第五十七話 魚攻略のお話 (+スキル紹介)
クノの所持スキル
【筋力強化(中)】PS
基礎Str上昇+10%
【長剣強化(中)】PS
武器「長剣」のStr上昇+20%
武器耐久値の減少率を1/2にする
【捨て身】AS
Str上昇+15%
Vit/Min減少-50%
効果時間:発動後30秒間
【不屈の執念】PS
自身のHPが0になるダメージを受けた場合、1度の戦闘中に1回までHP1で耐える
このスキルが発動した場合、自身の次の一撃は相手のあらゆる防御(スキル・魔法・属性含む)を無視してダメージを与える
【攻撃本能】PS
HP10%未満時、Str/Int上昇+25%
【覚悟の一撃】AS
Str/Int上昇+100%
発動後、自身のHPを1にする
戦闘中、1回のみ発動可能
効果時間:発動後最初の攻撃まで
【狂蝕の烈攻】AS
発動後、毎秒自身のHP減少-2%(この効果によっては1未満にはならない)
HPの残存量に応じてStr上昇+1%~+100%(HP1をStr上昇+100%とする)
発動中HP回復不可
戦闘中のみ発動可能
効果時間:戦闘終了まで
【危機察知】PS
自身のHPが0になる威力の攻撃のみ、位置・軌道・規模・到達時間が察知できる
【武器制限無効化】PS
武器制限を無効化する
武器アーツ使用不可
【異形の偽腕】AS
『腕』が増える
効果時間:任意
※操作は個人によって適正有り
【投擲】PS
投擲可能物を投擲した時のダメージ1.2倍、命中精度上昇
「んにゃろ……魚許すまじ……」
“あなをほる”によってあっさり死にもどった俺は、広場から上層前のセーフティエリアに速攻でとんぼ返りして攻略wikiをながめていた。
見ているのは、「熱波の岩山」の上層に出てくるモンスターの特性。それも、魚の部分なのだが……
「あなをほる攻撃なんか載ってないよなぁ……はぁ」
そう。
オルトスさんのパーティーが編集した(らしい)この攻略wikiには、魚の攻撃パターンに“あなをほる”が載っていなかった。
……仮定だが、“あなをほる”は俺のように長時間動かないプレイヤーに対して行われる攻撃なのかもしれない。そんなプレイヤーはまぁ、滅多にいないだろうが可能性としては考えられる事だ。
と、すると俺が普通に腕輪を使わずに、進みながら相手をする分には、“あなをほる”はしてこないのではないだろうか? オルトスさんのパーティーでも、他のパーティーでも報告が無かったということは、普通に戦闘をしながら進んでいく限りではでてこない攻撃パターンのようだし。
……流石に何組ものパーティーがここを進んでいる中で、俺だけに“あなをほる”が使われたってことは、そういうことだよな? 多分。
単純にすっごい希少な攻撃パターンという可能性もあったが、俺二連続で喰らってるし。
とりあえず、俺には二つの選択肢がある。
一つは、腕輪を使わずに“あなをほる”の事は忘れて普通にここを攻略すること。
そしてもう一つは、“あなをほる”に対してリベンジをすることだ。
……まぁ、負けず嫌いの俺としては、後者一択なんですけどね。「花鳥風月」もボス攻略まではもうちょい時間がかかるって言ってたから、皆に置いていかれるということも今回はなさそうだし。
という訳で、俺のお魚攻略作戦は開始されたのだった。
―――
「はっ……っと」
ザシュ――ザシュ――ザシュッ!!
「グオオォオ」
「ロロロ……」
「キュキュッ!」
腕輪の効果でモンスターと戦い始めて10分程。
相変わらず寄ってくるモンスターは一撃の元に斬り伏せている。少し心配な事としては、モンスターの攻撃が同じ方向でいくつか重なった場合、今の俺の六刀流スタイルでもやや危ない部分が有るということか。
俺の場合、畳みかけられると、剣を振った後同じ剣でもう一度攻撃を相殺するのが難しいんだよなぁ。剣を戻すよりも相手の次の攻撃(まぁ、複数モンスターによる複合攻撃だが)の方が早い事の方が多い。
剣を振り終わった後、瞬間的にインターバルを挟まずに連続で繋げようとすると、俺の場合スタミナがやたらごっそりと持っていかれるんだ。Strが高くてVitが0な弊害か、不便極まりない。
だから、隣の『偽腕』や俺自身でもって続く攻撃を相殺しなくてはならなくなるんだが……そうすると、他の面への対処がおろそかになってしまうんだよなぁ。
先ほどこれで、危うく【不屈の執念】が発動しそうになったし。ギリギリで剣が間に合ったからいいものの、やっぱり『偽腕』をもっと増やさないとだな。
今の俺のMP量は、2114。
『偽腕』を5本まで実体化させられるが、最大まで実体化させると他のスキルの分のMPが無くなってしまうから四本に留めている……四本でも、開幕スキル連発でMPは一度すっからかんに近くなるんだがな。せめて後から『偽腕』を継ぎ足せたら、と思うけどね。
とりあえず今の調子でいくと、『偽腕』を八本実体化させるのにはレベル60までかかるんだよな~。ちなみに何故八本かというと、インベントリの制限から言って剣は十本しか実体化させられないため『偽腕』も十本以上あっても無駄。ただし二本は俺自身が扱うため八本、という訳だ。
何気にこの二刀流にも慣れ始めてきたしな。現実では二刀流なんて無理だったけど。
爺さんの、武器特訓というか趣味への付き合いの中では、二刀流はどうしても筋力的に、満足するレベルまで達しなかったんだよねぇ。重い実剣をバランス悪い中片手で振って十分な威力をだすとか、爺さんぐらいのチートじゃなきゃ無理無理。
あの人は本当に……人間じゃない別の何かだからな。片手で100kgくらいの特注大剣(意味分かんないだろ?)振りまわせるし。俺に言わせれば、俺なんかよりもずっと規格外だ。
婆さんもそうだけど。あの人はもう耳がなぁ……人外って意味じゃそっちの方が、
っと。
「【捨て身】」
【捨て身】の効果が切れかけたため、すぐにかけ直す。このスキル、効果時間が残り五秒になると一度だけ淡く点滅するのだ。
『ポーン』
っと、らら? これは……スキルが変化でもしたかね?
【捨て身】は最初から使ってるから、そろそろ変化してもおかしくない頃合いだけど――っと!
ザシュ――ザシュ――ザッシュゥッッ!!
「グオアァ」
「ロ、ロロッ」
「キュグキュグァ!?」
『偽腕』を使わず俺自身の手によって、捻りを加え踏み込んで最大限の力で魚を爆散させる。ざまぁ。
そうして魚を爆散させてストレスを発散していると、【危機察知】によって足元からの攻撃が知らされた。
そういえば、もう慣れた頃だし流石に鬱陶しくなってきたので【危機察知】の視界補助(攻撃の軌道がモノクロになる奴)は意図的に切ってるんだが、そのとたんに視界以外の情報量が多くなった気がする。
なんだろう、モンスターの位置から形状から攻撃の軌道から到達時間から、細かくなってきてるような……まぁ、処理できるから別に良いんだが、気を抜いたら脳がジャックされそうな予感。
では、迎撃と行きますかね?
そも前回の敗因は、とっさに避けようなんて考えたからいけないんだ。
このキャラなら、ガンガンいこうぜが鉄板だろうに。現実とは違うんだから、もっと意識の切り替えをしなくてはな。
『偽腕』による周囲のモンスターの虐殺は続行したまま、俺は地面に神経を集中させる。
すっ――と肉食獣か爬虫類のようになった目を細め、右手を溜める。俺のイメージ的にはやっぱ爬虫類かなー。どうでもいいけど。
wikiにあった「サンドマウス」の情報から推測するに、地面の中にモンスターがいる間は、基本攻撃が通らない。殺るなら地形”ごと”ぶっぱするか、出てきた瞬間を見計らって串刺しにするしかない。地形ぶっぱは俺の活動域がピンチになってしまうので最後の手段だが。
荒れ果てた不毛の大地が少し、盛り上がる。
――来る!
極限まで集中して、一歩だけ下がる。
それでも地面からでてくる魚は軌道修正をしてこっちに突っ込んでくるのだが、その僅かな時間の間に――仕留める。
ザァッ!
土くれをまき散らし、地中から飛び出してくる魚。
極限の集中によって、ここ最近の戦闘で鍛えられた俺の脳が唸りを上げ、魚の動きがスローモーションにすら見える。そんな世界の中、今まで心血を注いできた廃Strによって、俺の剣が霞む速さで魚に突きこまれた。
ヒュ――ザクッ!
そして寸分たがわずその間抜け面に剣が突き刺さり。
憎き魚は電子のゴミと化した……
――ふぅ。
「……獲ったどー」
俺の今までの積み重ねが、理不尽に勝利した瞬間である。ざまみろ魚! よっしゃあ!
俺は歓喜に腕を突き上げ、そして――
パリィン――
押し寄せるモンスターの波に、呑まれた。
……あ、やべ。
『偽腕』の操作忘れてたわ……
―――
「あー、畜生。でも魚の対処法はわかったし、これで心置きなくボスまで行けるな」
様々なプレイヤーで賑わう「ロビアス」の中央広場のベンチに座り、俺は上機嫌だ。最後の油断であっさり死んでしまったのは、次からは気をつけようと言う事で。少しの油断が、本当に命取りだな~。流石極振り、スリル満点で最高だね。
お知らせ音は、やはり【捨て身】の上位変化だった。【攻撃本能】といい、スキルの上位変化が続いてラッキー。で、変化したスキルがこちら。
【賭身の猛攻】AS
Str上昇+30%
HP30%以下の場合、更に+10%
Vit/Min減少-40%
効果時間:発動後30秒間
はい、完全に廃火力仕様ですね本当に有難うございました。
【狂蝕の烈攻】と何やら同じ匂いがするんだが……セット効果とかあったりするんかね? オーラ的な所も被ってるし……てか、俺のスキルはどれもこれも何かぶっ飛びすぎな気がする。
普通のステータスアップスキルは、精々20%いけば良い方らしいんだけどな~。
「んー……ぷは」
喉が渇いたので売店で買ってきた「メロンソーダ」をストローで吸って、しばし休憩する。そんなに長い間戦闘してた訳じゃないのに、なんか疲れたのでメロンソーダがうまい。
行きかうプレイヤー達を眺め、雑踏の音を聞くともなしに耳に入れる。しっかしいろんなプレイヤーがいるな~。ケモミミからエルフっぽい人から岩のようなマッチョまで、本当に多彩な外見である。
俺の好みは、妖精とかだな。見る分にはだけど。
神秘的で儚い感じが良い。もっと言わせてもらうと、サイズに関しては小・中学生くらいがベスト。あんまり小さいと早く死にそうだし。でも大きすぎると風情がない。
そういう意味では、ジャッジさんとかどんぴしゃだな。あのクールなキャラ設定といい、ここの運営は俺を殺しにかかってるんじゃないかとね。
「チュー……」
ちなみにこのメロンソーダだが、料理スキルで作られた物で、飲むと追加効果が付与される。料理による追加効果は一度に一つまでで、後から効果のついたものを食べたりすると上書きされる。
メロンソーダの効果は、「30分間Str上昇+1.2%」というものだ。微妙だが、少しでもStrが上がるものだとテンションも上がるよね、ということでこれに決定した。あと俺、メロンソーダ好きだし。とっさに好きな食べ物は? と聞かれたら「メロンソーダ」と答えるくらいには好きだ。飲み物も広義的には食べ物だしな。
チュー……ズゾゾ……
あ。終わっちゃった。
しかしこれを作ったおっちゃんは相当腕がいいのか、これまでで一番おいしいメロンソーダだった。俺は売店の所でおっちゃんに礼を言い、脇のゴミ箱にプラスチックのコップを捨てる。
この辺りのゴミは捨てましょう、って感じは現実準拠だ。ゲームで適当に振舞って、現実社会に影響がでないようにするためだな。まぁ、当たり前か。
「また来てくれよ、クノ!」
「……あ、やっぱ知られてるのか」
「そりゃ、アンタは何かと有名人だからねぇ。そんなプレイヤーに礼を言われて、ウチの商品にも箔がつくってもんだ。どうだ? ウチの商品が気に言ったのなら、専属契約でも」
「なんじゃそりゃ……遠慮しとくわ。こういうのは、その場の雰囲気で飲む感じがいいんだろうが」
てか、メロンソーダの専属契約ってまじめに何さ?
「そうか。じゃ、また目にかかったら寄ってくれると嬉しいぞ」
「ん、じゃあな」
おっちゃんにヒラヒラッと手を振り、俺は歩き始める。
そして見つけた露店の一つで、メロンソーダ味の飴玉を購入……べっ、別にこの味が大好物とかじゃないんだからねっ!?
……って、さっき好物といった手前これはなかったな。うん。
自分でも子供舌かと思うが、美味しいものは仕方が無いのだ。
早速実体化させて、口に含んで転がす。
このゲームでの飴玉は、包み紙というものが存在せずそのまま実体化される。汚れる心配も、食べられなくなる懸念もないからなぁ。べたつきもしないし。半透明の緑色が宝石のように綺麗な飴玉だ。
うむ、美味しいね。心なし疲れた脳がしゃっきりしていく気がするよ。あくまで気がするだが、ここではそれが結構大切なのだ。
だってこの世界自体、極端な事を言えば“気がする”で終わらせることもできるんだしなぁ。
コロコロ……口当たりは以外にもマイルド。刺激弱めで、良い感じの飴玉だ。とりあえず20個で一袋扱いのものを3袋程買ったが、当たりだね。
俺は飴を舐めながら、広場から北門へと転移する。
今日中にボス前のセーフティーエリアに辿り着きたいからな。魚が割かしあっさり片付いたため、ギルドでの攻略に先駆けてソロで突撃してみたい。
腕輪はなしで、レイレイで上層を爆走だぜ。
……の前に、【賭身の猛攻】と【狂蝕の烈攻】のセット効果があるかどうかの確認だけしとこうか。あったらなんかこう……燃えるわ。
何故かこの辺り、主人公がポコポコ死にます。なんでだろね。
【賭身の猛攻】変化条件
①Str値が、Vit+Minの値の三倍以上である
②【捨て身】使用回数500
分岐
【自暴自棄】AS
Str上昇+25%
Vit/Min減少-50%
効果時間:発動後30秒間
変化条件:
①Str値が、Vit+Minの値の三倍以下である
②【捨て身】使用回数250