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第六十話 勇者決闘のお話

前半と後半の差……

そしてなんかいろいろ詰め込んだら、いつもの3倍くらいの分量になってしまいました。

しかしこれ分けたらもやもやが残るかなぁ、と思い纏めて投稿です。



 



「では、決闘開始だっ!!」

「【異形の偽腕】【賭身の猛攻】」


 ミカエルが元気よく宣言して突っ込んでくると同時、俺も闇から瞬時に這い出てくる『偽腕』を展開して【賭身の猛攻】のみを唱える。俺の身体を濃い単色の赤オーラが覆うが、これが本来の【賭身の猛攻】のエフェクトなのな……特殊効果で随分と禍々しくなってしまうものだが。


 ミカエルの武器は、片手剣……だと思う。

 普通は盾と一緒に装備するものだが、片手剣オンリー。どこぞの剣士さんを彷彿とさせるが……イベント不参加ってことは【武器制限無効化】を持ってる訳でもないようだし。単に片手剣だけの方が性にあってるとか?


「僕のこの剣は、特殊武器“聖剣”と言ってね! ふふ。この一撃に耐えられるかな! 『ホーリースラッシュ』っ!」

「っと」


 ガァンッ!


 ミカエルの剣――いわく、“聖剣”らしい――が白く輝き、アーツを出してくるのを『偽腕』で剣を振るって弾く。【狂蝕の烈攻】なしでも相殺は成功するようで、まずは一安心だ。

 てかこいつ対人戦でアーツとか……決闘についてやけに詳しかったけど、だったら決闘にアーツを使うのが悪手だって分かってると思うんだけどな。


 まぁいいや、『アーツ』使用後の隙を突いて、勝利といきますかね。

 非常に残念だが、この程度の相手なら別にいいかな……

 俺は剣を振り終わったミカエルに対し、必殺の一撃を振るう――


「『ホーリーサークル』ッ」


 ガキン!


「お?」

「はっ、甘い!」


 俺の剣速に、対応してきた? アーツ使用後の隙に?


 しかも……新たにアーツをつなげて、か。成程。


 アーツを繋ぐという行為は、“チェイン”という技術として知られているが、かなりのプレイヤースキルがないと不可能なはず。

 なんせ、アーツごとに設定されたコンボの受付時間内に次のアーツを使用しないといけないんだが、そのタイミングがくっそシビアなんだ。それに加え、アーツによっては自然につなげられるものと逆に隙ができるものがあるし。アーツの挙動を把握して、さらにアーツの動きを自分でも幾らか制御しないといけない。


 これは……いかにも勇者な見かけは、伊達じゃないってか。特殊武器ってのも気になるし。

 なかなかの強プレイヤーじゃねぇか……燃えるねぇ。


「そうらぁ!」

「……」


 次々とアーツを繋げ、時にアーツを纏わない素の攻撃を織り交ぜてくるミカエル……素の攻撃は、アーツキャンセルと呼ばれる、特定のアーツ同士をコンボした際に自身の攻撃によって隙を消すことができるものだったか?

 それによって、次の手を読ませないようにしている。うむ、凄いなコイツ。


 息もつかせぬ怒涛の連撃。


 時に様々な角度から繰り出されるそれを、『偽腕』四本と両腕の計六本の剣を操り、俺は全て叩き落としていく。


「くっ、なんて的確な対応、剣速っ! だがまだぁ! はぁあああ!」

「……」


 ぶっちゃけ剣速だけなら、廃Strにより俺はこの倍は出せるな。今はまだまだ楽しみたいから、抑えてるけど。


 キンキンキンッガキン! ガガガガガッキンッ!


 派手な金属音が、幾度となくうす暗いフィールドに響き渡る。


 あー。


 にしてもコイツ……気付いて無いのか? うん。気付いてなさそうだよなぁ。

 ……はぁ、全く。これまでどんなバトルしてきたのかねぇ……


 ガキンガキンガキン――


「らぁああ――【ハイステップ】ッ!?」

「下がれー」


 剣の応酬の刹那、空いている『偽腕』でナイフを投擲。

 咄嗟に避けざるを得ない状況をつくり、ミカエルを下がらせる。


「ちっ……僕の連撃を全て捌ききるどころか、そんな隠し玉まで用意していたとは……だが残念だったな! 僕の速度を持ってすれば、その程度を避けるなんて造作もないんだよっ!」

「……元から当てるつもりはなかったけどな」

「はっ、ほざけ!」


 さっきのはただの牽制である。ミカエルを下がらせるための。

 そして――こいつに自分の状況を確認してもらうための。


「お前、戦闘中に自分のHPとか見ねぇの?」

「ハッ。僕はただの一撃もまだ喰らってはいないぞ? そうやって僕の集中を途切れさせることが目的な……ら……あれ?」

「気付くのが遅いわ阿呆」


 ミカエルが台詞の途中で、何かに気付いた風に硬直する。

 そして恐る恐るといった様子でこちらを見た。

 そして、絶叫する。


「な……なんで僕のHPが――後20%しかない・・・・・・んだよっ!!??」


 戦闘中だと言うのに、剣を下ろして指を突き付けてくるミカエル。

 うわー、今攻撃したら確実に殺っちゃえそうだな。


「攻撃性能の差だ。斬り合ってるなら、攻撃力の低い方がダメージを受けるのは当たり前だろう?」

「……なっ……。いや、たとえ僕の攻撃力が劣っていたとしても、さっきの打ち合いでこんなに削れる訳っ! 攻撃の主導権は僕が握っていたし、ダメージ軽減だって完璧のはずなのに!?」

「こんなに? 違うだろ。それだけしか・・・・・・だ。あんだけ打ち合ってまだHP残ってるとか、ミカエルお前凄いなー」


 流石に無強化の剣vsアーツ使用の剣だと、ダメージの入りも違う。それ以外にも、ダメージをかなり減少するスキルかなんかを持ってるはずだな。


 ちなみに、俺のHPは1%たりとも減っていない。ミカエルが隙だらけに喚いてる間、俺はこっそりと【賭身の猛攻】をかけ直した。流石に攻撃は自重。

 プレイヤースキルは高いし、事実かなり強いんだが……こいつ、状況把握能力が低いな。物事が基本、自分の思い通りに行くとか思ってるらしい。


「そんな、でたらめな…………くっ。だが、僕は絶対に負けないぞ!」

「ほう、どうするミカエル。また打ちあってもいいが、そんな結果の見えた展開は好ましくないぞ」

「ふんっ。こうするんだ、よっ! 【クロックアップ】! 【ハイステップ】!」


 瞬間、ミカエルが俺の視界から掻き消えた。


 高速移動スキルによって撹乱、俺と打ちあわずに不意を突いて攻撃って感じかな?

 正直、眼で追うこともできないね。フレイより速いんじゃなかろうか?


「どうだ! これなら対応すらできまいっ。大人しく死にさらせ!」


 ミカエルの声が、ぐわんぐわんとぶれて聞こえる。


 ……まぁ、別に視認しなくても大丈夫なんだけど。


 ふむ…………右か。


【危機察知】によって攻撃を把握し、対応。

 察知してから実際に攻撃が来るまでのタイミングは一瞬だが、そこに俺のStrによる剣速と『偽腕』を組み合わせれば……


 ガキンッ!


「――なっ!! 僕の速さについてくるだとっ!?」

「残念でした……っと」


 一瞬隙のできたミカエルを切り裂こうとするが、流石に剣でガードされてしまう。

 今ので大きく削れたが、それでも10%には届かない。硬いなぁ、こいつ。お兄さんびっくりだよ。


 ミカエルの残りHPは、ギリギリ10%ちょい。後一撃で決まるんじゃないかな?

 さて、こっからどうくるのか……?


「そんな……【クロックアップ】が通用しないなんて……化物か」

「失礼だなおい」

「くそっ。こうなれば、仕方がないか……すまないが前言撤回だ! 使わせてもらうぞ、【光斬剣】【ホーリープロテクト】ォ!」

「お」


 なんか勝手に自分で縛りをつけていたスキルを発動させるミカエル。

 瞬間、ミカエルの右手にある煌びやかな聖剣が金色の光に包まれ、激しく発光する。そして周囲にはキラキラと降る金色の粒子。

 一気に華やかになったなぁ……俺とは大違いだわ。


「いくぞ、クノォォォオ!! 正真正銘、僕の最大攻撃だッ! 『ライトニング――」


 金色の剣が、急速に光を集め、直視できないくらいに煌めく。

 なるほど、最大攻撃……どんなのがでてくるんだろうか。


「――ソード』ォォォオ!!」


 そして、大上段まで剣を上げる。

 それに呼応するようにミカエルの全身も光で覆われていく。

 その光が集約した瞬間。ミカエルは腕がぶれる程の速さで、剣を一気に振り下ろした。


 ヴォン―――ドォォォォオオオン!!


「わお……」


 振り下ろされる剣からは、圧倒的なまでの光の奔流が解き放たれる。

 それは斬撃を模した三日月型をしていたが、あまりの大きさに下半分は地面にめり込み、地形を破壊しながら迫ってくる。

 その威圧は、それなりに高いフィールドの天井にまで金色の光が届いていることからもわかる通り。まさに最大攻撃と呼ぶのにふさわしいものだった。


 これはちょっと……舐めてたな。


 俺は剣を構え、意識を集中させる。

 六本の剣のタイミングを同一に合わせて相殺をするのがベターか? あぁいや駄目だ。咄嗟にタイミングを合わせるのは難易度が……


 ……やるだけやってみるか。


 一応タイミングを計り、振った六本の剣で光の奔流を相殺しようとして……


 ズッガァアアア……ドッ―――!


 黄金の光が眼を焼く。


 くっ。やはり、攻撃力を縛ってる状態で素のまま受けるのは無理だったか。

 むう、タイミングも合わなかったみたいだし……


 少しの間均衡した光と剣はしかし、巨大な光に軍配が上がった。

 そして視界を埋め尽くす、眩しい金。衝撃により、決闘の境界線にまで吹っ飛ばされ青い光の壁に激突する。


「よっ……」


 とりあえず受け身を取ってみたが、あんまし意味無かったかな……壁に沿って落ち、スタッと着地し、俺は前を見据える。ちなみに落下ダメージ等の追加ダメージは無い。青い壁は激突してもダメージを受けない親切仕様だし、落下ダメージは10m以上の高さから落ちた場合のみ適用だし。

 いや、違うか。ダメージを受けない、もっと根本的な理由が有った。それは――


 ――ビィィという音と共に、目の前に表示されるウインドウ。

 書いてあるのは、


 You Lose


 の文字。


 ……まぁ、そうだろうね。

 あの攻撃を喰らって死ななかったら、逆にびっくりだよ。


 残念だが、負けてしまったか。せめて【不屈の執念】さえ発動すれば、もっと続けられたんだが……俺のスタイルは基本スキルありきだからなぁ。


「でもまぁ……楽しめたしいっか」


 モンスターを屠るのもいいが、やはりプレイヤーと刃を交えるのも楽しいな。

 今回の件で、ますます第四の街にある円形闘技場が待ち遠しくなった。


 前方では、ミカエルの『ライトニングソード』によって立ち込めていた砂煙が晴れ始める。俺は勝者を称えにでもいってやろうと歩を進めるが、おかしなことに気付く。

 煙が晴れクリアになった視界には、ミカエルがうつ伏せで倒れていたのだ。


 ミカエルの頭上には“You Win”のウインドウが表示されているがそれを消そうともせず、ピクリとも動かない。

 ……どうしたんだ? 勝者と敗者の構図が、あきらかに逆転してるんだが。


 傍まで行き、ミカエルの頭を軽く蹴ってみる。


「……クノさんですか……」


 お、喋った。


「ああ、クノだが。お前なんで倒れてんの?」

「ふっ……勝敗はどうなっていますか? 実はさっきの攻撃に残りのスタミナを全てつぎ込んでしまったので、こうしてピクリとも動けないんですが。視界が暗いです」

「……お前の勝ちだよ。いや凄かったよあの攻撃は。うん」


 なるほど……先ほどの攻撃は、どうやらスタミナを消費して発動するものだったようだ。そしてありったけのスタミナを込めたから、あの威力が出せて、代償として動けないと。


「そうですか……ふふふ、それはそれは。では僕は、現時点で最強の一角と名高いクノさんを倒し、真の最強プレイヤーへとステップアップした訳ですね。ふふ」

「最強といったら、オルトスさんのイメージが強いがな」

「オルトスさんは、また機会が有れば倒しにいきますよ」

「呼んでやろうか? ここに」

「……動けないんで今日は勘弁して下さい」

「今凄い呼びたい」

「やめてください……」


 オルトスさんを倒さないで最強を名乗るのはおこがましいだろう。

 ネームバリュー的に。


「では最強はやめて……魔王殺しあたりにしておきます。おお、完全に勇者ですね、僕!」

「おい。魔王まであとどんだけあると思ってるんだ? 現時点で名乗る阿保はいないだろ」

「え? 魔王ならいるじゃないですか。僕の目の前に。こういうネーミングってやっぱ、直感的なものだと思うんですよね。クノさんならぴったりです!」


 どういう意味だよ。

 流石に魔王なんて言われる程悪い事はしてないと思うんだが?


 ……しかし。


 今回の敗因は、単純に力負けをしてしまった訳だが。極振りとしてはあるまじきことだなぁ。

 スキルをフルに使えば、打ち勝てそうだけど。


 あとは「相殺」の技術として、複数の攻撃のタイミングを精密に合わせ、全ての攻撃力を“一撃”に加算するという“複合相殺”(名称は非公式)がある。これを使えばほぼ確実に相殺は可能だっただろう。(攻撃を相殺する時に適用されるのは、“一撃”であり、ちまちまと連撃をしても意味が無いのだ)


 しかし、この難易度ときたらもう……目も当てられない程というのは、実際に俺がやろうとして失敗したことからも察してくれると思う。

 六本剣という事で、ミカエルのやってた“チェイン”よりも上なのだ。二本三本なら、普通に何とかなりそうだが。


 ……でも、何事も練習あるのみだしな。ちょっと本格的にものにしてみるかね。


 そして、単純に必殺技的なものが欲しい。

 ミカエルのあの攻撃は浪漫だったし。少しくらい派手な攻撃があっても良いじゃん? 


「ふふふ。いやしかし、やはりクノさんは強かったですね! この僕でさえ、少し油断したら負けていた所ですよ! まぁ、結果的には僕の方が一枚上手でしたが!」

「清々しいくらいうざいなお前」


 うつ伏せのまま何事かほざくミカエル。


 そして油断はしてた気がするが。

 あそこでとどめを刺しておくべきだったのか、迷うな。……いや、こっちの方が面白かったし、俺は間違っていなかったな。うん。

 というか、この思考の時点でダダ甘に油断してるね、俺が。

 流石に今の決闘で勝ったくらいで、大々的に倒したとか名乗られると嫌なんだが……そこは自業自得かぁ……うーん、でも。


 俺はおもむろにインベントリから、あるアイテムを取り出す。そして『偽腕』まで発動させて大量に掴んだそれの中身を、一気ミカエルへとぶちまけた。


「どわっはぁ!? つ、冷たい! 何が起こってんですか何が!?」

「いや、スタミナ回復させてやろうと思って」


 俺は淡々と、エリザに貰ったアイテム―――水をミカエルに注ぎ続ける。そしてそれに伴い、ミカエルがむっくりと起き上がり始めた。

 なんか枯れた植物に水やってる感じだな。少し面白い。


 そしてしばらくミカエルを水責めにした結果。


「ふふふ、どうしたんですかクノさん? まさかこの僕の強さに恐れを為し、恩を売っておこうという作戦ですか? はっはっは、まぁ有り難く受け取っておくとしますよ! では!」


 こんな元気に回復した。

 バサァ、とマントを翻しセーフティーエリアへと戻ろうとするミカエル。

 その肩を強引に掴み、引き止める。


「のわっ? ……な、なんですか……まだ何か用でも?」

「そもそも用が有ったのは自分だと言う事を忘れてないか? この阿保が。まぁいい……今回、俺はミカエルの頼みを聞いて決闘をしてやったわけだよな?」

「……まぁ、そうですね」


「だったら俺の頼みも聞いて――もう一度、決闘しないか?」


 俺はできる限り優しい声音を意識して、ミカエルにそう問いかける。少し威圧感が漏れてしまったかもしれないが、なんてことはないだろう。精々ヤタガラスに向ける1/10くらいだし。


 もう一度決闘、その心は、単に俺が負けず嫌いなだけである。ミカエルとの決闘は面白かったは面白かったんだが、やっぱり不完全燃焼だし。

 相手の力量も楽しんだ所で、どちらが上か・・・・・・というのをしっかり刻みつけてやらないとな。くはは。


 するとミカエルは、一瞬膝かっくんでもされたかのように膝を折りかけ、寸での所で持ち直した。

 が、その顔色は傍目から見ても非常に悪い。

 あれ?


「……」

「どうした?」

「……い、いえ」

「で? どうするんだ、決闘は」

「……拒否権は、」

「あると思うか?」


 この世は等価交換だからな、うん。

 相手の頼みだけを聞いてやる道理はない。


「くっ。では、その決闘……う、受けて立ちますよ!」


 無理やり感の強い声音で、ミカエルは空元気に宣言する。よし、そうでなくっちゃな。


「じゃあルールは普通にHP0までなー」

「まっじすか……」

「まじです。何? 嫌なの?」

「……い、いえ、それでいいです……すーはー。よし……ふふふっ。この僕に性懲りもなく二度も挑もうとは、いい度胸ですね! 今一度完膚無きまでに叩きのめしてやりますから、覚悟してください!」


 急に勢いを取り戻したな……まぁ、その方が好都合だけど。


「……そうです、僕は一度勝ってるんです。魔王恐るるに足らずです……」


 と思ったら今度はブツブツと呟き始める。なにこの子。情緒不安定なの? 

 あー、まぁいいか。さっさと始めよう。

 俺はミカエルに決闘申請を送り、ミカエルは俺と十分距離を取ってから、受諾ボタンを押した。


 その瞬間周囲に奔る青い線。

 決闘、開始である。ちなみに、普通の決闘では開始前にカウントダウンを入れるらしいが、今回は面倒なのでパスしておいた。無駄に時間かけたくないしな。


「【光斬剣】【ホーリープロテクト】【クロックアップ】『ライトニングソード』ォォオオ!!」


 開始早々、極大の斬撃波を放つミカエル。

 後の事ガン無視だな……やはり頭は残念か。


 先ほどよりも素早く繰り出されるそれは、【クロックアップ】とかいうスキルのおかげかね?

 なんて分析している間に、【異形の偽腕】と【覚悟の一撃】そして【惨劇の茜攻】は発動済みだ。尤も、この光の大きさじゃあ勇者から俺の事は見えてないだろうがな。


 そして禍々しい瘴気に包まれ、本来の攻撃力を取り戻した俺は軽く剣を構え――


 巨大な金色と、小さな赤黒が一瞬だけ衝突して……せめぎ合うことすらなく。


 金の光が、消えた。


 力の余波か、俺の両脇を一陣の風が吹き抜け、髪を揺らす。

 強化さえあれば、こんなにも脆いのか。拍子抜けだな……まぁ、複合相殺はいずれにせよ練習するつもりだけど。

 そして無傷・・の俺は『偽腕』を消すとゆったりと、離れた所に倒れ伏すミカエルに歩み寄り――


「あぁぁああ……「マリオネット・ブレード」……!!」


 その瞬間、ミカエルは人体にはあり得ない動きで跳ね起き、剣を腰だめにして襲いかかって来た。

 その速度は、【クロックアップ】発動中には劣ったものの、普通では考えられないものだ。

 おそらく、本当の意味で切り札だろうそれ。

 だが……


 キィン――


「が……あぁ……」


 一瞬の攻防の結果は、誰の目にも明らかだった。


 ここの下層でも披露した、これ以上ないくらい力技なカウンターを決められ、聖剣を遥か遠くに吹っ飛ばされたミカエル。そしてその腹には、俺がもう片方の手で優しく突きこんだ長剣が深々と突き刺さっている。一瞬金色の光がバチバチと抵抗してきたが、すぐに砕け散りミカエルの身体を覆っていた金色のオーラ――多分【ホーリープロテクト】――は消滅した。

 急速に減少し、黒い色を示して止まるミカエルのHPゲージ。


 まぁ、こんなもんかな。


 剣を抜くと、どさっと崩れ落ちるミカエル。

 血の出ない、剣によって開けられた不自然な空洞に違和感を感じる。

 やはりゲームか。切り傷くらいなら見た目上はすぐ塞がるんだが、どてっ腹に穴があくと、どうやらその限りではないらしい。


 You win


 というウインドウが表示され、周囲の青い線が消えていく。

 それと同時に、ミカエルの空洞もパッと塞がった。決闘が終われば修復されるのな。


 俺は顔面を強打して倒れ伏したであろうミカエルに向かって、声をかける。


「まぁ、人生こんなもんだ」


 あまり調子に乗られるのも困るんでな。

 ミカエルのうざさがヤタガラスに重なって、少しだけ本気目にいってみたが、どうだろうか。


「……うぁぁ……そんな……こんなことが……」

「まぁ大体最初の決闘だって、端から剣飛ばせばそも打ち合いが成立しなかったし、そうでなくてもナイフ投げた時に本気だったら普通に終わってただろうけど」

「……ぐっはぁっ……嘘だぁ……」


 おお、良い反応~。

 嗜虐心が良い感じにくすぐられるね。


「それでもお前は、良く頑張ったよ」


 そこで言葉をきり、ミカエルの肩をポンと叩く。

 するとミカエルがピクッと反応し、


「……そ、そうですか……?」

「ああ、俺を楽しませるということにおいてな。どうも有難うございました」


「……いや、僕は本気で……ああ、ああぁああ、もう……なんなんだよぉぉこいつぅ……」

「なんだってそりゃ。しがない一プレイヤーさんだよ?」


 それっきりミカエルが絶句して、ピクリとも動かないのでコミュニケーションは終了。

 ふぅ……これでミカエルにも完勝した訳だし、べらべらと俺に勝ったなんてことを言い振らしたりもしないだろ。自分の始末は自分でつける。上げて、落とす。これ基本だな。


「じゃあ、そういう訳で。また強くなったら遊ぼうな、ミカエルー」

「……遊びかよぉ……そうですか……そうです、か。がくっ」


 一件落着。

 俺はうつ伏せのミカエルにひらひらと手を振ると、セーフティーエリア内の魔法陣に足を乗せたのだった。




 ―――




「ミカエル~。お待たせ! ごめんねー、結構かかっちゃって……って、どうしたの!?」

「あ、ああフィーアちゃん。なんでもないよ、大丈夫」

「いや、大丈夫なように見えないけど。なんで無抵抗でモンスターにつつかれてるの、よっ!」


 ドシュッ! ドドドドッ!


「……とぉ。こんなものかな?」

「さ、流石フィーアちゃん。見事な槍捌きだね」

「まぁね……ってか、アンタずっと俯いてるじゃない。見えてるの?」


「ふふ。フィーアちゃんの事なら心の眼でばっちり見えてるさ」


「……ないわー」


「何か言った?」

「いーやなんでも~。それより、なんでそんなとこに倒れてんの。無抵抗でモンスターに蹂躙される趣味にでも目覚めた訳?」

「僕にそんな変態性を追加しないでよ。僕が蹂躙されて喜ぶのは、フィ」

「フィ?」

「ふっ……ごめん、なんでもない」


「取り繕ってるけど、その先はもう完全に分かってるからね?」

「……フィ……フィクションの中だけだよ、と」

「それじゃあどれにせよ変態性癖の持ち主じゃない? このドMが」

「まさか! 僕はどちらかというと責める方が大好きだ!」

「大声で何いってんのよ。通報するわよ」

「すみません」

「……って、だから! アンタはなんで倒れてるのって聞いてるんだけ、どっ」


 ズルズル


「悪いねフィーアちゃん。あ、そこに降ろさないで! 出っ張りが! 出っ張りがぁ!」

「ていっ」

「ぐはっ……」

「ほら、さっさと話しなさいよこの馬鹿」


 ぐりぐり


「あだだだだ! ごめ、話すから! 踏むのは勘弁して!」

「……ふぅ。で?」

「いつつ……いや実はね、さっきとあるプレイヤーとPvPをしたんだ」

「とあるプレイヤー?」

「うん。聞いたら驚くと思うよ?」

「ふぅん。それでコテンパンに負けたと。珍しいわね、アンタが負けるなんて」


「ぐっ……反論できない」


「……今日は槍でも降るの? あのミカエルがこんなあっさり負けを認めるなんて」

「槍は降らないけど、魔王なら降臨したよ……」 

「意味分かんないわね」

「僕、フィーアちゃんのために頑張ったんだけど……どうやら一歩……いや二歩……あいやもう少し……とにかく及ばなかったようだよ……

 なにあれ、人じゃないよ。見た目から雰囲気から戦い方から、確実に魔の者だよ……」


「ふぅん……って、私のため? てどゆこと?」


「いや、フィーアちゃんのタイプってさ、強い男の人じゃん?」

「え? まぁね」

「だからさ、フィーアちゃんに相応しい男になろうと思って。ただいま強いプレイヤーさんに片っ端から声かけてたんだよ。まさかフィーアちゃんを待ってる間に、あんなビッグネームに当たれるとは思わなかったけど……」


「アタシに相応しいって……強いだけでも困るんだけど」

「そんな!? 話が違うよ!」

「何の話よ。てか、そんなアホな理由で人様に挑みかかるのはやめなさいな」


「えー、でもクノさんだよ? 前回イベントの覇者だよ? その人を倒したら、必然僕がイベントの覇者になるわけじゃん? それって僕凄いじゃん?」


「クノ!? アンタ度胸だけは評価するけど……強い強くないうんぬん以前に、まずその頭をどうにかした方がよさそうね……」

「頭? まぁ確かに、良くは無いけど……でも、顔は整ってる方だと思うんだよね。僕ってカッコいいでしょ?」

「論点が見事にずれてる。そしてアンタが只のナルシストだと言う事は理解したわ」


「……えっ?」

「えっ!? ……ああ、これは重症だわぁ……」





これが勇者さんのスペックだ!


武器:


聖剣「カリバーン」(片手剣からの特殊派生。武器攻撃力高。盾・補助器装備不可)


アーツ(一部):


『ホーリースラッシュ』

『スラッシュ』の聖剣による強化版


『ホーリーサークル』

『サークルスラッシュ』の聖剣による強化版


『ライトニングソード』

【光斬剣】発動中のみ、使用可能

スタミナ消費により巨大な斬撃を生みだす大威力の一撃

使用後、【光斬剣】解除


スキル(一部):


【クロックアップ】AS


行動を超高速化

効果時間終了後、60秒間再発動不可

効果時間:次の一撃まで


【光斬剣】AS


聖剣の斬撃威力上昇+20%

固有アーツ『ライトニングソード』使用可能

効果時間終了後、15秒間再発動不可

効果時間:発動後30秒間


※攻撃(斬撃)“威力”といった場合、基礎ステータスではなく、その他ステータス強化スキル等の効果適用後の最終的な攻撃力から参照する。

そのため、普通のステータスアップよりもかなり強力。

+20%というと、その中でも上位のもの。ステアップでいう+50%くらいのレア度で伝わるかな?


【ホーリープロテクト】AS


“光の盾”を発生させる

Vit/Min上昇+15%

“光の盾”に当たった攻撃の威力減少-50%

“光の盾”が破壊された場合、5秒間行動不能/その戦闘中は再発動不可

効果時間:30秒間  


【ガーディアン・オブ・ブレイブ】PS


Vit/Agi上昇+35%

斬撃属性の攻撃による被ダメージ0.65倍

攻撃を武器で受けた場合、更に被ダメージ0.65倍


【連撃剣】PS


斬撃属性武器の『アーツ』を“チェイン”した場合、消費MP減少-75%


【光輝結界】PS


闇属性以外の魔法による被ダメージ0.1倍

ただし、闇属性魔法によるダメージを受けた場合、

その後60秒間全属性の魔法による被ダメージ3倍


称号〝ラッキーライザー〟


 なにかとラッキーになる


アイテム


「マリオネット・ブレード」


任意のタイミングで、敵対者に一撃を仕掛ける事が出来る。自身の状態を無視して、強制的に動ける。

クエスト報酬の、非常にレアなアイテムでした。


ちなみに、「便利ポーチ」にセットされていたのですが、呼び出すにはアイテム名を言わなくてはいけませんでした。これはどのアイテムにも普通共通なことなのですが、主人公は完全に思考のみで出し入れをしています。

この意味が……わかるな?


そしてミカエル割と強い設定。

これなんて主人公?


ただし、現実は残酷ですが。

ちなみに。最初っから本気モードのクノ君も、後10話以内にでてくる予定なのですが……大丈夫かな。


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