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第五十三話 拾い者のお話③

最近纏まって時間が取れないです

しばらく感想返しが滞りそう···必ず読ませて頂いていますが、その読むこと自体なかなか。




 


 …

 ……

 ………


 ……ノ……クノ……


 ……んぁ? 耳元で声が聞こえる。それに、誰かに体を揺すぶられているような感じも。ぼんやりと眼を糸のように開けると、そこはうす暗闇だった。

 んぁ、なんだなんだぁ、今何時だ、夕方ぐらいか? てか俺結局寝ちゃってたのかよぉ?

 膝からは硬い木の感触、腕からは柔らかな布の感触が伝わってくることから、恐らく俺はベッドに顔を埋めた状態だろうなぁ、恐らく。おそらく……まじ恐らく……イスからはって移動でもしたっけ……や、そもそもイスから降りてたか? ……まぁいっかぁ。


「ちょっと、あの、クノ……起きてくれると嬉しいんだけど……クノ!」

「ん……だれ……」

「あ、起きたかしら」 


 声が聞こえたので、反射的に誰何する。しかし、体はまだ覚醒しない。まぁ、いつものことだわなぁ……俺の寝起きの悪さを舐めんなよまじでまじ……とりあえず二度寝してしゃっきりするか……うん。うむ。

 俺はより良い睡眠環境を求める本能から、ずりずりとベッドに這いあがっていく。うあー……体が重い……よっこらしょ……ふあぁ。


「きゃっ! え、ちょっとクノ、え? 嘘、ちょっとはうっあぁ……」


 途中で何か暖かいものに触れたので、それを抱え込みながらベッドに上がり、体を丸める。

 ふむん。柔らかくて触り心地も抜群。家にこんなのあった、かなぁ……うん……あー、あったかあったか。部屋はあったかいし毛布はいらない、覚醒まであと十分……いや二十分……いや……すぅ……


「ク……クノぉ……」


 ……すぅ……


「あうぅぅ……いやでも、これはこれで……」

「って、はっ! いや駄目でしょう!?」


「ちょっとクノ! 起きてー! 起きなさい! てか離しなさい!」

「うぐーっ。……駄目だわ、力強すぎでしょう……流石は男の子……?」


「いやいやいや。そういう問題じゃないわね。もう……本当に起きないの?」

「本当に? ……むぅ、起きないわね……な、なら仕方ないかしらっ!?」

「私にもか、考えがあるわよ?」

「そう、離さないクノが悪いんだしね。別に私が望んでこんな事をしているわけでは、ないのよ? 本当に違うのよ? クノが悪いんだからね!」


 ……――ぎゅぅ


「んっ、ふぅ……」

「……暖かい……落ち着く、わね」

「ふふっ」




 ―――




 前略。

 眼を覚ますと俺の腕の中には、可愛い女の子がいました。

 というか、なんか強く抱きしめ合っていました。

 俺のすぐ目の前にある少女の顔は真っ赤ながらも、何処か嬉しそうに微笑していて……って。

 ぱちり、とその大きな瞳と目が合う。


「のおあぁあああああ!?」

「あ……きゃぁああ!?」


 俺、大ジャンプ!

 抱えていた少女を離すと、その子の手も振りほどき、全力で後ろに飛びすさり……落ちた。ベッドから。首がコキャッと良い音を立てるが、大丈夫だ、問題無い。


「ぐはっ……」

「え? ちょ、クノ!? 大丈夫かしら!?」


 慌てて駆け寄ってくる少女。てかこの子誰。なんでこの子とベッドに入ってるの? ヤバくない? ヤバいよね。これはあれでしょ、アレな階段的な何かを上ってたりとかするの? 馬鹿なの俺は? 死ぬの?

 ……いやいやいやいや待て落ち付け、俺も少女も服を着ている、大丈夫セーフだ、セーフ……


「どこがセーフだアホぉおおおぅうう!!」

「きゃあ!」


 俺は勢いよく立ちあがり、それに驚いた少女は尻もちをついてしまった。

 意識が覚醒して、俺の混乱も収まってくる。この子は今日拾った子だよな。そうか、眼が覚めたのか。良かった良かった。


「立てる?」

「あ、有難う……」


 少女は顔を赤くし、消え入りそうな声で礼を言ってくる。この反応……

 俺はその子を立たせると、すたすたと壁際に歩いていく。


 ゴンッ!


「何やってるのかしらクノ!?」


 どうして俺が少女を抱いて寝てたのか……

 ……まぁ、大方寝ぼけでもしてたんだろうが、なぁ。


 ゴンッゴンッ!


 しかし、これでは変な事はしないと三宅さんに言った手前、申し訳が立たないではないか。


 ゴンッゴンッゴンッ!


 だいたいさっきの反応からして、何もなくても何かあったろう。絶対ヤバいだろう。


 ゴンッゴンッゴンッゴンッ!


 俺は自身の行動を悔いて、とりあえず壁に思いの丈をぶつけてみる。後悔と反省と痛みで煩悩を吹き飛ばすのだ。まじ何やってんの俺。

 ……でも少女は俺が想像していたよりもずっと華奢で、柔っこくて……


 ゴンッゴンッゴ「もうやめなさいってば! 怖いから! 無表情でそれは本当にホラーだからっ!」ンッゴンッ……


 後ろから引っ張られて、壁際から離される。その際足がもつれて転びそうになったが、神的バランス感覚で少女を押し倒す的な事を回避。そうそうラブコメ展開を演出して堪るか。いや、堪らんのは相手の方だろうが。

 そして、一旦懺悔は中断して少女と向かい合う。暗くてよく顔が見えないな……


「すまんが、電気を付けていいか?」

「ええ。構わないわ」

「悪いな」


 パチッ


 照明を付け、少女の姿がくっきりと見えるようになる。眼を瞑った少女は、明るさに慣れさせるようにその眼をおそるおそる開き……俺は、この少女の正体を確信をした。


 赤かったのだ。


 ゲームと同じように、少女は綺麗な赤い瞳をしていた。おそらく、カラーコンタクトか何かだとは思うが。それに、声もエリザそのもの。これで他の誰かだと思う方が難しい程だ。


「エリザ、だよな?」


 俺は少女に尋ねる。これで間違っていたらただの意味分からん奴だが、幸いにもそんなことにはならなかったようで。


「ええ。そういう貴方はクノ……よね?」

「ああ、その通りだ」

「……とりあえず、その土下座をやめてくれないかしら?」

「……いいのか?」

「やめなさい」

「はい」


 うむ、やはりエリザか。数奇なこともあるものだな……


 いや、ホントにびっくりだわ。傍から見ても絶対びっくりしてないだろとか言われそうだが、内心「シャ、シャベッタァァア!!??」くらいの勢いで驚いているんだぞ? 


 確認が済んだので、俺はとりあえずエリザに座るように言う。

 エリザは迷うことなくベッドに腰を掛けたので、俺は回転イスを持ってきて対面に座る。

 蛍光灯の明かりに照らされ、向かい合う俺達。エリザの服装を見て気付いたが、連れてきた時より綺麗になってるな……三宅さんが何かしたんだろう。


 とりあえず、お互いが多少なりとも知っている仲だったなら、話は楽か。

 まず、話すべきは……


「あー、なんだ。エリザ。とりあえず状況のすり合わせとか、しとくか?」

「そ、そうね。是非そうしてくれると助かるのだけど。特に、何故私がクノの部屋にいるのかを詳しく」


 少し緊張しながらも、物怖じせずはきはきと尋ねてくるエリザ。やはり人間ができてるな。


「おぉ。よくここが俺の部屋だって分かったな」


 しかし、いきなり鋭いことを言って来たので驚く。なんか判断材料あるっけか?


「机の上の教科書に名前が書いてあったのよ。私、フレイから貴方の本名を聞いていたから、すぐわかったわ……あぁ後、私だけ本名を知っているのはフェアじゃないから、自己紹介をするけど」

「ん? ああ」


 流れからいって、本名ということだろうか。しかし、玲花は俺の個人情報をどこまで話してるんだろうなぁ……別に知られて困ることもないけど。


「私の名前は、近衛このえ理紗りさよ。まぁ、今までと同じようにエリザと呼んでもらえると嬉しいのだけど」

「近衛理紗、か。良い名前だな。一応こっちも、藤寺九乃だ。よろしく」


 なんとなく、握手。手はもう冷え切ってはいないみたいで、ホッとする。


 てか、ん? 近衛……近衛。御崎邸のメイドさん達も近衛だったよな? 

 それに名前の傾向も同じで、しかもエリザは前に「上に三つ子の姉がいる」と言っていた。このことから推測するに、エリザはもしかして……


「もうわかってるとは思うけど、この前貴方が話していたフレイの家のメイドさんとやらの、妹にあたるわ。貴方の口から姉達の話が出た時は少し驚いたけれど、言うほどおかしなことでもないのよね……」

「やっぱり、か。言われてみれば確かに、似てる所も多いな。髪とか肌とか美人とか」

「……ほ、褒めてもなにもでないわよ」

「何か期待してる訳でもないから気にするな。純粋に似てるなって思っただけだし」

「一言多いわよ……」


 おっと。しかしまぁ、褒めているのも事実と言えば事実。もうね、メイドさんに似てるってだけでもかなりのもんですよ。プラス、エリザにはエリザにしかない魅力もあるしね。

 しかし妹かぁ……素晴らしいな!


 と、流石にそんな馬鹿なことは置いておいて。

 そろそろ本題に入るとするかな。


「それは悪い。じゃ、俺から軽く状況説明とかしても?」

「お願いするわ」


 エリザの返事を聞き、俺は今日一日の事を振りかえって話始める。


「えっと、昼ごろにスーパーに買い出しに行ったら、途中の道端でエリザが倒れてて、発見者の三宅さんって人――その人はもう帰っちゃったけど――の判断で俺の家に連れてきた、外やたら寒かったから、放置は不味かろうと思ってな。で、幾ら揺さぶっても起きないから、眼ぇ覚ますまでそっとしとこうと思ったら……先ほどのありさまだ。本当に、すまない」


 俺はさっきのこと、良く考えたらエリザに謝ってないと思い、イスから立って深く頭を下げる。先ほどの無言土下座はノーカンだ。更に言うと土下座禁止を言い渡されているので普通に頭を下げるよりない。

 それ以外だと……切腹くらいかな、思いつくのは。刀が無いのが悔やまれるな……爺さんなら大量に持ってるだろうけど……


「エリザには普段世話になってるのに、恩を仇でかえすような不届きな真似を……」

「いっ、いえいいわよ! 話を聞く限り、私を助けてくれたみたいだし、それに、別に仇で返された訳でもなくてむしろごほ……。ごほん、ごほん。いえ、なんでもないわ」


 エリザがわたわたと手を振る。なんかテンパリ具合が半端なかったが、どうやら悪感情はないようだ。こんなにあっさりとお許しくださるなんて、エリザさんまじ女神。エリザ教があったら入信してるレベルだ。


 俺はもう一度深く頭を下げ、エリザに「もういいから!」と言われてしまったのでイスに戻る。

 俺が座ったのを確認してエリザは居住まいを正すし、真剣な目で俺を見つめて言った。


「じゃあ、今度は私の番かしらね……まずはクノ。助けてくれて、有難う」

「いや、いいって。エリザには日頃本当にお世話になってるしなぁ。本当に」

「いえ、そんな事、」

「ある。絶対ある。エリザが何と言おうと、俺が断言する。異論は認めん」

「あー……いえ。有難う」


 アイテム的な意味でも、俺の精神安定的な意味でも。感謝してもし足りないくらいだからな。これで少しでも借りが返せたのなら、それは良かった。


「それにしても……なんであんなことになってたんだ?」

「あ、そうね……」


 そう言うと、俺から眼をそらすエリザ。つい今さっきの凛とした雰囲気が崩れ、なんとも気まずそうだ。


「あぁいや、言いたくないなら無理には聞かない。俺に気を使ったりしなくても良い」

「いえ、言うわ。言うけど……笑わない?」

「いや、笑わんよ」


 人が倒れた理由を聞いて、笑う奴はいないだろう。

 俺がそう断言すると、エリザは小さく頷いて、うつむきながら事情を語った。

 それは聞くも涙、語るも涙の……


「……疲れて、寝ちゃったみたいなのよ……」

「ん?」

「久し振りに家からでて動いたから、体があっという間に限界に達したのね」

「は、はぁ」

「いつもは食料品を買うのに、通販を利用してるのだけれど、今日は偶々歩いてみようと思ったの。でも、スーパーまでの道のりの険しさを舐めていたわ……目的地に着くまでに体力全部使い果たして、帰り道で倒れてしまったの」

「お、おぅ」

「そして意識が遠のいて……気付いたら、クノの部屋で眠っていたという訳よ。おまけにクノを起こそうとしたら……その……」

「それはホント……すみません……」

「あ、いえっ、怒ってるとか蒸し返そうとかそういう意味じゃないから!」


 エリザさんまじ女神。


 とはいえ、とにかく事情は大体理解した。エリザの家からあのスーパーまでどのくらいかかるのかは知らんが、もっと体を動かせと言いたい。道端で力尽きて眠りこけるとか、よっぽどの社会不適応者だぞおい……

 ゲームではしっかりしてて頼りになるのに、ギャップが凄いわ……



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