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第四十九話 強くてリトライ?のお話①

地味に【武器制限無効化】の効果を「アーツ使用不可」→「武器アーツ使用不可」に変更しました。


そういえば、作中ではそろそろクリスマスなんですよね……季節ネタは華麗にスルーするか、季節外れを承知でやるか迷います。

読者の皆様の意見をお聞きしたいのですが、どうでしょうか? 


 



 金曜日。

 本格的に寒さが厳しくなってきた12月の朝。

 いつも通り学校に行って、いつも通り机に頬杖をついてぼー、っとしていると、教室の後ろのドアから玲花が一直線に、俺の方に向かって来た。俺より遅いなんて珍しい……いや、今日は俺が早かっただけか。

 


「九乃さん、聞きました!? オルトスさんたちのパーティーが、第三のボスを倒したらしいですよ! しかも初見で! 凄くないですかっ? 昨日は掲示板もお祭りでしたよ!」

「おー、そりゃ凄い」

「全然凄いと思って無さそうな声色なのですがっ!?」


 朝からテンションが高いな……その元気を朝が弱い俺に、少し分けて欲しいね。 


 しかしオルトスさん、ボス倒したんだ。

 俺の予想だと今日明日くらいかなー、と思ってたんだけど、早かったな。

 まさか初見で倒して見せるとはなぁ。〝最強〟の名は伊達じゃないってか? ……そういえば、オルトスさんって何を持って最強って呼ばれてるんだっけ。確か最高の防御と豪快かつ繊細な攻撃がどうたらうんぬんと玲花が言っていた気がするが……

 まぁ、どうでもいいか。


「いや、ホント凄いと思ってるよ。玲花には伝わらなかったみたいだけど」


 はぁ、とため息をついて見せると玲花が大げさにうろたえだした。


「そっ、そんなことないですよ!? 私は勿論分かってましたとも、ええ。九乃さんのことならなんでもお見通し、以心伝心ですからね!」

「それはそれで不気味なんだが」

「不気味とか言うなですよっ」

「ん。まぁそれは一旦置いておいて。そんなことより、うちもそろそろボス戦やるのか? トップギルドなんだし、オルトスさんとこがいけたんなら、うちもいけそうじゃないか?」

「そんなことより……うぅ。……んん、そうですねぇ、カリンさんのレベルは十分なんですが、私含めて他のメンバーがついていけてない感じなので……せめて後2レベ分ぐらいは保留ですかねぇ」

「へぇ、そっか」


 んー。やはりオルトスさんとこが異常なだけなのか。

 あそこは『IWO』最大のギルドだけあって、人材が豊富だろうしなぁ……まぁ、そんなギルドに食い下がれてるだけうちのギルドも結構普通じゃないか。人数が一パーティー分しかいない上、一人しかいない男手はソロなのにな~。俺だけど。


「九乃さん、今何レベでしたっけ? ちなみに私は39になりましたよ?」

「なんだ、自慢か? 俺は38だな」

「ソルビアルモス討伐の時点で35でしたよね? なかなか上がりが早いですねぇ」

「んー、まぁな。小蟻のごとく群がるモンスターを、バッサバッサ薙ぎ倒してるし」

「なんか壮絶な感じがしますね!? え? 群がるとか薙ぎ倒すとか、そういうゲームでしたっけ? もっとこう、スマートでスタイリッシュな感じじゃ……」

「いや、わらわらと集まってくる奴を文字通り薙ぎ倒してるぞ?」


 こう、一回剣を振るだけでモンスターが綺麗に消えていくんだよね。爽快だわぁ。


「いや……はは、凄いですねー」

「どうした玲花、瞳からハイライトが消えてるぞ。諦めんなよ!」

「……いえ、なんか、九乃さんと私は、果たして同じゲームをしてるのかなぁと思いまして。もしかして九乃さん、一人だけ無双オフゲーやってらっしゃいます?」

「ちゃんと同じゲームやってるはずだぞ?」


 まったく。自由度が売りのゲームなんだから、自分の常識と少しくらい違っただけで処理が追いつかなくなるなよな。俺はこのゲームに関しては、もはやなんでもありだと思ってるぞ?

 そのうち、世界観無視して巨大変形ロボとかがでてきても驚かない自信があるね。


「あー、まぁいいです。それが九乃さんでしたものね。ええ」

「なんで俺呆れられてるんだ?」

「気のせいです。……で、話をちょっと戻しますと、第三のボスのレベルが45じゃないですか? で、今のギルドのレベルの平均が、九乃さんも含めるとえーっと……」


 そこで玲花がポケットから小さなシャーペンを取りだし、俺の机になにやら筆算をし始める……後で消せよ……? あと、やっぱりボス攻略の際には俺にお呼びがかかるのな。


「よし……平均がだいたい39くらいですね。オルトスさんのパーティーの平均が42らしいので、やっぱり第三のボスに挑むのはもうちょい先になりそうですねぇ……」

「そか。まぁ、wikiに情報が上げられたら、それを参考にしてシミュレーションでもしとくか」


 というか、俺の攻撃力だったらボスに太刀打ちできると思うんだけど……な。


「あ、情報ならもう上がってますよ。「ボルレクスス」って名前の、炎を纏ったティラノサウルス、だそうです」

「あ、そうなん? 帰ったらチェックだな」

「……流石に、一人で倒しに行くとかは言わないですよ、ね?」

「んー、今日はな」

「今日は、ってなんですかっ!?」


 今日は、ちょっとやりたいことが有るからな。

 ボスはボスでも、俺が用があるのは蛾の方だ。




 ―――




 第二の街「ウウレ」の北門。

 「帰巣符」で「ロビアス」→「ウウレ」のギルドホーム、そっから「ウウレ」中央広場→北門に転移とショートカットを駆使してやってきました。


 この前来た時よりも、人が多い。

 おそらく、今がソルビアルモスを倒すピークなんだろうな。

 ちなみにこれは、俺みたいに発売当初からやってるプレイヤーではなく、それよりも若干遅れたプレイヤーが、ということだ。この層のプレイヤーが、数が一番多かったはず。

 いわば、第二陣? 三陣、四陣とゲームが出荷されるたびにプレイヤー数は増える。そしてその度に、一定間隔で特定の街、フィールドの人口が多くなると。


 初回組、第一陣のプレイヤーは、実は結構少ない。

 初回の本数自体が少なくて、予約が鬼のように殺到したらしいな。そんな中、普通に玲花からゲットできた俺はもの凄くラッキーだった、って話だ。


「さて、じゃあ駆け抜けますか」


 俺はインベントリから、レイレイの召喚魔晶を取りだし使用する。

 黒い光があふれだし、次の瞬間にはその光と同等かそれ以上に深い黒の鱗を持つ、どこか機械的な騎獣が俺の目の前に現れた。

 周りのプレイヤーが驚いているのがわかる。

 まぁ、騎獣が手に入るのは第三の街からだから、珍しいんだろうな。ちょっと気分がいい。

 背の高さを下げるレイレイにひらり、と飛び乗って、頭を撫でる。


「よし、行け。ボスまでだから、全力で頼む」


 時間もそんなにかからないだろうから、体力も余裕で持つだろ。

 俺はレイレイの長い首の付け根あたりに手を置く。

 決して絞め殺そうとしているわけではないので、注意。風の抵抗とかがないから、手綱がいらないんだよな。両手離して体育座りしても全然落ちないくらいだ。体勢的に楽ではないのでやらんが。


「クケェ!」


 俺の言葉を聞いて、レイレイがいきなりトップスピードで駆け出す。


 ダダダダダ!


 レイレイの脚が地を踏みしめ、蹴りだす。スラスター部分から黒の煌めきが尾を引く。風切り音は不自然に聞こえないが、凄いスピードで景色が流れていく。

 うん。これもう風の抵抗がないことといい、車だよね。改造してシートでも取り付けようかね? もしくは変形とかしないかな、こいつ。


「クッケェ!?」


 走りが一瞬ぶれる。おっと、どうしたレイレイ。

 一応走ってる振動はあるんだから、あんまり蛇行されると俺が落ちかねないぞ。


 木々の小道を爆走する俺達。

 時々エンカウントするモンスターは全てぶっちぎっている。

 ただ、こっちの速さ的にモンスターが追いかけてくる範囲を一瞬で抜けるので、モンスターを引き連れて万が一でもMPKモンスタープレイヤーキルをする恐れはない。


 ちなみに。

 このゲームでPKをしようと思ったら、専用のスキルを取るかMPKをするしかないようだ。

 専用スキルというのは、持っているとPKができるようになる……らしい。このゲーム、基本はPKは不可能なのだ。他プレイヤーに攻撃してもHPは減らない。まぁ、衝撃とかはそのままだから嫌がらせはできるかもしれないけどな。


 PKスキルは、存在は確認されているが詳しい効果なんかは謎に包まれている。まぁ、あまり積極的に情報を公開するような類のものでもないだろうしな。俺としては、PKさんが襲ってきても返り打ちにするだけなので特に問題ナシだ。


 両脇に色とりどりの花が咲き乱れる中に作られている道を、周りのプレイヤーもぶっちぎって、レイレイは駆ける。


 ダダダダダッ!


 しかしレイレイ、この前のフレイ特急より普通に速いな。

 うむ、引き連れる心配すらないとか流石速度特化騎獣だ。


「凄いなー、よしよし」

「クッケェ!?」

「……なんでお前、俺がなんかするたびにビビってるんだよ……」


 説明文を見る限り、臆病な騎獣ではなかったと思うんだがなぁ。 



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