第五十話 強くてリトライ?のお話②
当面の目標であった本編五十話達成。
このペースでだらだらやってると、百話も達成できそうだ……良いか悪いかは別として;
そして前話でのアンケートの結果、圧倒的多数?で季節ネタはやることに決定しました。
イブとクリスマスと大みそかとお正月と……多いな作中の時期のイベント……
レイレイの背に乗ること、僅か五分程。
一直線に駆け抜けて、ボスフィールドの手前のセーフティエリアにやって来た。
「よし、ここまででいいぞ。有難うなー」
「クエーェ」
レイレイを召喚魔晶に戻して、インベントリで「召喚魔晶:ドラク・レイヴィアス」を見てみる。目につくのは、
“再召喚まで 0:02:37”
という表示。二分半ということは……昨日のことも合わせると、再召喚時間は、直前に召喚していた時間の半分、ということかな? そして召喚時間の限界が二時間、と。成程ね、覚えとこうっと。
騎獣について一つ理解が深まったところで、俺はセーフティエリアの真ん中にある、一段高くなっており御影石のようなつやつやした石で作られた円形と、それに刻まれた魔法陣を見る。
あそこに乗ると、自動でボスフィールドに転送されるのだ。
さて、ではここで俺が何故、ソルビアルモスにもう一度挑もうとしているかを話すとだな。
まぁ、なんだ。一種の趣味性みたいなもんなんだが、ボスは全部、一回でいいからソロで倒してみたいんだよな。力試し的な?
それに、前回は結局死んでるし……
ソルビアルモスのレベルは30だが、実はこれ相手によって+5まで上がるんだと。つまり俺と蛾のレベル差は3になる訳だ。普通ならどう頑張ってもソロで倒すのは無謀らしいんだが……(ちなみにボスをソロで倒せる基準は、ボスレベル+15辺りが目安らしい。効率悪い上に時間かかるが)
特にソルビアルモスは俺との相性悪いから、悪いが故に、高い壁に燃える。と言っても、今回はその相性を根本から覆せるかもしれないんだがな。さて、どうなることやら。
じゃ、そんな感じで、行きますかね。
俺は軽く首を回して、魔法陣の上に乗った。
―――
フィールドに入ると、ソルビアルモスが空に羽ばたき始める。
まず、ここからが肝心だ。俺はその場から動かず、即座にスキルを唱える。
「【異形の偽腕】【覚悟の一撃】【狂蝕の烈攻】【捨て身】、そらぁ!」
そして発現した四本の『偽腕』と自分の腕に、六本の「黒蓮」シリーズを実体化させ。其れを躊躇うことなく、全力で
武器を投擲すると、投げナイフなどのアイテムを投擲するよりも、かなり高いダメージが見込めるのだ。まぁ、普通は武器を一つしか装備できないから、投げようなんて考える奴は少ないだろうが。しかし俺の場合は【武器制限無効化】というスキルが有るから、ある程度の融通は利く。
――ヒュッッ
【投擲】の補正と、俺の元の技量、そして馬鹿高いStrの融合。
投げられた六本の剣は恐ろしく正確に、100m程先のソルビアルモスの両翅に一瞬で到達し、容赦なく貫く。翅に、ここらでも分かるほどの穴が穿たれる。
キュガァアアッ
たった一回の投擲。
それだけで、三本あるHPバーが一本目の三割程削れ、ソルビアルモスが身をよじる。剣一本で5%程か。これは前にナイフ投げで与えたダメージと同じくらいだが、それは仕方がないかなぁ。
なんせ前はソルビアルモスとの距離は30mほどだったが、今は100mほどだし。ほとんどの遠距離攻撃は、距離が離れるにつれ威力が落ちるんだよね。残念。
これでも距離による威力減衰は、アイテムである投げナイフよりも少ないのだが。だから今回投擲には武器を使った訳だ。もっと距離が近ければ、一度に何本も投擲できる分、ナイフの方が瞬間火力は高そうだけどね~。
まぁ、どうでもいいや。
さて、じゃあどんどんいこうか?
瞬時に、投げた剣の実体化を解き、再度実体化。手の中に納める。
どちらも思考で完了するので、一瞬だ。
そうして其れを再度翅に投擲。更に今度は、まだ使っていない四本をインベントリから呼び出し、投擲、実体化解除、再度呼び出し、投擲、呼び出し、投擲。
シュンッ、と何も無い虚空から手元に現れ続ける剣を、【投擲】のスキル補正により高速で投げ続ける。
―――ッッッ
剣が空気を切り裂く音が連続し、繋がり、暴虐を奏でる。
計十六回、息もつかせぬと「黒蓮」を連続で叩きこむ翅への集中砲火。まさしくガトリングガンのごとき投擲だ。自分でやっててなんだが、割とチート臭いな。
このガトリング剣投擲を支えているのは、【武器制限無効化】による扱える剣の増加と、それの副次効果とも言うべき、剣の高速実体化解除――あの、剣がパッと消えるようになるアレだ――そしてエリザに貰った「便利ポーチ改」を使った、思考によるノータイムでの剣の実体化。極めつけに、VRで強化された、俺の脳の処理速度ってところか。
削れたHPは一本目の八、九割。開始十秒程のできごとである。
ソルビアルモスの翅は当然のごとくボロボロになり、そして――堕ちた。
「っしゃぁ!」
キュジャァアア!?
ドォォォン、と地面を揺るがし、巨躯が墜落する。
よしよし、作戦通りだ。やはり翅を攻撃すれば落下するし、そのダメージが酷ければ――ご覧の通りだ。俺と飛行系ボス・ソルビアルモスとの相性が完全に覆された瞬間である。
投擲は
スキルの組み合わせ的に、恐らく俺以外には真似できない唯一の(でたらめな)遠距離攻撃手段だと自負できるレベルではある。
……ただやっぱり、一度モンスターを直に剣で喰らうことを覚えると物足りなく感じてしまうものだが。ダメージ量の差がなぁ……
ソルビアルモスは再度大空に羽ばたこうとするが、その翅はもはや空を掴まず。
ただただバサバサと、憐れっぽく風を巻き起こすだけだった。しかもダメージも何もない、只の風である。恐るるに足らんなぁっ!
キュァァアアッ
藻掻くソルビアルモス。
テンションの上がる俺。
「はははっ、藻搔け、苦しめぇ!」
完全に悪役っぽいことを口走っている気がするが、まぁいい。
ソルビアルモスが飛び立とうと無駄な努力をしている間に、俺は更に投擲を続ける。それも、翅ではなく弱点である首の付け根に集中させて。
「くっはははは!」
ドスドスドスドス……、とソルビアルモスを突き刺さる剣。
そして一瞬で俺の手に舞い戻ってくる。戻って来たそれを再度、次々と投げる俺。
剣を使いまわさなくちゃいけないから、ソルビアルモスが剣山のようにならないところが、マイナスポイントだな。見た目のインパクトに欠ける。
と、翅が緑色に光り出した。多分再生くるのかなぁ、と思いながら、剣をそちらに向けて射出。そのモーションをとげられず、スグに収まる発光。
――この俺を前にして、再生なんて出来ると思うなよ?
削れていくソルビアルモスのHP。
そして、ろくに反撃すらできないソルビアルモス。翅を失った今、あのカマイタチや滑空突進はできないからな。後の攻撃手段は、近距離でしか使えない触手と、毒霧のみ。
ならば俺は、このまま遠距離からチマチマ投擲を続けていればいずれ勝てる、と思っていたのだが。
カサカサカサ……
しかしソルビアルモスは、その貧弱な脚で持って、地面を這ってこちらに向かって来た。
ガトリングもお構いなしで、突っ込んできたのである。滑空の時のような速さは無く、俺でも余裕で回避できるレベルだが、正直意外だな。まさか突っ込んでくるとは。
まずは範囲攻撃の毒霧が来ると思ったんだがなぁ。ちゃんと対処法も用意してたのに。
まぁ、いい。むしろ好都合だ。相対に備え、一瞬でスキルをかけ直す。
「【捨て身】」
カサカカサカサカカサ……
音が徐々に近づいてくる。しかし俺は構わず投擲を続行。
ドスドスドスドスドス
迫りくる気持ち悪い顔面に向かって、思う存分剣を浴びせまくる。ふはははっ。
……なんだろう、俺もちょっと違うゲームやってんじゃないかと思えてきたかもしれない。ゾンビ倒す系の。
カサカサカサカサ……カサ
その音がピタリ、と止まった。
キジャァアアアア!
そして、ソルビアルモスが一際大きく鳴いて――
――ぱっ、と光の粒子になった。
『ポーン』
澄みきった青い空に、白い光がキラキラと、高く昇っていく。
このフィールドが花畑、ということもあり、ひどく幻想的な光景だ。
……。
……まぁ、うん。なんていうか。
ソルビアルモスの移動スピードが遅すぎて、俺に辿り着く前にHPが果てしまった訳だ。俺との距離が近づくにつれ、投擲によるダメージも上がってたし。
……触手と近接戦闘、したかったような、したくなかったような。
先ほどのお知らせ音は、普通にレベルアップのお知らせだった。やはり大量虐殺でがんがん経験値が溜まっていたようでこれで39レベル、フレイと同じか。
よし、と小さくガッツポーズをして、フィールドの中央に現れた、光のゲートに向かう。くぐると「ロビアス」の中央広場に繋がっているはずだ。
それとは別に、俺の後ろにも小さい魔法陣があるんだが、これはボス前のセーフティエリアに戻る用である。
ふぅ、割かしあっけなかったなぁ。
ちょっとしした達成感……
これなら、ギルドの皆に手伝ってもらわなくても普通に倒せたな。てか、投擲の射線が遮られる分、パーティー組んだ方が面倒か。
はて、この投擲を生かせば、次のボスも攻略できるだろうか?
いやでも、今回はソルビアルモスの墜落後があまりにもお粗末だったから、うまく嵌った感じだよなぁ。次のボス「ボルレクスス」だったら多分、最初から刺さるのを気にせずに突進してくるな。かなり押せ押せ系らしいから。
……おっ、ラッキー。スキル原石でてるわ。
んー。
俺はなんとなく、大きく伸びをする。うむ、晴れ渡った空が清々しいな。
まぁ、いつも晴れだけど。
とりあえず今日この後は、フィールドでレベル上げかなぁ。
蛾が可哀そうに見えてくる不思議。
今回の討伐時間――五分未満。やったね!