第六十三話 登録のお話
無事第三のボルレクススをソロで討伐して、光の門をくぐった俺。そうして出た先は、これまで通り街の中央広場である。
さぁ、ということでやってきました第四の街。
円形闘技場がある、今最も『IWO』プレイヤーが注目している街「ホーサ」。とはいえ、目につくプレイヤーは少ないが。少ないと言うか、俺の他にはこの中央広場には一人しかいないな。
この街の中央広場は巨大な闘技場の前の広場となっていて、今までの中央広場より若干小さめだ。あと、今までの街にはあった、広場中心のオブジェクト的な物もない。
闘技場が目印として機能しているからかね? まぁ、どうでもいいか。
んー、しかし。
とりあえず「ホーサ」に来てみたはいいんだが、正直今はやることが無いな……闘技場でPvPが行われるのも、もう少しここにプレイヤーが増えてからになる訳だし。
ここでのPvPは普通の決闘などとは違い、対戦結果に応じて経験値が入るらしいから楽しみなんだがなぁ。経験値を稼ぎながら、強いプレイヤーを探せるとは……素晴らしいだろ。
しかも、ランキングが上がるにつれどんどん強い人と戦える確率も高くなっていくという。いいね、トーナメント。運営グッジョブ。
……と、そうか。
一応登録はもう出来るらしいから、それだけやっとくかな~。
―――
「はい。ではこちらのパネルに触れて頂きまして、任意で得意武器と二つ名、コメントを入力してください」
「……え? ごめん二つ名って何」
闘技場に入ると、そこは馬鹿みたいに大きなホールとなっていた。沢山のテーブルとイスが設置されており、床なんかも大理石で、でかいホテルのエントランスをさらにでかくしたみたいだな。遠く正面に二つ、螺旋階段が設置されており、そこから上の観客席にいけるようだ。
そして選手は階段奥のドアの向こう側に、控室がいくつもあるらしい。
俺が今いるのは、入口はいって横の受付だ。
早速トーナメントに出場するための、「プレイヤーカード」の登録をしようと思ったんだが……受付の女性NPCの口から、なにやら聞きなれない言葉が飛び出してきた。
何故に二つ名……
「はい。プレイヤーの皆様におかれましては、トーナメントにて表示・呼称される自らを表わす名を、「プレイヤーネーム」か「二つ名」、もしくはその両方とさせて頂いております。
二つ名の登録はあくまで任意です。また、二つ名登録の有無に関わらず、プレイヤーの皆様は、他プレイヤー様の二つ名を考案、提出することができます。
提出された二つ名の中で、誹謗中傷の意図が込められていると判断した物は、わたくし共で取り除かせて頂き、残りはプレイヤー様本人にお送りさせて頂きます
プレイヤー様がその二つ名を使う・使わないは自由ですが、二つ名の利用によってトーナメントがより盛り上がる事が予想されますので、このようなシステムを採用しております。
回答は以上ですが、他に質問等ありましたらどうぞ」
へ~。成程。
こういうのは割と皆好きだろうし、面白そうではあるね。
事実「テルミナススタァ・オンライン」でも二つ名は流行ってたし。
ヤタガラスの場合だったら、「すちゃらか」とか「ちゃらんぽらん」とか「世界ウザさランキング上位独占」とか「炎の聖騎士」とか。
最後のやつに、無性に(笑)をつけたくなるなぁ。
クリスは凄いもので、うちのギルド以外では「女王様」一択だった。ゲーマーの団結力を見た瞬間である。
俺はまぁ……うん、そのなんだ。
「鉄面皮」とか「避ける人」とか「当たらない人」とか「戦慄の幽霊さん」とか……大変不本意だが「偉大なるお世話係」とか……な。
最後のは本当にもう……って感じである。
まぁ、それはさておき。
流石に二つ名なんて自分で決めるのは痛すぎるから、入力は避けておく……あ、だから他のプレイヤーから募ってるのかな? なんか納得だわ。ノリでやってんのか計算されてんのかよくわからんね。
コメントもスルーで、得意武器の欄にだけ「長剣」と入力して終了っと。
「登録完了致しました。では、こちらがプレイヤーカードとなりますので、トーナメントに出場する際にご提示ください。トーナメントの開始は、現在未定となっておりますので、もうしばらくお待ちください。では、有難うございました」
深々と礼をするNPCから離れ、俺は広場へと出る。
本格的にやることがなくなったのでベンチに寝転び(他に人がいないからな~)、「プレイヤーカード」を弄ってみる。
『プレイヤー検索』
『ランダムで表示』
……お。
オルトスさん発見。
他に五人表示されているのは、きっとパーティーメンバーの方々だろう。てか、下のスペースの余り具合からして、最大表示人数が六人ってことはないだろうから……もしかしてこの街、今いるのって俺含めて七人だけなのかね?
単にプレイヤーカードを登録して無い人がいるだけかもしれんが、こんな最前線にいるような人が登録を見逃すとは考えづらいしねぇ……
……って、ん?
俺はオルトスさんの他の五人の中に、妙に見知った名前を二人見つけた。
一人は、なんとクリスティーナ。慌ててフレンド欄の、クリスの情報を見ると、今まで空白だと思っていた所属ギルドの欄に「グロリアス」の文字が。
なんだ、ギルド入ったのか。それもオルトスさんの所で、更に選抜的メンバーとは……流石だね。
そしてもう一人が――
「ヤタガラス」
・得意武器:長杖だよん
・二つ名:虹の魔道士
・コメント:僕の私の、皆のヤタガラスさんだぜ! いえ~☆
ヤ タ ガ ラ ス
アイツかぁあ!?
いや、クリスがプレイしてる以上、居ても不思議じゃないんだが……まさかオルトスさんのギルドにいたんかい。武器長杖って、魔法職かよ。前は大剣使ってたんだが。まぁ、その辺りについては、俺がとやかく言えることでは無いか。
クリスとは兄妹そろって、結局同じギルドなのね。まぁ、ヤタガラスがクリスをしつこく勧誘したとか、そういう話がどうせ裏で展開されてるんだろうけど。
しかし……相変わらずイラッとくるなぁ。偶にくるメールと、ノリが全く一緒なんだけど。こういう所ぐらいは、ちょいと自重しようぜ……
はぁ。まぁいいか。
別に今更アイツがいると分かった所で、特に不都合もないし……いや、会ったら俺の精神値が削られるから不都合はあるな。なるべく遭遇しないことを祈ろう。
俺はプレイヤーカードをメニュー画面に戻して、実体化を解く。
広場には、先ほどいた男性プレイヤーはもう居らず、完全に俺一人だけとなっている。
うちのギルドの皆にも早く来てもらいたいもんだね……
って……そういえば。
俺結局、第三のボスはソロで倒してしまった訳だけど……なんかフレイ辺りに怒鳴られる気がするな。これは、早めに自首しといた方がいいかね? よし、そうしよう。
ってか、真っ先にまずギルドに連絡するべきだったよねっと。
ギルドチャットにて、報告。
クノ『ボルレクスス討伐しましたー』
反応を待つ。
「帰巣符」使ってギルドホームに直接いこうかな~、と考えだした頃、応答が来た。
ボイスチャットに切り替えて、ギルドの皆と話す。ボイスチャットとは、離れたプレイヤーとも会話ができて、話した内容が一時的にログとして残るものだな。
フレイ『……まじっすか』
カリン『……嘘?』
エリザ『クノならやりかねないわね』
リッカ『早くな~い!?』
ノエル『いえ……クノさんならあるいは……』
クノ『本当。今「ホーサ」にいる』
クノ『プレイヤーカードの登録もしてきた』
フレイ『うへ~……とりあえずクノさん』
フレイ『何やってんですかっ!!??』
フレイ『なんで一人でボス行ってんですか! 私みんなで頑張りましょう的な事言いましたよね!? もうちょっとですね~、とか言いましたよね!?』
フレイ『……でもまぁそれは、挑むだけならいいんです。でも……』
フレイ『な・ん・で、あっさり討伐とかしちゃってるんですか~~~!!??』
クノ『反省はしてない。後悔も以下同文』
エリザ『まぁ、クノだものね……こういう可能性も十分考慮すべきだったわ』
エリザ『むしろ未だに予測できなかった私達の落ち度ね』
カリン『そうだね……クノ君だもの、何があっても不思議じゃないね』
リッカ『だね~。あたしの『ヴォルケイノフ』喰らっても素で無傷とかあり得そうだよー?』
フレイ『流石にそれは無理でしょう……多分』
ノエル『リッカのヴォルケイノフだと、たしか火耐性持ちのブランディアを一撃でしたっけ?』
リッカ『ジャストキルくらいかも』
クノ『ちょっと凄さがわからんのだが……』
リッカ『いや、自分でも結構凄いと思ってるんだけどなっ!?』
ノエル『上位の魔法とはいえ、普通は耐性持ちを一撃とか無理ですからね?』
ノエル『凄いことなんですよ』
クノ『そうか……その上位の魔法とやらも良く分からんが……ボルレクススの開幕ブレスとどっちが強い?』
リッカ『……ボスの攻撃と比べないでほしいなぁ』
エリザ『比較対象がおかしい事に気付いてないのよ、きっと』
エリザ『でも事実、開幕ブレスを魔法で相殺したプレイヤーもいる訳だしね……グロリアスの』
エリザ『その後MPすっからかんで死に戻ったらしいけども』
フレイ『うわぁ』
カリン『というか、何故開幕ブレスなんだい?』
クノ『あのブレスなら相殺できる』
クノ『だから多分ヴォなんちゃらも無傷っぽい、かな~、なんて』
フレイ『あんたホントに人ですっ!?』
カリン『……ク、クノ君なら……』
カリン『……いや、おかしいだろう……』
エリザ『つくづく理不尽ね』
リッカ『……がーん』
リッカ『ヴォなんちゃらじゃなくて、『ヴォルケイノフ』!』
ノエル『流石、というべきでしょうか……』
ノエル『クノだから。皆さんがこの一言で片づけたがるのも納得ですよね』
カリン『おや、ノエルも掲示板は見るクチだったか』
ノエル『はい、嗜み程度には』
エリザ『掲示板を見る行為を嗜みというと、そこはかとなく残念な感じがするからやめときなさい』
フレイ『あ、私も嗜み程度に……』
エリザ『貴方は……元から残念だったわね。ごめんなさい』
フレイ『ひどいっ』
クノ『合ってるな』
カリン『合ってるね』
ノエル『合ってますね』
リッカ『合ってるじゃん』
エリザ『ね?』
フレイ『うがぁあああ!!』
クノ『どうどう』
リッカ『とゆーか、掲示板って何の話?』
クノ『あ、俺も気になるんだが』
リッカ『あたし達だけ仲間はずれよくないよー!』
クノ『そうだそうだー』
リッカ『けしずみんだぞー!』
カリン『最近リッカそれ好きだね』
フレイ『決め台詞です?』
ノエル『決め台詞なんです』
ノエル『わたしも頑張って考えたんですよ?』
ノエル『けしずみん』
エリザ『……そ、そう』
リッカ『流行るといーね~』
ノエル『ですね~』
エリザ『……そうね……』
クノ『脱線してるんだが、掲示板云々は?』
フレイ『クノさんは普段掲示板見ないんですよね?』
クノ『ああ』
フレイ『じゃあスル―推奨なのです。大したことではありませんし』
カリン『だね。本当に、クノ君にとっては大したことじゃないのさ』
エリザ『そうね、それがいいと思うわ』
クノ『……そか。エリザが言うならそうなんだろうな。じゃあいいや』
エリザ『私への信頼度が高くて少し怖いわね……何かしたかしら?』
クノ『日頃の行いだろ。カリンはともかく、フレイはなぁ』
フレイ『聞き捨てなりませんね!?』
フレイ『いや……くっ、ここは大人になるのです』
フレイ『クノさん、今からなんか予定あります?』
クノ『ないな。強いて言うならレベル上げにでも行こうかと』
カリン『だったら私達と合流しないかい?』
カリン『偶には一緒に狩りをしようじゃないか』
エリザ『ちなみに今日は私も狩りに出てるわ』
ノエル『フルメンバーですね』
リッカ『クノくんも来よーよ~』
クノ『ん、いいぞ。どこにいる?』
カリン『「ロビアス」の東側フィールドだよ』
クノ『俺今、ボルレクスス前のセーフティーエリアが最終更新地だけど』
クノ『岩山の上層の方が効率いいんでない?』
クノ『パーティー組めば一緒に転移できたよな?』
カリン『おお、それは助かるね』
カリン『私は一度セーフティーエリアを上書きしてしまっているからね』
フレイ『じゃあ、今日はクノさんがきたら岩山上層で狩りですね!』
クノ『移動はほどほどにな~? 俺のスタミナ的に』
その後、「熱波の岩山」にてギルドの皆と狩りをして、今日は解散の流れとなった。
俺の【惨劇の茜攻】が思いのほか禍々しいと引かれてしまったが、その他は特に問題も無く楽しめたな。今回は俺が腕輪を使って、ギルド皆で強化モンスターを狩ったから、スタミナ面も持続したし。
皆で硬い硬い言いながらモンスターを倒していたのは、なんか新鮮だった。
ただ、やはり今回も俺の役割は砲台だったが。
そういえば“瘴気”は投げた武器にも付随するけど、永続ではないみたいだった。試してみた所、手元から離れてきっちり7秒間で霧散した。そして相手は死んでいる。
ボスですら眼に見える速度でHPを侵蝕されていたのに、通常モンスターが何秒間も耐えられるはずもないからな。
よって、7秒間というのもほとんどは地面に転がった状態で測定したものだったりする。
そもそも投擲だけで死に体だし。投擲の時点で、唯一ブランディアのみがギリギリHPを残した感じだな。なんでも、弓とかの遠距離物理攻撃に耐性があるらしい。
後は、フレイとエリザとリッカのリクエストで、あの食器みたいな投げナイフを乱射してキャーキャー言われたりとかね。何が悲しくて、戦闘中に投げナイフでパフォーマンスをせにゃならんのか。いやまぁ、俺もノリノリだったけどさ。
特に、カリンが凍らせて打ちあげた魚の目玉に、次々とナイフを刺していったのが受けたなぁ……ってか、カリンさん結構凄いよね。あの人も十分普通じゃない範囲だろう。
魔法剣士ってだけでも難易度高いのに、それを完璧に使いこなしてるし。剣も魔法も、どっちつかずにならずに高い水準で纏まっている。攻守補助ができる氷魔法との相性も合わさって、まさに万能といった所だな。
そしてナイフはなんと、99本使い果たすと新たに99本まで戻る仕様だった事が判明。エリザ曰く、99本×3セットを一つのアイテム欄に納めるという謎の技術が使われているらしい。もう意味分かんない……
明日はいよいよ、ギルドでボルレクススを倒すらしいが、皆なら大丈夫だろう。
俺? はは、俺がボルレクススをどうやって倒したか説明したら勿論、
初回での同行は遠慮しろって言われましたよ!
あのフレイですら「うわぁ」と言ってたからね……
ボスをあっさり倒しちゃうくらいの強さってのも、考えものだなと。
実際には、そんなあっさりって事も無く、結構頑張ってたんだがね。
『偽腕』の操作だけでも本当なら「頑張ったで賞」が貰えるレベルだと思うんだよ……ホント。
先に謝っておきます
この物語、出てくる男性キャラクターがウザい奴ばかりで申し訳ないッ……特に意識せずに書いていたら、何時の間にかこうなってたんですorz
やっぱ私自身が好きだからなんだろうか……