第七十九話 クリスマスオフ会のお話⑤
先週に引き続き、同日投稿 第一弾
エリザの部屋でちょっとした騒動が有った後。
無事食堂でクリスマスケーキをおやつとして食べて、現在は食休み中だ。
なんとなくこういうのは夜に食べるものという気がしていたんだが、曰く「太っちゃうじゃない」とのこと。
まあ、量が量だったしな……
昼食での態度が嘘のようにエリザと接することができて、俺は一安心。むしろエリザは過去最高に機嫌が良くなっていた気がする。
ただし、唯一事態を良く理解できていないらしい玲花からは、「何が起こったというのですか!?」と驚かれたが。
ノエルやリッカでさえ察していたというのにね。
「ふんふふ~ん。ふふ~ん」
その玲花が今度は何やら、自分の荷物の中から平たい箱を幾つか持ちだしてきた。
何々――? ってあぁ、オセロか。
その箱が三つ、テーブルの上に置かれる。
「丁度人数偶数ですし、ここは私の得意ゲーム、リバーシをいたしましょう!」
元気に声を上げて、宣言する玲花。
「トーナメント的な?」
「流石九乃さん鋭い。その通りなのです。というかこのリバーシ、ぶっちゃけると、私がリバーシなら九乃さんに勝てるかも、という淡い希望を抱いて持参して来たものなんですが」
「成程。ちゃんと人数分用意してくるあたり、偉いな」
頭を差し出してくるので、撫でてやる。
はあ、犬かと。
「むふふ~」
いやもう、犬だな。
尻尾があったら千切れてそう。
しかしそうなると、俺は人間なので犬に負けるわけにはいかないなぁ。
「よかろう玲花……かかってくるがいい」
「……あっ、ちょっと手加減とかして貰えると、私凄い嬉しいなー、なんて……」
「始める前から弱気になるなよ」
さっきの強気どこいったよ、おい。
そうして始まる、大リバーシ大会inエリザハウス。
オセロじゃねぇの? と聞いたら「リバーシです!」と胸を張って言われた。なにかこだわりでもあるんかね。
第一回戦は無難に、俺VS玲花。
エリザVSカリン。
ノエルVSリッカの対戦カードとなった。
「まぁ、頑張れよ」
「対戦相手に応援された!?」
「じゃあとりあえず、四隅は譲ってやるから……」
「そんな勝ち方びっくりする程嬉しくねぇですよ!?」
「手加減無用よ?」
「望むところだよ、エリザ。しかしリバーシか……イカサマがしにくいな」
「しないで頂戴」
「手加減無用といったじゃないか!」
「貴女にとって手加減=正攻法での勝負なの……?」
「リッカ、意外とボードゲーム得意なんですよね」
「うん、超得意だよー。あとねー、チェスとか、将棋とか、モノポリーとか!」
「ここでモノポリーを挙げる辺りが、リッカの本気度を表わしていますね」
「ふふーん。ここを通りたくばあたしを倒してからにしろー!」
「リッカ、それ割とフラグです」
「では、試合開始ですー!」
玲花の声が食堂に響き渡り、各々試合が開始される。
ちなみに俺の服装の件だが、エリザが食堂に暖房をいれてくれた事で万事解決した。ああ、暖かい。
「さーて、じゃあ行きますよ~」
先攻は白い駒の玲花だ。
別に俺が下手という訳ではないが、なんとなく白い駒を身体が拒絶したので。
先攻後攻はじゃんけんで決定。なんともそこらへんは適当である。
「ていやっ」
「一番最初に、力む要素は0だろ」
黒が一つひっくり返って白になり、ここからが本当の試合開始である。
さて……どうしてやろうかね? まずは四隅を取らせてあげることからかな……
そして十五分後。
「よっしゃぁああああ!!」
「あ、負けちまった」
盤の前でガッツポーズをする玲花と、頬を掻く俺の姿が有った。
敗因は、まぁ、なんだ。
終盤までなかなか玲花が四隅を取ってくれなかったので、頑張って黒い石を並べて四隅を取らせようとしていたら、最後の最後で取られて大部分をひっくり返されてしまった訳だな。
四隅取られる前は圧倒的に勝ってたんだが……別名、玲花がプライドを捨てたとも言う。
というか、捨てさせたようなもんなんだが。
途中から、勝敗云々よりもどうやって玲花に四隅を取らせようかという思考になってたしな。
まあ普通にやっても結果が見えてたし、いっか。
「なっ……クノ君が負けたのかい!?」
「嘘でしょう?」
「……信じられません」
「うそー……」
途端に周囲から、思いっきり疑われる玲花。
ガッツポーズがなよなよとしぼんで、涙目である。
「私が九乃さんに勝ったら、そんなにおかしいですかっ!?」
「「「「うん」」」」
「ぐっはぁ……私もう立ちあがれない気がしますよ……」
がくりと膝をつき白く燃え尽きる玲花を尻目に、俺は皆の盤を見て回る。
エリザとカリンは……なんか、黒が不自然なくらい優勢なんだが。
石がとこどころ変に飛んでいて、まるでそこだけ単体でひっくり返したような……
「おい、この試合黒はどっちだ」
「残念なことにカリンよ……あら? さっきと配置が違うような」
「き、気のせいじゃないかな……?」
生気の宿らぬ深淵と呼ばれる瞳で、じっとカリンの黒の瞳を見つめる。
「じー……」
「うっ……。な、なんていうかその、ね? 手加減無用だといったから、ほら。さっきのも振りかなーと思ってだね。こう……。すみません、つい出来心でやりました……」
「正直でよろしい」
と言う訳で、エリザVSカリンは、カリンの反則負けになりましたとさ。
そして次にノエルとリッカ。
ノエルが白で、リッカが黒だ。ゲームは終盤、今のところ五分五分と言ったところだが……
ふむ、ノエルが勝つな。
そして3分後。
「むむむむー。ちょっと待って! ノエルちゃんちょっと待って!」
「リッカ……もう置く場所は二つしかないですよ?」
「待って! 今から起死回生の策をー!」
「……が、頑張ってくださいね」
更に3分後。
「ノエルちゃん……じゃんけんで勝った方がどれか好きな石をひっくり返せるというルールはどうだろう! どうだろうー!」
「いえ、それはもうリバーシじゃない気が……」
「どぅだろぅーー!!」
「……わかりました、そうしましょう」
更に10分後。
「わかった、じゃあそうだね……プリン! 給食のプリンあげるから! だからこの二つの石を振って、黒が出たらあたしの勝ちで!?」
「リッカ……黒と白が出た場合は?」
「黒がでたからあたしの勝ち!」
「もうそれリバーシ関係ないからな!?」
スパーン。
どこからかエリザが持ってきたハリセンを使って、リッカの頭を軽くはたく。
「うぎゅ」
「……今のはリッカが悪いですね。わたしもフォローできないです。というか、すみませんクノさん」
「いやいや、何故にノエルが謝るんだか」
ノエルの保護者っぷりが板につきすぎてるわぁ……完全に母と子だったぞさっき。
最終的に、リッカがこっそりと石を振った結果まさかの二つとも白で、ノエルの勝ちが決定した。
リッカさんェ……
そして準決勝戦。
三人でじゃんけんをして勝った玲花がシードとなり、エリザとノエルが対戦。ノエルは奮戦したものの、やはり最後はエリザが勝利した。
決勝は玲花vsエリザ。
正直誰もがエリザの勝ちだろうと思っていたのだが……
「っしゃぁああ!! ほら! 勝ちましたよ九乃さん! 私だってやればできるんですよ!?」
「まさか、普通に強かったなんて……違う意味で拍子抜けね」
興奮して俺の背中をばんばん叩く玲花と、素で驚いているエリザ。
うん、まさか玲花が勝つなんてなぁ……正直俺も思って無かった。
「まぁでも、フレイのスペックは確かに全体的に高かったね……」
「そうですね……よくよく考えるとそんなにおかしいことでは無いのですが……何故か釈然としません」
「日頃のおこないってやつかなー?」
「せめて普段からもっとびしっとしてればな。こんなに残念な空気にはならなかっただろうに」
「あーっはっはっは! エリザさんに勝ったぁ!」
微妙な雰囲気の俺たちをよそに、一人笑いながらテーブルの周りをスキップで一周している玲花。
……喜びすぎだろ。最近玲花がどんどん残念な子になっていってる気がするが、そう思うのは俺だけなのだろうか?
一周終わって戻って来た玲花は、そのまま俺に突っ込んでくる。
うまく衝撃を消しながら抱きとめてやると、随分とご満悦な表情で目を閉じる玲花。「わふー」など漏らしている辺り、再三に渡って言って来たがもうこいつは駄目かもしれん……
「九乃さん、なにか勝者への賞品的なものはないんですかっ!?」
「自分で言いだしたろ、この大会。用意してると思うか?」
「ふっふっふ。そう言うと思って、ちゃんとこちらで賞品の内容を考えてきましたよ」
「貰う側が勝手に決められる賞品ってなんだよ……」
何故か得意げな玲花は、未だ俺にひっついたまま、びしっと指さしで俺の頬を突き……そして言い放った。
「ぷにぷに……。九乃さん……今日の晩御飯は、君に決めたっ!」
「俺を食うのかっ!?」
―――
玲花の発言は勿論、晩の食卓に俺が並ぶと言う猟奇的なことではなく。
今日の晩御飯は、俺が作れというものだった。
曰く、「九乃さんの手料理、いつか食べてみたいと思ってたんですよぉ」だとさ。
俺は悲惨なことになりそうだからやめておけと言ったのだが、何故か他のメンバーもうんうんと頷いて、最終的に押し切られる形で、こうして今厨房に立っている。
まぁ、人数的に勝てるわけないですよね……
妥協案として、俺が作るのは一品のみという条件までこぎつけたのだが。
ちなみに料理は指定されて、肉じゃがを作れとのお達しだ。
他の料理はエリザとノエルが作るので、二人も現在俺の隣に立っている。
玲花、カリン、リッカは三人でどこかへと消えていった……エリザに聞いてみたところ、きっと大広間でどたばたやるんじゃない? との事。
大広間というと、エリザの部屋を探してた時にちらっとのぞいた、食堂の二、三倍はありそうな部屋のことだろうか。
床は衝撃を吸収しそうなマットで覆われていたし、確かに雪が降っている中どたばたするのには最適だろうなぁ。
ちらっと外を見た所、かなり勢いは収まっていたが、それでも依然降りやむ気配はない。
明日とか凄い積もってそうだな……確実に雪合戦とか勃発しそうだ。
「さて……じゃあ頑張って料理するかね」
「……クノの料理姿が間近で見られる……。エプロンと三角巾は欠かせないわよね」
「つけろと? てかどっから出したんだよ」
「この服、改造して収納ポケットを増やしてるのよ。ちなみにそれは、スカートの中から……」
「おい!?」
「ふふ、冗談よ?」
「……なんだ、冗談か。まったくもう、エリザは」
「……夫婦ですか」
「「何か言ったか(しら)?」」
「いえ、なんでも」
―――
という訳で、夕食。
大広間に玲花達を呼びに行ったら、なんかバトってて驚いた。
どういう展開でそうなったのかはよくわからんが、年頃の女の子がリアルで殴る蹴るの応酬はどうかと思うんだ……一応、プロテクターみたいなのは付けてたけど。
「いえ、カリンさんに少し空手を習おうと思って……ちょっとエキサイトしてしまいました」
「いやぁ、玲花は中々動きが良くてね。流石の私も少し熱くなってしまったよ]
「たのしかったよー?」
「まぁ、それはいいんだが……夕食だからな」
「あぁ、分かったよ。クノ君の料理、楽しみだね」
「絶対期待外れになると思うんだ……」
全員が食堂に揃い、各々の席に料理が配られる。
玲花が俺の作った肉じゃがを見て不思議そうな顔をしているのだが、どうしたんだろうか?
「あれ?」
「どうした玲花」
「……思ったよりも普通に普通の肉じゃがですっ……!?」
「何を期待してたんだおい」
「もっとこう……光ってたりとか」
「それは肉じゃがでもなんでもねぇよ」
何故か不満そうな顔をしながら、それでも肉じゃがを口に運ぶ玲花。そして一回二回と咀嚼して、目を見開いて嬉しそうな顔で、こう言い放った。
「味がしない! やっぱり九乃さん、普通じゃなかったです!」
「おい」
「しかし、不思議な食べ物ですねぇ! 凄いです!」
「おい」
何に喜んでるんだコイツは。
……流石に、味がしないとまでは行かないはずなんだが。
こう、ね。ちょっと薄味と言うか、料理本来の味が儚くもフェードアウト気味だけど、何かしら味はするだろう。
「……本当だね。味がしないよ」
「いえ、これは単に味がないんじゃないわ……食材の味が、しないのよ」
「なんでしょう、こう……微妙ですね。食べられない程でもないですし、口当たりも良いのですが」
「なんだろ、粘土で作った肉じゃがを食べてるよーなー……うーん、いやそこまで酷くないんだけど、なんだろー……」
皆、不思議そうに首を傾げながら肉じゃがを食べている。
俺も一口……うん。何時も通り微妙な味である。
慣れからか、もうこの味わいの無さには違和感ゼロなんだけど、なんでこうなってしまうのかね……
エリザ辺りの作る料理と比べると、雲泥の差すぎて泣けてくる。
「「「「「「うーん」」」」」」
そうして不思議な雰囲気のまま、夕食は終わってしまった。
……だからやめた方が良いって言ったのに。