第七十五話 クリスマスオフ会のお話①
同日投稿第一弾
第二弾は正午に投稿です
クリスマス当日。
特に寝過ごすというようなことも無く、充分に二度寝をしてから時計を見ると11:20分。まぁ、間に合うな。髪に手を差し入れながらベッドから身体を起こすと、部屋着(黒いスウェット)のまま洗面所へと向かう。
そう言えば今日は、父さんがお昼まで家にいるんだったかな……なんか昼食は任せろとか言われてたけど、はたして大丈夫なんだろうか。
確か父さん、俺よりも料理できなかったはずだが……
冷水で頭をしゃっきりさせてから、リビングへと向かう。
さて、どんなモノが用意されていることやら。というか、時間的に今まさにお昼ご飯作ってる頃かね?
ドアに手をかけ、そしてふと違和感に気付く。
ドアの向こう側から、複数の気配が伝わってくるのだ。この家には父さんと俺しかいないはずだが……まさか、泥棒?
大穴で分身の術を使った爺さんの襲来という線もあるが、さてどうするか……
一瞬考え、とりあえず気配を消して物音ひとつ立てずに自分の部屋まで戻り、武器になりそうなものを探す。
泥棒だったら楽だが、爺さんの場合だと何かリーチのある獲物が欲しいからな。
ぐるっと見まわして、最終的に押し入れから一本の細めの木剣を取り出す。
なんてものを持ってるんだとは思うが、昔爺さんに渡された訓練用のものである。しまった場所覚えといて良かった~。爺さん仕様なので、耐久性も問題無いだろうし。
そしてそれを携え、いざリビングへ。出入り口が一つしかないので正面突破しかないのが悔やまれるが……しかし爺さん相手で不意打ち成功したこともないし、今はいいか。相手は波○拳を撃てるような化物だ。
というかまだ、相手が爺さんと決まった訳でもないが……
何時でも攻撃に対処できるように心身を落ちつけ、覚悟を決めてドアを一気に開け放つ。
とたんに、俺に飛来する影。
「やっぱりか……」
それを迎え撃つように、鋭く引き絞った木剣を高速で突き出し――
「ぬあぁぁああ!?」
「……ん、あれ?」
――それが目標に当たる寸前に、ぴたりと止める。
俺の眼の前で、ぺたんとへたり込む影。
否、その正体は……
「……玲花お前、俺ん家で何やってんだ」
「うわわわ、うわーやべーです、こえーです……」
何故か、よそ行きの服に身を包んだ玲花だった。
思わず目を細めて半眼で問いかける。「ひゃっ」と後ずさる玲花。
おい。
「玲花だけじゃないんだな、これが」
「「「お邪魔してます」」」
「ん?」
声に顔を上げると、そこには四人の少女がいた。
と、いうか。
まんま『花鳥風月』メンバーだと分かる顔ぶれなんだが……
「……えー」
黒いゴスロリを着ているのはエリザだし、その隣の長身の女性は黒髪ポニーテイルだがカリンだろう。後ろの二人はそれぞれ黒髪と明るめの茶髪で髪型は変わっていない、ノエルとリッカか。
というか、エリザの方を見ると耳まで朱に染めて顔を逸らされたんだが……
「どうした、エリザ?」
「いっ、いえ! 御免なさい、なんでもないわっ」
「……そっか」
なんかもやもやするが、本人がなんでもないと言っている訳だし大丈夫、かな? しばらく見ていると、「うぅー」と呟きながらもこちらを向いてくれたし。
いつの間にかエリザの隣に立っていた玲花が、なにやら不穏な雰囲気を醸し出しているのも、きっと大丈夫だろう。うん。
しかし本当に、『IWO』のアバターの髪と眼の色が変わっただけの皆さんである。服装はまちまちだが、『IWO』の時とイメージはあまり変わらない。普通は髪色がこんな劇的に変わっていたら違和感を覚えるんだろうが……特にそういうことはないな。なんでだろかね。やはり雰囲気が同じだからだろうか。
顔弄ってないってホントだったんだなー、と少し感心して、何故皆が俺の家にいるんだという疑問がくる。
そして次の瞬間、その疑問は底抜けにテンションの高い声によって氷解した。
「驚いてるようだが、パパが入れたのだよ! クククッ! 貴様も隅におけなくなりやがったなぁ、全く。こんな見目麗しい少女が五人も、しかもクリスマスに訪ねてくるとは……おい、貴様何股中だ?」
「あー、はいはい理解。そして何股も何も、俺は未だに彼女いないから」
「なぬっ!? 貴様まだ彼女も作ってないのか!?」
リビングと続いているダイニングの方から、エプロンを付けた長身の髭が出てきて、大体の事情を把握する。この髭のおっさんは、俺の父親。
つまり父さんが昼食を作ってるかなんかしてる最中に五人がきて、女好きの父さんがほいほい中にいれたと、そういう訳だな。
五人は大方、エリザの家から俺の家が近い事を知って、俺を迎えに来たとかだろうが……
我が家の防犯意識は、一体どうなってるんだろうか。
父さんはほいほい女の子を入れるし、母さんは母さんで宅配便の人に留守番を任せるし……俺は三宅さんと言う前例があるし。
これまで何事もなかったのが、不思議なくらいのずさんさだよなぁ、なんてしみじみ思う。まぁ、仕事以外での両親のポンコツさは割と分かってるけど。
「(クノ君は今、驚いていたのかい? 全然表情変わって無かったと思うんだけど)」
「(いや、わかんなかったですね……というか私が一番びっくりしてますよ!?)」
「(流石親子、といったところかしらね。そしてさっきの事は、触れない方が良いのかしら)」
「(出会いがしらに剣持って、なんてどういった家庭環境なのでしょうか?)」
「(流石クノくん、ふつーじゃないねー)」
「(それで済まされることでは……クノ君なら済みそうだな……)」
リビングのソファー辺りに固まって、こそこそと何かを話す「花鳥風月」メンバー。
人様の家で何やってんだ。そしてそれを見て相好を崩す父さん。……母さんがいたらまたフルボッコにされそうだな……
「いやぁ、たまの休みもイイものじゃねぇか。これで今日からまた仕事にたいしてフレッシュな気持ちで取り組める! クククッ」
「おい、笑い方が悪役まるだしなんでやめてくれないか」
ただでさえ、どこぞの秘密結社に所属する悪の貴族みたいな風貌なのに。
髭を剃り落としたらかなり一般受けすると思うんだが、何故か頑として譲らない変人な父親である。
「という事でパパはもう仕事に行くから! 冷蔵庫にカップラーメンを冷やしておいたから、皆で食べろ。じゃ、あばよ!」
すばやくエプロンを取り払うと、その下から現れたのは皺一つないきっちりした高級スーツ。父さん自慢の戦闘服である。他は割と質素なくせに、スーツにだけはやたら金をかけるんだよなぁ。
そして冷やされたカップラーメンをどうしろと……。今は冬だぞ。
何が任せろだというのか、あの阿呆が。
宙に舞って俺の元へと寄越されたエプロンを、すかさず蹴り返す。
「のわっ、九乃!?」
「脱ぎ捨てるな、ちゃんと洗濯籠に入れろ。誰が部屋中から洗濯物かき集めて洗濯すると思ってんだ父さん?」
「……九乃はどんどん母さんに似ていくなぁ、クク……」
しゅんとしてエプロンを拾い、素早くドアの向こうへと消えていく父さん。
が、一瞬後にはドアから顔をだし、俺にこう告げる。
「ああ、そうだ! 一つ忠告だが……女遊びはほどほどにしとけよ? それと、近いうちにまた仕事の方手が足りなくなるかもしれんから、召集がかかるかもな! じゃ、そゆことで!」
「いやだから、女遊びとかそういうんじゃ……『バタンッ』流石俺の父親、早いな!?」
玄関の閉まる音が聞こえてきて、父親の出勤を知る。
ちゃんとエプロン洗濯籠にいれただろうな……? てか召集って。偶に父さんの仕事を、バイトという形で手伝っているのだが、すっかりお馴染みになってしまったようだ。
まぁ、自分で小遣いが稼げるから、別に良いんだけどさ。ただ、幾ら父さんがお偉いさんだからって高校生に事務仕事を任せるのはどうかと思うんだ……
「あのー、九乃さん?」
ドアを見てため息を吐いていると、後ろから玲花に声をかけられる。
あぁ、そういや皆をほったらかしにしていたな。
「おー、ちょっと待ってろ。すぐにお茶淹れるから。てか父さんも早くお茶くらい淹れれるようになってくれりゃあ有り難いんだがな……」
先ほどのカップラーメン発言から、それは望み薄かもしれない。
すると玲花はぶんぶんと手を振り、
「え、あいやお気になさらずに! 私達はちょっとした好奇心で九乃さんを迎えに来ただけですし。……てかむしろ九乃さん、早く着替えません?」
「ん?」
あぁ、そういえばまだ部屋着のままだったか。てか、やっぱり俺を呼びに来たのな皆。
集合時間まではまだ時間が有るが……着くの早かったんだな。
そんな興味本位で訪ねられるこっちはいい迷惑……という程でもないし、いっか。
「オーケー。じゃあ着替えてくるから、少し待ってくれ。適当にその辺で寛いで……るな。そのなじみ具合もどうかと思うんだが」
「貴方のお父さんに座っておけと言われたのよ。かなり迫力満点気味に」
「なにか妄執をかんじさせるような気迫だったね、あれは。一体何が彼をそこまで駆り立てるんだろうか?」
きっとそれは、美少女が自分家のソファーに座るという下心だ。すまん、皆……
心の中で謝罪して、自分の部屋に戻って着替える。黒いジーパンに長袖の黒いシャツ、そして黒いファーのついた、暖かい厚手のアウターを羽織って素早く準備完了だ。え? ファッションセンスが酷い? ほっとけ。
リビングに降りると、もの珍しげにきょろきょろと部屋を見回していた皆に、外を指さしながら告げる。
「待たせて悪かったな。じゃあ、行こうか」
「……黒いわね」
「……黒いね」
「……黒いです」
「……真っ黒だー」
「何時もあんな感じですよ? なまじ様になってる辺りが何とも言えないですが」
「なんか文句でもあるのか、おい」
人を見るなり黒い黒い連呼しやがって……ってそれは自業自得ですね、はい。でも女子勢のお洒落度には負けるが、俺だってそこそこ頑張って服装を選んでるんだよ?
その結果が真っ黒なだけで。
「いえ、文句はないわよ。私も似たようなものだし」
「気にしないでくれ、クノ君。特に貶めるつもりは無いし、むしろ似合っているよ」
「……そか、有難うな。皆も似合ってるよ、その服。やっぱり現実でも美少女だな」
本当に、俺が近くに居るのも勿体ないくらいの美人さん達である。
父さんは女遊びがどうとかいっていたが、こんな綺麗どころを捕まえて何股もするとか万死に値するだろう。
「そういうことをさらりと言える辺りがまた……いや、それは良いか。有難う、クノ君」
「むふふー。そりゃあ似合ってるでしょうとも! なんてったってこの日のために気合い入れて選びましたからね! もっと褒めてください!」
「その自己主張はどうかと思いますよ、フレイさん」
「うん……流石にないと思うなー」
「がーん」
年下二人に窘められる玲花。うん、俺も流石に無いと思う。
そうしてオチがついた所で、俺達はいざ、エリザの家へと向かうことになった。外から見た事はあるが、中は一体どうなってるんだろうな、あの屋敷。
やっぱり御崎邸みたいな感じなんだろうか……すこしわくわくである。