第八十二話 クリスマスオフ会のお話⑧
同日投稿第二弾。ラストです
そして20時頃に、閑話を一話投稿予定。
リアルの話は今週でまとめてやらぁ!
そしてそれから皆で朝食をとり、玲花が持参したスマ○ラの最新作で一通り盛り上がったり、プレゼント交換会(!)をやったりした。
プレゼントなんか用意してないんだが……と呻く俺に、玲花が一言。
「あ。すみません、伝え忘れてました」
……おおう。そこはしっかり伝えて欲しかった……
皆が手にそれぞれプレゼントらしき箱を持っている中、これは気まずい。どうしようかと思案していると、玲花がにやにやと笑みを浮かべながら、ポケットから手帳を取り出した。
一ページ分綺麗に切り取って俺に渡してくる。
「何だ、これは」
「ふっ……”白紙の券”です」
「なにそれ」
「九乃さんのプレゼントはこれにしましょう。そうですよね、プレゼントを用意していないのなら仕方ないですよね。なにかで代用するしかないです。仕方ないのです!」
やたら仕方ないを強調する玲花。
聞くと、”白紙の券”とは要するに、受け取った人がそこになんでも一つお願いを書いて、それを俺が叶えるというアイテムのようだった。
なにその肩たたき券臭漂う代物。
まあでも、皆割と乗り気なようだし。
ならば良いかと、俺のプレゼントはあっさりそれに決まった。
テーブルの上に大小の箱(と紙きれ)が置かれ、カリンによってぺたぺたと番号付きの札が貼られていく。
紙切れは六番だ。
「じゃあ、このくじを引こうか。自分のものが当たってしまった場合は、まあ周りと要交渉としよう」
「よっしゃあ! 絶対六番を引き当ててやるんですからっ!!」
腕まくりをして、やる気満々な玲花。
なにやら背後に炎が見える気がするんだが。
「プレゼント交換会って、こんな私利私欲にまみれたイベントだったか?」
「一部ではそうらしいわね。嘆かわしいわ」
「その一部のサンプルがそこに居ることもな」
「じゃあ、選んでくれたまえ」
カリンが声をかけ、ぞろぞろとその周りに集まる俺達。
俺は誰のプレゼントが来ても当たりみたいなものなので、特に考えずに選んだのだが、玲花は最後まで迷って結局余りものという本末転倒っぷりである。
阿呆かと。
割りばしでできたくじを皆が掴み、そして一斉に引き抜いた。
「とぉぉおお!! っし。さて、何番ですか……ね……」
気合い十分でくじを見た玲花が、ピシッと凍りつく。
そしてその後、ぶるぶると震えながらおぼつかない足取りで俺の方に歩いてきた。……なんだ?
手には勿論、番号の書かれた割りばしがある。
肝心の番号はというと……
「六番か」
「ら、りょ、る。ろ、ろくばん……。ろくばんですよくのさん……」
「呂律が回ってないぞ。クスリが切れた薬中みたいになってんだが、大丈夫かおい」
「あわわわわわ」
ぷるぷると震えながら、俺につかまり立ちをするように縋る玲花。
そうしてしばらく俯いていた後、ぴたっと震えが止まった。
「や」
「……や?」
がばっ、と至近距離で顔を上げる玲花。でこがぶつかりそうになるのを回避して、意味不明な言葉に問いかけを発した次の瞬間――
「やっっったぁぁぁあああああああああ!!!!」
「のわっ!?」
耳元で放たれる、屋敷を振るわせるような大音量。
肺活量すげぇなこいつ、なんてどうでもいい事が頭をよぎった。
そしてメンバー全員が注目する中、玲花はガクガクを俺を揺すりながら喜びをアピールする。
「ちょ! 九乃さんやりましたよ! 六番ですよ、六番……や、やっと私にも運が向いてきて……うぅぅぅ……」
「や、泣くほどかよ……」
「はい"ぃぃ……」
何故か今度は泣きだす玲花。
い、意味分からん……その感情の振れ幅の、百分の一でいいから俺に分けてくれないかなぁ、なんて思ったり。
しかしどうしよう。エリザに引き続き玲花まで泣かせてしまった(?)ようなんだが……あぁあ……
おろおろしながら、とりあえず背中をポンポンと叩いていると、カリンが近づいてきた。
「カリン、ヘルプミー」
「そのまま少しすれば、勝手に機嫌が良くなると思うよ?」
「ホントか?」
「ああ、確実にね。私が嘘を吐いたことなんてあったかい?」
「……イカサマ師が言っても説得力が欠片も無いな」
「ちょっと待とう。私のイメージがそれで固定されるのは余りにも心外だ」
いやでも、リバーシしてもトランプしても、なんかせこい手ばっか使うじゃないですかー……
「勝ちに貪欲なだけさ」
「かっこよく言ってんじゃねぇよ」
そんなこんなカリンと言い合うこと数分。
いつの間にか、玲花の泣き声は聞こえなくなっていた。代わりに聞こえるのは、鳴き声……
「ふー。わふー」
「玲花? そろそろ離れないか?」
「んふふー。やぁですよ~」
柔らかな栗色の髪を、これでもかと俺の胸にすりつけながらご満悦の玲花。
この性癖は清十郎さんに報告した方がいいんだろうか……いやでも、なんか俺がとばっちりくらう気がするなぁ。
仕方ないので、少し頭を使って玲花を退治しよう。
「おい玲花。別にこのまますりすりしていても構わないが、その場合白紙の券の願い事、それにしとけよ?」
「え?」
「だってそうだろ? 俺が嫌がることを続けようと思うのは、純然たるお前の願いなんだから。……玲花はこんなつまらんことに券を使うのか?」
俺の胸に頭を押し付けたまま静止する玲花。
そしてその体勢のまま、すすー、と俺から離れていく。向かった場所は、俺と玲花以外の全員が、プレゼントを取り終わったテーブルだ。
……そういや俺も、自分のプレゼントを取ってなかったな。
俺の番号は、四番。残っているのは、桜色の包装紙をした長方形の小箱だ。
「あ! それわたしのプレゼントですね」
ノエルがてくてくと寄って来て言う。
「ノエルのか。そりゃ楽しみだな……プレゼントって、ここで開けてもいいのか?」
「はい、毎年そうですね」
「構わないよ、クノ君。というか、皆もう開けているわけだし」
カリンにもお墨付きを貰ったので、早速開封といきますかね。
玲花はなぜか、紙切れをもってむーむーと唸っている。おおかたお願いの内容でも考えてるんだろうが。
手際良く包装をはがしていると、カリンが感嘆の声をもらした。
「凄いねクノ君。何をどうやったら、そんなに綺麗に包み紙をはがせる……というか、テープを切断できるんだい? 見た所爪を使っているようだけど……」
「ん? あぁ、エッジを研いでるんだよ」
「……え?」
「ん?」
「(……ちょ、物騒だよ!?)」
「(……エ、エッジを研ぐってなんなんでしょう……)」
こともなげに答えると、何故か固まってしまう二人。
「?」
そんな不思議な一幕もありながら、俺は無事包装紙の解体を終える。
中から出てきたのは――
「おお、凄いなこりゃ……流石ノエル」
「えっと、少しだけ自信作です。早めに食べてくださいね」
「了解。ありがとな」
「いえいえ」
上面だけ透明なフィルムが貼ってあり、中身が覗けるようになっている15cm×25cmくらいの底の浅い箱。
その中には、精緻な装飾のされた食品の芸術――和菓子の詰め合わせが入っていた。
自信作ってことは、手作りか? いやホント凄いな。
食べるのが勿体ないくらいだ。
「わぁー! ノエルちゃんのプレゼントかわいー! いいなークノくん」
俺のプレゼントを覗きにきたリッカが箱に手を伸ばすが、ひょいと取り上げる。
「やらんぞ。これは俺が家で一人で楽しむ!」
「えー。けちんぼ」
「くはは……お茶の淹れ甲斐がありそうだなぁ。メイドさんにしごかれたお茶汲み技術を役立たせる時がきたようだ。くははは……」
「ぶーぶー」
「無駄に大仰ね……」
っと、エリザも来たか。
「……いや、お茶汲みとか正直普段全く役に立たないからさ……なんかテンションがおかしくなってたわ」
普段はティーバッグの麦茶で十分だし。
そこから何故か、エリザとお茶汲み談義が開始される。ノエルも中々話がわかるようで、三人で盛り上がった。
エリザは紅茶、ノエルは日本茶が得意分野だそうだ。俺はどちらも仕込まれたが、やはり二人には一歩及んでいないようだな……残念。
ノエルは抹茶も立てられるらしい……少し離れたところで、仲間になりたそうにこちらを見ているなんちゃってお嬢様とは大違いだなぁ。
話が一段落する。
やはりお茶は奥が深いなぁ、なんて感慨にひたっていると、玲花が近づいてきた。
「どした? 話に入れないからって拗ねるなよ」
「いや、拗ねてないですよ!?」
「ん? そうか。ならいいんだが」
どうももじもじとしていて、やはり様子がおかしい。
……いや、良く考えたら大体いつもおかしいか。
「……なら大丈夫だな、うん」
「なんかよくわかんないですけど、それに同意すると私の尊厳的なものが無くなってしまう気がしますよ!?」
「そうか? じゃあどうしたんだよ」
何かを躊躇する玲花の手には、先ほどの紙切れ。
ふむ。
「よっと」
「あ、あの実はですね……私も、お願い事決めた――ってあれぇぇ!? 券が無いぃ!?」
言いながら右手を前に差し出し、愕然とする玲花。
しかし大丈夫だ。なぜなら券はすでに――
「”日曜日に、九乃さんとデートがしたいです。十時に駅前の噴水で待ってます”、か……ふむ」
「え? あれ? えぇ!? なんで九乃さんが券持ってるんですか! 返してくださいー!」
「いいだろ、どうせ俺が実行することなんだし……しかしデート?」
「あああぁぁああ!! 言っちゃだめですぅ! 後でこっそり、」
「デート?」
俺の背後から、そんな底冷えのする声が聞こえる。
「あぁエリザ。いやな、玲花が例の紙切れ使って「わぁぁあああ」うるさいぞ玲花」
ふーふーを鼻息を荒げながら、鬼気迫る表情をして俺を部屋の隅に連れていく玲花。どうしたよ。
「九乃さん。この券は、お家に帰ったら読んで下さいって言うつもりだったんですからね!」
「ん? なんでだよ」
「……い、いやだって、デートですよ……? 皆に知られたら、恥ずかしいじゃないですか」
「恥ずかしい……? どこが」
「……どーせ九乃さんと私では温度差があるんだろーなー、なんてことは分かっては居ましたがね……居ましたがね!」
ぐっと拳を握って言う玲花。……暴力は駄目だぞ?
「と・に・か・く! このことは他言無用なのです。いいですか!?」
「まあ、玲花がそこまで言うのなら反対はしないが」
「積極的に賛成してください……お願いします……」
涙目で懇願する程のことなんだろうか?
まぁとにかくそんな感じで、日曜日は玲花とデートに行くことになった。
……駅前か。さて、プランはどうしようかねぇ……
パン!
プレゼント交換会の熱も少し収まった頃、乾いた音が響く。
前にでたカリンが手を叩き、注目を集めたのだ。
そして、にっこりと笑いながら、
「じゃあ、恒例のあれをしようか」
と宣言した。
―――
恒例の、あれ?
なんだそれ。
俺以外のメンバーは「そうですねぇ」などと分かってるみたいだが、あれってなんなんだ。
首を傾げている俺に、カリンは言葉を発する。
「クノ君は今年が初めてだから説明するとだね。早い話、記念撮影さ」
「記念撮影……あぁ、まぁ折角の機会だからな。妥当か」
「納得してくれてなによりだよ。じゃあ、今年の衣装を決めようか」
「……衣装?」
何故に、衣装。このままじゃ駄目なのか?
「今年は丁度、サンタとトナカイが同数ずつになるわね。……クノ。一応聞いておくのだけれど」
「何だ?」
「ミニスカサンタと、トナカイの着ぐるみ。どっちがいいかしら?」
衣装って、そういう意味かよ。
まさかのコスプレか。いや、イベントに合わせた思い出になるだろうし、確かに良いんだが。
……その二択、俺に選択肢なくね?
「……トナカイで」
「でしょうね……ごめんなさい。流石に男物のサンタ服を作るのは間に合わなかったのよね……トナカイなら一つ余っていたから、それを着てくれると嬉しいわ」
「エリザが手作りしてるのか?」
「ええ。中々の完成度だと自負しているわよ?」
そういって、自信ありげに笑うエリザ。
本当に器用だなぁ。こりゃ楽しみだ。
「エリザさん……今年は私にサンタ服を着させてもらえないですかね?」
「フレイ、そこは平等に決めないといけないだろう。まぁクノ君は仕方ないとしても、毎年じゃんけんで決めてきた訳だし」
「ですよねー」
「というかフレイちゃん、去年もサンタさんだったじゃないー?」
「そうですね。一昨年もサンタだったような気がします」
「そういうノエルちゃんはずっとトナカイさんだよねー」
「はい……」
落ち込み始めてしまうノエル。どんまい。
そうして、ミニスカサンタ服を着る権利をめぐって、女たちの仁義なき争いが始まったのだった――
「「「「「じゃんけん、ぽん!」」」」」
2分後。
俺達は、エリザに連れられて「衣装部屋」へときていた。両側の壁はほとんどがクローゼットとなっていて、奥の方には試着室が十個ほど。
「では、各自着替えて頂戴」
そう言ってエリザは、俺にトナカイの着ぐるみを。
そしてカリン、ノエルにはサンタ服を。
玲花、リッカには俺と同じトナカイの着ぐるみを手渡すのだった。
最後に残った赤い服は、勿論エリザの着る物だ。
「うーん。サイズが少し小さいかな? スカートが……」
「は、初サンタですっ!」
「なんでここぞという時に限ってぇ……」
「トナカイさんも案外いいものだよー?」
「黒いサンタ服にすればよかったかしら?」
各々が話しながら、試着室へと引っ込む。
とりあえずノエル、良かったな。そして玲花はどんまい。
後、エリザ。黒いサンタはやめましょう……
俺も試着室のカーテンをして、手早く着ぐるみに着替えていく。
といっても、ジャケットを脱いで上から着ぐるみを装着するだけだったのだが。冬場と言う事で、暑くもないし。むしろ快適です。
こりゃ、ミニスカサンタよりトナカイの方が当たりだと思うんだがなぁ。
シャッ、とカーテンを開けて出ると、皆の着替えが終わるまで待機。試着室の一段高くなっている床に座って、目を閉じる。早く着替え終わらないかなー皆。
周囲からは僅かな衣擦れの音が聞こえる。
あぁ、この中で男一人というのは、地味に苦痛ですね……
シャッ、と今度は隣のカーテンが空き、エリザが出てくる。
「意外と早いな」
「このくらいは慣れよ。いつももっと面倒な衣装を着る事もあるしね」
「成程。……しかし似合ってるな、エリザ」
心からの称賛。
いつもの黒一色の露出の少ない服とは違う真っ赤なミニスカサンタの服は、見慣れない新鮮な驚きを俺に与える。しかしそれはただの驚きでは無く、とても似合ってるからこその驚きだ。
厚手の生地だが、冬場には少し肌寒そうなタイト系のミニスカート。そこから伸びる真っ白な脚は、膝丈の黒いソックスに覆われている。エリザの生足とか、超レアだな。
しかしやっぱ美少女は何着ても似合うもんだなぁ。
「有難う。クノも中々……と言いたいところだけれど、正直その無表情にトナカイの着ぐるみはシュールすぎるわね」
「そうか? 鏡で見たがよくわからん……」
シュールか、そうか……
……むしろ意外と気にいってただけに、ちょっとショック。
「ところで。ねぇクノ。さっきのデートって……」
エリザが遠慮がちに声を発する。
「ん? あぁー、うん……」
なにか聞きたそうにしているが、玲花と他言無用と約束したし、話すわけにもいかない。
どうしたもんかと考えていると、エリザはふっと微笑んだ。
「いえ、いいわよ。追及する気もない……というより、推測はできてるしね」
「……そうか。それは助かるな」
「その上で、これは私の独り言なのだけれど」
「ん?」
「楽しんでくるといいわ。別に私がどうこう言える話じゃないというか、そういうのは分かっているのだけれど……フレイのこと、ちゃんと楽しませてあげるのよ?」
「独り言に応答は?」
「必要ないわ。……私はこれでも、フレイに少し負い目を感じているのよ。それこそ、泥棒猫と罵られてもしかたないくらいに。……いえ、そもそも盗っていないというか、誰のモノにもできそうにないくらいに鉄壁なのだけれど」
独り言だからか。
エリザの話はいつにもまして意味が分からない。
「物事には天秤があると思うの。……私はもしかすると、悪い方の秤にフレイの幸福をのせて、自分の直接的な不幸以外で幸せの釣り合いをとろうとしているのかもしれないわね」
「それを理解しても、私の行動は変わらないのだけれど。私は欲張りだから、もっともっと幸せになりたいと思っているし……それがいつかくる不幸を、とんでもなく大きなものにしようとも」
「……幸せにだけなるには、どうしたらいいのかしらね?」
そういってエリザは、
悲しげに笑った。
「……なんて、ね。独り言は終わりよ。ごめんなさい、意味の分からない事を言っているようにしか聞こえなかったでしょう?」
「まあな」
「予想通りというか、それが一番の問題点なのだけれどね。これは、はたして私の手に負えるのかしら……。一生このままだったらと思うと、うすら寒いものを覚える半面、少しほっとするけれど」
……うん。
……俺の理解の範疇で喋ってほしいなぁ。
―――
そして全員が着替え終わって、俺達はそのまま屋敷の外へ。
毎年記念写真は玄関ポーチの辺りで取るんだとさ。外は昨日の雪が嘘のように、からっとした晴天。所どころ雪が解けて水たまりになっている。
……この格好で外出るとか、結構恥ずかしいな。
しかし周囲を見てみると皆慣れたものなのか、特に動じることなく各々ポーズの確認をしている。どっかの戦隊ものかよ、と思わないでもないんだが、まぁこれもノリだろう。
ちなみに俺は正面左端で、片膝を突いて中央を称えるような手の動きである。その中央はカリンさん。まぁ……妥当かな。
しかし片膝を突くと、カリンのすらっとした長い脚が目の高さに来ていけない。エリザのように長いソックスを履いておらず踝辺りまでばっちり見えている。
スカート短すぎない? ……いや、カリンの脚が長すぎるのか。
「それじゃ、いきますよ~! セルフタイマー、オン!」
脚立にセットしたカメラのスイッチ押した玲花が、ダッシュで集団に戻ってすかさず決めポーズ。
そして、
――カシャッ――
俺が初めて、『花鳥風月』メモリアルに残った瞬間だった。
―――
その後また着替えて諸々の帰り仕度をし、オフ会は無事、終了となった。
「それではさよならだね、皆」
「ばいばーい!」
「お世話になりました、エリザさん」
「写真は後で送るわ」
新幹線等を使って長距離を移動しなくてはいけないらしいカリン、リッカ、ノエルが屋敷から去り、俺と玲花、そして屋敷の主であるエリザが残る。
往復で大体一万弱って言ってたか? 正直学生にはかなりきつい額だろうし、こりゃお正月も集まって初詣、とかは無理そうだな。
実際カリンもそんなような事言ってたし。
まぁ、VRで会えるし良いんだろうけど。
「どうします? 九乃さん。私達も帰りましょうか」
カリン達を外で見送って、玄関まで帰って来た後。
玲花が再度てくてくと外に出ていき、扉を開けたままこちらを振り返って聞いてくる。
「そうだな……あんまり居ても、エリザがゆっくりできないだろうし」
「あら、私は大丈夫なのだけれどね。なんなら、その……いつまででも居てくれて、いいわよ?」
そんな事を、玲花に背を向け口ごもりながら言うエリザ。
えらく真剣な雰囲気がするが、そういう訳にもいかないだろうに。
俺も確かに、いつまででも居たいなー、なんて昨日のベッドを体感して思わなかったこともないが、それとこれとは話が別だろう。
ふと、昨日味わったこの屋敷の静けさを思い出す。
もしかしてエリザは、その寂しさに耐えかねて……いや、まさかな。
だとしても、流石に俺ではいろいろと不味いだろう。
頼ってくれとはいうものの、そういうのは将来良い人が出来たら……なんだろう、胸の辺りがむかむかする。
「……なんて。冗談よ」
俺が言葉を返せずにいると、エリザは軽く笑って、俺に背を向け玲花の方に歩いていった。
……。
なんだ、冗談か……エリザの演技力の高さには、感心するな。
将来女優にでもなれるんじゃないだろうか?
何故か張りつめていた息を、大きく吐き出す。
「フレイ……あまり扉を開けっぱなしにしないでくれるかしら?」
「あ、すみません」
そんな会話が聞こえ、二人がこちらに歩いてくる。
先ほどのことはそれはそれとして、そろそろお暇しますかね。
そして俺達は連れ立って、すっかり待機場所として定着した食堂から荷物を取って来て、エリザの家を後にするのだった。
―――
「それでは九乃さん、また明日VRでです! あんなにお家が近いのに、わざわざここまで送っていただいて有難うございました。あ、それと日頃も遠回りして一緒に帰ってもらって、その……」
御崎邸の、大きな門の前。
エリザ家からずっと歩いて、一時間くらいでようやく到着である。まあこの時間は、玲花の歩幅に合わせたからってのがあるんだが。
「気にすんなって。俺が好きでやってることだしな……じゃあ、また明日」
「はい、では! 後、日曜日のこと忘れないでくださいよ!? 忘れられたら私、割とガチ泣きしますからね!?」
ガチ泣きって……うん。
「善処しよう」
「そこは忘れないって確約する場面ですっ! ホントに、もう……」
「冗談だよ、忘れねぇって」
「ならいいんですが……そういえば九乃さん、券にデートって書かれてても、あっさり受け入れてくれましたよね? あれって、もしかして」
期待と諦観が入り混じった表情の玲花。
……なんで半ばあきらめ顔なのかが釈然としないんだが。
「……まあ、なんだ。玲花には普段お世話になってるからな。単に遊びに行くんじゃなくてデートにしたのは、そういう意味なんだろ?
安心しろ、精一杯楽しませてやるよ」
「――え?」
瞬間、ありえないものを見たような表情になる玲花。
……え? なんか俺変なこといったか?
「要するにアレだろ? 一日彼氏とか、そういう……」
「……あー。うん、あぁ~。なんでしょう、凄く近いような、果てしなく遠いような。その……うーん」
まぁ、普段に比べたらあり得ないくらい前進なんでしょうが……なんて呟く玲花。
うーん? とりあえず、正解ということでいいのかな。
なら、いっか。
「おい、そろそろ俺帰るぞ」
「――むむー……」
「おい?」
「……あ、はい! すみません、お引き留めしてしまって。では、さらばなのです」
「おう、さらばだ」
玲花に手を振り、御崎邸から離れ始める。
「……と、とにかくデートはデート、ここで私の魅力をガツンと……ふふふふふ」
背後からなにやら不穏な気配がしたのは、きっと気のせいだな、うん。
しかしオフ会、中々楽しかったな。
何度目かも分からないが、『花鳥風月』に入って良かったと、心からしみじみする。
と、その時。
「のわぁああぁああ!? あうっ!」
突然響いた叫び声に反応し、ばっ、と振り返る。
するとそこには昨日の雪で滑りやすくなっていたであろう、綺麗に舗装された御崎邸の道ですってんころりんと転んで、脇にあった雪の固まりに頭からダイブしている玲花の姿が。
どこまでも残念なお嬢様だこと……俺は慌ててとって返し、御崎邸の大きな門をさっさと登ると玲花の救出に向かう。
「あぅ、あぅ……ぷはぁー。し、死ぬかと思いました……」
「大丈夫かおい」
「すみません、大丈夫です……へくしゅ」
「とりあえず着替えて、暖かくしてろ」
「はい……最後の最後に迷惑かけて、申し訳ないですぅ」
「いつものことだろ。じゃ、今度こそまた明日。風邪引くなよ」
「はいっ! ……ってあれ? 九乃さんさっきさらっと、家の門乗り越えました? 上の方凄い尖ってるし滅茶苦茶高いんですが」
「……気にすんな」
不法侵入を疑われても困るので、今度はちゃんと内側から鍵を開けて門の外にでる。
玲花に鍵閉めを依頼して、俺は今度こそ帰路につくのだった。
……余談だが。
その後二回程玲花が転んで、最終的に俺が屋敷まで付き添って、そのままメイドさんに捕まったのは、言わぬが華というものだろうか。
大勝利エリザ、ひたすらエリザなクリスマスイベントでしたね。
来週からは通常通り、クノ君がVRで暴れるお話ですので、ご安心ください。
おまけ、メンバー全員のフルネーム
クノ→藤寺九乃 フジデラ ココノ
フレイ→御崎玲花 ミサキ レイカ
エリザ→近衛理紗 コノエ リサ
カリン→田嶋花梨 タジマ カリン
リッカ→坂上律火 サカガミ リツカ
ノエル→二条聖 ニジョウ セイ
オフ会中に自己紹介はしていますが、描写を忘れていました。
クノ家からの移動中にしていたということでひとつ。