第六十七話 合流のお話
「あー、畜生。あの馬鹿、死んだまま帰ってこないとか何やってんだ。お陰で探しに来ちまった」
「ヤタガラスのことですから、また誰かプレイヤーに絡んでいるのでは? やはり早期に回収するべきでしょう」
「っぽいッスね。ほら、あそこ」
「あーホントだー。何やってんだヤタガラスー。てかクリスティーナもいるぞー」
俺達が闘技場に向かって歩きだした直後。
背後から聞き覚えのある声が聞こえたので振りかえってみると、そこにはオルトスさん……と、他三人のプレイヤーが愚痴りながらこちらに向かって来たところだった。
他三人は、敬語で話す長い青髪の女性と、中途半端な敬語の癖っ毛の少年、同じく癖っ毛で、兄妹と思われる間延びした口調の少女だ。
察するに、ヤタガラスはオルトスさん達とパーティーを組んでいて、そして死に戻った所を俺に絡んで逆に捕獲されたって所か……?
だとしたら、悪い事をしたな。オルトスさん達に。
仕方ない。ヤタガラスは回収して貰うか。
俺は近づいてきたオルトスさんに声をかけようとするが、
「っておお? クノじゃねーか。そうか、お前らもこの街に来てたんだな。はっはっは」
会って早々、豪快にばんばんと背中を叩かれる。軽く吹っ飛びそうになったが、堪える。力強いよ……
俺は仕返しとばかりに、隣で静かに俺を見つめていたエリザの肩を持ち、オルトスさんの前にグイっと差し出す。形としては、俺がエリザの背後霊になった感じだな。
「え? え? 何かしら?」
「さぁ、オルトス。久し振りに会ったんだ、何か話そうか?」
「ぐ……あ、お、いや……勘弁してくれ……いきなりぶっ叩いたのは悪かったって……」
エリザをちらっと見て、凄い勢いで顔を赤くし後ろを向くオルトスさん。
おっさんが、真っ赤になって、生娘のような反応をする。
……なんだろう、誰も幸せにならなかったな……
「うん、ごめん。俺が悪かったな……エリザも、いきなりすまん」
「……い、いえ。大丈夫よ」
エリザの肩から手を離し、なんとなくぽんぽんと頭をなでる。
髪の毛サラサラだな。
「……何をしてるのかしら?」
「あ、すまん。なんか小さい子に謝ってる感覚になって……」
「……ふんっ」
ゲシッ
「いてっ。すみませんでした!」
「私は言うほど小さくないわよっ」
「いやホントごめんなさい……」
げしげしと脛を蹴ってくるエリザに平謝りしながら、オルトスさんとの会話を続行する。
「……仲が良さそうだな。羨ましいぞ」
「オルトスさんにもいるじゃん、可愛い子が。そこの青髪の人とか、癖っ毛の人とか。てかその人らは大丈夫なのか?」
「流石にこんだけ一緒にいりゃあ、慣れの一つや二つ出てくるからなぁ。しかも年齢的に、どちらかと言うと娘のような感じだ」
「え?」
癖っ毛の人はともかく、青髪の人はどう見ても二十歳超えてると思うんだけど。
オルトスさんも流石にそんな歳くってなさそうなんだが……見た所、精々二十台後半だ。
「お前の言いたいことは分かるが、あいつ――ニノンはまだ17だぞ?」
「まじか……って、んー。17でも娘というと、あんまりしっくりこないぞ?」
「気持ちの問題だよ。俺が老成しすぎてんだろうけどなぁ……はぁ」
そういって遠い目をするオルトスさん。何があったんだろな。
「まぁいいや、それはどうでも」
「俺の嘆息を、どうでもいいの一言で流すお前は凄ぇよ」
「実はオルトスさんの所のヤタガラスなんだが」
「ああ、そういや俺はそのために街に戻って来たんだったな……知り合いか?」
「不本意にも、割と昔からな……そいつが遅れたのは、俺と話したからなんだわ。すまんな、オルトスさん」
「あ? そうだったのか。まぁ知人に会ったら話の一つや二つするよな。別に謝られる程のことじゃねぇさ」
懐の深いオルトスさん。
俺も見習いたいものである。
「いや、本来ならあんな奴無視するべきだったんだが、こちらの都合で仕方なく、つい話をしてしまったんだ……本当に申し訳ない」
「……あいつは本当にお前の友達なのか?」
「誰がいつ友達と言った? ……実はヤタガラスと決闘でもしようという流れになってたんだが……まぁパーティーから引っこ抜いてまですることじゃないからな。存分に持って帰ってくれ。あとあいつの弱点は、目玉を抉り取る事だから、最終手段として覚えとけ」
「そんな人類共通の弱点を教えられても困るんだが……というか、やった事あるのか……。それでなんだ、決闘? 面白そうじゃないか。やればいいんじゃねぇの?」
エリザ以外にはもう目的を果たせたようなので、至急ヤタガラスを返却しようとすると、そんな事を言うオルトスさん。
なんでも、別に切羽詰まってる訳でもないし、むしろ歓迎だと。是非見させてくれと言って来た。
「“あの”クノの戦闘が生で見られるとあっちゃあ、期待しない訳にはいかないからな。ヤタガラスでよければ、幾らでも使ってくれ」
「そうか……ではお言葉に甘えるとするかね? あ、でも……見てても詰まらんかもしれんぞ? 俺今回は本気で行く予定だから」
「はははっ。流石にヤタガラスもそう簡単にやられたりせんだろう? では、行くとするか!」
周りを見回すと、いつの間にか皆は闘技場の入り口辺りまで進んでいた。
オルトスさんのパーティーの皆さんも一緒である。ギャラリー増えたなぁ……
「おーいクノさーん!」
フレイ達が手を振る。
それに手を振り返し、俺達は闘技場へと駆けていった。
「……この天然ハーレム野郎め……」
「あ?」
「なんでもねぇよ」
―――
闘技場、エントランスホール。
馬鹿でかいそこにたった十二人しかいないと、なんだか寂しい感じがするな。一人で来たときはそうでも無かったのに、人数が少し増えると……不思議だな。
「ええと、専用メニュー? なんだそれ」
「闘技場の仕様がアナウンスされてたと思うんだけどなぁ。しらにゃいの~? 九の字ぃ?」
「知らん。教えてくれ」
素直に教えを請うと、きょとんとした顔のヤタガラス。
それから慌てて何時ものふざけた面をかぶり始める。くく、見物だった。
「闘技場内でのみ開けるメニューの事だよん。闘技場使ってPvPするときとかは、ここから決闘申請をするんだ。で、決闘をするプレイヤー同士が同じフィールドに飛ばされるとー」
「成程ね。俺は良く分からんから、お前が申請してくれ」
「あいあいさー。えっと、ルールはHP0までだよねぇ? 制限時間は?」
「なんでもいいぞ。そんな時間かけるつもりもないし」
なんとなく話を誤魔化すために挑んだ決闘だが、ここで本気を出さずに、何時出せと言うのか。
最近はなんだかんだといって、全力出せる機会がとんと無かったからな……
「……ほ、ほう。強気だねぇ九の字。でも僕もそう簡単にはやられないよ?」
「その言葉を聞いて、ますます引き延ばす気が無くなったな。全力で殺しにかかってやるから、有り難く思え」
「……九の字の、全力か……それはある意味、有り難いでござるね。少なくとも嬲られるよりかは……」
「(あのヤタガラスが、びっくりするほど弱気なんだが。なんだアレは)」
「(非常に珍しいですね。あのクノというプレイヤーはそんなに強いのでしょうか)」
「(噂だと、魔王みたいにバリツヨらしいッス)」
「(やべーのかー?)」
「(そうですわね。やべーですわ)」
「(遂にクノさんの本気モード解禁ですかぁ。戦慄ですね)」
「(というか、この空気的にヤタガラスが勝つことは誰も想定して無いわね……)」
「(まぁ仕方が無いんじゃないかな……クノ君だし。とはいえ、ヤタガラスもβテスターだし、そう簡単にやられはしないと思うけど)」
「(わたしとしては、ヤタガラスさんに頑張ってほしいですね)」
「(魔法使い的にはね~。でも魔法の詠唱時間考えちゃうと……前衛と後衛の違いは大きいよねー)」
「(しかしクノ君の移動速度なら、一回や二回魔法を撃てそうな気もするけどね。【詠唱短縮】はヤタガラスも持っているだろうし)」
「じゃこれでよしっと。さぁ行くか」
「ああ皆~。同じ闘技場の観客席に入るパスは「111111」にしておいたからねー。適当にメニューに打ち込んでから観客席の入口をくぐるよ~に。では――逝ってきます――」
次回、PvP
苦情は受け付けません(笑)