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第九話 ギルドのお話②


「かなり脱線しちゃったけど、話を戻そうか。察しろうんぬんはまぁ置いとくとして、要するに俺が他のギルドに入らなきゃいいのか?フレイ」

「他のギルドに、というか、できれば傍にいて欲しいっていうか」


 フレイは赤くなりながらそう答える。・・・可愛いな、おい。

 もしかして。

 VRといえば半年前の出来事があったからか?だから、俺に傍にいて欲しいと思ってる?

 ・・・でも、今のフレイには信頼できる仲間が俺以外にもいるしな。あの時とはまるで状況がちがうんだし、そこまでして俺にこだわらなくてもいいんじゃないかなー、とも思う。まぁ、懐かれてるってのは単純に嬉しいんだが。


「むしろなんでクノ君はそこまで拒否するんだい?今度はそちらの理由をきかせてくれないか」


 なぜか。というのは、とても単純な理由だ。昨日西のフィールドで狩りをしていて気付いたこと。

 それは、


 ―――俺、パーティープレイできないな。

 

 ということだった。学校では一回限りだと思っていたからオーケーを出したんだが、継続的にとなるとなー。できればフレイとタッグというのも避けたい、かな。


 なぜか、というと、まず大抵の敵は一撃で終わってしまうため、パーティーメンバーと協力して敵を倒すということが(今の時点では)できないからだ。

 正直俺に限って言うと、仲間がいると敵が分散して逆にやりにくくなるだけだ。

 自分にむかってきた敵をまとめてなぎ倒す。Str極振りにとってはこれが一番効率のいい方法なんだ。


 そして、回復魔法なども必要ない。

 ロゥドッグごときで0になるHPなんぞ回復しても意味はないからな。【不屈の精神】は一度しか発動しないし。

 更に言うと盾も、どちらかというと邪魔になってしまう。

 遠距離攻撃だけ受け止めてください、後は全部俺が片づけます、なんて不遜なこと、とてもじゃないが頼めない。それじゃただのアイテム扱いだ。


 後、単純に一人の方が気兼ねせずに楽にプレイできるってのもあるな。


 と、こんなことを「花鳥風月」のメンバーに話してみる。


「なんてピーキーな戦闘スタイルよ・・・それは流石に予想外だったわ」

「つまり一緒に戦闘ができないから、ギルドにはいるのも無理だということかい。そういう訳か。ふむ・・・じゃあ、妥協案をだそうじゃないか」

「妥協案?」

「ああ。私たち、というかフレイはクノ君になるべく傍にいてほしく、クノ君が他のギルドに所属するのが嫌だ。クノ君は私たちと一緒に戦闘をするのが嫌だ」


 、嫌とまではいってないんだけどなー。思いっきり力をふるうためには一人の方がやりやすいと言ったまでだ。・・・ほぼ同じ意味か?


「そこで妥協案だ。クノ君は「花鳥風月」に入るが、戦闘については自由とする。・・・これでどうだい?」

「えーと?・・・つまりギルメンだけれど、狩りは一緒にしない、と」

「そうだね。所属を「花鳥風月」にすれば他のギルドには入れない。後、うちにはエリザがいるからね。ここを拠点として、装備関係は全てエリザに任せて欲しいんだよ。そうすればクノ君は上質な装備が手に入るし、損はさせないと思うよ」

「そうね。ちょっと頑張るわよ?」


 それなら俺にデメリットはないな。

 ギルドホームを拠点にすれば宿屋代も浮くし。(12時間以上ログインしない場合は、宿屋でログアウトしなくてはいけない。宿屋以外でログアウトして12時間たつと、強制的に始まりの街「リネン」に戻されるからだ。今は気にする必要はないが、ゲームを進めていくにつれて宿屋は重要なものになってくるな)

 ただ、


「カリン達はそれでいいのか?ほら、迷惑じゃ・・・」


 女だけのところに一人だけ男の俺がはいったら場の空気が乱れる、的な、ねぇ?


「いや、構わないさ。ここにいる者はみんな、君の人となりをフレイからある程度聞いているからね。その辺は気にしなくても良いよ。それに、クノ君が入ってくれれば丁度ギルド対抗戦にも出場できるからね」

「ギルド対抗戦?」

「その名の通り、ギルド同士の抗争だよ。βテストの時に一回おこなわれてね。その時に製品版でも開催するといっていたから、このメンバーで是非参加してみたいのさ」


 俺以外のメンバーを探せ、って言うのは野暮なんだろうなー。

 少数精鋭でも目指してるのだろうか。知り合い限定、みたいな。そうなると俺は、一見さんお断りの店に、常連客から紹介された、みたいな感じか?


 まぁでも、いい、かな。そこまで言われたら、受けようじゃないか。


「んー、わかった。そういうことなら、俺を「花鳥風月」に入れて欲しい」

「あ、終わりましたか、お話」

「長いよ、もう。人生ゲームが一回終わっちゃったよ~」


 話に参加してなかったノエルとリッカはどこにあったのか人生ゲームをやっていた。・・・ホントどこにあったんだよ。


「ノエルもリッカも俺がはいってもいいのか?」

「はい、大歓迎ですよ」

「あたしも全然おっけーだよ~」


「では、加入申請を送ってくれるかい?」

「はーい、っと」


 俺は《Guild》から「花鳥風月」を検索、加入申請を送る。


 ギルド「花鳥風月」への加入申請が許可されました


 ギルドホームの機能が使用可能になります


 ふとフレイをみると、にまにまと笑っていた。・・・嬉しそうだなー。


「えーと。これから、よろしくお願いします」


 ぺこりと頭を下げてみる。すると、


「「「「「お願いします」」」」」


 ギルドホームにメンバーの声が響きわたる。歓迎されているようで、ホントなにより。


「じゃあそういう訳だから、エリザ」

「なにかしら」


 エリザに早速話しかける。もとはといえばこれが始まりだったな。

 条件はクリアしたんだ。俺にはこれを頼む権利があると思う。


「俺に装備つくってくれ」

「・・・そうだったわね。要望は?」

「まず武器なんだが、長剣を頼む。できるだけ攻撃力とリーチと耐久値のあるやつ」


 俺の戦い方だとすぐに耐久値が減るからなー。今はもうエリザがいるからいいけど、最悪自分でスキルをとって直そうかと思っていたぐらいだ。(【修復技能】というスキルで、街でのみ使用可能。専用の道具も必要だ)


「それならいいものがあるわね」


 そういってエリザはおもむろにウインドウを展開し、操作し始める。

 他のメンバーは一仕事終わったと言わんばかりにくつろいでいる。あ、俺も人生ゲームやりたいな。


「これを貴方に授けるわ」

「ははー」


 エリザは操作を終えると、ウインドウから取り出した一振りの真っ黒な長剣を差し出してきた。

 全長は130cmってところか。長めで、黒く細身な刃、鞘や柄には黒地に材質の違う黒で綺麗に装飾もしてある。分類的にはバスタードソードに入るか?

 フレイの言ってた腕がいい、ってのを疑っていたわけじゃないが、こうして形にして見せられると凄いな。職人はプレイヤースキルが必要不可欠だったはず。エリザはそういうセンスが高いのだろうな。


「えっと、これは?」

「私がβテストの時に作った武器よ。βテストで作った武器は、一種につき一つまで持ち越せたの。で、それの長剣版」


 性能を見てみると、


「黒蓮・壱式」 Str+140


 強いな!?・・・確か「古びた長剣」が+35だったから、それとくらべるとどれだけこの武器が上質なものかがよくわかる。


「これはなんの素材で作ったんだ?真っ黒だが」

「職人系のスキルに色やデザインを変えられるのものがあるのよ。素材はβテストの時の最高レベル、レベル20相当のものを使っているわ。まぁ、自分でとってきたんじゃなくて、オルトスってプレイヤーから仕入れたのだけど」

「オルトス?って、ああ!ここに来る前にフレンドになったわ」

「フレンド?それは運がいいわね。彼はβテスター最強といわれているぐらいなのよ」


 そんな凄い人だったのか、オルトスさん・・・


「じゃあ、武器は有り難くこいつを使わせてもらうよ」

「そうしてくれると嬉しいわ。で、防具のほうなんだけれど」

「防具かー」


 Agiつきの防具をみて閃いた、防具にStrもつけられるんじゃないか?ということエリザに話してみる。すると、


「できると思うわ。いままでやったことは無かったけど、Dexつきは出来たもの」


 あ、できるんだ。


「じゃあそれで頼むわ」

「わかったわ。防具の概念を根本から覆してあげる」

「お、おう。頑張ってくれ」


 無表情ながらもやる気に満ち溢れているエリザさん。まぁ、たしかにそれができたら、もう防具じゃなくて武器の部類だよなぁ。


「デザインと素材は全てこっちにまかせてもらえる?」

「ああ、頼む」


 フレイのワンピースや「黒蓮・壱式」を見た限り、俺よりセンスがあることは明白だからな。

 素材も、俺の手持ちはロゥドッグとホーンラビットしかないし。


 で、だ。肝心なのは・・・


「で、代金はいくらくらいなんだ?」


 恐る恐るといった感じで聞いてみた。「黒蓮・壱式」だけでも結構な額だと思うんだよなぁ・・・ツケとか効くだろうか・・・


「何言ってるの?代金なんかとらないわよ・・・ギルドメンバーからお金をとるようでは専属職人とはいえないもの。素材はギルドのメンバーがとってきたものを使うし、「黒蓮・壱式」の素材だって貰いものだもの」


 え?ホントにそれでいいの?


「その代わり、しっかり使ってくれる?あ、後私以外の武器職人や防具職人の所にいったら許さないから」


 ・・・了解っす。 


 防具の完成は明日以降だそうだ。エリザと装備について話し合った後、皆でトランプだのチェスだのオセロだのをして、その日は終了した。・・・ギルドになんでボードゲーム各種が取りそろえられてるんだろうな?




トランプなんかは、ギルドホームの備品扱いでついてくる。多分暇つぶしとか、ギルメンと交友を深めるため。

クノの攻撃力の高さでパーティープレイしようと思ったら、敵はボス級の防御力とHPでないと駄目っぽい。


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