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第五十六話 熱波の岩山のお話 (+簡易キャラ紹介)

フィールド攻略に入る前に、感想欄でキャラがわからないと指摘を受けたのでキャラ紹介をば。

飛ばしてもらっても全然大丈夫です。


◇クノ(藤寺 九乃)(17)(170cm)

Str極振りの無表情系変人主人公。割と常識人のようで、まぁ普通の思考回路はしてない。黒髪に黒眼(リアルでは眼は焦げ茶)


◇フレイ(御崎 玲花)(16)(158cm)

Agi優位のスピードファイター。正真正銘本物のお嬢様。最近ペット化が激しい。ウェーブのかかった金髪に碧眼(リアルではどちらも栗色)


◇エリザ(近衛 理紗)(17)(153cm)

Dex優位のギルド専属職人。基本は無表情で捉え所がないが、最近は結構表情の変化が多くなってきた。肩までの黒髪ショートカットに赤眼(リアルでも同様)


◇カリン(17)(170cm)

Str/Int優位の氷魔法剣士で、ギルド「花鳥風月」のギルドマスター。鋭い目つきのクール系美人。使いこなすのが難しい魔法剣士スタイルを上手く使いこなす辺り、スペックはかなり高い。背中までの長い白髪ポニーテールに紫眼。


◇ノエル(15)(160cm)

Min優位のヒーラー。ちなみに回復魔法はMin依存。ノンフレームの眼鏡をかけていて、礼儀正しい。しかし伊達にリッカの友達(保護者?)やって無いのか、割と天然。ゆったりと編んだ緑髪を胸の前に垂らしていて、緑眼。


◇リッカ(15)(147cm)

Int優位の、炎魔法使い。精神年齢が実年齢よりも幼い、元気な子。いつも一緒にいるノエルに窘められることもしばしばだが、最近はノエルも一緒になってボケることが多くなってしまった。クノを除けば、ギルド随一の火力保持者。ピンク髪サイドテールにオレンジ眼。


◇クリスティーナ(高校生)(162cm)

Dex/Agi優位のボウガン使い。「ですわ」な人。過去にVRゲーム『テルミナススタァ・オンライン』でクノと同じギルドに所属していた。ヤタガラスのリアル妹。薄桃色で縦ロールの豪奢な髪に同色の眼。


◇オルトス(社会人?)(186cm)

『IWO』最大手ギルド「グロリアス」のギルドマスター。屈強な肉体を持ち、リアルでも何かしらの武道をやっている様子。βテスト時に開かれたPvP大会の活躍から「最強」の二つ名を冠している。初期の頃に「困った時は呼んでくれ!」とクノとフレンドになったが、クノがハイスペックすぎて活用できてない。焦げ茶色の髪を短く刈り上げていて、黒眼。


◇ヤタガラス(大学生?)(178cm)

過去に「テルミナススタァ・オンライン」

でクノが所属していたギルドのギルドマスター。人からかう事を生き甲斐としている。クノ曰くMUPモーストうざいプレイヤー。クリスのリアル兄。黒と白のマーブル模様の髪を後ろで縛っていて、赤と青のオッドアイ。


◇三宅さん

クノのリアルの知り合い。もの静かな美人で、泣きぼくろが特徴。日本人らしくない灰色の髪に同色の眼をしているが、生まれつき。


◇ミカエル

掲示板でちょろっと名前がでてきた、勇者な人。


◇掲示板の住人

クノ板の住人。大剣使い・双剣使い・短剣使い・刀使い・弓使い等がいる。少しだけでてきた全属性魔法使いは実は……?




 


 カツカツカツ……と一人分の足音が響く。トンネル内は壁の照明によって仄かに明るく、そして幾ら岩山がでかかったとはいえ、これは広すぎじゃねえ? と思うほど広い。俺以外にもプレイヤーはいたのだが、その人達とは先ほどの分かれ道で分かれたんだ。


 なんか俺をみるなり、いきなり“クノさんですかっ!?”とか言って四人のプレイヤーに囲まれたんだが……前回のイベントでMVPになって知名度が上がったせいだろうなぁ。なんとか無難にあしらったが、今後もあれが有るのかと思うとげんなりする。

 でも、何故か東とかで戦ってる最中は全然声をかけられないんだよなぁ。や、当たり前っちゃあそうかもしれんが、戦闘後も凄い避けられてる感じがするというか、なんというか。

 まぁ、いいけどさ。


 カッカッカ、という硬い鉤爪が岩に当たる音がする。

 そして前方から姿を現したのは、三匹のモンスターだった。

 ぎょろりとした爬虫類特有の眼が俺をねめつけてくる。


 はいエンカウントっと。

 さっきまではモンスターが現れても、一緒に居る人に遠慮して倒せなかったんだよなぁ。というか、俺達の戦いぶりを見ててくれませんか? とか言われて下がらされたし。

 ちなみに、「《呪具》誘香の腕輪」は装備から外してある。今回はモンスターとの戦いではなく、ボスに辿り着く事がメインだからな。腕輪の効果を使ってたら何時まで経っても前に進めない事請け合いだ。


 とと、戦闘に集中しないとな。


「熱波の岩山」の下層に出てくるモンスターは三種類なのだが、それらは全てリザードマン系のモンスターだ。両手剣を装備した「ソードリザードマン」、片手剣と手盾を装備した「リザードソルジャー」、そして弓を装備した「リザードアーチャー」である。


 リザードマンが厄介なのは、武器を装備しているという点だ。その武器に攻撃を当てると、こちらの火力を幾らか吸われてしまうのである。特に、「リザードソルジャー」の盾は厄介だ。

 後は、「リザードアーチャー」の遠距離攻撃も厄介と言えば厄介だが、得てして後衛は脆いもの。先に投擲で潰しておけばいい。問題は、うじゃうじゃ集まって来た時に優先して狙うのが難しいということだが……まぁ、そん時は普通に矢を弾いて、隙間ができたら投擲をねじ込んでいけばいっか。


 今回の敵は、「リザードソルジャー」二匹に「リザードアーチャー」が一匹。


「【異形の偽腕】【覚悟の一撃】【狂蝕の烈攻】【捨て身】」


 四本の『偽腕』を展開し、「黒蓮」を瞬時に六本実体化させて手に納めると、一本はすぐさまリザードアーチャーに投擲する。唸りを上げて目標に向かう長剣は、弓を引く途中のリザードアーチャーを貫く……寸前で、前にいたリザードソルジャーの盾に止められた。


 ガゴンッ!!


 という砲弾でも受けためたかのような音がリザードソルジャーの盾からトンネル内に響き渡る。そんな威力の攻撃を受けても、流石に盾持ちというべきかHPが半分以上残っているリザードソルジャー。硬い……まぁ、投擲だしな。

 しかし盾は無残にもひしゃげ、原形を留めていない。後少しでもダメージを蓄積すれば部位破壊扱いだ。


 ……っと、部位破壊というのはモンスターの特定の部位や装備にダメージを与えて“破壊値”を限界以上に溜めてやるとそこが壊れて、モンスターによっては弱点が露出したりするものだな。

 まぁ、装備関係は正確に言うと破壊値を溜めてるんじゃなくて単に耐久値を削っているだけなんだが。こういう破壊可能物に対しては(オブジェクトなんかも含め)、“損耗値”を溜める、と一まとめにする名称も……と、話が逸れたか。


 とにかく、盾越し投擲でもこんだけダメージを与えられるんだったら直で斬れば盾ごと両断できるだろう。どうやらモンスターの盾持ちはプレイヤーと比べていくらか柔っこいようだ。

 いや、俺が会った事のある盾持ちプレイヤーは対抗戦時で最後だし、俺の攻撃力の上がり方がおかしいだけかもしれんが。

 新しい剣を実体化させ、投擲した剣も回収する。


「ガァアア!!」


 盾がひしゃげてない方のリザードソルジャーが、剣を振りかざしながら斬りかかってくる。もう一方は投擲の衝撃からなのか、なんかスタン状態になってるから無視。アーチャーの方は仲間に助けられ、矢を射かけてくるが自分の腕を操って軽く叩き落としてやる。全然遅いっての。


 ――とはいえ、まだ『偽腕』では叩き落とすことは難しいのだが。要修練。


 そして斬りかかって来たソルジャーさんの剣を、剣が手を離れてガンッ! と天井にぶち当たり一部を破壊するレベルで弾き、力技すぎるカウンターを決め昇天させる。

 同時に盾役がスタンになっているアーチャーの方に剣を投擲――今度は弾かれずに見事命中。


 ズンッ!!


 勢いに引きずられて串刺しのまま何mか吹っ飛びながら消えていくリザードアーチャー。長剣のガードの部分がかろうじて引っかかってたみたいだな。もうちょい強く投げれば綺麗に貫通しそう。


 まだその光の粒子が消えきらない内に剣を回収し、タネなし手品で手元に出現させる。

 そしてそれらを行っている間に、違う剣を実体化させ投擲、スタンが解けてこちらに向かおうとしたソルジャーのひしゃげた盾を豪快に砕け散らせる。そしてまだ少し距離があるのでもう一本投擲して完全に息の根を止めた。


「ァァア……」


 投げた剣を回収して、戦闘終了っと。

 “解除”と念じて『偽腕』を戻し、俺はまた無手の状態で歩きだす。剣とか背負って歩きたくないし、エリザの「便利ポーチ改」様々だ。

 にしても、投擲で「投げナイフ」を全然使わないな……まだ50本以上あるのに。中近距離での瞬間火力なら、一度に何本も投擲できるからナイフの方が上回ると思うんだけど、その必要性が無いっていうね。


 ちなみに。

 エリザ特製の投げナイフは、俺の執事ルックにあつらえたようになんというかまぁ……食事用っぽい。この辺りは凄くエリザ“らしい”な~、なんて思う。


 もちろん食事用のように切っ先が潰してある訳はなく、かなり鋭くなっているのだが、刃と柄が一体化してるし片刃だし大きさも丁度だしと、完璧に狙ってるとしか思えない。

 尚、銀食器ではなく黒食器です。色はやっぱ譲れないのな……


 まぁ、そんなことはおいといて。

 戦闘はこんなもんかな。やはり相手が武器を持ってるとちょい面倒だなぁ。ダメージが格段に与えづらいし。


 後はやっぱり、戦闘中は【危機察知】の情報拾って相手の動きを読んで、『偽腕』の同時操作してその上自分でも攻勢に出てと、かなり大変だ。『腕』は俺の足りない反応速度を補うためにあるが、いろんな動きを同時に展開しなくてはそれは補えない訳で、いまさら言うことではないがその辺の処理が面倒なのである。


 辛くはないが、面倒。

 理論上、VRでの脳強化は必要に応じて“最適化”されるようになっているはずだし、さっさと“慣れ”て――最高の最適化状態に辿りついて欲しいものだ。そうすれば、それこそ片手間でも処理が行えるぐらいになるのになぁ。

 先は、もう少し長そうである。


 脳を働かせる為に、糖分補給でもしようかね。VRでもそれが有効かどうかは知らんが、脳が食べた気になるんだったらいくらか効果はありそうなんだよな~。自己暗示的な意味も含めて。

 VRでの自己暗示とかは、結構馬鹿にできない。


 確か広場の露店には、飴とかを売ってるプレイヤーもいたし、帰ったら買ってみようかな?




 ―――




 そして、そんなこんなで途中途中でモンスターを張り倒しながら進むこと約二時間。レベルは一つ上がって40。なんかもう、逆に戦闘でスタミナ回復してる感があるよなぁ、なんてことを思い始めた頃。


 一際大きなセーフティーエリアを抜け、急にトンネルが開けたと思ったら、そこは先ほどまでと違って大きくフィールドが広がっていた。そこら中にある大きな岩といい、まるで荒野のようだが、違う点が二つほど。


 一つは空が見えずに、マグマが固まったような天井が有る点。そしてもう一つは空気がどことなくオレンジで、いかにもな熱気を自己主張している点である。


 つまり、やっとこさ上層突入ってな訳だな! 「冷却符」を実体化させ、使用する。ちなみに効果時間は、30分間だ。

 ふぅ、ホント長かった……上層は一本道(道ではないが)で、その奥にボスまでの転移陣が存在しているので、後はここを一気に駆け抜けるだけだな。とりあえず、ここのモンスターとも一通り戦って、奥まで時間がかかるようだったらレイレイ使って超特急しようか。


 ……いや、待てよ。それだったら“腕輪”でモンスター集めて乱獲して、腕輪の効果が切れたらレイレイに乗る方が効率的に楽しめるか? ……よし、そうしよう。


 早速メニューからアクセサリ「《呪具》誘香の腕輪」を装備。そして入口から少し離れた場所で【異形の偽腕】を唱え戦闘準備をすると、数十秒でぞろぞろとモンスターが集まって来た。


 いやぁ、流石は呪いの品。効果抜群だわ。


 上層には、「ヒノワグマ」「マグフィシュ」「ブランディア」の三種類のモンスターが生息している。

「ヒノワグマ」は赤い毛皮の熊。「マグフィッシュ」は黒と赤の斑模様をした、シーラカンスみたいなやつ。生意気な事に地面を自由に泳ぐらしい。そして「ブランディア」は赤く光輝く角を持った、大きなシカだ。


 全体的に大きめのモンスターが多いせいか、集まった数も東と比べれば大したことはない。しかし、その分個々が強力なモンスターであり、これまでのように一太刀で沈んでくれることは……


「グォォォオ」

「ロロッ……」

「キュキュゥ!?」


 ドゥ、と目の前で崩れ落ちる熊と鹿。そして足元にはピクピクと痙攣する魚。

 前言撤回。こいつら――ちょろいわ。


 熊の一撃を余裕で弾いて顔面を縦一文字に斬り裂き、魚の放つ炎弾を剣を振って相殺し、お返しに投擲をプレゼント。そして鹿の突進を『偽腕』で真っ向から受け止め――というより、『偽腕』自体には触れられないしダメージもを与えられない事を利用して剣に突っ込ませ、額から串刺しにする。

 全て、一撃で倒れていくモンスター達。やばいな、笑い声がとまらん。Str極振り最高すぎるわぁ。


 我が覇道に敵はなし! くっははは。



 ……なんて、油断していたのが悪かったんだろう。


【危機察知】にモンスターの攻撃を捉えたのだが、反応の場所がおかしいのだ。

 その場所は――足下。つまり、地面の下からだ。


 慌てて避けようとするが、数歩分動いた所で逃げきれない事が分かる。

 うっわ、まじかぁ……


 ザァッ――パリィン!


 足元から凄い勢いで飛び出してきたマグフィッシュによって、【不屈の執念】が発動してしまう。……うわぁ。足元から攻撃とか、完全に盲点だったんですけど。避けられんだろう……


 とりあえず、俺を襲った憎き魚は【不屈の執念】による“防御無視”が付加された一撃で以て、きっちり葬り去っておく。いままでこの効果が発揮されたことはなかったんだが……


 ……これは凄いな。


 ――ッ――


 まるで斬った感触が無く、一瞬で振り終わった時にはもう魚は消滅していた。あらゆる防御を無視とか書いてあったけど、この切れ味はヤバい。病みつきになって自分から死にに行きたくなるレベルだ。

 ……や、うん。冗談、だよ?


 しかし、喜んでいる場合でもない。


 熊と鹿は普通に近接戦しか仕掛けてこないので良いんだが、問題は魚だ。何あの“あなをほる”攻撃。四方敵に囲まれた状態でしかも俺のAgi0なんだよ? 避けれるか? 否避けられない。どうすっかなぁ。

 熊は基本“ほのおのパンチ”だし、鹿は“とっしん”と“つのでつく”なのに……魚は一匹だけ嫌らしいな、攻撃方法。


 とか思いながら前後左右からお構いなしに襲い来る敵を、自分の感覚と【危機察知】を駆使してばっさばっさと斬り捨てていく。


 時々かけ直しが必要な【捨て身】がうっとおしいが仕方ないな。後から後からモンスターがリンクしてくるせいで、ここまでずっと一戦闘だから【狂蝕の烈攻】の効果がずっと続いているのは良いけど、その代わり【不屈の執念】がもう封じられてるんだよなぁ。戦闘が終了しないと、もう一度発動できるようにはならんのだ。


 そしてこのままだと、さっきみたくまた魚が――


 あ。


 ――きたよ。もう……


 先ほどに続いて、また足元からの反応。

 そしてそれを避けるすべはなく、


 ザァッ


「ゴフッ……」


 俺は下から飛び出してきた魚に腹を突かれて消滅するのだった。 





そういえば、前にどこかでフィールド上では防具、アクセサリは変更不可と書いた気がしますが、防具のみに修正です。設定が適当で申し訳ないorz


6/2 『腕』→『偽腕』に表記を変更

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