倍の速度で進むそうです。ここで起こったことは、全部外の世界の半分の時間で済むということになりますね。ですので、トーナメントには多少時間がかかっても大丈夫と言う訳です。ただし、この事をしっかりと覚えておいて頂かないと、闘技場外にでて、また戻って来る時が怖いですので、ご注意ください。
ちなみに、闘技場内の時計は外の時間とここでの時間が分かる仕様となってます。といっても、目盛が二倍なだけですが……てか、一プレイヤーであるぼくにこんな事まで解説させていいんですか?』
『待ち時間が30分あるからって、外で30分過ごしてると、闘技場では一時間経過してますからねー。気を付けてください! あとロキシ君、それが信頼だよ』
『そっか、信頼かぁ……えへへ』
『……うわー。ちょろすぎる』
ナイスタイミングで説明が入ったな。どうやら時間の事はあまり心配いらなそうだ。
体感時間加速装置を使うにはその都度政府の許可がいるらしいが、恒久的に使用する許可でも取ったのかね? まぁプレイヤーとしては有り難い限りだけど。
『それでは前置きはこのくらいにして。早速予選第一回戦、いってみよう!』
『えー、ルールを守って正々堂々戦って下さいね、だそうです』
ワァァァァァアアアアアアアア!!
こうして、第一回『IWO』PvPトーナメントは開幕したのだった。
〝ベルセルク〟による基礎Str上昇値
+4→+3に変更