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第六十一話 火恐竜のお話①

 


 第三のボス、ボルレクスス。炎を纏ったティラノサウルスだ。


 恐竜といえば、の代名詞であるティラノサウルスを模したそのボスは、とにかくこちらを威圧する攻撃的なフォルムをしていた。

 特にその顎は、大人の男を優に五人纏めて丸のみに出来るほどの大きさを持ち、ギザギザと鋭いナイフのような歯が熱波で怪しげにギラついている。

 歯の隙間からはチロチロと炎が漏れ出していて、蛇の舌のようだ。


 そんなびっくり恐竜さんは、


 GYAAAAAAAAAAA!!


 人間には理解のできない大音量の雄たけびを上げ、身体に纏った炎をより一層激しくたぎらせて開幕早々ブレスをかましてきやがった。


 凶悪な顎から、炎が俺目掛けて放射される。

 なんという初見殺しだろうかね? ちなみにこれは行動パターンが決定されてるらしく、オルトスさんのパーティーも喰らったそうな。なんかパーティーの魔法使いがギリギリ相殺したらしいけど。


 ゴォ、と音を立てて迫る火炎。それに対して俺は、


「【異形の偽腕】【覚悟の一撃】【惨劇の茜攻】」


 火力アップスキルを全て唱え、万全の体勢を整える。

 黒い『偽腕』が四方を囲み、身体から溢れだした禍々しい血の瘴気が周囲を取り巻いていく。うん、やっぱこの瘴気いいねぇ。何故だか気分が盛り上がるよ。


【危機察知】による情報では、このままでは全身をすっぽり包み込まれて死亡だ。勿論、避ける術も避けるつもりもないため、真っ向から迎え撃つ。


 例え固体でない、魔法のような不確かな攻撃であっても、それを剣で相殺できない事は無い。ミカエルのあの光の奔流とかがいい例だ。むしろ、火炎放射なんかは所詮一回一続きの攻撃なので、単発でガトリングされるより楽なくらいだ。


 要するに、その「攻撃」を上回る「攻撃」をぶつけてやれば「相殺」できるのだから。よって炎を吐かれたとしても、俺の攻撃力で剣を振ればダメージは受けない……


 ……多分! でも攻撃魔法で相殺できるなら、俺でもできるだろ。見た目からしてミカエルの全力攻撃がこの火炎放射に匹敵しない、ということもないだろうし。


 炎がくるまで、2、1……


「はぁ!」


 その手に掴んだ「黒蓮」を振るう。揺らぎ拡散する炎に向かって複合相殺は、今の俺には難易度が高いので一本のみでの攻撃だが……


 ビュオンッ!


 果たして。

 剣の一振りによって俺の目の前に迫っていた火炎放射は、ふっと掻き消える。


 が。


 ……熱っ!? 熱い。

 火炎放射は熱と火の粉を周囲にまき散らし、俺に最後の抵抗をしてくる。VRで制限されているとはいえ、熱いものは熱いな……


 まぁでも、その程度だった。俺のHPは0になっていない。火の粉があたって背筋が冷やっとしたが、ダメージは設定されていないようだった……良かった。


 やはり、俺の予想は正しかったな。さて、この開幕火炎放射を耐えきれば、後は突っ込んでくるボルレクススと得意の近接戦闘で戦える。ここからが本番だ!


 と、口を開けたまま少しのクールタイムに入っているボルレクススを睨みつけ、


 パリィン


「え?」


 突然、【不屈の執念】が発動する。


 ……んん?


「な」


 んだ? と疑問を口にしようとした次の瞬間。


 俺の身体は光の粒子となり、「ロビアス」の中央広場に立ちつくしていた……




 ―――




「……え~~。いや、え~?」


 死に戻った……? 


 いや……あれ? 

 なんで俺死に戻ってるんだ? 

 火炎放射は完全に無効化したハズだし、他に考えられる要因としては……なにか変ったことは無かったか?


 死因……火炎放射の最後っ屁で火の粉を喰らったが、それでもダメージはなかったはず。

 後はしいていうなら、身体が熱かったくらい……


 火の粉……熱い……うん。うん?


 ……あ、これじゃね。


 もしかして俺―――状態異常〈火傷〉で死んだのか?


 ……これは推測だが、火炎放射の火の粉には、触れると火傷になる効果があるんじゃないかと。火炎放射自体でも火傷になることはあるようだが、Min0の俺の場合、そのオマケ程度で状態異常になったとしても、不思議ではない。

 そして〈火傷〉の効果は、3秒に一度の継続ダメージを、毒よりも長く与え続けること。かかった瞬間はダメージを受けないが、そこから3秒たったらダメージを受けるのだ。


 ……そう考えると、辻褄が合うな。

 そっかー、火傷か……状態異常は、天敵になるだろうとは思っていたが。しかし今回の場合は厄介だな……火炎放射を防いでも、すぐ近くで弾ける火の粉を全て避けることは俺のAgiでは不可能に近いし。

 一番いい解決策は、遠距離攻撃で相殺することなんだが……投擲じゃ、相殺には力不足っぽいよなぁ。


 六本の剣を投擲して、全て同じタイミングで炎に当てるなんて、無理ゲーだし……投擲の威力が直接斬る一撃と同等だったらな。

 精々、半分もないだろうが。


 そうすると、あと遠距離攻撃といえば……何かないかな?


「むぅ……」


 ソルビアルモス戦で手に入れたスキル原石を使って、自分の取得可能スキルを見ていく。一番手っ取り早い方法は、スキルを新しく習得することだろうからな。

 丁度、枠が一つ空いてるし……って。


 ……なんか、前にみた時よりも大分増えてるんだけど。数多すぎじゃないかね。

 これじゃあ、絶対スキルの構成とかで頭抱える人が多発するだろうに……まぁ、それを救済するためのセオリーなんだけど。


「……多いな。いや、まじで」


 長方形のウインドウをスクロールしながら見てるんだが、不便だ。これ、なんか系統ごとに分けてくれたりしないのかn……あ。

 ため息をついてスクロールを再開する俺の眼が、ウインドウの左下の小さなコマンドに吸い寄せられた。



『条件で絞る』



 あるんかいっ! 


 ……くそ、分かりづらいだろこれ……でもこれをフレイ辺りにいったら、また呆れられそうな気がするので、このもやもやは胸の内に留めておくことにする。すみませんね! 公式のヘルプもwikiもちゃんと読んでなくて!


 ともあれ、早速『条件を絞る』で探してみる。

 とりあえず、遠距離攻撃ができるようになるor遠距離攻撃手段そのものが欲しい訳だな。もしくは、投擲の威力が普通の攻撃と同等になるスキルとか。


 ふむ……


 …………絞っても地味に多いなー。


 広場のベンチを一つ占拠し、地道にスキルを見ていく俺。

 ……おお! これなんかどうだろう!


【気功弾】AS


 “気”を溜めて、撃ち出す

 スタミナを消費する

 武器を装備していない場合のみ発動可能

 効果時間:“気功弾”射出まで


 武器装備してないってところなんか、まさに俺のためにあるような……あ、駄目か。

「溜めて」って書いてあるから、撃ちだすまでに時間がかかる。そうすると、その前に俺はこんがりローストだ。それに、気功弾の威力もわからないし。

 というか、よくこんなスキルが出現したな俺……なんとなく気功弾というと、体術極めた人のものって気がするんだが。出現条件が相変わらず謎だ。


 むむ……


 引き続き、画面をスクロール。なんか、投擲を結構やってるせいなのか、それ系のスキルばっか引っかかってるが、どれもイマイチ火力に繋がらないものだな。

 ウインドウを虚空でついと動かし、なんとなく空を仰ぎながら見る。……半透明なウインドウが光に照らされて、非常に見辛いですね、はい。


 んー……お。


 ……これ、か? 

 条件をよく確認してみる……ふむ。



斬駆ざんく】AS 


 剣系統武器での攻撃時、威力上昇/剣身を伸ばす

 攻撃の威力・剣身は消費MP10%ごとに増大

 戦闘中、3回まで発動可能

 効果時間:発動後最初の一撃のみ



 いけそうか。

 威力の面も、消費MPによって上乗せされるようだしし……てか、珍しく消費MPをこっちで決定できんのな。剣身を伸ばすと言う事は、遠距離にも対応できるだろう。

 回数制限は少し痛いが、なかなか好条件だ。うん。


 なにより。


 剣がでかくなるとか、必殺技っぽいじゃん!?

 まさに今の俺にぴったりではなかろうか。


「よし、じゃあこれにするか」


 決定、と。スキル名をタッチして、習得。


 ふわり、と俺の身体を白い光が包む。スキル習得完了。

 では、デスペナルティが解けたら早速リベンジと洒落こもうかね。


 俺はスキル選択の画面にもう一度だけ眼を落とし、そしてウインドウを掻き消してしばし休息。

 ぽかぽか陽気だな……冬だけど。




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